神聖ミリシアル帝国・港町カルトアルパスのとある家に、アマチュアの天文愛好家・ウィズダムは住んでいた。
「やはり、いつ見てもあの星は美しい」
彼の趣味はその肩書き通り、天体観測だ。今日は仕事が休みであったので、昼間から彼ご自慢の大型魔導望遠装置で星を眺めていた。と言えども今は昼間である。一等星、それもとびきり明るいものしか見ることは叶わない。好んで飲む蒸留酒の瓶を一つ空けつつ、夕暮れまで優雅に空を眺めながら過ごそうと考えていた。
「最近は動く光点が見えることもあるからな…。楽しくて仕方がない」
彼は独り言を呟きつつ気ままに装置を動かしていると、レンズの先に赤い光点を見つける。
「あれは…隕石か!珍しいこともあったもんだ。これだから天体観測は辞められん」
そう言って隕石に焦点を当ててしばらくしていると、ある事に気がついた。
「…いや、何かおかしい。隕石ならもっと降下速度は速くていいはずだ。それに、形が崩れないのも違和感がある。…まさか、古の魔法帝国の!?」
彼は怯えてあちらこちらに通報した。
西方第2大陸南方の宙域で、二機の白い巨鳥が空へ向かって落ちる。
「現在当機は大気圏に再突入しております。座席にお戻りになり、安全ベルトをご装着ください。繰り返します。まもなく当機は…」
「本当に上手く行くのだろうか…」
その巨鳥、政府専用機に乗り込んでいた外交官・朝田は一抹の不安を覚える。
「なにせぶっつけ本番だ。失敗しないためにも、今回は細心の注意を払わなければ」
話は数日前にさかのぼる。
ーー日本国航空自衛隊大阪宇宙基地、第12無人機偵察部隊。ここでは各地に無人機を展開させ、情報収集を行っている。今日の任務は異世界側の言語データの収集であった。
「まもなく西方第2大陸上空宙域に到達します。大気圏突入開始」
AIオペレーターが状況を報告する。
大陸名は現時点で不明であったために、仮名として日本国から見た方角と、距離が近い順に第1、第2、第3、…と名付けられていった。大国の言語であれば世界の共通言語として使われている可能性が高いために、優先的にこの国が偵察対象となった。
「海抜150,000mまで降下完了しました。指向性マイク展開」
「よし、まずは大陸の西側にある都市に向かおう。なにせドラゴンがいる世界だ。気をつけて飛べよ」
隊長が指示を出し、偵察無人機RQ-37Sは指示通りの空域へ向かう。
「でもまさか、ドラゴンのいる世界とは思いませんでしたよ」
「あぁ、俺もエレベーターからの映像を見た時は驚いたさ。案外この世界、大昔に流行った魔法とファンタジーの異世界なのかもな」
隊長が冗談を飛ばし、そんなはずないと無人機管制室は笑いに包まれる。
「…到達しました」
「よし、収集開始だ。音声を全員のヘッドセットに流してくれ」
全員のヘッドフォンに、わずかに空気を切る音が聞こえる。管制室にいる誰もが耳を澄ましていた。
『……現在…世界…………報…せよ……』
「!!!」
全員に電流が走った。
「今!今の場所だ!あの議事堂様の建物にマイクを指向させるんだ!」
「了解」
無人機のマイクが指向する。
『…世界は現在安定しております。しかし、古の魔法帝国の復活が不明な以上…』
指揮室は驚愕に包まれた。
「に、日本語じゃないか!一体どうなってる!?」
「驚いたな…。しかし、これなら言語情報をそれほど収集しなくとも良いかも知れない」
皆は口々に意見を述べている。
「だが、古の魔法帝国というのが気になるな。この世界には魔法なんてものが存在しているのか?」
「それについては、今後収集していく必要がありそうですね。まさか隊長の冗談が現実になるとは…」
この部隊の仕事は終わりそうにないようだ。
ーー高度5,000mまで降下した機内の中で話は続く。
「ぶっつけ本番、か…。だからって、こんなデカブツで向かう必要があるのか?」
政府専用機といえど、実態は全長500m、全幅1kmに自衛用UAVを6機、小型有人機を2機搭載した宇宙往還機である。
「考えてみろ、第二次大戦期と同レベルの国力を持った国家だぞ?帝国主義を掲げている可能性すらある。そのためにも、我々の国力を見せる必要はあるんじゃないか」
「これじゃ砲艦外交そのものじゃないか。相手を無理に刺激すべきじゃないだろう」
「まあ、政府の考えだ。なにせ今は危機的状況だからな。それに、あの第三次世界大戦のような展開にするわけにはいかない」
2人の外交官は、この後の展開を予想して苦悩する。
「…お、あちらさんがお迎えに来たみたいだぞ」
彼らはそう言って外に目を向けた。
ーー神聖ミリシアル帝国・港町カルトアルパスのある酒場では、大きな騒ぎになっていた。
『小天体の落下について、現在政府は空域に航空部隊を観測に向かわせており…』
「何だこれは!」
「まさか、古の魔法帝国の遺構なのでは!」
酒を呑んでいたの人々はニュースを見て、次々に声を上げる。
事の発端は先程、中央世界の方向へ向けて人工物と思われる天体の落下が確認されたことにあった。その天体の、異様なまでの落下速度の遅さが人々の恐怖心を煽る。
「ミリシアルの戦闘機が直々に確認に向かったんだ。世界最強の神聖ミリシアル帝国だ、きっと大丈夫さ」
人々はそれに怯えながらも、どこか楽観していた。
「しかし、一体どうなってんだ」
神聖ミリシアル帝国第5制空戦闘団の隊長・ウィンダーが、エルペシオ3の機内で愚痴を漏らす。
「訓練から帰って来た瞬間にこれだ、全く何なんだあれは!」
一番最初に天体を捉えたのは、アマチュアの観測家であった。彼による「おかしな天体が落下している」との、天文台への通報を受けてミリシアル軍も観測を開始したのだ。だが、観測を続ける内に人工物、それも古の魔法帝国の遺物ではないかという疑惑が高まっていた。
《まあまあ落ち着いて…。あっ!見えてきましたよ》
「あぁ…ん?ちょっと待て!なんだこれは…!まるで航空機じゃないか!」
航空部隊の隊員達は戦慄した。これほど巨大な飛行物体がどうやって飛んでいるのか、なぜ宇宙から落下してきたのか、そもそもこれはどこのものなのか、様々な疑問がわく。
(まさか、あの古の魔法帝国なのか…?)
その瞬間。一方の巨鳥が1羽の小鳥を手放した。
「っ!!総員臨戦態勢!相手の攻撃の可能性あり!相手が攻撃し次第反撃せよ!」
魔信のスイッチを入れ、各機に通達する。皆緊張していた。
あの小さな飛行物体に、生物らしさなんてものは全く感じなかった。
《近づいてきたぞ!》
「何をする気だ…?」
その小さな飛行物体は我が物顏で近づく。いつの間にか100mを切っていた。
(私の命日は今日なのか…?いや、我々は世界最強の神聖ミリシアル帝国だ。そんなことはないはずだ…)
「私が魔信で呼び掛ける」
隊長機が前へと出た。
「こちらは栄えある神聖ミリシアル帝国である!そこの大型機は応答せよ!!」
…………………。
「こちらは栄えある神聖ミリシアル帝国軍である!そこの大型機!直ちに応答せよ!!」
………魔信に応答は無い。
《どうなっているんだ…》
「…これじゃどうしようもな」
『こちら日本国自衛隊特別航空輸送隊、第701飛行隊である!飛行目的は貴国との国交開設交渉だ!』
《うわっ!…これは、拡声器か?》
「こちら栄えあるミリシアル軍、すまない、もう一度飛行目的を言ってくれ」
『……こちら日本国自衛隊、飛行目的は国交開設交渉だ』
「…貴機の目的は理解した。本国に魔信を送らせていただく。こちらの意見が決まるまで当空域で旋回し、待機せよ」
『……了解した、感謝する』
ウィンダーは魔信のボタンから手を離した。
「まさかこんなことになるとは…」
彼は一抹の不安を覚えた。
ーー神聖ミリシアル帝国・帝都ルーンポリスにある皇城では、今まさに緊急の会議が開かれようとしていた。
「これより帝前会議を開催致します。本日は急なお呼び立てとなりましたが、事態が事態ですので何卒ご容赦ください」
国防省長官であるアグラが、一言断って会議を始める。
「今回の事案について説明致します。本日、宇宙から我が国の方面へ向け人工物と思しき物2個体が落下、いえ、降下しました。我が国の第5制空戦闘団が接触した結果、これらの人工物には日本国という国の使節が搭乗しており、国交開設交渉を求めているとのことです」
「日本国?そんな国聞いたことがないぞ!」
総務相が発言する。
「はい。彼ら曰く、突然に転移してきたと言っており…」
「そんな戯言を信じられるのか」
彼の発言は、常識的に当然の考えであっただろう。
「しかし、宇宙から飛来してきたという事実があります。これ程の魔法技術を備えた国があったでしょうか。また、このような方法で大陸に接近されたとなれば、安全保障上においても大きな脅威となりかねません」
「しかし、うーむ…」
総務相は歯切れ悪そうに引き下がった。
「アグラ。説明ご苦労」
「はっ!皇帝陛下!」
皇帝・ミリシアル8世が、場の空気を一挙に制圧する。
「…つまりだ。あれは古の魔法帝国の遺構、
僕の星ではなかったという事だな」
「はっ、皇帝陛下。しかしながら、大陸にここまで接近されるとなると、安全保障上我が国の脅威足りえます。また、ミリシアルの格位を落とさない為にも、諸外国に弱々しい態度を見せるべきではありません。交渉については応じるべきではないかと」
「成る程」
…場に沈黙が流れる。
「…余は国交開設に向け、交渉しても良いと考える」
「!?陛下、しかし…」
この会議の参加者らは、皇帝の突拍子もない発言に困惑する。
「だが、それは日本国を調べ上げた後だ。外務相、日本国との交渉を認可する。使節を派遣し、情報を持ち帰るよう調整するのだ」
「…はっ、陛下!」
「情報局からも日本国の情報について調べ上げよ。…来たる古の魔法帝国との戦において、日本国は使えるやもしれぬ。彼らを試そうではないか」
皇帝ミリシアルの一言により、異世界は少しずつ動き出す。
申し訳ありません、大変遅くなりました!不定期更新とは言え、流石に遅すぎました。次またこうなったら…察してください()
今回は接触編、という事で…
この作品に出て来る宇宙往還機は大半が軌道エレベーターからの給電を受けて飛んでいます。つまり大まかに星の半分は燃料の心配無く飛べます。どこの某フライトシューティングゲームに出て来る超兵器だよ、というツッコミは置いといて(自分は結構好きですねあのゲーム)。最後の方の展開が本編にかなり近寄ってしまいました。出来る限りオリジナリティを出したいのですが、自分の技量の無さを悔やむばかりです。
感想、批判両方お待ちしています。