とある女ユンカーの抗争記 作:ラディカルリベラリスト
その設定が作品にとって必要である作りに持っていきづらいかなと考えます。
私は転生以前の情報という需要を生む自信がありませんので、拙作においては読み飛ばして頂いても問題ないかと思います。
失礼致しました、ではどうぞ。
カビ臭いベット、埃っぽいシーツ、風に煽られ音を立てる天幕。それが最前線の素敵な就寝タイム。
だが皮肉が意味を持たないほどに魔導部隊は恵まれている。歩兵部隊であれば前線の塹壕の中で重砲に怯え、時にその砲弾に晒されなければいけない。そんな状況下で塹壕の中の湿ったどんよりした空気のなかで休息を取らなければいけない。取れなければ死んでいく。
だから我々魔導士部隊はやや後方の拠点で休息を取れるというのは本当に贅沢なのです。天幕の中で、砲声は鳴れども届きはしないという慰めを持てる。
とまぁ自分の下をみて幾許か安心するというのは精神衛生の上では良くないのでしょうが仕方がない。
ただ味方の塹壕戦まで進出せよと下知を受ければその限りではないのですがね。
そして失礼しました、諸兄皆様。おはようございます。
エミーリア・シャルロット・ラ・ペリエール=ケラーマン帝国...陸軍魔導中尉でございます。
目覚めが悪いと愚痴っぽくていけません。
つい昨日の戦闘で私自身の所属中隊の中隊長を見殺しにしたことが今更ながら気に病んでなんてこともなく、ただただ目覚めが悪いのです。一応進言はしましたのでほぼほぼスーサイドですゆえ気にする要素はゼロです、私の小隊は五体満足ですしね。
それに昨日のうちに再編成した206魔導中隊にしても私とベック曹長、アイザック伍長をアントン小隊、キュヒラー少尉の小隊をベルタ、旧AC小隊をツェーザー小隊にできたので運用は問題ないでしょう。この暫定の編成もラインコントロールに書面を送っといたのですぐに西方司令部から承認頂けるでしょうし、こちらも心配なし。
ただ、私ケラーマン臨時206中隊中隊長としては1個小隊の欠員分の補充を要請しないといけません。戦死のお手紙といい事務仕事は面倒です、これに関してはメランコリックを遺憾ながら認む。
では何がよろしくないと言いたいのか、目覚めの悪さの理由とは。
そんなもの夢で前世をみれば誰だってストレスですよ、前世の最後の瞬間をね。
ぽつんと銀髪を肩口に揃えた白いワンピースの少女が佇んでいた。それが今の私。
その少女は周りをきょろきょろと見渡し始め、やがてこの場所がどこなのか、どんな状況なのかを認識する。
その少女は琥珀色の目をある一点から外さずに様子を伺うのがいつもの様式美。
深夜のコンビニの駐車場に水たまりとなにかがある。街灯の光りがほんの少し届かない、気の利かない位置になにかが水たまりとともに。
にじり寄ってよく見ると水たまりの水は赤かった、そして腹部の裂傷が酷い男が横たわっているのが分かった。それが前世の私。
何度もみさせられた風景。少女が男を確認する瞬間に時間が止まるのにはもう驚かない。背景の靡いていた肉まんの百円セールののぼりが静止をし、まるで写真のような光景が出来上がる。
「お前は神を信じている」
少女の喉は動いていない。それどころか胸が動いていない、呼吸をしていないのだ。先ほどまで軽く揺れていた銀髪が動かないというのに口だけが動く。
それも少女には全く似合いもしない、しわがれた男の老人の声を乗せて。
「ああ、お稲荷さんにはお酒をたまにあげてますね。それがなにか?」
もうどうだっていいというそんな自暴自棄な、一ミリも動きの見えない倒れた男の返答。
そしてその声から男の感情が、観測している私に流れてくるのだ。それもそのはずだ、男が喋れたのは生の感情を垂れ流しにしているからだから。
なぜ男が喋るのか、なぜ男の感情が手に取るように分かるのか。
なにも証明出来ない夢の中で、確かに感じれることや信じれることはこの男の感情だけだった。
この男の心の形と、観測する私の心がぴたりと重なることだけだった。
「この現代で、この国で神を信じる人間がいるとは。狂った人間性の持ち主に悪魔呼ばわりされたばかりだというのに」
「そりゃ神はいるでしょうに。人の身には観測できない、操作できない事象があるんですから」
嘆いてみせる少女に男は虚ろな意識で持って返す。
男は何も考えていなかったし考える気力などなかった。頭の引き出しから、ただただ使えそうな言葉を引っ張ってくるだけしか出来ないのだ。死にかけているその現状がそうさせている。
「しかし、信じる神の造形を畜生風情にするのはいただけないな」
「狐様はお使いですよ、私の神様は女性ですね。まぁ神様の造形なんてものはどうだっていいじゃないですか?人には観測できないのですし」
「ふん。よく分からんな、唯一神は男だろう」
どうだっていい、ただそれだけ。男の近くには赤いべべのお狐様がいて、ギリシャだ北欧だの神話はなかったというだけの話だ。
そこにいらっしゃればよろしい、それが死にゆく男の感性。お酒にお賽銭、お気に召したならばこのうだつの上がらない人生にほんの少しの幸運を。
ただその程度の認識、ただその程度の感情。
だがまるで理解しない少女に問われ続ける。
「まぁ良い、姿形の押しつけなどこの際どうだって良いだろう。だがなぜ、神を信仰するのか?」
「いて欲しいからですよ。いらっしゃれば現世利益の一つがあるかもしれない、救いの手が差し伸べられるかもしれない」
男の言葉は真実だった。その感情に嘘偽りはなかった。
だが悲しいかな。死に向かうたびに、それに近づくほどに感情に言葉も消えていく。
「よろしい、救いの手を差し伸べてやろう。お前の思う神の造形を与えてやる、来世に役立つ才も与えてやる。ゆえに使命も与えよう」
男には思考する気力も体力もなかった。それが私には悔しく感じる、この悪魔の所業に反抗の一つも出来なかったのが物悲しいのだ。
「信仰せよ、ただ信仰せよ。信仰を忘れた人間にその本質を植え付けよ」
そして私がシャイセと罵ると幕が下りる。
本当にくだらない。
どうでしょうか。
これが7歳すぎてからよく見る夢でございますよ、ええ。
それと、この夢をみる度に前世の私の記憶がいくつか蘇ったりするのですが、私が糞と思い始めてからは記憶が戻ってこないのです。記憶を盾に信仰を強要するか、非人野郎。
また戻った記憶で重要なのはドイツという国家でございます。美大落ちの伍長殿は居られないですし、そもそもライヒは大ドイツ仕様ですので歴史をなぞりようもないですけども注意したい。
帝国軍人は、私は、ライヒの守護者たらなければいけないのだから。
目当ての天幕を探して早数分。疲れを振りきる様な気持ちで足を動かすアーダルベルト・キュヒラー少尉がいた。携える各種書類に目を向ければ色々と思考を広げたくもなるものだ。
彼からすれば、ラインに着任してから2か月、開戦からは3か月の間にいろんなことがあったのだ。彼は士官学校を出た時、当初は東方司令部所属の魔導部隊に回されるはずであったが今では西方司令部所属の206中隊である。ノルデンで協商連合が暴発したと思えば、続けて共和国が殴りつけてきた。あわてんぼの参謀本部人事局に二転三転しつつの西方司令部所属206中隊への着任である。
自隊の編成についての物もあるだろう。彼からすれば、若干ではあるが神経質にならざるを得ないところもあった。
だが思考を広げたところで、迷っているという事実から逃げられるわけでもない。そんな彼に助けが入る。
「キュヒラー少尉、誰か探しておられて?」
年若い細身の少尉に坊主頭の大男が野太い声をかけた。
敬語を使っているわりには頭を掻きながら呼び止めているのに少尉は助かったという表情を隠さない。
「おやっさん!ケラーマン中尉です」
「ああ、中尉ですか。いつも通りなら天幕に引き込もっておいででは?」
おやっさんと呼ばれたカール・ベック曹長は訝しげに指摘をした。
203中隊内であれほどケラーマン中尉の低血圧説が流れていることを考えれば思いつくだろうという含みを持たせながら。
「小官もそう考えたんですが、中尉の天幕の位置を存じ上げませんで」
「それなら案内致しますよ。朝食ついでの運動ぐらいしかやることもありませんので天幕の前までお供します」
すぱっと案内を命令すりゃいいだろうにと、新米少尉特有の遠慮をどうにかするべきなどと考えたくなる曹長。
だが次の瞬間には中尉がうまくやると考えを捨て去るあたりにこの曹長の有能がありもする。自らの立ち位置に求められる仕事と割り切りは経験の妙だろうか。
「助かります。そう言えばですけど、ケラーマン中尉って天幕を一人で使ってるんですか?同室の士官を聞いたことがないんですよね」
戦場での娯楽は少ない、それこそ噂話くらいしかない。ゆえに少尉は持ち合わせの弾の一つも贈ってみることにする。そうして噂が消え、次が浮かんだと思ったら消えの繰り返し。
「それならラインに来てすぐ、2人部屋が3日で1人部屋になったと言っておられましたな。女性士官が補充で来ないうちは気楽でいいと」
聞かなきゃ良かった思うこともあると遅まきながら学習する少尉だが、曹長も気が利かないわけでもないので分かりにくいフォローを飛ばす。
「まぁキュヒラー少尉も同室には気を使われればよろしいでしょうよ。あと中尉は一応貴族様ですから、その辺もあって1人部屋じゃないかと」
「ああ、ケラーマン家は代々ユンカーでしたっけね。母方も青い血だそうですね」
ベック曹長の片眉が上がる。
「それは初耳ですな」
「おやっさんも知りませんか、後方ではわりと有名みたいだったんだけどな」
「で、どういった流れで?」
おやっさんでも知らないことがあるのかと惚けてる少尉に少しばかり厳めしく振舞ってみせる曹長。だが冗談の類であることはキュヒラー少尉も分かっているので効き目は薄い。とはいえ後が怖いので少尉もすぐに吐く。
「フランソワからの亡命貴族の流れを組んでるらしいです。士官学校の空戦教官がケラーマンヲタクだったんですよ」
「...なんでまた教官に好かれてるんだか」
「授業中にボコボコに落とされたそうですよ、卒業までに撃墜判定を二桁くらうっていうちょっとした眉唾の伝説付きで」
坊主頭を撫でながら、航空魔導士はどうも才能が物を言いがちだなと何度目かの再確認。魔力量は勿論の事、複雑化と煩雑化の一途をひた走る任務に対応するためのスキルと訓練で賄いきれないことが多すぎるのだ。
ライン線戦のトップエースである中尉は天才だと改めて曹長は思う、最初から飛べたのだろうと。
「さて、少尉殿。到着しましたな」
「曹長、ありがとう」
「ええ、失礼します」
ベック曹長が到着を告げれば、キュヒラー少尉は士官らしく感謝をする。下士官が敬礼し士官が答礼するのを待ってからベック曹長は持ち場を離れる。キュヒラー少尉が新米といえど軍令は揺るがない辺りに帝国軍の精強さが現れているのだろう。
そしてキュヒラー少尉は天幕の入り口の呼び鈴を数回鳴らす。
「キュヒラー少尉であります。ケラーマン中尉は居られますか?」
うだっているとキュヒラー少尉の声がしましたね。返事返さなきゃあれか、気は乗らないけど。
「キュヒラー少尉、今出るから」
「了解」
朝っぱらから元気ですね。もう届いたのかな、中隊長の着任に遺族に送るレターセット。
さて、重たい体と頭を持ち上げて天幕から登場ですのよ。
「ご苦労、キュヒラー少尉。確かに受け取った」
元気そうな表情なわりには頬のこけてる殻の取れた少尉から色々一式受け取る。まぁまぁ予想通りでつまらないんですよね。
なんか振ってみるかな。
「では、小官はこれで」
「待ちたまえキュヒラー少尉。機密書類でもないお使いだけだとつまらないでしょ?なにかオマケのゴシップのお届けもお願いできるかな」
我ながら酷い無茶振りになってしまいました。いきなり面白い話しろとかいう上官とか嫌だな、うん。ここは戦略的転進です。ツェーザー小隊が実力的に使えなさそうな今はベルタ小隊の少尉ちゃんには甘くしよう、そうしよう。
「まぁ次回の出撃までに」
「ああ、丁度ありますよ?ノルデンの生きた銀翼突撃章が205中隊に配属されるみたいですね」
「えっあの9歳児?」
昨日といい、このキュヒラー少尉は私の予想の上を行きますね。
「ええ、そうです」
「耳が長いね、キュヒラー少尉。朗報だな」
うん、朗報だね。本当に。
お知らせです。
感想を早速頂いて感謝感激感動の三連符がファンファーレしていたりします。ちょーうれしー!
ですが申し訳ありません。感想欄での返信より書く方を優先したいので基本的にはしないと思われます。申し訳ありません。
ただ書くことで返礼とさせて頂きます。以上です。