1
まだ日が昇らない、暗い町を走る。
見慣れた住宅街、商店街を走り抜けしばらく、大橋を越えて海沿いに出る。
コンクリートで舗装された海岸は冬場ということもあり潮気を含む大気は身を切るような寒さ。
都内で雪が積もるということはごく稀にしかないため足を取られるということもなく、市販のスニーカーが地面を踏みしめる音が心地よい。
早朝ということもあって辺りに人気は少ないが、それも少し離れれば消えるだろう。
走り続けながら胸中の聖遺物に意識を向ける。
ペースを落とし呼吸を調えながら私を構成する精神を、自分という意識を分解し、再構築する。
起動、ガングニール。
傍目からは何も変わらない。
厳つい鎧も武器も現れない。
光ったりもしない。
家から出た時のまま、ジャージ姿。
けれども今の私は鎧を纏っている。
全身を覆ったこの力こそが、私の武装。
RN式回天特機装束。
シンフォギアを手に入れることが出来なかった私が得た対ノイズ兵装だ。
2
病院から退院した私を待っていたのは覚えの無い悪意の塊だった。
家の外壁には罵詈雑言で埋め尽くされ、玄関にはイナゴの群を思わせるマスコミ。
ポストは紙屑で埋まり本来の用途には使用できそうにない。
近所からは陰口を叩かれ、復学した学校では陰湿なイジメ。
悪化していく環境に耐えきれなかったのか、唐突に蒸発した父。
周囲の大人が助けてくれる訳でもなく、むしろ匿名という形で私に人権が無いように周囲は叩き出す。
思えばカウンセラーが私の精神状態について確認をよくしていたのはこのことを知っていたからか。
退院後にも定期的な通院を通して、悪化していく体調に薬剤を処方されるまでになってしまっていた。
脅迫罪や暴行罪に対応するはずの警察も、届出を出しても動かない。
家族も日に日にやつれ、弱っていく現状、私に頼れる人はいない。
そんなある日、薬を忘れたのか、同級生に隠されたのか。
学校内で処方薬を服用出来なかった私はついにプッツリ逝ってしまったのだ。
今まで散々やってくれた奴らに殴る、蹴る、噛みつく。
そして高まる戦意と破壊衝動はガングニールを強制的に起動させる。
私の暴力は段階を上げていく。
壁にされた机は拳に粉砕され、体勢を崩した奴を踏み潰し、反撃にと頭部に振り下ろされた椅子は頭突きで迎撃する。
本能のままに暴れる私だったがどこか理性的な部分があったのか。
その理性すらもより効率的に破壊するために使用する。
起動したガングニールに付属する戦闘能力の把握。
身体能力の向上、防御性能追加、本来ノイズの持つ炭化能力を無効化する振動操作の機能すら攻勢機能へ転用する。
振動操作をソナーの要領で発信。
背後で逃げ出そうとした奴を視認することなく後ろ足で蹴飛ばした机の残骸をぶつける。
上がる悲鳴は本人のものか。
苦痛に耐えることなくわめき散らす声を増幅。
周囲は突然の大声で耳を抑えうずくまる。
間髪いれず突撃。
さらに場を引っ掻き回すべくリーダー格の少女の声を再現し私に対してわざと突っ込ませ迎撃。
クロスカウンターの要領で放たれた拳すら、顔面にめり込んでも痛打にはならない。
むしろガングニールの起動により全身が引き裂かれそうな激痛と維持に必要なエネルギーを賄おうと吸い出される精神力、それらが私の活動時間を容赦なく削っていく。
散々暴れ回った後は死屍累々といった有り様だった。
私も体から何かが喪失した感覚になり、床に倒れ伏す。
指の一本すら動かせず、相手側に一人でも動ける奴ががいたのなら間違いなくそいつは恐怖にかられて私は殺されていただろう。
幸いと言っていいのか。
騒ぎを聞きつけた教員が駆けつけ私を含めて全員病院へと搬送された。
その後の事を語るなら、まあ、当然警察沙汰にはなった。
搬送された奴らは私を含めて重症の判定。
私に至っては極度の疲労と衰弱、全身がボロボロになっているのが確認された。
ガングニール起動の影響だとは思うがそんなことは他人にはわからない。
一人の少女を加害し、追い詰めたとして奴らは転校したのか。
少なくとも知る限りではこの町からいなくなったとだけ聞いている。
私に対しても当初は少年院がどうのという話があったのだが、こちらが家庭の状況について警察に届出を出していたのに対応をしていなかった点をマスコミが嗅ぎ付け、さらに全国的にライブ事件での生存者に対する傷害事件、失踪が発覚した結果、世間の反応が掌を返すようになり、よく聞く停学も教育を受ける権利とかで受けることもなかった。
勿論テレビに出ているコメンテイターや記者の一部には重い罰を与えるべきだと強弁する者もいたが月を跨ぐ頃にはいなくなっていった。
周辺環境が落ち着いたとはいえ、それで日常が帰ってくるとは限らない。
自分のクラスの大部分がいなくなり、残ったのはイジメなんて関係ない、勝手にやっていればという顔をした奴とマイペースで見るからにぽやぽやしていそうな奴位だ。
クラスは解散され、それぞれ他のクラスに編入という形になるが、噂が広まったのか誰も関わり合いを持とうとしない。
教員すらも腫れ物を触るかのような対応になる。
私は自身に害がないならいいかと独りでいることになる。
私は誰かに積極的に関わろうとはもうしていない。
3
再入院した病院から退院し諸々の事後処理が終わった時には中学最後の夏になっていた。
あれから最初に目が覚めた時は全身に激痛と倦怠感があったが、何より手にいれた力に対して満足感があった。
ついに手にいれたんだ、ノイズに対する対抗手段。シンフォギアを。
思わず笑みが浮かぶ中である。
水を差すように言葉が降ってくる。
それがRN式回天特機装束。
ノイズに対抗できるとされる欠陥兵装である。
さすがに一年近く言葉に対して付き合っていると、どの様にすれば返信が返ってくるかと言うのも分かってくる。
曰く、RN式回天特機装束とは使用者の精神力、意思の力で聖遺物と呼ばれるものと共振し力を引き出すもの。
起動、維持には莫大な精神エネルギーが必要となり、常人ではそもそも起動すら出来ない。
対してシンフォギア、FG式回天特機装束は使用者の意思によって聖遺物からエネルギー源、エネルギーを発生、生成し兵装を形成する。
またFG式ではRN式に比べ膨大なエネルギーの使用を前提とするため数億もの機構で構成され、使用者の性格、状態、思考その他多数の要素より武装を適宜選択し、運用される。
使用者に最適な状態で武装が構築されると言うことだ。
私の胸にある欠片はガングニールのシンフォギア。
しかし私自身の力不足か、起動方法が不明な為かシンフォギアとして構築出来ず、RN式としてしか力を発揮できないようであった。
しかしよい点もあった。
本来RN式には身体能力の向上やノイズへの特効能力は最低限しか付属しないが私の聖遺物はシンフォギアに使用するシステムが組み込まれていた為、RN式でもシンフォギアとしての機能を取捨選択することで十分に使用出来る状態だった。
これならばRN式でも十分。
そう考えた私が取った行動は決まっていた。
特訓である。
4
特訓に当たって参考にしたのは以前病院で親交を持った風鳴弦十郎だった。
その特異な身体能力と技術は人間の持つ性能を余すことなく引き出したものと考えられ、人類種の頂点に位置する能力を持っていた。
事件後には私は周囲を避けるようになりかつての親交は失われたものの、かつて彼から教わった内容に沿ってトレーニングを行うことで私は以前とは比べ物にならない程成長していた。
身体面が脆弱ならばそもそもRN式では活動どころの話ではない。
そこで彼の特徴的な特訓。
飯食って、映画見て、寝る。
彼にとってはそれが直接力となっていたが、私にとってはより状況に応じた能力を付属する手助けとなった。
他者の持つ想像力が、思いが、こうであってほしいという願いを私なりに特機装束に投影することで必要な機能を構築しやすくする。
アクション映画や戦争映画では身体機能の向上と技術を、ファンタジー映画では特異な能力の再現を、怪獣映画やサメ映画なんかは今のところ役に立ちそうはないがそれでも色々な映画を見て学習する。
また当たり前の話だが食事をきちんと取り、睡眠を取ることで得られるものもあった。
RN式において精神面の充実と言うのは活動時間の増加に寄与する。
怒りや憎しみ、鬱屈とした感情。負の感情は出力こそ大きいものの維持は大変難しい。
何かを殴り付けるとそれだけで気分はすっと昇華し、散化してしまう。
精神の安定を取ることでシンフォギア程の能力を望まず、ノイズの炭化能力に対抗する振動操作とこちらの攻撃が通用しない障壁を無効化する機能のみに絞れば数十分は活動を維持できる。
特に振動操作はノイズの炭化能力を防ぐ重要な機能であり、またその応用性は計り知れない。
一点を突破する能力ではないがそこは私次第だろう。
唯一の欠点は全力でガングニールを稼働すると何処からか黒服を着た人物が現れることだ。
何度かその姿を見かけたが何処かに連絡を取りながら周囲を警戒し出し、あるときには近隣一帯を封鎖してしまう。
そのときは黒服と共に警官が何十人も現れ不発弾が見つかったとかで追い出されてしまった。
おそらくライブ会場を襲撃したノイズの仲間なのだろう。
警官の服装もガワだけで中身は別に違いない。
テレビや新聞などで不発弾が処理された等のニュースが報道されず、遭遇した人が個人で呟いたSNSのメッセージも投稿するなり削除されるからだ。
もしかしたらフィーネに関係する組織のメンバーなのかも知れない。
彼らに見つからないようRN式の訓練は彼らに探知されないよう繊細さを要求された。
初戦闘シーンを書いて即ボツに。
パーンするのはどうかと思うよ、響さん。