「じゃあな」
「おう」
允と別れた
「はぁ、今日も大変だったわ……」
「へ?し、新太郎?」
「あ?」
俺が何気なく言った言葉に、聴き慣れた声が困惑したように返したから、思わず下を向いていた顔を上げる。
そこには、風呂上りなのかバスタオル一枚でこちらを見ている明らかに女性のシャルルの姿だった。
「き、きゃあぁぁぁあ!!!!!」
「まじかよ」
今日はもしかしたら、厄日かもしれない。
「ご、ごめん。いきなり、叫んじゃって……」
「いや、いいよ。見てしまった俺も悪い訳だから」
「本当にごめん……」
取り敢えず、お互いに落ち着いた訳だが、正直とても気まずい。
もともと、シャルルは男として編入して来たから、色んな事情があるのは分かっていたけど、それを間近で見てしまったのでは、受ける衝撃が違う。
「き、聞かないの?」
「何がだ?」
「い、いや、何で僕がこんな事をしたのか………」
今は、お互いに顔を合わせづらいが、お互いのベッドに腰掛けながら何もするでもなく向かい合ったままで、特に話しはしなかった。
そんな中に、耐えかねたのかシャルルが、そんな事を聞いて来た。
正直、とても気になる。けど、それを聞いて俺1人でどうにか出来る物なのかとそこで、躊躇してしまう。
「そ、それは、まぁ、気になるけど」
「まぁ、そうだよね………」
多分、シャルルはこのままいけば事の顛末を教えてくれるだろう。けど、それは、彼女にとっては辛い事だろう。
誰が好き好んで男装して、潜入するなんて危ない橋を渡る筈がない。
なら、俺はどうするべきだ?俺が出来る最善を考える。
そして、出た答えがこれだ。
「シャルルは、どうしたい」
「え?」
「お前が、どんな経緯でここに来たのかは、俺には全く分からない。けど、望んで来たとは思えない。だから、俺に聞かしてくれ。お前は、どうしたい?」
俺に出来る精一杯は、語る理由を作ること。
彼女が、自分から語るのではなく俺が、きっかけとしてなる事。こんなちっちゃな事しか今の俺には、考えつかなかった。
俺の言葉を聞いたシャルルは、何かの糸が切れたのかポロポロと泣き出した。
それに、慌ててどうしようかと思った俺は、思わずシャルルを抱き寄せる。
「落ち着け。今は泣いて良い。泣いて良いんだ」
「あ、あ、あうあぁぁあ!!!!!!」
泣き崩れるシャルルが、落ち着けるように背中をさすりながら俺は、もうどうにでもなれと諦めるのだった。
「僕は、浮気相手の子供なんだ」
泣き止んだシャルルから告げられたのは、その言葉だった。
もう、どんな事があっても驚かないと思っていた所にそんな事を言われて、思わず固まってしまう。
「僕のお父さんは、デュノア社の社長なんだ」
「……それを知ってか?」
「ううん。僕のお母さんとお父さんは、もともと恋人同士だったんだけど、今の本妻と結婚する事になったんだよ」
「政略結婚か」
「うん。そういう事」
だとするならば、何故と思ったが、多分シャルルの母親に何かがあったのだろう。じゃなければ、大手の社長の妾の子であるシャルルが表舞台に出てくる筈がない。
「お母さんと僕は、フランスでも田舎の方に住んでたんだけど、困った事は無かったんだ。周りの人たちは優しかったし」
「けど、数年前にお母さんが亡くなったんだ」
母親が亡くなった。そこで、合点がいった。
シャルルの母親と父親は、もともとは恋人で今のデュノア夫人は政略結婚の末に出来た仲。
だとすれば、社長はシャルルの事は大切に考えているだろう。けど、そうなれば、出てくるのは本妻だ。
「新太郎も分かってるだろうけど、僕はお父さんのところに呼ばれたんだけど、そこで本妻の人に「この泥棒猫の娘が!」って言われて、平手打ちされたんだ」
そう語るシャルルは、とても自傷的で見ていられなかった。
辛いならば、辛いと言えば良いと言いそうになるが、彼女はそれが出来る環境じゃ無かったのだろう。
同情しようと思えば出来るような環境で、従うしかない日常。俺ならば、いや、
「それでね。新太郎は、言ったよね?僕はどうしたいのかって?」
「……ああ、言ったな」
「僕は、まだ、ここに居たいな……。折角友達って言ってくれる人たちにも会ったし、ここ数年で初めて心から笑えた気がしたんだ。だから……」
消え入りそうな声でそう語る俺は、自分の不甲斐なさを感じながらも、こんな時に一番頼れるアイツに電話をかける。
『なんだ?新太郎』
「……鋼刃か?頼みたい事があるんだけど」
鋼刃は、何考えてるか分からないことは多いけど、それ以上に俺たちよりも世界を知っている。
だから、俺には出来ないシャルルが、枷から解かれる方法を知ってるかもしれないし、出来るかもしれない。
『言ってみろよ。取り敢えず、聞いてやる』
「シャルルを………」
そこで、言いかけて俺はシャルルを再び見やる。
シャルルは、俺が何をしているのか分かってないのか、困惑した表情を向けている。
「シャルルを助けるには、どうしたら良い。俺は何をすれば良い」
俺の言葉に、鋼刃が電話越しに笑ったのが聞こえた。それを、黙って待っていると鋼刃が、自信に満ちた声で言ってきた。
『俺に乗せられろ。それが、条件だ』
「上等だ。やり遂げてやる」
そこで、電話を切って、三度シャルルに向けて、気になっていた事を聞く。
「シャルルって、本当の名前か?」
「………ううん。僕、私の名前は、シャルロット・デュノア。お母さんがつけてくれた。私の名前」
「そうか。その名前、絶対に取り戻してみせるからな。シャル」
「っ!……うん、うん!!」
そう涙目ながらに笑う彼女は、さっきまでの殺伐した雰囲気では無く、普通の女の子だった。