やはり俺が一色いろはの家庭教師を任されるのはまちがっている。 作:まーが
「あぁ~だりぃ~」
平日火曜日の、時刻は午後3時。3限を終えて家路を辿る。
主に文系大学生はコマ数が少ないイメージがあるがまぁ凡そ正しい。
しかし短大などになると短い期間で詰め込もうとする大学もあるそうで、そいつらと一まとめにするのはやめるべきだと思う。
「ただいま~」
「あっおかえりなさい先輩」
「え」
突然の事態に言葉をなくす。
...あぁそういえば今日こいつに機器類を外してもらう約束をしてたんだっけか。
「私の5限と先輩の3限時の帰宅時間はほぼ一緒ですねぇ」
「今となってはその一致も怖いけどな」
「ストーカーは学校の理まで操れませんよ...」
「ってそんなことを話してる場合じゃない。とっとと俺の部屋に仕掛けた器具を取ったら帰ってくれ」
「ちょちょ先輩!魅惑の部屋に行くのにすぐ帰れっていうのはあんまりなもんですよ!」
「魅惑だからこそなんだけど」
先輩はこれだから~、とか愚痴をたれつつも彼女の足取りは軽い。
いやはや、ここまで好意をあからさまにされたら普通は嬉しいはずなんだが、やはり節操があるかどうかというのは女子評価にとって重要な指標なんだろう。
「よいしょよいしょ...こことそことあそこと」
「ほえー一杯ありますなあ一色さん」
「でしょう!結構手間かかったんですからね~」
一色の謎の手際の良さに他人事のように感心して眺めている。
実際ストーカーに部屋を漁られる時点で現実だとは到底思えないからな。
「さいご!これで終わりです先輩!」
「よしありがとう...なのかこれ?まあお疲れ様。ってことで帰ってくれ」
「そんな訳いきますか先輩。悪いですが先日楽しみ切れなかった分楽しませてもらいます」
とか言って俺のベッドにダイブする一色。
...足をバタバタされると目のやり場に困るのでやめていただきたい。
「先輩!見るときはちゃんと見るって言ってくださいよ!」
「いや何のことだよ!」
やはりそこは随一の変態、俺が太ももをちらちら見ているのを看破する洞察力は侮れないものがある。
...しかしこんなことに使われる力はそれはそれで可哀そうなものだが。
「では先輩、お礼として私と一緒に昼寝しましょう」
「...その心は?」
「??? 下心???」
「はいアウト。ここ俺の家だからね?そんなことしたらまずいのは一色も分かってくれるよね??だよね??」
「えーちゃっちゃとやればいいじゃないですか!はっもしかして先輩数時間と大量の時間を費やして私の体を嬲っていくつもりですねそして調教しやすいように従順にさせてから人権を無視した極悪非道の行為に至るわけですかなるほどとても魅力的でなんなら今からホテルでって感じなんですが流石にこの家でやるのはまずいですよね分かりました今日は下心なしの純粋な昼寝としましょうそうしましょう」
「..........わかってくれたか」
思考放棄。現代で生き抜く術とはまさにこのことだな!
もう俺はYESかNOで生きていくことにしよう!
「さぁせんぱぁ~い、カムォーン」ファサッ
彼女はそう言って両手を俺の方へ伸ばす。粗方やってほしいことが分かってしまうのが悔しいのでスタンダードにベッドに沿う形で入った。
「いけず~」
「我儘な提案にのってあげてるだけいけずじゃないだろ」
「まあそうしときます。ていうか話していないと幸せ過ぎて意識が飛んじゃいそうなんですよ」
「っそういうのはこんな間近で言うもんじゃない」
今俺らの距離は凡そげんこつ2個分くらい。
俺にはとてもじゃないがこんな経験が今までなかったから相当頭がクラクラしている。
「さあ先輩、誓いのキスを...」
「するかバカ。」
近づく一色の顔を頬っぺたを抑えながら制止する。こうしてみる奴の顔もハムスターみたいでとてもいじらしい。
「むふーこの状況でも値千金です」
「...分かったら離すぞ」
「もうちょっとだけこれでお願いひまふ」
うん、かわいい。それ以外形容する語彙があまり見当たらない。
なんか時間が流れるのがすごく遅く感じる。幸せで心地良い時間というのはこうも永遠に感じるものなのだろうか。
「せんぱぁ~~い♡大好きでふ♡」
「だから近くでこういうのはやめろって...」
「もう我慢できませぇ~~ん!」ぎゅぅぅぅぅぅぅ
「ちょちょちょちょちょっと待って!!!」
ただでさえこんな天国みたいな状況にこの柔らかさが混交したら...いかんまずいまずい。
ぶっとんでしまう。俺の何かが。
「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏......」
「そんなことしても無駄です!さあおとなしく...ふわぁ~」
いやぶっ飛ぶ前に眠くなってきた...。
昼寝なんて俺のルーチンワークだから逆らえないんだ。だがまあ襲うよりは100倍ましだろう...そうだろう...。
「zzz...」
「あっせんぱぁい。ねちゃだめですよぉ...zzz」
......とまあこうしてようやく俺らの昼寝談義は終わった。
「ちょっと...なにこれ...」
...はずだった。