翌朝、ニニャがモモンガに昨晩の件について謝罪はしたものの、昨日とは打って変わって会話は全くと言っていいほど弾まず、無言の状態で歩いていた。
私はというと、日傘を差しながら漆黒の剣グループ寄りにいる。一応隊列を組んではいるものの、開けた道のため全くと言っていいほど意味が無い気がする。つまりは退屈なのだ。話題が振られない、話題も振れる空気ではない、そして歯ごたえのある敵も出てこない。
緊張を常に張り巡らせているのなら話は別だが、ここら周辺に私やモモンガに匹敵する敵が存在するとも思えない。そうなってくると、やはり他愛はなくとも会話をしたくなる。
「しっかし、こうも開けていると隊列を組んだ意味なかったかもなぁ」
私と同じく、ルクルットが沈黙に耐えられなくなったのか話し始めた。しかし他の連中はルクルットの楽観的感覚を注意する。
「可能性が低いとはいえ、ドラゴンが突然襲いかかってくることがあるかもしれないですし」
ニニャがドラゴンについて話し始める。なんでもエ・ランテル近郊には昔、天変地異を操るドラゴンがいたとの事。すると、モモンガもそのドラゴンに興味を持ったのか話題に入ってきた。どうやらこれで昨晩からのギスギスは解消したらしい。
「ドラゴンといえば、私の友人に竜人なんて呼ばれている種族がいるわね」
「竜人…ですか。それがドラゴンとなんの関係が?」
話し出したニニャが私の発言に疑問を浮かべる。
「私の出身地ではドラゴンを竜と呼ぶのよ。と言っても同じ意味ではあるけど括りとしてまだ違ってくる龍なんかもいたり、ここらで出てくるドラゴンとは姿が異なるだろうけれどね」
ああ、こっちではドラゴニアンなんて言うべきだっただろうか。思い付きで言ってみたら納得をしてくれた。
「まぁ、実際にドラゴンと人のハーフだなんて思ってないわ。外見にドラゴンの成分が欠片も無いんだもの」
私がくつくつと笑う。これを皮切りに、ドラゴンについての話題から種族についての話題へと変わっていった。
どうやらこの世界において外見が人間な者以外は動物と括っている様で、種族間のハーフは見ないらしい。それ以前にそんな事をして子供が出来るわけないなどとも言われている。
しかし伝承などにおいてはよく見られているため、外見が恐ろしく人間に近い、もしくは自分自身を変化させて人間に擬態しているなどという仮説も出てきた。
そんなこんなでカルネ村が見えてくるとバレアレはカルネ村の異変に気がついた。
「あれ…?あんな囲い、前来た時は無かったんだけどな…」
カルネ村の周辺に丸太、石レンガで造られた囲い…いや、砦のようなものが出来上がっている。
不審がって警戒をしながらカルネ村へ向かう漆黒の剣とヴァレアレ。私はというと久しぶりに会う美鈴の頑張りっぷりに、なんと感謝を言おうかと考えていた。
カルネ村の門手前で角笛による効果で召喚されたゴブリンと一悶着、と言っても検問のようなものがあったものの、私と咲夜の顔を見るや否や「レミリアお嬢様だ…」「お嬢様が帰ってきた!」とざわめき出す。確かに村の復興を多少手伝ったとはいえ、ゴブリンにまで顔が認知しているとは思いもしなかった。しかし、そのおかげもあり皆無事に村へと入る事が出来た。
「なあ、バートリーさん。さっき、あのゴブリンたちに『レミリアお嬢様』なんて呼ばれてたけど…」
やはりツッコまれるか。モモンガらはともかくとして、漆黒の剣組らはやはり不信感を持たれてしまった。
「あら、私はここの地主(という設定)よ?だけどお嬢様生活ってつまらないのよ、だからスリルも満点でずっと新鮮な新しいを見つけられる冒険者を始めたのよ」
名前はあくまでも偽名で、お嬢様だとバレないようになんて適当を言っておいた。
「それじゃあ、私らはここの古い友人を訪ねてくるから。採取へ向かう時は呼んで頂戴」
そして皆に一言、そう言って美鈴の元へと向かった。
──────────==≡∧(∧ ˙◁˙)∧
「あ、お嬢様に咲夜さん。お久しぶりです!」
「ええ、久しぶりね。そっちは…あの砦のような壁を見ればわかるわ。順調そうね」
「ええ、大学でお嬢様教授に教わったものを生かした結果がこれです!」
ドヤ顔で、胸を張りどうだ私の成果はと言った具合に自慢をしてきた。またしばらく村を見ないでいたら家まで石レンガで建てられそうな気がする。
「有難いことこの上ないわね。今後はこの村を拠点とするのだから、村ではなく、町…街らしくしてもらわなきゃよ」
頑張ってと一言伝え、一人一人知っている顔に挨拶をしていく。一通りそれを終えると、大分時間が経っており皆んな多少ではあるが旅の疲れを癒すことが出来ただろう。
「では、ここから警護をよろしくお願いします」
森の中での薬草採取が始まった。
「まあ、モモンさんにお嬢様がいれば大丈夫だと思いますけど」
「お嬢様って呼ばないでくれるかしら?あくまで今の私は『冒険者、紅い悪魔のバートリー』なのよ」
ペテルが私のことをお嬢様呼びに変えてきた事に私は多少の怒りを感じ、これまで通りバートリー呼びして欲しいと言った。
しかし貴族であることが緊張を与えてしまい、皆に「これまで通りバートリーさん(ちゃん)はちょっと失礼だと思う」とまで言われた。
腹いせにモモンガに物理貫通の腹パンをしてやった。さすがに悶えてしばらく動けなくなってしまい、付き人に睨まれたがヘラヘラ笑ってやった。
森の中でのあれやこれやは大したことは無かった、何故か巨大なジャンガリアンハムスターが森の賢王をしていた以外は。
モモンガが森の周りを歩きながら守護者を呼び、森の賢王を怒り狂わせ、力を見せつけ、手懐けていた。なんというか、なんというのだろうこの感情。森の賢王と言うくらいだから、もっと勇ましいというか、厳つい姿を想像していたのに…
非常に拍子抜けで、期待外れで、興が冷めてしまった。咲夜に紅茶を淹れてもらい、椅子も用意してもらってモモンガとハムスターとのワクワクしない戦闘を眺めている。実につまらない。
「この人には勝てないと分かった。だがそこの呑気に紅茶を啜っている奴に対しては、某は負けぬぞ!」
うわ、こっちに矛先が向いた。ジトりとした目でハムスターを見つつ「咲夜」と一言。「承知致しました」と咲夜が言うと瞬時にその場から姿を消し、ハムスターに跨って首筋にナイフを突き立てた。
「アナタ程度の獣風情に、お嬢様は興味の欠片もないとの事です。どう致しますか、大人しく負けを認めるか、反撃しようとして死ぬか。お選びくださいまし?」
流石のハムスターも自分の命を選び、完全に戦意喪失。モモンガが森の賢王を配下に置くとして話は終わった。
「すごい…なんて立派な魔獣なんだ!」
……は?この時、モモンガと私は同じ反応をしただろう、恐らく咲夜も。どう足掻いても愛玩動物にしか見えず、私はあからさまに困惑した表情を出してしまう。モモンガは防具で顔は見えない、咲夜もポーカーフェイスで表情を読み取れないため、私にだけオカシな感性を持っていると思われてしまった。
モモンガがハムスターを手懐けたとなると、この森にナワバリが無くなる。バレアレはカルネ村の今後について心配をしている様子だった。
ハムスターからの返答は「その可能性はある」らしく、それを聞いたバレアレは不安げな顔つきになる。
「で、でしたら…僕をアナタのチームn…「あら、その必要はないわよ?」
バレアレの言葉を遮るように私が話し出す。
「私はここの土地を間借りさせて貰っているのよ、それならばその恩を返す為に村に貢献をするのは至極真っ当な事じゃあないかしら?ねえ、そう思わない、咲夜?」
「はい、お嬢様の仰る通りにございます。襲撃の際は美鈴が対処するかと思われます」
その言葉にバレアレは納得し、私へ感謝の一言を発した。
どうしても助けたい人が、原作にはいるのですが、私の未来決定論?ドラえもんでいう東京大阪理論ではどう足掻いても死ぬので胸が痛くなりながら執筆しています。
…すまんな、漆黒の剣たち