ファイアーエムブレム風花雪月をプレイした後、自分なりの解釈で、ストーリーを振り返って、短編を書いてみました。

1 銀雪の章「交差の結末」のときの先生に注目した話になっています。

自分から見た風花雪月なので、もしもご覧になって合わなかったりしたら、申し訳ありません。

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注意事項

・主人公の心情を予想しながら書いているので、内容は万人受けしない可能性があります。ご覧の際はご注意ください。

! この話はファイアーエムブレム風花雪月の教会ルート、金鹿ルートの展開のネタバレがあります。あらかじめご了承ください。


銀雪が過ぎて(教会ルート)

「おぬし、相も変わらず忙しそうじゃの」

 

仕方ない、と首をふる。

 

戦争は終わり、このフォドラには、セイロス聖教会しか残っていない。

 

今を生きる人々の心の支えとなるべく、修道士、騎士団各位は、各地を巡り、戦火で傷ついた人や大地を癒していかなければならないのだ。

 

そのためにやることはあまりにも多すぎる。

 

「最近は剣も振っていないようじゃ。なまっているのではないか?」

 

そういえば、その通りか。

 

戦いが終わってから、訓練はあまりできていない。それ以上に雑務に追われ、自分のことに時間を割く余裕がないのだ。

 

しかし、ソレははっきり言えばソティスのせいでもある。

 

多少無茶をして、訓練をしようと夜中に訓練場に赴こうとすると、

 

『おぬしは今疲れておるじゃろう! 疾く休め! お主に何かがあればわしの大事なのじゃ!』

 

と言って、無理をするのを制止するのだ。

 

あの日、すべての戦いが終わった日から、もう一度ソティスと言葉を交わせるようになり、目を閉じれば会話もできるようになったときは嬉しかった。

 

これまでも、そしてこれからも自分を支えてくれると言ってくれ、それを有言実行してくれているのは嬉しかったが、それなら、せめてこちらの事情も分かって少しは『仕方ないの』という言葉を使ってほしい時もあるのが玉に瑕だ。

 

いずれは時間を見つけるよ、と返答し執務室の机に積み上がっている自分宛ての資料に目を通し始める。

 

「お、これは……?」

 

目敏くその資料の内容を覗き、ソティスは興味を示す。

 

「士官学校はなくならんのか。それはよかったの。しかし、平和な時代になったはいいが、小童にはまだ戦う術を教えるというのか?」

 

確かに、戦争のための、という意味ではもはや士官学校の意義はないだろう。

 

しかしソティスには、まだ必要だ、と言葉を返す。

 

平和な時代になっても賊など暴力をやめられない者は出てくるし、各地で利を得るための謀略や小競り合いは続くことだろう。それはたとえいくら教会が力を尽くしたとしても。

 

その時に備え、ここに来る生徒に身を守る術を教えたり、正しい教養を教えたりして世に正しい武術と教養を身に着けた人々を輩出することは、決して無駄ではないはずだ。

 

「ふむ……それもそうか。しかし、なつかしいの……」

 

なつかしい、という言葉にひっかかった。

 

どういう意味? と問うと、

 

「ほれ、もう6年も前になったが、おぬしも士官学校の教師をしていた。あのときのおぬしは随分と楽しそうじゃった」

 

もちろん、自分も楽しかった。傭兵として各地に戦いに赴いていた頃より、何倍も楽しかった。

 

実は自分の意識としては2年前からという感覚なのだが、生徒の成長を見ているとさすがにそうも言えない。

 

「士官学校が始まったら、また生徒を教えたいじゃろう? ま、担任、と言うわけにはいかないじゃろうがの」

 

しかし、懐かしさと同時に。

 

「ん……。おぬし……どうした? おぬしとわしの心は1つじゃ、隠し事はかなわぬ。……なぜ、自分には無理だというのか?」

 

ソティスにその通りだと、頷いて見せる。

 

「わしからみても、おぬしは立派に小童どもを導いていたではないか。少なく見積もっても才能はあると思うたが? なぜじゃ?」

 

士官学校の再開についての計画書に目を通しながら、ふと、ある箇所を視界に留め、しばらく見続けていた。

 

黒鷲の学級の教室。

 

「……そうか。おぬし、まだ悔いておるのじゃな」

 

首を振り、後悔ではないと主張した。

 

そう、あの時の選択は正しかったはずだ。ああしなければ、戦争は終わらなかった。

 

たった1年だけだったが、彼女がどんな人間はよく分かっていた。自分の強い芯を持っていて、決して折れたりはしない女性だった。

 

だからこそ、あの日決断したのだ。

 

しかし、後になって時折、思うことがある。

 

別の道を彼女に示してあげることはできなかったのだろうかと。

 

 

 

半年前。

 

この戦場はアンヴァル宮城内、絢爛な皇帝の住処も今はそこらに血が流れている。

 

もはや彼女のカリスマ性は言うまでもないだろう。城内に敵の侵入を許した時点で、降伏してもおかしくないはずが、皇帝を守る城内軍は士気を微塵も落とすことなく、こちらへと攻撃してくる。

 

「エーデルガルト! 彼女はあの先か……!」

 

勢いのまま、皇帝が教会主導の連合軍。フェルディナントがその手に槍を持ち、凄まじい殺気を放ちながら迫る皇帝軍を薙ぎ払っていく。

 

彼はきっと、愚行に走った皇帝を止めるのが、自分と責務だと考えているのだろう。昔は貴族としての理想を追い求めるが故の若気の至りが見られたが、今はそれも陰となり、筋の通った大人になったと言えるだろう。

 

指揮は自分に任されていた。フェルディナントの暴走寸前ともいえる猛攻をあえてそのままにし、彼の率いる騎士団にはその援護を頼み、さらに弓兵である2人に支援を命令する。

 

「ううぁぁあああああ! てりゃああああ!」

 

5年の間に随分と変わったのはベルだろう。否、ここでは、しっかりとベルナデッタと言った方がいいか。

 

最初に出会ったときは怖がりな少女だった。しかし、今はどうだ。前線に出て、騎士団を率いて、弓の弦を勇敢に引く彼女。

 

彼女を姿をみて思う。戦争をする戦士に自分が変えてしまったのだと。

 

だからこそ、自分の手によって人生が狂った彼女を死なせたくはない。

 

「どうした。いつものあんたらしくない。あんたが熱くなったらよくないだろ」

 

同じく近くで敵を射殺したシャミアに言われ、その通りだと頭を冷やす。

 

「……まあ少しくらい同情はする。今度こそ、敵はかつての教え子だ。だが、迷いは捨てろ」

 

その通りだと、手に剣を構えた。

 

英雄の遺産。その中でもかの解放王が使ったとされる天帝の剣。

 

その力を存分に引き出し、目の前の人間を引き裂いていく。

 

弓兵は近づかれたら弱い。シャミアに迫る敵を、カスパルと彼の騎士団の一部が、ベルナデッタに迫る槍兵をペトラが迎撃する。

 

「おりゃあああああ!」

 

「向かいの敵、排除する、します!」

 

「おうよ、そっち任せるぞペトラ!」

 

「はい!」

 

二人は一時期仲が険悪になりかけていたが、今はそれも吹っ切れた様子で、二人背中を預けて戦っている。

 

後方の部屋から現れる援軍も抜かりはない。

 

既にリンハルトとドロテアが騎士団を指揮しながら、仲間の回復、さらには魔法による援護と、複雑な後方支援をこなしている。

 

「リンくん、そっち任せるわ」

 

「ええ面倒……いや分かったよ」

 

風の黒魔法と白魔法が敵の接近を阻み、容赦のない炎と雷の黒魔法が敵を焼きつくす。

 

全員、優秀な生徒たちだ。

 

「先生、速く、行く、願います!」

 

後ろからの声にこたえ、

 

「君の生徒が迎撃に回っているうちに、一気に敵を崩すぞ!」

 

竜に乗り、冷徹に敵を排除するセテスが自分を誘う。

 

天帝の剣の耐久を一瞬確認して前に出た。

 

――心を静める。戦いに余計な思考はいらない。

 

向かってくる敵。

 

突き出される槍を躱し、敵を切断する。

 

後ろからの剣戟を弾き、できた隙を斬る。

 

続けて迫る連携を悉く躱し、その体に刃を食い込ませる。

 

「先……生」

 

自分は兵の1人だ。それはこの剣を持っていようと変わらない。故に、身を守るため、敵は確実に殺しつくす。

 

そう、的確に。剣を無心で躍らせる。

 

柔な武器は弾き、鎧ごと斬り裂き、魔法は撃たれる前にこちらが撃つ。

 

敵将とみて襲い掛かる敵たちを、圧殺していく。

 

 

『師(せんせい)。あなたなら、そう言うと思ってたわ』

 

 

この剣はいずれ彼女にたどり着くだろう。

 

 

『……今までは隠していた、もう一つの紋章の力。あなたに明かしてあげる』

 

 

その時は、この剣で。

 

 

『大修道院を出ても、私の師でいてくれる?』

 

 

彼女を斬るしかない。

 

 

 

「――! 扉が開くぞ!」

 

いつの間にか、その剣で迫る魔獣をも殺していた。自分の名を呼ぶセテスの声で自我を取り戻す。

 

そして目の前には皇帝の座す間が広がるのみ。

 

突撃の合図を出す。

 

 

 

 

 

 

 

「師(せんせい)……貴方は今、きっと、私に勝てると思っているでしょうね。けれど、私は絶対に諦めない。たとえ手足がちぎられようとも、前に進む」

 

 

 

 

 

 

教師とは。

 

士官学校で働いていた頃、ずっと考えていた。

 

自分は新人だった、だからある程度の方針が決まっていないと、教師など務まるはずもないと思っていた。

 

しかし、生徒と親睦を深め、自身のクラスの運営は何とかやっていけていたが、結局、その答えは出なかった。

 

それも、ガルグ=マクの戦いから5年後、荒廃した街で生徒たちと再会した時に1つの答えを見つけたような気がする。

 

教師とは、生き方を示すものだ。

 

何が正しく、何が違うかではなく、自信の人生を豊かにし、取り返しのつかない選択をしないように、その心を育てるものだ。

 

すぐには結果は出なくても、教師として教えたことは生徒の心の中にあり、いつかその教えが彼らの役に立って、良き世を守るための意思となれば、それが本懐なのだ。

 

――そう言う意味では、自分は教師失格だろう。なぜなら、彼女を善く導けなかったから。

 

かつての生徒だった彼女は折れなかった。誰かを頼ることはなく、自分で世界を変えようとしてしまった。故に、結局このような最悪の事態になってしまった。彼女は世界の敵となり、あらゆる者から恨みを買う存在となった。

 

少し周りに目を向ければ、自分のやり方ではなくても、最速最短ではなくても、世を変えられる手段はあったかもしれない。

 

他者との壁を乗り越え、手を取り合い、心で触れ合う。その方法さえ彼女の心に残せていたのなら。

 

たとえ戦争が結末として起こってしまったとしても、別の次善があったかもしれない。

 

そんなことも、今となっては、想像することが無意味なのだが。

 

誰しもが先生のせいではないと言ってくれる。しかし、そう簡単に割り切れるはずはない。この事態を引き起こした原因の一端が自分に在るとするのなら、決着をつけるべきは、自分だ。

 

 

 

 

 

英雄の遺産と思しき斧の攻撃を躱し、剣を振る。

 

その攻撃を盾で受けた彼女は、再び凄まじい一撃をぶつけてきた。

 

一撃一撃に彼女のすべてが乗っている。躱すこともできたが、それをあえて受け止め続けた。

 

「はあああ!」

 

遺産が光り、斧は力を解放した。

 

思い切り、彼女は振り上げの攻撃を見舞ってくる。

 

それも受け止めようとするが、大きく剣を上へと弾かれた。

 

「あああ!」

 

その隙を逃す彼女ではない。再びその武器で、今度は自分を両断しようとする。

 

――しかし、これはわざと大きく弾かれたように見せたものだ。振りかぶりのために攻撃で受けた衝撃を利用した。

 

体勢は崩れておらず、上へと弾かれたように見せた剣に力を籠める。

 

「え……?」

 

彼女はいつだって正直者だ。いくら気を付けようとしても、生粋の猜疑心の塊ではない彼女は、ふとした瞬間に相手に騙される。

 

そのような人間が、世界の敵となって生き残れるはずはない。

 

先ほどまで自分から遠のいていたはずの剣が反転、彼女に迫る。

 

それも天帝の剣の真の力を解放した状態で。

 

縦で受けようとも、その勢いは殺しきれず追撃の隙を与えるだろう。

 

迎え撃つには同じ英雄の遺産しかない。

 

「……く」

 

――しかし、どこまでいってもその関係は師と生徒。師の方が二呼吸速かった――

 

「せん……!」

 

その剣は、間違いなく彼女の体に大きな傷を刻んだ。

 

しかし、彼女はそれでもなお、剣を引き抜き向かってくる。

 

彼女を覚悟を受け止めること。

 

それが唯一、自分にできることだと、再び剣を構えた。

 

 

 

 

かつて、天帝の剣を持った解放王ネメシスと、美しい剣を持った聖者セイロスがタルティーンで剣を交え戦ったという。

このとき、二人はまるでそのとき繰り広げられただろうように剣を交えた。

しかし、あの時と結果は違う。天帝の剣の持ち主が勝利したのだ。

 

 

 

 

凍らせた心で、夢のような幻想をする。

 

5年後の今日も、かつてと同じようにとはいかなくとも、あの日々の中、同じ学び舎で過ごした頃のように話し合う。

 

自分も、彼女も、そこでは子供のように笑って、

 

「やれやれ、我が主には困ったものです」

 

と、ヒューベルトに小言を言われる。

 

周りにはあの時と同じように、かつての仲間がいて、酒と豪華な食事で囲む同窓会を――。

 

「勝者の務めを……討ちなさい、師(せんせい)!」

 

目を開く。

 

そこには重傷を負い、息を荒らげ、立ち上がれなくなっている彼女の姿があった。

 

「私を討たねば……戦いは……終わらないの……」

 

――どこかで思っていたのかもしれない。その言葉を受け、一瞬思考が凍った。

 

まだ助けられる。どうにかして共に歩む道はあるはずだと。

 

しかし、その望みは絶たれた。

 

「だから、せめて、貴方の手で……!」

 

剣を握る手に力を籠める。

 

これは……罰だ。

 

正しく生徒を導けなかった、自分への。

 

この手を汚し、彼女を殺す。あのクラスの象徴ともいえる彼女を。

 

逃げるつもりはない。

 

これは、あの日、父と共に大修道院に来て重すぎる責任を背負い、その責任を果たせなかった、愚か者がするべき責務だ。

 

剣を振り上げる。

 

最後に、彼女は何かを言った。

 

しかし、なんと言ったかは聞こえなかった。

 

両手でもった剣を振り下ろす。

 

 

 

 

 

「おぬしはようやった」

 

記憶を辿るのをやめ、目の前の光景は見知った執務室へと戻ってきた。

 

「わしは、おぬしを誇りに思うておる。いつもは抜けているくせに、大事なところが真面目なおぬしだから、わしは、あの時も安心してそなたに力を託したのじゃ。それが、正しいと分かって、わしは嬉しかった」

 

そう言ってもらえるのは嬉しいが、今となっては過去の思い出だ。

 

いつまで後ろを向いてはいられない。

 

もうすぐ銀色に見える雪が降る季節は終わり、暖かな一年が始まる。

 

ようやく訪れたフォドラの平和を、この手に背負うと決めた。

 

今度は間違えない。

 

いま自分の果たすべき責任をしっかりと果たし、死んでいった者たちが地獄の果てに目指した平和を築きあげる。

 

「お、おぬし、どうしたのじゃ。もしかして、ひさしぶりに訓練にでもいくのか?」

 

頷いて肯定の返事をする。

 

「そうかそうか。わしにおぬしの剣を持つ姿を久しぶりに見せてくれ」

 

嬉しそうに話しかけるソティス。

 

彼女と共に、そして各地で活躍を広げている元生徒たちと共に、今度こそ、自分は多くの人々の心の拠り所となる存在となろう。

 

エーデルガルト、彼女のいる地獄に行くまで。

 

勝者の義務は終わらない。




教会ルートをやった感想。

エルをこの手で殺した、というところが心にグサッときましたね。今回の話は、アンヴァルで、先生が何を思っていたかを想像しながら書いてみました。

ファイアーエムブレム風花雪月最初の1週目はとりあえず何もかもが初見プレイでやりました。最初に教会ルートに行ったのは、とりあえず赤からという流れで始め、エルちゃんに味方するのは、後のお楽しみに問っておこうと思ったからです。

しかし、今回容赦ねえ。
敵に回したら、悉くを殺さないといけない仕様になっている。
歴代のエムブレムの多くでは、名前ありのいい奴は大体説得できたりとか、いい感じの死に方とかしてたのに、アリルでのアッシュやミルディン大橋でローレンツをあっけなく殺したときに、このゲームの厳しさを思い知りました。

「敵将撃破かぁ……全員?」
「説得、できないの……?」

やはり、ヒューくんやエルちゃんも折れず、この手でザクっとする展開に。
挙句の果てにレア様のザクっと。
覚醒やifなどの敵であっても分かり合える感はなかったですね。それがむしろ戦争を描くこのゲームのおもしろさにつながってたと思います。

ていうか、ノーマルで1週66時間とか、そんなに時間かけたの暁のハードとか以来だよ。これでも猛スピードでやったので、どんだけボリュームあるんでしょう、今回。

そんな私も今は、青→黄が終わって4週目です。
グロンダーズで地獄を見せられてからの、赤学級の生徒をザクっと。
心に来ますね。








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