同日
かつての岐阜県中津川市である中津川直轄区・首相官邸には、次々に人と情報が集まってくる。
「総理、入室されます!」
その一角で、会合が開かれようとしている。
官房長官、法務大臣、外務大臣、財務大臣、経産大臣、防衛大臣、農水大臣、国交大臣に国家公安委員長と、錚々たる面子が揃うも、その顔は一様に暗い。
「ただいまより国家安全保障会議、緊急事態大臣会合を開催致します」
総理が重い口を開いた。
「現状を報告してくれ」
「はい、総理。皆さま、お手元の端末をご覧下さい」
どことなく機械的で無機質な音声が状況を説明する。
「こちらが大阪湾軌道エレベーターの静止軌道ステーションから地上方向を撮影した映像です」
「これは…」
「発光の前後で惑星の表面積が約10倍ほど変化しています。また、日本国に属する領域以外の地域も確認できません。衛星についても同様です。以上より、日本国は地球とは別の巨大地球型惑星に転送されたと推測します」
「ちょ、ちょっと待て」
経産大臣が発言する。
「国がまるごと転送?そんなSF小説のようなことがあっていいのか」
「ですが、これは事実です。信じられないとは思われますが、現実に起こっている以上は腹を括って下さい」
「はあ…」
会議室にいた人間は、機械的なそれが発するあまりに現実と掛け離れた状況を未だ飲み込めずにいた。
「軌道エレベーターの損傷も、転送が要因と思われます。表面積の変化に伴って地表面に対する鉛直方向とエレベーターの角度にズレが生じ、その結果エレベーターにしなりが生じて反発したと考えられます」
「なるほど…。エレベーターの復旧状況は?」
次は官房長官が尋ねる。
「現在、東京湾・大阪湾軌道エレベーターとのケーブルは臨時復旧しております。完全復旧にはあと35分程かかると思われます。伊勢湾軌道エレベーターの臨時復旧は現在進行中で、残り3分で終了する予定です。ですが、問題が一つ」
「なんだね?」
総理がそれに聞き返す。
「地球では赤道上及び極地に建設された国連国際エレベーターを軸として、それらと世界各地の軌道エレベーターを網目状に構築することで安定していました。しかし今はそれらの機構が消失しており、現在はスラスタによって強制的に制御しています。現在の状態ではかなり不安定であるため、これらの再構築が必要かと」
「再構築にはどれくらいかかる」
「簡易なものであれば、5年ほどかと考えられます。しかし、高額な建設費用、並びに現地政府との交渉に時間がかかると思われます」
「なるほど…。ん?現地政府ということは文明が存在しているのか!?」
「はい。各地に所在している模様です。特に我が国から西へ2つ目の大陸とその南の大陸には、兵器類や都市群から鑑みるに第二次世界大戦から第一次冷戦中期程度の文明が確認できます」
「先にそれを言ってくれ!ならまずは、これらの文明と接触し、国交を結ぶのが先決だな」
「ああ、我が国だけでは経済は成立しない」
参加者たちは口々に意見を話す。
「エネルギーと食料についてはどうなる」
農水大臣にとっては、食料問題が一番の懸念であった。
「軌道エレベーターに設けられた大規模太陽電池による電力は、ケーブルが復旧次第供給可能です。これらの電力を消費して、液化水素の生成、藻類石油の生産、農業タワーでの農作物生産が可能です」
「よし、分かった」
総理が締めくくりに入る。
「これらの現地政府と国交開設交渉にあたろう。出来る限り多くの国と接触を図れるよう、各々指示してくれ。私からは各機関が協力し合い、横の繋がりを設けるよう要請しておく」
「分かりました、総理」
総理はふと左腕に目をやる。もう2時間以上が過ぎていた。
「これにて解散」
それぞれの大臣が各省庁へと急ぎ足で戻る中、総理は一人会議室に残っていた。
「このまま何もなければいいが…」
総理の声は、外を飛ぶ無人機の音に消えていく。
説明回です。「早く異世界側と接触しろ!」とお思いでしょうが、次!次までお待ちを!お客様あーっ!
…今回は近未来的というより、結構現代に近いですかね。でも昔も今も会議というもの自体に変化はないので、これから先も大きな変化は生じにくいかな?とは思ってます。今回もお楽しみいただけていれば幸いです。