やはり俺が一色いろはの家庭教師を任されるのはまちがっている。   作:まーが

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クライシス!!

「...ん?ふわぁ~」

 

 

 

長い眠りから目を覚めると、外はもう真っ暗だった。規則正しい吐息をしているお隣さんの兎は俺が起きているのにちっとも気づいていない。

 

 

...しかしなぜか、ドアの方面に何やら人影らしきものが確認できる。

 

 

 

「...お兄ちゃん」

 

 

 

彼女の怒気を孕んだその声に、今の状況の何たるかを改めて認識する。

 

 

 

「ちょちょちょちょっと待て小町!これはな!お兄ちゃんが一方的に悪いわけじゃ全然ないんだ!!!」

 

 

「言い訳はいいよ。もう小町の右手には119番さんが待ってるから」

 

 

「それは救急車だバカ!いうなら110番だろ!」

 

 

「ふ~んお兄ちゃん、自分が無事で済むと思ってるんだあ」

 

 

「いや頼むから待ってくれ!弁明の余地を!小町さん!」

 

 

 

必死の動きで懇願する哀れなお兄ちゃんを尻目に、小町はただただ吊り目でこちらを見つめている。

確かに中々まずい状況だった。....いやでもな、それでも日々の行いからここまで糾弾される覚えもあまり見当たらないわけではある。

 

 

 

「.....お兄ちゃん。私はね、心配してるんだよ?」

 

 

「へ、心配?」

 

 

「そう。少なくともいろはさんはストーカーって認識で私たちは通してたのに、こんな距離を近くしたら何かされたときにどうしようもなくなっちゃうでしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

「.....百理ある。」

 

 

 

ぐうの音も出ない正論。情緒に身を任せていた俺は途端に我が行いが後ろめたくなり、妹に窘められているこの状況がさらにそれを加速させる。

 

 

 

「だから分かった?お兄ちゃん。これからは軽率な行動は誘われても慎むこと!我慢した分のために私がいるんじゃない!!」

 

 

 

「...そ、そうだよな。俺の認識が全く以て間違ってた。」

 

 

「お、おぉ~!!あのお兄ちゃんが素直に私の言葉を聞き入れてくれるなんて!これはご褒美に私の抱き枕贈呈式を執り行わないと!!」

 

 

「ちょいちょい。話が飛躍し過ぎだっつの。」

 

 

「でも今回ぐらいは私のいう無茶ぶりも聞いてくれるべきなんじゃないの~?」

 

 

「ぐっ...。まぁお前が良いんならむしろ歓迎だからな。かというお前も分別くらいわきまえるんだよな?」

 

 

「も、もももももちろん!」

 

 

 

......不安だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ちょっとぉ~せんぱ~い、私まだ寝起きなんですけどぉ~」

 

 

「はいはいごめんなさいねっと。ほら、あっちに迎えが来てるから今回はそれで帰ってくれ」

 

 

「え~。まぁ今日はすごく充実した一日だったんでここまでってしてもいいですけど...」

 

 

 

一色がごたごたしているうちに、俺が呼んだ一色の母親の車のクラクションが鳴る。

 

 

 

「わわわ!急かさないでよもう」

 

 

「ということだ。今日は送ってやろうかとも思ったけど、ちょっと事情が事情でな」

 

 

「おっおお先輩!こんな夜道の中送ってあげようとしてくれてたんですね!いや~そのお気持ちだけでも胸いっぱいというか何というか心が満たされますあっもしかしてどっか公園に連れ込んで夜を明かそうとしてただ寝起きで体力が優れないから今回は見送って次で取って食ってやろうって魂胆ですかそうですか先輩も中々がめついですねいいですよその時が来たら私も喜んでお受けしま「ピーーーーーーーー!!!!!!」あぁうっさい!!」

 

 

「ほらそんなうだうだ言ってないでさっさと行ってやれ」

 

 

「...は~い。今日はありがとうございました」

 

 

「おう、ありがとな。」

 

 

 

最後の最後まで波乱はあったものの、なんとか一色を見送り終える。

 

しかし後に待っているものに比べたらまだ可愛い方だろう。

 

 

 

 

 

「......で、事の内容は全部聞いたけど」

 

 

 

小町が鮭の身をほぐしながら淡々と喋る。特にもう怒ってはなさそうだ。

 

 

 

「まぁ、そうだ。すまなかったな」

 

 

「いーのいーの。謝罪は一回でオッケー、ドゥーユーアンダスタンド?」

 

 

「それは目下に使う言葉だぞ。...いや今の立場はそうか。」

 

 

「分かっておるではないか~。これは夜が楽しみじゃのぅ」

 

 

「勘弁してくださいよ悪代官様。一日にそんな体験何度もしたら頭がおかしくなってしまいます。」

 

 

 

小町代官の言うことは今日だけは絶対的である。

いやはや彼女の横暴ぶりにも困ったものだな。

 

 

 

「そんな喋ってばっかで箸が止まってますよっと」ヒョイ

 

 

「あっそれ俺の鮭だぞ」

 

 

「ほいほい、あーん」

 

 

 

小町の箸で引っこ抜かれた鮭の身がするりと俺の口に入る。

 

 

 

「どう?美味しい?」

 

 

「...小町がやってくれたから格別においしいな」

 

 

「おーー!!100点だよお兄ちゃん!」

 

 

 

どうやらご期待に添えられたようだ。

嬉しそうに体を揺らすコイツを見てると心がとても安らぐ。

 

 

 

「いや~流石小町のお兄ちゃんだね!シスコン具合は予想以上だよ!」

 

 

「だろう?...って言うお前もちょっとブラコン気味なんじゃないのか?」

 

 

「ばれてしまった...まあお兄ちゃん大学生になってからほんのちょっっっっっとは社交性も上がってきたからね、少し寂しくなっちゃって」

 

 

「........俺の重要性に気づいたってことか」

 

 

 

 

『ほんのちょっと』は余計だ余計。

 

 

 

 

 

「自分で言うのはきもいって...。ただ否定できないのが辛いところだねぇトホホ」

 

 

「まぁ今日くらいは好きに甘えてくれ。俺もたまには積もった話をしたいからな」

 

 

「そりゃあもう思う存分させてもらいますよ!他の女の子には負けないから!」

 

 

 

 

 

いくら小町と言えども現役高校生がこの台詞を吐けるのはちょっとビビるな。コイツの言う『好き』がどういうものなのか...

 

 

 

 

 

 

とまぁどちらにしても、兄である俺は小町を愛する妹として迎え入れてやるけどな!


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