やはり俺が一色いろはの家庭教師を任されるのはまちがっている。 作:まーが
「せんぱい!ということで今夜はよろしくお願いします!」
「何をよろしくするんだ畜生!離せ離せ!」
必死に抱き着いている一色の手を振りほどこうとするが、中々頑丈で離れづらいし、何よりフルパワーを以てしてやることに些か抵抗感がある。
「ちょっとなぁ...。家には待ってる人だっているんだからな?」
「えっ先輩を待ってる家族なんておられるんですか?」
凄いこと聞くなこの女。確かに夜食とか朝食は生活リズムや気分の関係であまり食卓を囲んだりすることもないが...。いくらバイトでも多少は心配してくれるだろう。...だよな?
「いやいるだろ。愛しの小町がな」
...。寂寥が場を包む。
NGワードでも言ったか?これでも発言に気を付けたつもりだが。
「...その"愛しの"ってつけるのやめてください」
Ah,しまった。兄弟間の表現とはいえ今のコイツにはちと誤解を招く表現だったな、うんうん。
にしてもこうやって言われてないとあんまり違和感に気づかない俺の方にも倫理的に問題がありそうだ。
「あ、ああごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。」
「.......先輩? 先輩はだれが今好きなんですか?」
「は、はぁ?!今尋ねることじゃないだろう!」
「いいから答えてください。」
まずいことになった。ストーカー女の前でこの質問は非常にまずい。
どうやら俺の dead or alive は「お前だよ」という発言が妄言でも言えるかどうかにかかっているらしい。
...彼女の淀んだ瞳は今か今かと俺の言葉を待ちわびている。三百眼だっただろうか?黒目が際立って非常に恐ろしく見えてしまう。
「...答える内容によっては?」
「別にどうもしませんよ。聞きたいだけです。」
いや絶対に何かする目だろ。普通の人間が異性に好きな人を聞くプロセス踏んでないもん。友達関係のプロセスをほとんど踏んでこなかった俺でも分かるもん。
「今は答えられないが、そうやって駄々をこねていたら一色は嫌いになっちゃうかもな」
「なっ...」
この発言が効いたのか、彼女は俺を抱きしめる腕を緩めた。その隙に脱出を図る。
「それは困りま...あ!」シュバッ
「ふん!...ふぅ~解放された~」
「もうちょっとぐらいいいじゃないですか...」
今回は彼女の耽美な発言に耳を傾けないことにしよう。俺は話を続ける。
「ということだ、一色。今日はここら辺で切り上げるぞ」
「え~~~そんなぁ~~」
「...あと、ところで俺の家に何か細工はしてないよな?」
「...どの部屋のことですか?」
「いや場所聞いてねえんだけど」
絶対家にもなんか細工してるな。
「先輩の部屋にだけ多少器具を設置していました。も、もちろん他の家族の方の迷惑にならないようにですよ!!!」
「いや俺の人権が無視されているからな」
「先輩の人権は私と同棲&結婚で解放されるはずだったんです...」
夢見がチックな少女のいろはちゃんだこと。しかしまあ悪意(?)を以て成された行為ではなさそうなので盗撮or盗聴の件もさほどもう驚かない。
「後日家に来てそれら全てを取り払うこと、いいな?」
「先輩から直々にお誘いだーーー!やったーーー!」
ここまでポジティブだと一周回ってかわいいな。
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「......とまあ色んな事があってねえ小町さん」
「なるほどなるほど大変だねえお兄ちゃん」
「いや他人事じゃないだろ。俺の部屋ってことは少なくともお前も何回かは犠牲になっただろ?」
「入ったことはそりゃ数回あるけど聞かれたり見られたりして恥ずかしいことはないかなぁ」
時は回って自宅。
夜遅くなり9時を過ぎたが小町はどうやら俺が帰ってくるまで待っていてくれたらしい。
「にしても悪いなこんな時間まで。辛かったら先に食って構わないんだからな?なんなら食器の洗いもしといてやるから」
「おーお兄ちゃんがそんなこと言うなんて変わったねえ...小町は嬉しさで胸がいっぱいだよお」シクシク
「へいへい。っと、そういえば一色とも話してたんだが、最近の高校生活はどうなんだ?」
小町は中学卒業後に、俺らと同じ総武高校に進学し、晴れて一色の後輩となっている。そこでは結構交流があり、プライベートで仲も良いそうだ。
「ヘーキヘーキ。学業人間関係至ってフツーの平凡児って感じ。いろはさんとは結構仲良しだけどねえ...」
「一色ねえ...なんでああなってしまったのか」
「正直あの人結構周りから好かれるタイプじゃなかったでしょ?その時の名残であんまり友達っていえる存在が少なかったのも原因じゃない?」
「でも今は生徒会の役員のみんながいるだろう」
「そこへ押し込んだのはだれなのさ?」
「...むう」
なんか言葉巧みに言いくるめられた気がしなくもないが、事の韻末っていうのは結構単純なのかもしれない。人との接し方、距離感を測れずに常識に外れた行動をとってしまうというのは人間往々にしてあるものだろう。
「でしょ?だからお兄ちゃんも良く分かってると思うんだけどさあ」
「まあ、それでも嫌われてないってだけ俺は幸せだな」
「嫌われてないって...この状況でよくもまあそんなことがいえたものだね」
「俺も大学生だ。物事を客観的に見れるようにもなったし、本当のところは理解しているさ。ただ言っちゃうとそれを思っているってことが100%分かってしまうだろ?そんなの得策じゃない」
「確かに99.9%と100%は、この問題だったら大きな違いだと思うよ。...だけどねえお兄ちゃん、その引き延ばし癖はあんまり良くないと私は思うなあ」
「返す言葉もございません。」
いつか腹をくくる覚悟はできるのだろうか。肯定をしたとして、彼女と受験期どう関わっていけばよいのか?
今現在それを知る術は何もない。
「心配事の多いお兄ちゃんのために今日は特別に小町が添い寝しながらお話を聞いてあげようかなぁ???」
「はは、そんな必要ないさ。それに俺の部屋で話されてもあいつに丸聞こえだ」
「あっちゃーそうだねえ。私としたことが迂闊だったよ」
舌を出して自分の頭にゲンコツをする動作、意図してやってないのだとしたら天性のあざとさだな。
全く、このくらいフランクに冗談を言い合える仲になれればいいんじゃないか?
いや今じゃ無理だろうけど。
何はともあれここで小町の頼もしさと可愛さを再確認した俺は、これで数日間何があっても耐えられることだろう。やはり妹が一番だな!!!!
「...」