とある女ユンカーの抗争記   作:ラディカルリベラリスト

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兵隊の数少ない楽しみは食事だって言いますがそれは平時の話ではないかと思います。

見てください、このKブロット。ジャガイモをパン生地に練りこむとかいう悪魔の発想でございますのよ。普通のライ麦パンと吹かしたジャガイモで良いではありませんか、何がいけないというのです。ソースぐらい缶詰めに詰めて送ってくださいましたら、ジャガイモと一緒に潰して食べるのに。

それとジャガイモを皮つきでカットして揚げるバカ舌を何枚もお持ちのライミーはお亡くなりになって。

 

そもそも実家に居れたら白いパンだったんですけれどね。それに狩猟も出来たから鹿だの撃ってこれて美味しい食事には困らなかったな。

もう遠い日の思い出、別に楽しい思い出でもないですが。ただ箱入りのお姫様がつまらなくて、よく小銃担いで山歩きしてたってだけです。本業猟師、副業令嬢。

 

さてさて皆様はホームシックになりますでしょうか、私は前世シックです。諸兄の方はごきげよう、エミーリア・ケラーマン中尉です。もう短くいきます、言ってられない。

 

諸兄皆様はなんで投げやりなんだってお思いになりますかね。

まあお聞きくださいまし、理由はコーヒーです。コーヒーでございまして。別に香りがどうたらこうたら高尚な事が語れるわけではないんですけどもね、代用コーヒーだから端から期待できないとかでもなくてですよ。

 

紅茶をくれ、紅茶を。コーヒーだのワインだのなんて泥水です、一滴でも泥水が入ったらなんて言い出そうが泥水に泥水が入ったらそれは混じりけのない泥水ではないですか。

ゆえに代用コーヒーだろうが本物だろうがどっちでもいいと小官は申し上げる。

 

 

 

そろそろ戦場での飲食なんて楽しみでもなんでもないことを思い浮かべさせてくる状況について打開を図ろう。うん、そうしよう。

シュワルコフ中尉が代用コーヒーの入ったカップを渡してくるからこうなったのだ、まったくもう。

 

「全く、代用コーヒーでアフタヌーンとはな。麗しいフロイラインにリューデスハイマーカフェの一つも奢れない小官を許してくれ」

 

いきなり出鼻を挫かれましたね、指揮所の一角で情報を交換しようなんて言ってきた先任中尉殿は謎の言語を発してきた。お向かいの椅子の上は異世界に繋がっているとでもいうのでしょうかね。

リュー、なに?なんて言ったんですかね。コーヒーなんて知りませんよ、一ミリも興味ないから。

 

「えっと、なんと申されたので。リュー...」

 

「リューデスハイマーカフェ、存じ上げないのか。本国では淑女の嗜みらしいのだが」

 

シュワルコフ中尉、私は紅茶党なんだそんなん知らんのですよ。お婆様と一緒に紅茶入れて、親父殿と山歩きした記憶しか本国にはない。あとはだいたい軍関係、士官学校とか。

 

「すみません、小官は紅茶派なのです。それにアフタヌーンです、是非紅茶を所望したいところであります」

 

今から共和国軍襲って来たいなんて思います。奴らだって後方の集積地に補給物資溜め込んでるんです、ひと狩りしたいのです、紅茶をよこせ。

 

「はっはっは。流行りの一つも押さえた方がいいんじゃないか、敵を抑え込むより簡単だろうに。中隊長として一人前でも、淑女としては半人前か。これからはフラウとお呼びしようかな?」

 

煩いですよシュワルコフ中尉殿。

にしても久々に小娘呼ばわりされましたね。それもそうか今は分かりやすい小娘いますもんね、デグレチャフ少尉が。

 

「これでも一人前のつもりでありまして。紅茶でしたら小官がご教授いたしますよ、コーヒーではなくて紅茶で口説けるご令嬢もいるものですから」

 

そうそう、連合王国に共和国だったら紅茶のが受けがよろしいと思いますのよ。ただ言葉を覚えてからの話ですが。

その点、私はお婆様から一杯の紅茶と二つの外国語を教えてもらえましたから。

でも共和国語は落第点だったんですよね、連合王国語は完璧に訛り消せたんですけど共和国語は消しきれてないのです。山歩きしすぎたか。

 

「...喋れなくては口説けないが共和国語は気取っていて好かん、誰かしらに譲るよ。それに口説けに行けるかはなんとも言えない」

 

少し真面目くさしてぼそぼそ零した先任中尉殿。焦れてきたな、本題に入りましょう。

 

「まぁ口説きに行くのは大陸軍でありますよ。あまり遅刻がすぎるとフラれるかも分かりませんが」

 

そうライヒが世界に誇る軍事力の要石たる大陸軍。現在、ノルデンに遊ばせになっているふらついた殿方ともいう。

こんな大規模動員演習初めてじゃないですかね。北方に全力戦力投射してさらに西方に全力戦力投射、あー参謀本部の鉄道課は息してるのかな。戦争始まってるのに大陸軍は戦争してないのですよ、演習だよこれではね。

 

「そういうことだ、ケラーマン中尉。大陸軍が口説く手伝いをするはずが、遅刻のフォローになった。なんともし難いがうちの中隊まで最前線まで遅刻の謝りに行くことになったが戦力的にな...」

 

205って今3個小隊でしょうよ、欠員の人数もほぼうちと同じなんだからそんな溜息含みで言われても困りますのよ。こっちで出来ることあったけか、そんなにはないと思うけど。

 

「ご心配は杞憂では?205も十分精鋭と言えるではないですか、地獄のラインで生き残った魔導部隊なのですから。それとこちらの206も進駐の下知を頂きました、お聞きでありましょうがそちらの目と鼻の先の塹壕陣地です。お互い巧くやりましょう」

 

「巧くやるか、それなりにはやってみせるがどうなるものやら。あまり嘆いても仕方がないとはいえ、最近2人欠けたからな。デグレチャフ少尉はほぼほぼ単騎で使わざるを得んだろう。最悪、魔女の魔法に期待したい」

 

それが言いたかったのか。あーあー、忙しくなるねこれは。

シュワルコフ中尉は知っているみたいですよ、私がデグレチャフ少尉の後押ししたこと。それでもって、その穴埋めも多少求めたいというのですかね。

 

仕方ないじゃないですか、話を聞かないのであればああするしかないのです。命令拒否して砲兵隊に突進したのはあり得ないと思う。偶然流れてきた無線に驚きましたよ、本当に。

軍政、軍令、軍法はまずピカピカの伍長には拒否できないというのに頭が悪いとしか言えません。

 

ただ少し言い訳しておこう。否定はしないが埋め合わせは程々にしかしたくないのです、206も余裕ないのですよ。

 

「魔導部隊は数より質です、デグレチャフ少尉が使えるのであれば百人力ではないですか。ラインのエースは『狼の魔女』だけではないのです、『白銀』の煌めきだって馬鹿にできませんよ」

 

「『ワルキューレ』の天才殿の物言いは否定はしない、とびきり有能な野戦将校で腕もたつ。ただな、部下を選びすぎる嫌いがな。困ったものだ、ケラーマン中尉からも言ってくれないか、程々にと。それなりに懐かれているようだしな」

 

ニヤつきながらワルキューレと言うのはおよしになって頂きたいのですが。

あとその嫌味を抜いて要約すると余計なことを言ってくれるなってことですね。

 

敢えて申し上げるなら、デグレチャフ少尉が要らないと言った両伍長は私も要らなかった。当然シュワルコフ中尉も要らないと思ったはずなのです。それとデグレチャフ少尉は私が言わずとも転任させたでしょうから、私を言い訳に使って良いよという多少の気遣い程度でしかない。

よって多少の支援で手打ちにしましょう、してくださいませ。

 

「指導につきましては留意致します。小官も中隊長に慣れてきました、先任中尉殿とはそれなりの付き合いですから巧く連携が取れると確信いたします」

 

あと、懐かれているのではないと思う。なんかデグレチャフ少尉って実家で見た気がするんですよね、あの雰囲気は知っている気がします。こう、化粧品の訪問販売みたいな。

営業くさいとは思っていたけど、やっぱり売り込んでくる感じがしてね。

だが私はデグレチャフ少尉の能力を買っている。スコアは私のが上だけどペースはデグレチャフ少尉のが早いと思うし、なにより頭が良い。個人的に戦略論は得意ではないからあの幼女と会話するのは多少緊張するようになってきた、戦術論なら楽しいのだけれど。

 

総括するとですね。私よりもデグレチャフ少尉は出世する気がしますのよ、多分売り込みをしなければいけないのは私の方だな。せいぜい今は気の利く上官ぶっていることにします。

能力が第一ですからね、ライヒは彼女の栄達を望まれるでしょう。

 

「助かる、意地の悪い言い方になってすまなかった」

 

やたら深い考え事という隙を晒してしまいました。いつの間にか隣にいたシュワルコフ中尉が小声で耳打ちしてくるではありませんか。

 

別に謝らんでも大丈夫でして、持ちつ持たれつですからね。

大方、中隊の部下だ指揮所の上役だに、小娘一つ御せないと思われるのが不味かったんでしょう。面子は大事、とくに部隊長は。

ラインに来たばかりの頃にフラウと馬鹿にされてたのをベック曹長と一緒に助けてくれたのはまだ覚えてますし、今だって中隊の運営に慣れてない私のフォローもどこかでさせてしまっているだろうしな。

206魔導中隊の躾が滞りなくできるのも先任中尉殿のおかげでしょうか。

 

「なに、前は全部墜としてみせます」

 

代用コーヒーの代金はウィンク一つでいかがでしょうか。

なんて冗談はさて置き、ハラスメント攻撃ならさんざん論文書いた記憶がありますからね。やってやれない事はありませんよ、使いどころが難しい前世の知識もここでは必ず使えるはずだし。

 

ああ、思わずニヤけてしまいます。

ライヒは望まれる、祖国のための奮戦を。

 

 

 

 

 

 

塹壕戦、ライン線戦の地獄たる所以が自分を前に牙を剥く。

各地で塹壕線の突破を図る共和国軍を前にして心休まる日はない。ついに我が206魔導中隊も最前線で陣地の固守だ、遊撃、迎撃、要撃とフルコース。エスカルゴのディナーは量目が多いと難癖をつけたい、前菜にはそう遠くないうちに重砲なり中砲なりの砲弾の配膳が待っている。

そして味方塹壕陣地の防御といっても魔導部隊は攻勢をかけなければならないことが忙しさに拍車をかける。敵魔導部隊による射弾観測、それに敵砲兵陣地そのものを刈り取らなければならないし、それだけに飽き足らず帝国魔導士も射弾観測をせねばならない。集成軍団砲兵なりの戦場の神を奉るのも忘れてはいけない。

最後にあるかないかは分からないが敵歩兵による浸透強襲に対応するハメになるかも知れないのは悪夢だ。戦車はいい、上から見えるしバターのように裂けるからな。歩兵に分散されると手が足りないだろう。

 

こんな注文の多いウェイターをやるとは思っていなかった、これでチップがないとはやってられない。手当はいつも通りだ、悲しいことに。

本当は東部方面の勤務だったことを思うと泣けてくる、准尉の頃に足を折ってからは運がないのだ。士官学校卒業後のちょっとした任務で墜落したのは今は昔、後方でぬくぬく養生していた時に戻りたいものである。ぬくぬくしていた間にあれよあれよと西方勤務が決まったということには目を背けてね。

 

だが間違っても口に出してはいけない。一番忙しいのはケラーマン中尉だ、ベルタ小隊はずいぶん楽をさせてもらってる。古参の下士官を貰った上にアントンのカバーがメインとは恵まれているのだから。

 

「中隊諸君、とうとう我々も塹壕線に進出してきたわけだ。一部陣地は敵の餌、後退が許可されているが我々はそうではない。キュヒラー少尉、その心は?」

 

仮設の指揮所に改装した穴蔵で、ケラーマン中尉はクリアな声を小さく使う。塹壕陣地の一角を借り受け無線機と地図を持ち込んだだけのちっぽけな仮設ぶり、必然的に大きい声など必要ないのだ。

11人の小所帯がせまっ苦しく長机の上の地図を囲んでる。備え付けの有線電話ですら邪魔くさいのは嘆きたいものだ。

 

「敵の突出部形成を意図的に制御し、保持した陣地の戦力をもって包囲殲滅ないし漸減を目指すことでしょうか。我々は担当陣地を保守した上で敵の攻勢に反攻を期するところと認識します」

 

普段嗅覚で飛んでるように見受けるケラーマン中尉だが、なんだかんだ戦況の把握は早い。士官学校時代に中尉の論文をいくつか拝見したが歩兵戦術に偏っていたのを思い出す。この戦況は専門なのだろう、どうも歩兵部隊と魔導部隊の協働には一家言あるらしい。

ただ、非対称戦争論なる論調は賛否両論であった、いわくプロイセン軍人らしくないと。航空魔導士による近接戦闘の方は覚えよろしく好まれていたので、機会があればなぜ不評なテーマで書き続けたのかお聞きしたいと思うがいつになることやら。

 

「80点。大筋はキュヒラー少尉の言であるが、実情として敵野戦軍が試みる攻勢の頓挫は砲兵による働きが大であろうと予測する。数で言えば帝国軍の方が厳しいことは認めなければいけない、普通にやるのでは難戦は避けがたい」

 

難戦は覚悟の上ではあれどもはっきり言われると厳しいものがある。だが包囲撃滅はまたのまた夢と思いつつも発言に混ぜたのに対し80点とはいくらか採点が甘くないだろうか、普通にやらないのであれば力技しかないのだがその辺りをお聞きしたい。

 

「中隊長、目下の戦況では難戦不可避であることは小官も認識しております。そして主導権は共和国軍にあることは自明であります。ゆえに戦力の温存や保持を達成するためには敵の孤立、分断化を企図すべきではありますが、予想される敵梯団の側面を殴りつけるにしても我が中隊の戦力的に厳しいのでは」

 

1個中隊には荷が重い、中隊長でもやれない事はあると思うのだ。各個撃破にしてもするにしても単位が違う、1個魔導中隊としては、砲兵を相手するとして大隊なら狩りきれないし機甲部隊なら4個中隊くらいで限界だろうか。

 

「そう、厳しいのであるからして少しばかり捻って見せようではないか。我が中隊に余力があるうちにだ、やりたいことが少しある。なに、全力出撃はしない。選抜小隊で遊覧飛行するだけだよ」

 

何をお考えだろうか。当たり前だが小隊で出来ることなんて中隊で出来ることよりも少ない、敵魔導部隊を狩るなら小隊にケラーマン中尉が入れば造作もないことではあるがそれだけだ。

 

「中尉、何をやればよろしいので」

 

ベック曹長が堪らずに発言する。選抜小隊とはいっても結局アントン小隊が行く算段だろう、その辺りを見越して任務を把握するべく頭を回転させている。有能な下士官様は話が早いのだ。新米少尉の自分とは違う。

 

「合間をみてになるけれども。一度、独自に強襲偵察を試みる。敵のウスノロ機甲部隊の位置を探るのが目的になるね、是非捕捉したい」

 

「強襲偵察ならいくらでも要請されるのでは」

 

アイザック伍長が魚の死んだ目でもって問うではないか。少し前なら振られない限り口を開かなかったというのに、どうしてなかなか。

ベック曹長を頼りにしたくなる感覚とは全く違うが、この伍長も肝が据わって来たのが伝わってくる。

自分も成長しなければならない、使える魔導将校に。

 

「ブービー、それで捕捉できたら楽な話はない。といってもそうなれば良いなと私も考えないこともないから、私の代わりに祈っておいてくれ、飛ぶのに忙しいだろうが」

 

ケラーマン中尉、皆忙しいですよ。あなたの後ろは大変だ、死なないだけマシだというだけで。

 

「話を戻すぞ。諸君、トラックだ。戦車の燃料だの砲弾だのは重いからな、必ず機甲部隊の近くにいるだろう。野戦軍の包囲撃滅が厳しいのだからせめて足は止めたい。西方方面司令部の任務を果たしつつ敵を虐めてやろう」

 

塹壕陣地の防衛に加えて、独自の目標とは骨が折れそうだ。

だがこの戦術目標の価値は大きいのは分かる。敵後方の補給拠点まで行っている時間はうちの中隊にはないし何重の塹壕を越えていく戦力を出せないことを考えれば、物流に目をつけるのは慧眼と言えるはずだ。

 

「我が中隊は補給線を狙う、野戦軍は砲兵に任せろ。我々が弾着観測する時こそが、敵攻勢の頓挫である。なるだけ敵の機動力を奪って後で楽をしよう」

 

どうも仕事の多い中隊とは思っていたが、今回も生きていられそうだ。上官がケラーマン中尉で幸運だった。学ぶことも多い、実際の戦闘に任務目標の設定、解釈。

自分も将校だ、この手の発想を身につけなければいけないな。

 

「中隊各員。ドサ周りがたくさん待っているがすまない、ついでと思って付き合い給え。あとキュヒラー少尉」

 

「はい」

 

中尉の眼が妖しく光るではないか。狩りをする目だ、獲物の動きを観察する視線だ。

あまり向けられたいものではない。

 

「あまり意識していないみたいだが、次席指揮官はキュヒラー少尉だぞ?前みたいな全力出撃は叶わずに、ローテーションで出撃するだろう現状でそれはいけないのではないかね」

 

なかなか痛いところではある。こうも中隊長が偉大だと他の尉官はやりづらいのだ、下士官の目線が痛く厳しいのである。

ベック曹長はとくに。

 

「ということで、ケラーマン中尉とキュヒラー少尉による模擬戦闘を実施する。場所は塹壕陣地上空で、つまりこの上だ。帝国魔導士のなんたるかを戦友たる歩兵諸君に見せつけよう!うん、士気は大事だ。忙しくなる前に鍛えてやる。フライトプランを早急に策定せよ」

 

エクスパルテンの後ろは忙しい、実戦に訓練に困らない。




書けるうちに書いてしまおう。
たぶんどっかで小休止するので。
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