やはり俺が一色いろはの家庭教師を任されるのはまちがっている。   作:まーが

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小町、突入

場面は変わって俺の部屋。

 

なぜかそこには寝る準備をしている俺と枕を持ってきている小町がいる...まぁ、なぜかと問うのも愚かしいが。

 

 

 

「さぁお兄ちゃん。Let's sleep together!」

 

 

「今日はネイティブ小町ちゃんのご要望に応えてやるとしますか」

 

 

「それでよろしい!あっお兄ちゃんの枕って案外大きいね~こりゃ枕要らないや」

 

 

「いやそれじゃいくらなんでも距離近すぎでしょ」

 

 

「いーでしょそんなの。所詮五十歩百歩だよ」

 

 

「まーた窘められてる気がするが...まあいいや、ほれ」ボンボン

 

 

 

ベッドのセッティングが終わった俺は枕を叩いて小町を招き入れる。

 

 

 

「おぉ~!!完璧な導入だよお兄ちゃん!」

 

 

「何がだ。いいからさっさと寝るぞ」

 

 

「とりゃーーーー!」ボフッ

 

 

「んぐぅ!」

 

 

 

俺の指していた方向ではなく体ごと俺自身に向けて飛びついてきた。

どうしてこうもコイツは人の指示にブラインドというか、無頓着というか...

いやお兄ちゃんは色んな意味で嬉しいんだけどね。

 

 

 

「こらこら暑くて熱いからちょっと離れろ」

 

 

「いいじゃんいいじゃんお肌でぬくぬくしようよ~」

 

 

「分かった分かった、とりあえず把握したから枕の空いている隣に横になってくれ」

 

 

「いえす」

 

 

 

俺の枕に頭を下ろし、対面で互いに向かい合う。

距離にして鼻と鼻の先がかすれるくらいの相当なものである。

 

 

 

「近いねお兄ちゃん」

 

 

「どっかの誰かさんが枕を持ってきたのに使わないからな」

 

 

「いやいや誰でしょうなぁ」

 

 

 

「はぁ...まあどうだ?たまにはこういうのも良いな」

 

 

「私としては毎日でも全く構わないけどね」

 

 

「こういう日がある兄弟って時点で相当絞られるだろ...それを毎日って中々ブラコンが抜けてませんな小町さん」

 

 

「ガス抜きの時期を見誤ってねぇ。もう今更抜こうとしても逆に怖いなーって」

 

 

「...」

 

 

 

言外の意味が何となく察せられたがここはスルーが妥当だろう。

何よりこの状況がただの兄弟が起こすそれじゃないという時点で気づくわけだからな。

 

 

...そもそもアニメで言うような鈍感系の主人公なんて存在するはずがないんだ。

 

難聴か朴念仁なんて周りに女子を囲む人間が所有している属性であるわけないし、実際そういうアニメに対する共感性羞恥に際限がないのはそういう理由だろう。

 

 

 

「何考えてるの?」

 

 

「! あ、あぁごめん。ちょっとな」

 

 

 

...変な考えに頭を支配されるのは良くあることだがここでは不味いな。

 

 

 

「もー。今日は色々お話しするんじゃないの?」

 

 

「そうそう、俺らが共に過ごしてきたこの十数年間の積もる話を...」

 

 

「お兄ちゃんの上半期に積もった話はないでしょ」

 

 

「うぐっ...お前痛いとこ突くな」

 

 

「でもそれに比べ今は積もりすぎかなぁ?人生の反動でも回ってきたの?」

 

 

「ちょいちょいちょっと目が怖いって!!」

 

 

 

小町ちゃんの淀んだ瞳が俺の視界を歪ませる。

まったく少し気を逸らしただけでこれだからままならないものだ。

 

コイツは一色に気をつけろとか言いながらも、実は危ないのは自分自身ってことに気づいてないのかもしれない。

 

 

 

 

「まぁこうしてくれてるだけ良しとするよ。さぁお兄ちゃん私を受け止めて!」

 

 

 

 

至近距離からの小町のダイブ。しかしなんとまぁその体重の軽いこと。

 

 

 

 

 

「うっ!、だがお前の体重ごときじゃ簡単にはのけ反らんさ」

 

 

「おーさっすがー。小町はやっぱ軽いのかな?」

 

 

「いや軽いも何もマジでちゃんと食ってるのか心配になるくらいだけど」

 

 

「そこは素直に軽いってだけでいいのにー。大体ちゃんと食ってるのかって話だったらお兄ちゃんの方がだめでしょ?休日とか1日2食じゃん」

 

 

「そ、それは別にいいんだよ。ほら1日に16時間断食が一番健康に良いって聞いたことあるだろ?それだそれ」

 

 

「別に断食するほど体重がどうこうしてるわけじゃないのに...」

 

 

「...ご、ごほん!まあ蛙の子は蛙ってやつだな。2人ともこれからはちゃんと食うようにしないとな」

 

 

「小町はお兄ちゃんの子じゃないよ?」

 

 

「ニュアンスを汲み取りなさいニュアンスを」

 

 

 

 

大学受験の最中はここまで話が進んだことも滅多に無かったので、話が自然と弾んでいることに幸せを感じる。

 

 

 

「いや~にしても話す機会なんてあんまなかったから新鮮だー」

 

 

「こんな至近距離でな」

 

 

「それはお兄ちゃんがそうしたいからでしょ??」ニヤ

 

 

「原因を逸らすでない」

 

 

「でも本当は?」

 

 

 

 

 

「......控え目に言って天国」

 

 

「ッッッッッッッッ!!!!////////も、もう~素直なお兄ちゃんは大好きだよ~」チュッ

 

 

「!!!!???!!」

 

 

 

 

不意に小町によるチークへのキスに当惑する。

 

 

 

 

 

 

「ちょい待った!!!これはスキンシップとしてどうなんだ!?!?」

 

 

「ふん!もう遅いよお兄ちゃん!!私はスキンシップのその向こう側へ行ったのさ!」

 

 

「いや戻ってこい!」

 

 

「やだね!」

 

 

 

 

突然の行為に小町も若干興奮しているのか、話がかみ合わない。

 

会話においてもどうやら次元を異にしてしまっているらしい。

 

 

 

「で、でも、でもさお兄ちゃん。いい加減かの無知狡猾なお兄ちゃんでもこの意味くらい分かるでしょ??」

 

 

「走れメロスの王様のパロディか、やるな」

 

 

「そうじゃないでしょ」

 

 

「わ、わかったからそんな目をしないでくれ!」

 

 

 

少しおふざけが過ぎただけでも刺されるような視線を送ってくるのはやめてほしいものである。

 

 

 

 

「そ、そんなのは俺でもわかってるんだ。けどな小町、常套句になってしまうが俺らは兄弟、だろ?」

 

 

「もっちろん了解してるよ」

 

 

「その上で...こうしてるんだよな?」

 

 

「exactly.」

 

 

「だから途中でネイティブになるのは止めなさい。

 

......俺はな、小町。

人を好きになるほど人として出来ちゃいないが、人の好意を無碍にするほど人としてならず者ってわけじゃないんだ。 だからな、あぁ~全くもう半端だなぁったく。」

 

 

 

「ふふ、お兄ちゃん悩んでる」

 

 

 

 

 

明確だった好意もこうして言語化されると反応の仕方に困る。

 

かくいう俺も頭をかいて必死に次の単語を紡いでいる感覚しかない。

 

 

 

 

 

 

「う~んとなぁ....小町」

 

 

「う、うん」

 

 

 

強張る空気の雰囲気に、自然と俺と小町の声も震えを帯びる。

 

 

 

 

 

 

 

「へ、返答は?」

 

 

 

 

 

 

 

「.........とりあえず」

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、今はお前を受け入れてやる」

 

 

 

 


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