もうずっと前の話、彼女は苦しくも幸せな家庭に住んでいて、両親から愛を受け育っていた。
そんな彼女たちは、この集落の中で奴隷のような扱いを受け続けていた。毎日食糧を集め、家々の手入れをしつつ、必要最低限の食事と寝床の中に住んでいた。
それでも彼女は親から大切にされてきた。
そんな中、彼女一家に驚きの知らせが舞い込んできた。
それは『最近森に凶悪な怪物が現れている。それを処理出来たら、今の処遇をもっと良くしてやる』とのことだった。
しかし、ろくな武装もなく能力も持たない彼女の両親にとっては、自殺しに行くようなものだった。
そして彼女の両親は彼女の唯一の心の拠り所であることを幼いながら理解していたから、勿論止めた。しかし、『絶対に霜冬を、幸せにしてみせる』と言って出ていった。
そうして彼女の両親は亡き者として帰ってきた。
周りの村民は皆口を揃えて『役立たず、無能』といった罵詈雑言を亡骸に向け浴びせた。
彼女は我慢出来なくなって、村人に「もうやめて」と伝えた。しかし、村人は「事実を言って何が悪い」といった意見から「そもそもお前の親はもともと役立たずだった」という罵倒に変わった。次第に彼女の心はうちひしがれていった。
その夜、彼女は茫然自失して村を歩いた。そして、村長家の前を通りがかったとき、中から何かが聞こえた。
『いやぁ。あの汚い奴隷を処分できてよかったよ』
『そうですな。もうあの二人も歳だ、穀潰しは邪魔だしな』
『そうそう。さて、あの女、力があるようには見えないな』
『何、需要はあるだろう。いずれは…村の男どもに使われてもらうさ』
『恐ろしいこと言うね~』
『それくらいしか使い道がないんだ、しょうがないだろう』
その瞬間、彼女の中の何かが切れた。
気づくと、彼女の住んでいた村は、まるで時間が止まったようだった。
話し声は聞こえず、火が揺れることも川が流れることもない。
「あぁ…」
彼女はまず村長の家に入った。こんな村だが、彼女だけは自由に動けるようである。
「…親の仇ね」
そして彼女は村長の腹を軽くこづいた。すると、固く固定されたはずの村長の小突かれた部位が砕け散った。心なしか村長の表情が青ざめたような気がした。
そして、彼女は初めてこの力をを理解した。
「次はあなた」
ついで彼女は村長の側近の顔をぶち抜いた。
何度も。何度も。怒りをぶつけるように。ただただ冷酷に、跡形もなくなるまで全ての部位を殴り続けた。
彼女はその後も怒りに任せたように村の住人を粉砕し続けた。そして残った人が彼女の家族だけになった。
彼女は自分の親の亡骸を見た。そして泣いた。
力が暴走したのか歪な結晶に覆われたように固まった人々のなか、彼女の両親だけは、美しいガラス細工のような結晶の中で、静かな表情を浮かべていた。
そして彼女は自分が敵討ちをしても、両親は喜ばないだろうと思った。
それでも、幼い彼女の心は、永遠の冬に閉じ込められたかのように凍りついた。
そして、この村も。永遠に溶けることはないのだ。
その後、幾分が時が流れ…彼女はいつも、決まった日に、決まった場所に来て
「……ここに来て思うことは、いつもいっしょ。
お父さん、お母さん…向こうで元気、してますか?」
彼女はそう呟くのだ。寒空の下、永久に変わることはない故郷の景色を見つめ、物思いにふけるのだ。
かけがえのない、一人の姉と共に。