恋をしたありふれた職業は世界最強 作:見た目は子供、素顔は厨二
今回は前回に比べ、超ハードです。
戦闘やグロシーンはありませんが、それでもハードです。
香織との甘々事情を期待してこのページを開いた方は予め引き返すことを推奨します。
…よろしいか? よろしいですね。
では、どうぞ。
「ーーで、貴様らはあんな状態になっていたというわけか」
「は、はい」
「南雲くん、とりあえず床に正座するのはやめなさい。貴方まだ万全じゃないんだから。反省してるのもよく分かるから」
雫とメルドに怒鳴られて数分後。今も床に正座するハジメは必至の弁論の末、何とか『起きてすぐに人を押し倒す盛った猿』疑惑を免れていた。なお正座はただの誠意である。別にメルド達に強制されたわけではない。
ハジメの弁解は凄まじかった。それこそハジメの背後に何か変なものが映るぐらいの覇気を放っているほどに。
雫やメルドは「日頃からあんな覇気出せば、クラスメイト達に舐められないのに…」と少し呆れるが、ハジメが事なかれ主義なのは既に知っている。周りを下手に刺激し、イザコザを生むのはハジメとしては避けたいのだろう。あとは純粋に出し慣れていないというのもあるだろうが。
「…まあ、大方香織が暴走して、突撃してあんな事になってたんでしょう、南雲くん?」
「雫ちゃん!? そんな言い方は酷くないかな!? かな!?」
「…なら香織は違うって言うの?」
「貴様はいつもそのような調子だが…」
「それは…その…。違わなくはない…かな?」
異議あり! ばりの勢いで否定する香織だったが、保護者二名のジト目にすぐにその腰を折られた。香織はその視線を巧みに掻い潜り、逸らした。図星ではあるらしい。明らかに語尾からも序盤の勢いが消え失せていた。
実際、香織は突撃していた。更に突撃してきた上で羽交い締めして来ていた。何なら押し倒していた。どう見ても雫の話通り、否それ以上である。
段々涙目になりつつある香織。それがどうにも可哀想でハジメは何とか話題転換を図る。
「そ、そういえば僕が気絶してからどうなりましたか? みんな無事ですよね?」
「…ああ。無事と言えば無事、だな」
「………」
「「?」」
しかしそれはどういうわけか。メルドと雫はいきなり目をハジメから逸らした。顔を俯け、影を落とした。ハジメは二人の様子がガラッと変わった事に違和感を感じた。視線を向けると香織も不思議そうに首を傾げているため、何のことか知っているわけではなさそうだ。
数秒経っただろうか。こめかみを揉み、やがて意を決したようにメルドがハジメを真っ直ぐに見た。その目には何やら悔しさや怒りが混じっているようにも見えた。
「坊主、よく聞け。これから俺はお前にある事について言わねばならん。お前が例え俺に八つ当たりをしたとしても、それは正統的なものだ。当然として受け入れよう。俺の力が及ばなかったのだからな」
「…何の話ですか?」
「香織もよ。きっとこの部屋でずっと南雲くんの様子を見てたから知らないだろうけど…。もうそれが
「…え? それって…」
「…単刀直入に言うぞ、坊主」
もう一度二人は眉を寄せて、瞑目する。目を開けたかと思えば、今度は口を開け閉めを繰り返す。どうやら言い出せずにいるらしい。だが確かにその言葉は安易に言うにはあまりにも、重かった。
他のクラスメイトならば二人に、特にハジメに対しこの事実を言うことをこれほど憚ることは無かっただろう。たとえ浅かれど、両者に心を砕いているからこそ、喉を開けられずにいる。
だがもしやするとそのまま閉じてくれていたならば、ハジメは少しの間幸せであれたのかもしれない。
「…此度の騒動の責任のおおよそが…坊主、貴様に押し付けられた」
ハジメが救った者達の変わらぬ悪意から、少しだけの期間目を背けられたのかもしれないのだから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ハジメはベッドに寝そべっていた。ただし眠ることはない。ハジメはただ天井の一点を見続けていた。
思い出すのはメルドから突き付けられた現実。
『なっ!?』
当然ながらハジメは訳が分からなかった。今回の六十五階層での騒動のことをメルドは言っているのだろう。しかしその場ではハジメはあくまでも被害者であり、加害者や黒幕にはなり得ない。
それどころかハジメは“神の使徒”全員の生存の大きな鍵となった。冷静になりきれていなかった勇者、天之河光輝を説得し、たった一人で最強の魔物ベヒモスを食い止めている。この間、ハジメは責められるような事をした覚えは一切ない。
メルドはハジメの驚愕を当然のものとして頷きながら、話を続けた。
『…実際には坊主、お前が檜山にグランツ鉱石を取らせるよう唆し、罠にハメた、という事になっている。これは檜山本人とそのパーティー、更には中村恵里が加わっての証言だ。そして先日それを“聖教教会”が正式に発表した』
『恵里達は全員、「南雲に脅されてやった」って統一して主張しているらしいわ』
ハジメの困惑はここで最大級となる。
(檜山くん達が? 僕に脅されて? しかも聖教教会までが加わって? 僕に、押し付けようとしてる?)
そうしてハジメの内で湧き上がるのは、当然ながら「ふざけるな」の一言だ。
そもそもの話、ハジメは檜山達に脅かされていた側であり、それが反転するなどまずあり得ない。迷宮に入る前にも魔法などによりこっ酷くやられ、香織達が途中で参入しなければ迷宮に行けていたかすら怪しい
そんな関係性はクラスも承知のこと。彼らは嫉妬などにより見ぬふりこそしているものの、少なくともハジメが檜山達に危害を加えているなどとは思いもしないだろう。
故にハジメからすれば酷い冗談だ。唇の端が釣り上がるのも、あまりものおかしさからだろう。そんな話に聖教教会が加担したなど、それこそ失笑ものだ。
聖教教会は人族共通の唯一神、エヒトを信仰する絶大な権威を握る教会だ。【神山】を本拠地としており、その麓にある【ハイリヒ王国】において、何もかもを決められるほどである。唯一、【ヘルシャー帝国】という例外も存在するものの、この時点で人族に対しての影響力は語るまでもないだろう。
ハジメ達を地球から転移させた原因でもあり、ハジメは聖教教会を警戒こそしていたが、まさかこの様な形で害されるなどとは思ってはいなかった。
『恐らく“聖教教会”が加担した理由は、“神の使徒”による信仰を保つためだろう。坊主は“神の使徒”の中で唯一、名と顔を世間に知られていない。恐らくは“神の使徒”から世間一般レベルの非戦闘員が出てきた事を隠したかったのだろう。そして今回、“神の使徒”として名を国に知らされている檜山の代わりに、坊主が犠牲にされたということだ。“神の使徒”は悪意により六十五階層へと送られる罠に会ったが、それを切り抜け帰ってきた、という風にな』
ーービキッ
何かにヒビが入る音が鳴る。
世間からしたならば強力な威光を放つ聖教教会の決定を怪しがる者などそういないだろう。しかも聞き方にもよるが“神の使徒”の英雄譚にも聞こえる。“神の使徒”にも当然ながら信仰はある程度向けられており、それ故の盲目に陥るのは必須だ。
しかしここで怒る者がいた。ハジメの看病により、今初めてその話を聞いた香織だ。
『違うよ! 何も正しくないよ!? 宝石に触れちゃった檜山くんとハジメくんは迷宮では話してなかったよ! それにハジメくんが“悪”だなんてっ! 私たちを守ってくれたのはハジメくんだよ! なのに、なんで!?』
日頃の温和な性格を何処かへと放りやり、ハジメの無実を叫ぶ。見開いた瞳からポロポロと涙が零れ落ち、拳をぐぅっとステイタスの許す限り握りしめていた。
それらは全て事実だ。少なくともこの場にいる者ならば周知の事柄。
『そうよ。南雲くんがそんな事をするとは思っていないわ。ただ…もう覆せない様な状態になってしまったのよ。香織』
『…どういう事、雫ちゃん』
雫は香織から顔を逸らし、そのまま俯いた。雫の唇を伝うのは食い縛り、傷から流れる赤い血。それほどまでに雫は悔しがっていた。
一方でハジメはその先を聞きたくなかった。何となく想像がついていたからだ。もしそれが当たっていたというならば、ハジメはどうすればいいのか分からなくなる。
だが残酷にも、メルドは口を開いた。
『“聖教教会”が告げたその見解を、殆どの“神の使徒”が認めた。それが決定打となった。王国の、少なくとも城内では坊主こそが悪と、そうされてしまっているっ』
ーービシビシッ
音は内部から走る。その音は先ほどよりも大きく、そのヒビは先ほどよりもずっと深く。
『あいつらが何故それを支持したのかは分からん。だが…それでももはや坊主が今回の黒幕ということが事実とされてしまった…。“聖教教会”に訂正を何度も申し出たが、受け入れて貰えさえしなかった』
ーービキッ、ピキピキィッ!!
壊れていく。砕けていく。心が、矜持が、希望が。粉々となり、淡く堕ちていく。
何もハジメは自分の力だけでみんなを救ったなどと慢心はしていたわけではない。ベヒモスから逃れる際に魔法により足止めをしてくれたのは他でもないクラスメイトである。それにハジメが気絶してからもクラスメイト達は戦ってくれていた。故にハジメはその様に傲ってなどいない。
ただ、少しは見直して貰えると思っていた。かつての様に『生意気な奴』としてではなく、一人の仲間として。
今までの悪意ばかりだった空気が、少しでも変わってくれるかもと、そんな希望を抱いていた。
それがどうだ。何も変わってはいない。恐らくは未だに嫉妬やら偏見により、ハジメは見下され、今回の様な事態となったのだろう。
滑稽だった。
己の必死の行動が、無価値とされたようで。あまりにもバカバカしかった。
だが、せめて。せめてとハジメは口を開けた。
『僕が、した事はみんなにはどう思われてるんですか?』
少しでも、期待していたかった。
助けたことはハジメにとって意味のあることだったと。
しかしメルドはその首を、横に振った。
『分からん。奴らは…一度もその話題を口にしていない』
ーーパキッバキッ、パキンッ
南雲ハジメの中で、何かが果てるようなそんな音がした。
その後の事は詳しくは覚えてはいない。
ただ命や路頭に迷う心配はないようだ。あくまでもそれは最低限の優しさというわけではなく、“聖教教会”が下手にハジメをこれ以上理不尽な目に晒し、香織や雫を始めとする一部のクラスメイトからの不信感は抱かれたくはないとしているだけだそうだ。
そのため最低限の暮らしだけは保証してくれるらしい。あくまでも今回の檜山の罪を被る事がハジメの役割なのだろう。
『坊主、すまなかった。誰一人もの命を落とさずに済んだのは貴様のお陰だというのに…』
メルドは憤っていた。その矛先はメルド自身。教会を前に何も出来ず、ハジメの名誉を守れなかったこと。ただそれを悔いた。
『…南雲くん。私は、何も出来なかったわ。クラスのみんなが、怖かった。簡単に恩人を貶せるみんなを恐れてしまった。貴方を庇うべきだったのに、何も言えなかった。…ごめんなさい』
雫はただ申し訳なさそうに俯いていた。他人事だというのに、まるで自分のことのように背負み、恐れ、何も言えなかったことを恥じていた。
『ハジメくん…』
香織は、何も言わずにこの部屋を去った。ただハジメの事を心配し、哀しんでいてくれたのはよく分かった。香織の頰を伝う涙が、ハの字に歪められた眉が、堪えるように閉じられた口が、明白にハジメにその事実を伝えた。
そしてハジメは、そんな顔をさせてしまった己に、何よりも悔しさを感じた。
だがそれでも、己がどうすれば良かったのか。どうすれば良いのか。それが一向に分からない。まるで蜃気楼に囲まれたような感覚に至る。
気だるい右腕を天井に上げ、僅かに掌を開けた。
(僕は…どうすれば良いんだろう?)
指の間を冷たい風が通り過ぎた。
はい、そんなわけで個人的には相当ハードな回でした。
どんな場所にいてもハジメは理不尽に晒されるわけです。
で、何故私がこんな事をしたか、でしょうか?
それは原作同様、ハジメに試練を与えたかったからです。
あちらでは完全な孤独の戦いでした。
誰もいない、己のみしか頼れない。そんな戦いです。
しかしこちらでは孤立した状況からの戦いです。
見下され、卑下され、罵られ、それでもハジメが前を向き戦う、そんなお話です。
当然ながらハジメの味方はこの三人だけではないです。
それだけだとハードが過ぎます。
よって次回は何人かのクラスメイト視線です。
※名誉のため言っておきますが、園部、坂上は聖教教会の意見に反対。永山班(遠藤など)、鈴は悪意はないけど混乱。他は悪意ありと言ったところです。
あとアンケートで詳しい説明を出来ていなかったので、候補を絞りつつ再投票を行います。
前回アンケートしていただいた皆様、お手数をお掛け致しますが「ま、このマイペースの権化のような作者だからいいか」と許していただけると幸いです。
で、候補ですがトップスリーに絞ります。
ある程度の関係性も書いていくので読んでいただいた上で投票お願いします。
・香織オンリー…超王道。みんなに助けられた上で、英雄になっていく。ヒロインは香織だけで、ヤンデレ化しない。優花さんは信頼できる仲間(原作みたいな気軽な関係)予定。
・香織&優花…ダブルヒロイン方式。香織だけに好意を向けていたが、なんだかんだで自分をずっと支えてくれる優花にも惚れてく感じ。極端だけど例はリゼロのエミリアとレム。なおこれでもヤンデレ化はある程度ない。
・ハーレム(原作キャラのみ(ただし一部魔改造))…あくまでも原作的に言えば香織がユエポジで優花がシアポジ。なおハーレムといっても最終的にそうなるだけで、ハジメはダンまち並みに香織一直線。なお途中でヤンデレの波動がでる可能性結構あり。
こんな感じです。
これらを踏まえた上で投票お願いします。
再・ヒロイン投票
-
香織オンリー
-
香織&優花
-
原作通りのキャラハーレム