「それでは只今より、神聖ミリシアル帝国・日本国間の国交交渉を開始します」
ミリシアル側の代表者により、交渉がスタートする。ここはミリシアルが用意した会議場の一室だ。日本国使節の眼前には一面に、デカデカと壁画が描かれていた。朝田はそれを一目見て、まるで悪趣味な、と感じる。中心に置かれているのは巨大都市のようだ。その周りを、2つの島のようなものが描かれる。右側の島にあるのは機械だろうか、左側の島の上にはドラゴンのような生物が飛んでいる。それらの島の上に描かれた人々は、中央の方へ向け平伏している。雲の上では、まるで西洋の宗教観を体現したかのような神が優しく微笑んでいる。なんて傲慢な絵なのだろう。彼らミリシアルから見た世界とはこうなのだろうか。彼らミリシアルには我々がどのように見えているのだろうか。
「我々は日本国の国体を知りません。我々に貴国の詳細を説明して頂きたい」
ミリシアルの外交官、名前をフィアームというらしい彼が話し始めた。
「それについては、私から説明します。こちらの資料を」
私は予め準備しておいた資料を配布するように頼んだ。
「…この言語は、我々には読めないのですが」
「…えっ?」
うっかり声が漏れてしまった。準備は無駄だったかな…と思いつつも、気を取り直して説明を続ける。
「失礼しました。…それでは、こちらの映像をご覧ください」
机の上に1mくらいの、太い角材のような物体を置き、天板を開けるジェスチャーをする。
すぐに上板が開き、空気中に擬似的なディスプレイ状のものを投影する。反レーザー技術によって可視光線を吸収し、背景の空間をほぼ黒に近い色にすることでプロジェクターなどにありがちな背景の透過が少なく、かつて映像投影手段として主流であった液晶ディスプレイと比べても色味や画質で大差ない。
そこへ日本の紹介映像が、音声とともに映し出される。
…こんな国家とは聞いていないぞ。いや初接触なのだから聞いていないのは当然なのだが、それにも限度ってものがある。我々の想定を超えすぎだ。欺瞞なんじゃないか。大体なんだあの映像投影技術は…。空気中の光を魔素で動かしているのか?それだと面の先が透けて見えるはずだ。映像の中に出てきた都市もそうだ。彼らは都市と言っていたが、天に伸びた塔の麓にある多層都市など、世界樹の根元のようなそれだ。本当にあんな文明が可能なのか?一体どのような魔法技術が使われているのか?
「…我が国からの説明は以上となります」
彼らは我々に対して国交を欲している。だが、我々にも彼らを調査しなくてはならないという目的がある。我が国としての意思を伝えなければなるまい。
「我が国としては、映像内の描写に疑問があり、実在するものと考え難い。直接使節団を派遣し、貴国との国交開設を検討したい」
日本側は少しばかりの間身内で話し始めた。だが、すぐに意見がまとまったようだ。こちらの方へ振り返り、今度は我々に向け話す。
「わかりました。日本国は貴国の使節を受け入れます」
会談はスムーズに進みそうだ。
日本と神聖ミリシアル帝国は、ミリシアル側が日本へ使節団を派遣し、その上で国交開設に向け交渉する事で合意した。一方その頃、日本の南西すぐ側にある大陸・ロデニウス大陸には長閑な、それでいて僅か重苦しい空気が流れる。それは異様に静かでもあった。それは唯々平和なのだろうか、それとも、"嵐の前の静けさ"だろうか…
気づかないうちにUAが8000を超えていて、個人的にはこんなにも見て頂けるのかと内心驚いております。より多くの方々にも楽しんで頂けるよう努力してまいりたいと思います。次はいつになるかは分かりませんが…
追記
ここのところ忙しく、暫く更新が難しい状況が続いております。時間に余裕が生まれれば逐次更新を行ってまいりたいと思いますので、何卒宜しくお願いします。