QS-00 作:丁寧な乱暴者
暗い道にバイクの音が響く。
「よぉこんくらい飛ばしちまっていいのかぁ!?」
「大丈夫。事故っても再生できるし」
陽気な声の男の運転するバイクは風を切り裂き、法定速度を何キロもオーバーして進む。
「おぉ見えてきたなぁ!」
「瓜江くん単独行動はよくない」
バイクの後ろに乗るのは灰色の髪の青年。彼は丸眼鏡を指で上げて、右手に持ったアタッシュケースを開いた。たちまち、アタッシュケースから不可解な物体が出てきて、それは歪で美しい大きな弓となった。そして灰色の彼は弓の弦を慣れた手つきで引く。弓は弦を引くうちに煌々と妖しく、紫に光る螺旋の矢を形成してやがてそれは仕留めるべく標的の元へと音もなく、銃弾より疾く空中を駆け抜けた。
バイクは急ブレーキで止まる。彼はバイクから降りると、自分が射抜いた標的に目を向けた。矢は標的の左肩を貫通して左腕を跳ね飛ばしたあと地面をも貫いたらしく、輝きを失って地面に刺さっていた。
「うーりーえーくーん」
バイクを運転していた彼は標的の横にいる青年、瓜江に絡む。
「芦名一等、シラズ三等、貴方方の攻撃が掠ったんですが」
「射線に出てきた君が悪い」
そう話しているとうずくまっていた標的が急に声を上げ、触手のような物体、赫子を蠢かせてシラズを刺した。
「ごぉあああああ!」
呆気なく死んだ。瓜江と芦名と、シラズの亡骸を軽蔑するように見下す。
「次はお前だ」
そして何事も無かったかのように悲しむ様子もなく瓜江は素手で標的へと立ち向かう。標的の左腕は無いが、その目は赤黒い色に染まり戦う意志に満ちている。
「素手で何が出来る!!」
飛びかかってくる瓜江を前に標的は赫子をうねらす。そして切り掛かろうとしが瓜江はそれを素手で掴んだ。驚愕した顔で瓜江を見る標的。彼の視界には片目を自分と同じように赤黒く染めて、肩から大きな剣のような赫子を生やして大きく振りかぶった瓜江、そして自分の赫子に刺されて宙ぶらりんになった状態で中指を立てる不知。
「喰種!??」
同種なのか。それとも
「オレの手柄だなぁ!」
「は?ふざけるな。こいつは俺があぶりだした喰種だ。」
そう瓜江と不知が言い合ってるのを尻目にしていると突如、迫る気配を感じて当たらないように身を引いた。
標的の最後の一撃で放たれる赫子、そしてそれを押さえつけるようにして真上から垂直に剣を刺すもう一人の捜査官。白と黒の不思議な髪色が揺れる。
「油断しない」
安心なのか焦りなのか変な汗を拭いながら彼は立ち上がる。標的は死んでこそいないもののもう立つことも出来ないようだ。
「トドメやります」
「駄目だ。必要以上に痛めつけないって喰種対策法でも決められてるでしょ。聞き出せるかもしれないんだし。それよりも!単独行動はダメだって言ったでしょう!」
瓜江の提案を即座に拒否した拝世に呆れた様子で瓜江と不知は歩き出す。雅はその場に残って拝世の方に振り向いた。
「ミヤビ君も!単独行動は良くないよ!」
「ずっと不知くんのバイクに乗ってた」
「そうだったの?」
拝世の近くにいる捜査官、自分達と同じクインクスの六月に頷く。
「はやく帰ろ。お腹空いた」
「そうだね」
雅は拝世達にそういうと彼等も同感のようで歩き出した。