黒幕はフィーネ   作:雨宮417

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オッス、我シェムハに釣られシンフォギアにはまった作者はずるずると沼に堕ちていくのであった。
みくグレひびさいこー。


なんか受信した

1

私が目を覚ました時、そこは病院の一室だった。

 

自分が置かれた状況も分からず、しばらくは天井を眺めたあとに緩慢な動きで身体を確認する。

手には点滴、身体に患者衣。至るところに包帯が巻かれ口元にはテレビでしか見たことのない

大きな呼吸器具。病室は暗くカーテンの外からも光は差し込まない。

そうして今を確認した私は、次にどうして此処にいるのかと記憶の糸を手繰り寄せる。

頭はぼんやりとして思考をまとめることは難しかったけれど

他に出来ることを思い付かなかった私はただそれだけを繰り返した。

 

親友と一緒に二人組の歌手のライブを見に行こうと約束したこと。

当日になって親友は家庭の事情で来れなくなり独りで会場に入場したこと。

特に興味もなかったライブだけれども彼女たちの歌を聞く内に体がリズムを取り

物販で購入したペンライトを周りに合わせて振ったこと。

そして会場が炭の山に変わり、私は私達を守ろうとしてくれた誰かが持っていた武器の破片に

胸を貫かれ、死ぬなと声をかけられ抱き起こされたこと。

 

ノイズ。

 

十何年か前に災害と認定され、何処からか現れ、人のみを狙い、炭素へ変貌させるもの。

遭遇確率は通り魔に出会うよりも低いと聞くけれど、私はその偶々に遇ってしまった。

昔から不運であるとは感じていたけれどあんまりではないだろうか。

呼吸器が付いていることを忘れて何時もの口癖を吐き出す。

くぐもった息は声の形には成らず音の切れ端にしかならない。

目を閉じ、軽い呼吸をする。深くは吸わない、というより吸えない。

付けなれなさが理由なのか、あるいはそういう機能なのか深呼吸は出来なかった。

 

沈んだ心で生きている、私は生きていると唱える。

誰かは分からないが私に生きてほしいと叫んでいた。泣いていた。

心の底から願いを投げつけていた。

ならば私は生きなくてはいけない。

何が起ころうとも、どんなことがあろうと、生きることを諦めてはいけない。

 

そうして私を枠に押し込め、立花響は世界に息を吹き返した。

 

 

 

2

閉じていた目を再度開いてからはどれ程の時間がたったのだろうか。

部屋は暗く、カーテンが透き通るようになるにはまだかかりそうである。

何もする事がないのならと、ライブのことを思い出す。

正直な話、深く思い出そうとするとノイズに襲われることも思い出してしまい億劫ではあるが

誰がどう見ても、私の状況は死地であったのだから其処から生還した以上どうして生き残ることが

出来たのかを知るべきだろう。

次にまたノイズに襲われて生き残れるという保証はない。

生きることを諦めないというならば、起こってしまったことに対して対策を練るべきだ。

原因の究明?ノイズは唐突に現れるというのに一学生の私に原因を究明出来るものか。

よくわからないものは学者に任せておけ。

私は私に出来たことを、どのような時にでも行えればよい。

 

まずはなんだ、最初から順序立てて思い出していこう。

 

当時の私は親友にドタキャンされて不貞腐れつつも僅かな高揚心を持ち会場にいたと思う。

それは子供の頃に一人でお使いにいったときのような、初めて町中に出たときのお上りのような感覚。

要するに初めての場所とお祭りで胸に不安とワクワクがあったわけだ。

ライブが始まってからもしばらくは周り乗れずおどおどしていたとも思う。

私がライブを楽しめるようになったのは歌のさび辺りだろうか。

その頃には慣れないながらもペンライトを振っていた。

私がそうしたいと思ったから。

歌に合わせてペンライトを振るだけでも楽しかった。

離れた席にいた人は体中をぐるんぐるんと回していたけれど

狭い席でやって警備の人に怒られていた。

会場の天井がまるで翼を拡げるかのように開き、歌声と歓声が空に響いた。

歌手の一人が何かを言っている。たぶん、次の歌を歌うとかそんな雰囲気だろう。

そんな時だ。ステージで爆発が起き、ノイズが現れた。

辺り一面には炭の山が築かれ判断が早い人は出口へ向かって駆け出した。

生憎私は周囲からほとんどの人がいなくなるまで動けなかった。

というよりも自分の立っていた足場が崩れ、足をケガした痛みでようやく我に帰ったというべきか。

ノイズが迫っていた。私は足を引きずりながら出口に進んだ。

ノイズは武器をもった人にやられていた。

 

学校の授業で取り扱ったことがある。

地震、雷、火事、ノイズ。

災害にあったときにはどのように行動すべきか。

それらはどんな現象なのか。

班毎にまとめて発表しましょうというやつだ。

 

ノイズは倒せない。そう教わってきた。

剣も槍も弓も銃も、爆弾、戦車、船、飛行機果てには反応兵器まで。

あらゆる武器を試して、試して、試して、試してそれでも人はノイズを倒せない。

どうしようもないもの。だから災害。

 

ああ、けれどもあの人は、ノイズを倒せていた。

ノイズに触れても炭にはならなかった。

命があった。

 

あれだ、と私は思う。

よく思い出してみれば防御力が有るのかも分からない鎧も身にまとっていた。

そのおかげでノイズに触れても炭にはならなかったのだろう。

薄くても十分。むしろ動きを阻害しない。

 

あれを使うことが出来るのならば。

私はノイズに出会っても生き残ることが出来る。

 

あの後あの人はどうしたのだったのだろうか。

私は飛んできた武器の破片、に貫かれ、て。

 

私はぎこちなく胸元をはだけた。

胸にはfの傷痕が残っていた。

 

 

 

3

胸に手を当てる。自分の鼓動以外は聞こえない。だが、自覚してしまったら聴こえる。

私の中に何かある。いや、何かではない。はっきりとわかる。あの人が持っていたものだ。

響く振動は歌だろうか。何かを求めるかのように、私を揺らしている。

命か、想い出か、それとも一緒に歌ってほしいのか。

ともかく考え事をしている最中だ。今は静かにしてくれ。

強めに念を込めると振動は停止した。

息を吐き、気持ちを整える。

勝手に取りついて活動するなんて、あの人が使っていたのは呪いの武器か何かか。

呪いの武器がノイズを倒せるとは聞いた覚えがないが、そもそも呪いの武器が存在するなんて

聞いたこともない。聞いたことがないのならもしかして。

そこまで考え思考を引き戻す。重要なのはそこじゃない。

私の中にはあの人の武器の欠片があるということ。

そしてもしかしたらノイズに対抗できるかも知れないということ。

思い付きで妄想の塊かもしれないが。

取り敢えずは退院してから検討しよう。

 

そもそもノイズが現れた場所にたまたまノイズを倒せる人がいる確率はどれ程のものなのだろうか。

まるで作為を感じてしまう。ニチアサのアニメのように何処かにノイズ操る黒幕がいたりして

ノイズを倒す戦士の下に派遣でもしているのだろうか。

だとしたら今の私はピンチというやつだ。武器を持っていても使えないのだから。

なんて妄想をしてみる。

 

黒幕、黒幕か。いるのならば教えてほしいな。

誰がノイズを操っているのか。どうしてノイズで殺すのか。

 

《黒幕はフィーネ》

 

は、と声が出る。

この時辺りに人がいたのならば唐突に私がドスの聞いた声を出したことに驚くだろう。

黒幕はフィーネ。フィーネとは人の名前か。よくわからないものが頭に届いた気がする。

そもそも日本語だったか。私の聞いたことのないものではなかったか。

しかし確かに私はその言葉を受信した。

黒幕はフィーネ。フィーネとは誰だ。返答はない。質問を繰り返す。返答はない。

ただの幻聴か。目が覚めたばかりでおかしくなっているのだろう。

私が胸にあると勘違いしているノイズの対抗手段も一時の妄想に過ぎない。

だいたい薄着をまとってノイズと戦うとか。

あれは一体なんだというのだ。

 

《シンフォギア》

 

今度こそ私は止まった。呼吸を忘れ、単語を反芻する。

シンフォギア、それがあの武器の名前。

 

 

 




すーぱー聖異物大戦とかみたくね。

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