黒幕はフィーネ   作:雨宮417

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前半はカウンセラー。
後半は響。


君に会いに行こう

1

リディアン音楽院高等科入学試験最終科目。

歌唱表現。

課題曲、私立リディアン音楽院校歌。

入学試験の申請用紙を提出する際、歌唱試験として課題曲が与えられ、自由曲を提示しなければならない。

課題曲で求められるのは正確性、発声力、統一性。

複数人で校歌を歌わせられる光景はグループ面接に近い印象を受ける。

声が小さければそもそも評価に値しないが、かといって一人だけ声を張り上げているというのも歌の完成度を下げてしまう。

例えばそれがあまりにも上手すぎて並外れた歌唱力を持っており、周囲が萎縮してしまったなどであれば話は別だが。

そうでないのならば然るべき評価が下されるだろう。

 

自由曲。

個人面接を思わせるが背後には順番待ちをしている受験生がいる。

他人の歌、試験内容は否応なしに自分と比較させられ焦ることになる。

その結果、本来の実力を発揮できない受験生も少なくない。

いや、この結果こそが本来の実力なのだ。

見ず知らずの誰かの前で、臆せず向き合えることが必要なのだ。

自信家は胸を張って本来のポテンシャル、或いはそれ以上で試験に挑むことが出来るが、僅かでも自身の技量に疑問を抱き周囲の視線に押し潰されてしまえば容赦のない減点が待っている。

求められるのは胆力、そして表現力。

先程の課題曲とは異なり自身の色を審査する。

現在リディアンに在学している片翼の彼女のように煌めく輝きが加点に繋がる。

 

そして私、特異災害対策機動部二課に所属するものが知っている秘匿事項として聖遺物との適合率、歌により発生するエネルギー、フォニックゲインの生成量が重要な加点項目となっている。

ともすればこの二つの内どちらかが高ければほぼ確実に入学出来ると言っても言い。

特異災害ノイズに対抗するためのシンフォギア奏者候補を確保するため設立されたこの学校は今のところ十分にその役目を果たしていた。

 

私は地下にある指令室から歌唱試験に挑む受験生と発生した数値を画面上で確認しながら、あの特異な融合症例体、立花響について考えを巡らせる。

私が彼女について知ったのは起動したネフシュタンの鎧を奪取すべくノイズの召喚をしたライブの生存者であり、総合病院に担ぎ込まれた彼女の担当医の不正に気がついた点からだった。

彼女の担当医であった、名前はなんだったか、まあ俗物だ。

心臓付近に破片が残っているにも限らず手術後のレントゲンを捏造し、あたかももう心配は要らないと大袈裟に表現する奴の残したカルテにより私は天羽奏のシンフォギア、ガングニールが彼女と融合していることを知った。

あのお方の頂きに私も登るべく、聖遺物との融合について検証するために彼女を手中に納めんと多数の工作を行い、元々の担当医すら自主退職の形で追い出し、自身の手駒を新しく彼女の担当医に当て、私自身も彼女を観察すべくカウンセラーの形で彼女に関わることとなる。

初めは警戒していた彼女も段々と心を開き、私に色々な事を打ち明けるようになってからは彼女を利用した研究も随分と捗ることになる。

一時期は精神的に危ういこともあったが周辺環境の改善のために工作を行ったことにより安定感が現れる。

 

そしていずれ私の手駒とするべく、より近くで彼女を取り込むことに決めた。

彼女にリディアンを薦めたのである。

リディアン音楽院は特異災害対策機動部二課の真上にある為、他の職員に彼女が融合症例だと感付かれる可能性もあった。

そして私はそれを狙っていた。

いずれ来るバラルの呪詛の、月破壊の為の内部工作者。

私が彼女に期待したのはその役割だった。

 

だが私の計画は延期せざる他なかった。

彼女がかつて読んだとされる先史時代について語られた書籍。

裏付けをとる必要はあるが何よりその内容は衝撃的だった。

あのお方が言葉をバラバラにしたのは人を守るため。

今も月で見守っている。

戯言と片付けることは出来ない。

もしもという毒が私を蝕み計画への躊躇いがでる。

月を破壊してしまったら、私は自らの手で愛すべきお方を殺すことになるのだと。

 

あの日以来私はあの時代について再検証するようになった。

私も月へ行けばあのお方に会えるだろうか。

 

画面の中では彼女が自由曲を歌っている。

あの曲はそう、シンフォギア奏者であったツヴァイウイング、彼女たちの飛翔の歌。

逆光のフリューゲル。

 

 

 

2

リディアン音楽院の試験が終わり家に帰った私を待っていたのは小包だった。

表面に貼り付けられた送り状には小日向の文字。

祖母への挨拶もそこそこ、私は自室へ入り小包を開ける。

中に入っていたのは消印のない切手の貼られた沢山の封筒。

そして白色の薄いマフラーだった。

 

一番上の封筒を開けると中身は未来の母親からの手紙だった。

 

拝啓

寒中お見舞い申し上げます。

響ちゃんは健やかに過ごせていますでしょうか。

音信もなく引っ越しを敢行したこと誠に申し訳なく思っています。

あのライブの後、当日ライブに行っていなかった我が家にも心ないバッシングが襲いかかりました。

あの日娘がライブに行かなかったことを把握していた人は当日待ち合わせをしていた貴女だけと伺っております。

娘は周囲から貴女と共にライブに行ったと思われていたそうです。

娘の親友である貴女が自分の誘ったライブで入院をし、娘は無傷であったことも学内でのいじめを激しいものとしました。

夫と相談した私達はこの町を離れることにし、今までの一切の連絡先を破棄するようにしました。

電話番号すらも変え、静かに北の町で暮らしていました。

ですがほんの数日前、なんの前触れもなく娘が失踪しました。

今回私から手紙を差し上げた理由となります。

娘の行方をご存じないでしょうか。

もしくは、娘がそちらにお邪魔してはおりませんでしょうか。

ご連絡のほどをお願い致します。

 

また娘が書いた手紙を同送致します。

娘は貴女に手紙を送ろうとしていましたが、私の方で差し止めていました。

娘がライブに誘ったことを恨んでいると思ったからです。

どうか恨むならば娘ではなく私を恨んでください。

何卒よろしくお願い致します。

かしこ

 

ぐしゃりと便箋を握り締める。

思わず感情がこぼれでるが深呼吸をし調える。

 

箱の中から未来の手紙を取り出す。

結構な量がある。

片っ端から開いていく。

急な引っ越しについて連絡が出来なかったことの謝り。

新しい電話番号。

新しい生活。

しかし時期外れの転校のせいか親しい友人は出来ず、寂しいとこぼしている。

夏は北であっても暑く、秋の山は都心に比べ艶やか、冬に積もる雪は腰にまでくる一面の銀化粧。

以前みたいに私と共に流れ星を見に行きたいので連絡をくださいと書いてある手紙もある。

私は手紙を開ける度に涙がこぼれるのを止められなかった。

大好きな親友の言葉が、まるで未来が私と手を繋いでいるかのように感じ私の心をあったかくする。

そうして最後の手紙を開ける。

時候の挨拶、近況の報告。

そしてやたら薄着をしたがる私に手編みのマフラーを贈りますと書いてある。

風邪をひかないように。

またいつか逢えたらうれしい。

 

覚悟が必要だというのならば、私はこの時に既に決まっていた。

手紙を読み終えた私は直ちに準備を整える。

祖母にはしばらく友人の家で勉強合宿をすると伝える。

学校にはまあ連絡は要らないだろう。

この時期は自主通学が認められており、特段学校に行かなくともなにも言われない。

それは普段のことでもあるのだけれど。

公に認められていると言うのは行動に迷いがなくなる。

 

出発する前に未来の新しい電話番号に携帯から掛ける。

繋がらない。

しばらくして留守番のメッセージを入れるように言われる。

 

これから会いに行くよ、親友。

 




TRPGにおける導入、オープニングフェイズです。

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