やはり俺が一色いろはの家庭教師を任されるのはまちがっている。 作:まーが
~なんだかんだあって翌朝~
目を覚ますとそこは小町の寝顔に包まれた楽園であった。
時計を見ると朝の6時。この早い時間に起きるのは我ながら非常にレアケースだ。
若干上の空で眠い目を擦りながら小町の頬をつねる。
「小町さん。朝だぞ朝」
「ふへぇ~ほっへが宙を舞ってるよ~」
「宙を舞ってるのはお前の前頭葉だっつの。いいから起きるぞ、ほれ」
「お、おぉ~!!今度はホントにお空飛んでるって!!!」
「わっとと...お前マジで軽すぎだろ」
少し悪戯をと小町を多少持ち上げるフリをするつもりだったが、どうやらこの体には重力が働いていないらしい。
布団がかかってなかったら天井が奴の寝床であっただろうな。
「でもこれすごい快適だから朝はずっとこのままで良いよ」
「いや俺が良くねえから。いつも通り朝食を作ってほしいわけだし」
「あーそっかー。お兄ちゃんの人生は小町の手作りの朝食から始まるからね」
「家畜か俺は」
.....とまあ冷やかしてはいるが結局もう10分程度はこのままでいさせてやった。
今まで起こされに来られても起きられなかった時間の分これくらいのお返しはしないとだしな。
「...にしても大学生になってから少し自分に素直すぎるな」
どうやら捻デレは長い時間をかけてようやく終了のめどがたったようだ。
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「くっ、今日はヤツの家庭教師の日か...」
やや浮世離れした1日のせいか、危険な茨が全身にまぐわりついていたのを思い出すのには幾らか時間を要した。
小町に言われたことを肝に銘じつつ、目の前の冥界の門を開く。
「...先輩、ようやく来ましたか」
「いや時間割的に丁度なんですけど」
「違いますよ。私たちはもう普通の生徒と教師の関係じゃないんですから!」
「なんか妖艶な雰囲気を感じさせる物言いだけど俺ただのバイトだからな?」
「ふん!人の恋路に身分の貴賎はout of questionです!!」
「貴賎も何もなかろうが...」
「まぁ痴話喧嘩はこの程度にしておいて、中に入って早速おっぱじめちゃいましょうか!」
「言葉の部分部分に自分の願望が隠し切れてないぞ。...もういいや」
諦めは肝心。
先人は現代の我々に当たり前ながらも尊い教えをご享受くださっていたんだなぁと身に染みる毎日である。
「さあ今日は英語からだぞbitch」
「誰がビッチですか!!!サイテーです先輩!」
「こんなの日常会話だっつの。割と原義以外でも俗語的に使われるんだぞこの言葉は」
「いや絶対それを教えるつもりなかったでしょ...」
「まぁ小さい話よ。じゃあ今日はえーとkawaii模試の結果から...」
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時間が流れる。
「時計は19時ジャスト。今日はここまでだな。」
「ふーようやく終わりましたか。全く疲れましたよホント。....あっいやこれは別に先輩との時間がようやく終わったかっていう意味じゃなくて英語っていう科目の勉強が終わったことに関するのみであって決して決してそういうわけじゃないです誤解を招く表現してしまってすみません許してくれる代わりに結婚するのなんてどうでしょうか是非とも前向きにご検討よろしくお願いします」
「分かった分かった大丈夫だから落ち着けって」
「本当に分かってくれたんですか!??!?!!?」ガバッ
「ちょちょちょ何だいきなり!??!
日本人なんだから言葉わかって当然だろうが!!!!!!!」
「...先輩、私は今あなたの男らしさにとても感嘆しています」オヨオヨ
「.......え?なんか途中で言ったのかお前????」
「...結婚してくださいって♡」
「やること陰湿だなお前!
ワンクリック詐欺がやりそうな手口で求婚するのはやめろ!!!」
ギャグ一色日和。今日もコイツのネタで盛んなことこの上ない。
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「あっそうだ。先輩、私今日聞きたいことあるんです」
「? どうしたいきなり」
教材の片づけを進めていると急に一色が話を切り出してきた。
「昨日の小町ちゃんとのベッドインですよ」
空気が一瞬で凍り付いたのを感じる。
「い、いやいや何でお前が知ってるんだよ!?」
「......実はですね、私が仕掛けた盗聴器を取っている間にまた新しく盗聴器を仕掛けていたんですよ。オーーホホホホホホホホホ!!!!!!!!」
「いや人の部屋で何勝手に大道芸してくれてんのお前」
「要点はそこじゃないでしょう先輩」
「俺にとっては今後一生の安泰がかかった死活問題なんだが」
「人生に安定など存在しませんよ夢想家さん。
...ところで、昨日の発言行動諸々私の琴線に触れるのには十分すぎるくらいの出来事であってですねぇ......いやなんなら触れすぎて私の琴線自体全て切れてしまったまであるわけですが」
「材質がもろ過ぎるだろう」
「先輩のこととなれば共鳴が起きて崩れやすくなってしまうんですよ。
まあいいです、問題はここで私にどれほど致してくれるかにかかっているんですから」
「下で夕食を用意してくれている親御さんに聞かせたらぶっ倒れそうなセリフだな」
「甘いですね。ザオリク持ちの聖職者にかかれば命なんて造作もない存在ですから」
「ザラキとザオリクで遊ぶ畜生がおるかあほんだら。...まあ良い、今は俺の命にも関わりかねない状況だからな。願いくらい少しは聞いてやるさ」
「察しが良くて助かります。B級映画だったら最後らへんで死ぬ役回りですね」
「結局死んでんじゃねえか。んでなんだよその要件って?」
「それはですねぇ...これです!!!」ジャラン
一色が取り出したのは犬の首輪。
このアブノーマルの状況の中、これからどうなるか思い当たる節がどれも不吉過ぎて思考をぶん投げたくなってきた。
「先輩には命をかけて私の飼い主になってもらいます」ワンッ
マシな方でよかった、と思う辺りもう末期なのだろうか。