恋をしたありふれた職業は世界最強   作:見た目は子供、素顔は厨二

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はいっ!
すっっっっっっっごく! 遅くなりました!
まずは申し訳ありません! 不肖私、元気にも関わらず投稿出来ておりませんでした!
ここで弁解させて頂きたいのはただサボっていた訳ではない、ということです。

センター英語、50点(二学期中期)

この意味が分かるな?(死ぬほど頑張った…)
なんとか英語は五割に落ち着きました…。
…私は死ぬほど理系なのでいいんですよ!(逆ギレ)
何とか目的の大学には行けました。
あとアルバイトの募集とか友達と遊んだりとか新学期への準備とか…。
そこらもろもろで遅くなりました。

あ、多分クロスオーバーの方はもう書きません!
…ダブル主人公、キツいんですよ。
やりたい人がいるなら頑張って! 応援するよ!
ま、私気分人間なのでやるかもしれんけど!

さて、そんなわけで超久しぶりの投稿は間話です。
忘れてしまった方は三話だけですので、読み返してくだせぇ…。

何卒、この二次創作をお願い申し上げます!
遅筆だけど!


閑話、想いは混じり、乱れ、分かつ

 それは南雲ハジメが起きる三日前の出来事。聖教教会はある神言をハイリヒ王国全体に発した。

 

『先日、エヒト様がこの地に召喚した“神の使徒”。我々は勇者様方を邪なる魔王を退ける存在へとすべく、かの【オルクス大迷宮】へと導きました。最初からロックマウントを楽に退けると、順調ではありましたが…彼らは迷宮で悪意ある罠にかかり、かの伝説の魔物、ベヒモスと遭遇。危うく帰らぬ人と成りかけたのです』

 

 アーティファクトの拡声器により王都全体に響く、“教皇”イシュタルの声。信仰深い王都の市民等はその知らせに驚愕を禁じ得なかった。てっきり勇者一行は初の迷宮入りを順調に済ませてきたとばかり思っていたためだ。

 

 作業を行なっていた者たちもその手を、足を、口も止め、空に響かんとする教皇の声に耳を傾けた。

 

 王城のバルコニーにて、イシュタルは教皇の証たる神杖を天へと仰ぎ、悲痛さを込めた声を絞り出した。

 

『我々は最初こそは迷宮に仕組まれた罠かと思っておりました。…しかし、そうでは無かったのです。これは全て! “神の使徒”に紛れていた邪なる“錬成師”が原因だったのです!』

 

 静まり返っていた民衆。されど次の途端には爆発した。ある者はその“錬成師”を虐げ、ある者はそんな過酷を渡ったにも関わらず誰一人欠ける事のなかった“神の使徒”を褒め称えた。

 

 見事に分かれる“錬成師”(悪役)“神の使徒”(英雄)の線引き。

 

 民衆は誰一人としてそれを疑うことなく真実とした。神の言葉の代弁者たる“教皇”イシュタルの栄光はそれほどまでに凄まじいものであったのだ。

 

『なおその“錬成師”は既に捕縛済み。今はまだ眠っておりますが、起きたとあれば即刻その裏にいるであろう“人紛い”共を暴き出して見せましょう! …嗚呼、我らがエヒト様に栄光あれ!』

 

 熱に浮かれたかのように上ずったイシュタルの声。その興奮が伝播するように背後の神殿騎士が、城下街の民衆が、更には“神の使徒”の殆どが喝采を叫び、エヒトの名を謳う。

 

『『『『『エヒト様、万歳! エヒト様、万歳! エヒト様、万歳ィイイイ!!!』』』』』

 

 けれど知らない。彼らは誰一人として。

 

 イシュタルがその時、下を向いていた顔が悍ましくも嗤ったことを。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーメルドside

 

「教皇様、今の御話の真意を聞かせて頂けませんでしょうか?」

「…これはこれは。ハイリヒ王国が懐刀、メルド団長と在ろうお方が私の様な老いぼれに何のご様子ですかな?」

「とぼけないでください、イシュタルさん! 私の生徒をあんな風に言うなんて許しませんよ!」

 

 それはイシュタルがバルコニーを階段から降る最中、メルドは射抜かんとするほどの眼光でイシュタルを見上げていた。その側には“豊穣の女神”として名高い“作農士”、畑山愛子。彼女もまた気迫こそは見た目のせいで皆無であるものの、激怒しているというのは十二分に分かった。

 

 しかしイシュタルはそれに対し、飄々とした様子。傍の神殿騎士達の強行に対する無礼による怒りを手のひらを向けて収めると、心外だとばかりに眉を寄せた。

 

「何を仰っているのかは分かりませぬが…。そうですね、多少着色こそはありますが先程話した内容は“神の使徒”方の一部から聞いた証言なのですよ?」

「少なくとも私が見ていた限りは南雲ハジメが諸悪の権化だとは到底思えませんでしたが?」

「メルド団長。流石の貴方と言えども何時も全ての“神の使徒”を一寸の狂いもなく確認は出来ませんでしょう? 南雲ハジメはその僅かな隙を突き、“神の使徒”を罠にかけた。そういう事なのでしょう」

「ですけど南雲くんはいつも事を荒立てない様にする良い子です! そんな子がとてもそんな悪さをするとは思えません!」

「“豊穣の女神”様。先程メルド団長に言った通りです。南雲ハジメは本性を上手く貴方から隠し立てていたのです。貴方の目には彼が善良に映っていた、ただそれだけのことです」

「それはあくまでも推測にしか過ぎんでしょう!?」

「実際に証言してくださった、と先程言ったばかりですが? 檜山様や近藤様方。更には中村様も仰いました。印象でしか語らない貴方方と証言に基づく我々。事実に近いのがどちらかは…明白でしょう?」

「そんな…」

 

 メルドと愛子が続々と質問を行うが、どれもこれも答えとは言えない推測や曖昧にボカしたものばかり。しかもそれらは全て『生徒の』発言を元としており、愛子は質問を続ける度に顔を青くしていった。やがて口が止まったのも自明の理であった。

 

 一方で止まらないのはメルドだ。メルドには上に立つものとしての人を見る才がある。そしてメルドにはどうしてもハジメがそんな悪人とは見えない。同時に素質も感じている。だからこそそのような若者を潰すような真似は看過でき得なかった。

 

 しかしその前にイシュタルは告げた。

 

「もちろん南雲ハジメは仮にも“神の使徒”。死者が出なかった今回ばかりは寛容に見て処罰は致しません。ただ他の“神の使徒”の方々と共に迷宮へ行くのは暫く規制致しましょう。此度の様な事態がまた起きては困り物ですからな」

 

 言外にこれは教会にとっての譲歩。何も事情を知らぬ民衆がこれを聞けば寛容の言葉にも聞こえる。しかしイシュタルの内心はそうでは無いのだろう。

 

 今回の教会の目的はメルドから見れば檜山の名誉を守る為、檜山のミスの責任全てをハジメへと移すことにある。“神の使徒”と謳われる者達が愚かにも迷宮の罠にあっさりと引っかかったとなれば民衆からの信仰が崩れかねないだろう。“神の使徒”はすなわち神の代理人。信仰の対象であるからこそ、世間でのイメージは完璧であらねばならない。故に教会の威厳を使ってまでハジメへと汚名を移したのだ。

 

 されどここでハジメを死刑などにしていいものか。答えは否である。

 

 何故ならばそれは“神の使徒”に死の恐怖を刻み込むこととなるからだ。多くの者に嫌われているとはいえハジメはクラスメイトにとって身近とも言える存在。そんな人間が目の前で死んだともなれば、“神の使徒”は気づくだろう。己らも死と隣り合わせなのだと。

 

 そしてその恐怖により折れてしまったならばどうしようもない。それは教会側、すなわち人間の戦力が大きく低下してしまうのだ。少しでも魔族に対するカードが欲しい教会にはそれは大きな痛手となる。

 

 たとえ『あの手』を使っていたとしても、死の恐怖は拭えまい。それを理解した上で、ハジメの処遇は決定されている。

 

 ならば失踪と言った形でハジメを消すのはどうか。死を感じさせない形で始末するのは一見アリだ。

 

 しかしそれもまた否である。

 

 クラスメイトの誰もがハジメに否定的というわけでは無い。ハジメに救われたことに感謝する者もいれば、元々距離感の近い者もいる。そんな彼らが不意にハジメが姿を消したとなれば第一に疑うのは教会。殺した事を疑うまでは行かずとも少なくとも、ハジメが逃げ出すほどに謂れのない重圧を与えたことに対し懸念を抱くだろう。

 

 ハジメの味方側はどういうわけか重要な役割を持つ人物が多い。

 

 希少な回復魔法の使い手である香織は言わずもがな、速度だけならば人族上位の剣士である雫。更には“豊穣の女神”たる愛子やハイリヒ王国の騎士団団長のメルド。他にも数名存在するが、誰もが教会にとっては手放したく無い戦力。現状でさえも良好とは言えない目で見られているのだ。これ以上溝を深める真似は教会はしたくは無いのだろう。

 

 だからこそイシュタルのこの言葉はあくまでも彼にとって最低限内容なのだ。そもそもの目的である真犯人のすり替えは済ませてあるのだ。これ以上南雲ハジメに危害を加える理由もない。

 

 だがメルドはこれを飲むしかないのもまたイシュタルは分かっているのだろう。イシュタルは聖教教会の教皇。これ以上反発などしたものならば騎士団団長たるメルドでさえもタダでは済まない。メルドは戦いの実力こそは上位だが、それでも潰す方法は聖教協会ともなればいくつも持っている。教会はその気になれば何処までも非情になれる。

 

 せめてもと、イシュタルを睨みつける。しかしこれ以上、反論は出来なかった。悟ったのだ。言葉を紡いでも無駄なのだと。聖教教会の威厳を持って『南雲ハジメが悪』だと否が応でも決定するのだと。

 

「それではもう良いですかな? 仕事が御座いますので失礼致しましょう」

 

 そして黙った二人に用は無いとばかりにイシュタルは神殿騎士達を連れ、メルド達の横を通り過ぎた。

 

 イシュタルの足音が聞こえなくなる頃、メルドは不意にある言葉を思い出した。【オルクス大迷宮】でのベヒモスとの一戦の際にハジメに言ってやった言葉だ。

 

「…必ず助けてやる、か」

 

 たった一人、ベヒモスに立ち向かおうとする錬成師。されどその目に宿っていた勇気は誰よりも明白だった。だからこそメルドはそれに応えようとした。

 

 結果、ハジメはその天職から考えてあまりにも不相応な役割を見事に果たした。誰一人欠けることなく、全てを救い出した。

 

 しかし己はどうか。イシュタルの掌で踊らされ、本来褒め称えられるべきハジメを罵倒の的とする事を止められなかった。助けることが、出来なかったのだ。

 

「…すまん。本当に…すまんな、坊主」

 

 メルドはただその場にはいない少年に謝ることしか出来なかった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー雫side

 

「恵里、檜山くん…どういうことかしら?」

 

 一方で王城の食堂。そこには此度の騒動のそもそもの原因である檜山、彼を援護する恵里、そしてそんな二人に視線をぶつける八重樫雫。周囲には彼女等を囲むようにクラスメイトが散らばっていたが、雫は眼中にないと二人を睨みつけていた。

 

 二人の反応はそれぞれ異なっていた。檜山は顔をしかめ、苛立った風に顔を背けたのに対し、恵里は泣きそうな顔になりながらも弁解を始めていた。

 

「し、雫ちゃんが言ってるのは南雲くんのことだよね? で、でもね? 本当に見ちゃったの! 南雲くんが檜山くんを脅すところ…。グランツ鉱石を取りに行けって。悪く言いたくはなかったけど、でも檜山くんだけが責められるのも違うと思って…」

「恵里、まず貴女は私達と同じパーティーで位置的には列の前側だったでしょう? 後ろ側にいた檜山くんたちの行動をどうやって見たって言うのよ?」

「た、たまたま後ろを見てて…」

「見ただけで分かる様なものかしら? いつもは逆の立場の南雲くんと檜山くんが、今回は違うだなんて」

「で、でももしかしたらって、そう思って」

「もしかしたらだけで犯人扱いしたの? 南雲くんを? 実際にそうだったとしても、身を呈して私達を助けた南雲くんをここまで責めるのは過剰な気がするのだけど?」

「そ、そんなこと言われても…」

 

 雫は己でも分かるほどに苛立ちを見せていた。傷つけられたからだ。南雲ハジメという強い人を。

 

 雫はある程度、南雲ハジメがどういう存在かを知っている。それは香織を通してでもあり、己を通してもよく知っている。

 

 彼は事なかれ主義だ。理不尽なまでの暴力に、暴言にぎこちない笑みを浮かべながら己からは何もしようとしない。誰かが傷付くぐらいなら、殴るぐらいなら、殴られる方がいいとするほどだ。

 

 だから彼はあの時、誰よりも前に出た。きっと傷付く様を見たくなかったから。“最弱”の汚名を苦笑いで済ませていた少年は、罵った人々を守る為にその身を危機に晒した。

 

 その時、彼にきっと打算は無かった。もし恵里達の言うことが真実であるならば、己がやったという罪悪感故に雫達を守ったということになるだろう。しかしそんなありきたりな打算だけの男が光輝を黙らせられるだろうか。その覚悟をメルドに認められようか。絶対にそんな事は無いと、雫は断言できた。

 

 だからこそ南雲ハジメという男の印象は今回の戦いを通して変わると、そう信じていた。

 

 その期待が裏切られた事で雫は憤ったのだ。あのどこまでも純粋な覚悟は、彼が守ろうとした人々によって汚されたから。

 

(分かってる、こんな言及をしたところで今更世間からの南雲くんの印象は変わらない。それでも恵里達の証言が間違っていることをみんなが疑い始めれば…少しは変わるかもしれない)

 

 もはや雫は藁にもすがる思いだった。実害の受けていない雫がそこまで追い詰められるのも可笑しい話ではあるが、人一倍責任感のある彼女には然るべき事であった。

 

 檜山は口を開閉こそはするものの、声は出さない。代わりに恵里を縋るように見つめるが、その恵里もまた雫の責めるかのような質問の連続に、多少涙目になりながら硬直してしまっていた。

 

 しかしここで彼ら二人の後ろから救済の手が差し伸べられることとなる。

 

「雫、駄目だぞ。いくら南雲が犯人だと(・・・・)信じたく無いからと言って二人を責めたら」

「…光輝?」

「分かってるさ。クラスメイトからみんなを罠に嵌る様な奴が出てきたなんて信じたく無いもんな。だけどそういう現実(・・)に立ち向かわなきゃならない時があるんだ」

 

 ーー何を言っているの?

 

 恵里や檜山達の証言でもあくまでもハジメは檜山達を脅して取りに行かせただけであり、証言の中でも決してその罠に故意に掛けたわけではない。教会側はそれをオーバーに表現しているが、生徒側にはそのように説明されていたはずだ。

 

 だが光輝はまるでハジメが最初からその罠に嵌る気でいたと言うかのようだった。それが雫には訳が分からなかった。

 

 まだベヒモスと相対していなかったものがハジメの覚悟を軽視するのは分かる。それ故に教会の話を安易に信じるというのも渋々ではあるが、理解できた。実際に檜山も恵里もベヒモス戦には立ち会っておらず、背後にいたトラウムソルジャーと戦っていた。

 

 しかし光輝はハジメの覚悟を見たはずだ。むしろ雫以上にハジメの日頃には無い気迫が見て取れたはずだ。なんといっても目を合わせ、ハジメの言葉を聞いたはずなのだから。

 

 だが光輝の目は…どう見ても真っ直ぐ(・・・・)だった。何の疑いすらも無く、ハジメを『悪』としている。

 

 昔から知っていた。光輝の思い込みが凄まじいことを。しかしやがて治るだろうと少し怒る程度で済ましていたそれを。

 

 しかし助けられた相手になお『悪』と叫べるものかと思うと、雫は怒りにより感じていた熱が急に底冷えしたように感じた。僅かではあるが手が震えた。だが雫はその震えを感じられない。今まで軽く見ていたそれが途方もなく、黒く光輝を染め上げていることに気づかされる。

 

「安心しろ、南雲の奴にはきちんと反省してもらうから」

 

 さらに雫は気づいた。光輝の周囲にいる全クラスメイトが、否この場にいない数人を除き全員が雫を不思議そうに見ていることを。

 

 檜山と恵里の言葉に粗がある事は雫が暴いた。だというのにそれをクラスメイト達は何の懸念にもしていない。紛れもなくハジメが犯人として疑っていない。

 

 決定的だった。もう雫とクラスメイト達の間にはあまりにも深い溝が出来ている。

 

 かつてのクラスメイトならばここまで露骨にハジメを疑う事はなかっただろう。光輝には確かにカリスマがあった。しかしここまで皆が盲目的になるほど凄まじい物でもなかった。たかが一人の学生程度にそれほどのカリスマがあるわけが無い。

 

 故に湧き出る異物感。

 

 まるで己が知らぬ何かによって身近な者たちが染め上げられているという底知れない恐怖が雫を襲う。普段通りのクラスメイトたちの姿が視界に映っているというのに、雫には非日常を晒しているようにしか見えない。

 

 その悍しい矛盾に視界さえも信じられないような不安感。やがて膝は折れ、雫はその場に蹲った。喉を焼くような感触はいつのまにか逆流した胃酸のせいだろう。

 

「雫、大丈夫か? また南雲の奴か? …全く、あいつには本当に強く言っておかないとな」

 

 急に蹲った雫を見て、光輝はハジメに理不尽な怒りを更に強くする。それは周囲による同調の声により更に強まり、一声雫を心配する声を掛けると早速ハジメの部屋の方へと足を向けーー

 

 ーーザクッ

 

 光輝の髪を掠めたナイフが食堂の壁へと突き刺さった。

 

 この場には雫以外には光輝への同調者しかいなかった。ならばこれは誰のものか。

 

 その答えはすぐにやって来た。

 

「何をするんだ、優花」

 

 つい先ほど光輝が向かおうとしていたハジメの部屋へと繋がる出口。そこに腕を垂らしながらも、いつでも投げれると言わんばかりに投げナイフを握る少女、園部優花がいた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー優花side

 

 誰が見ても分かる。優花がナイフを投げたという事実。

 

 どういうことだと言わんばかりの光輝とその周囲のクラスメイト達の視線に対して園部は…さっくりと無視して、面白そうに吹き出した。

 

「さっきから聞いてたんだけど…悪い事はなんでも南雲のせい? 迷宮で罠に掛かったのも、その場で八重樫さんが蹲ってるのも…全部?」

「ああ、その通りだ。君だってイシュタルさんのスピーチをーー」

「子供だって、そんなわけあるかって分かるわよ? 天之河って賢いんじゃなかったの? 先入観だけで人を馬鹿にするなって道徳で習わなかったの?」

「…何が言いたいんだ?」

 

 園部はまるで小馬鹿にするように光輝と向き合っている。しかし雫にはわかった。その胸中には燃え上がるような怒りが潜んでいることに。

 

 やがてその炎は徐々に漏れ始める。今までの神経を逆撫でするような顔とは一変し、無表情となる。込められている怒気を察したのかそれは光輝を驚かせた。

 

「余計な問答はアンタには意味ないから単刀直入に言うわ。…私は、オルクス大迷宮で南雲に助けられた」

 

 それはこの場の誰も知らない、園部優花だけの記憶。園部優花だけが知る南雲ハジメという男の勇姿。

 

「うっかり転んで骸骨に頭かち割られかけたのよ。南雲が“錬成”であの骸骨の動きを妨害してなかったら…死んでいたのよ」

「で、でもそれは南雲の気紛れでーー」

「天之河、アンタの意見は聞いてないわ。第一、一切私たちを見てなかったアンタ(・・・・・・・・・・・・・・・)が否定しないでよ」

 

 轟々と勢いを増す優花の怒り。それは周りからの言葉に揺らぐことなく、むしろ天を突く勢いにまで達する。

 

「私は南雲に助けられた。その事実を私は信じてる」

 

 会って間もない教皇が謳う【悪者】でもなく。

 見知らぬ民衆が口々に噂する【邪悪】でもなく。

 勇者が、知人が断罪せんとする【無能】でもなく。

 

 園部優花が信じるのは【南雲ハジメ】だ。

 

 誰よりも才が無くとも、優花の危機を察知し助けてくれたその姿を。膝が笑っていながらも死にかけた優花を鼓舞してくれたその姿を。たった一人であの暴虐の象徴たる怪物を止めて見せたその姿を。

 

 園部優花は目に焼き付けている。今も目を閉じれば思いだせる。

 

 故にたとえ何処ぞの誰かが南雲ハジメを語ろうと園部優花は揺るがない。

 

 だからーー

 

「だから、アンタ達が何と言おうと私はアイツを、南雲を信じるわ」

 

 ーー園部優花は、南雲ハジメの味方となったのだ。

 

 

 

 

 その後、雫、優花対その場にいる全員といった構図で刺々しくなった食堂にメルド団長が現れ、その日は解散ということになった。

 

 皆が己の部屋へと帰る途中、雫は優花へと語りかけた。

 

「ねぇ、優花。ありがとう」

「…へ? 何が?」

「私以外に、南雲くんの事を庇ってくれる人がいないと思ってたの。みんながあんな風だったから。優花が割り込んでくれなかったら、きっと私はあれ以上何も言えなかったわ」

「あー、確かにおかしかったわね。いつもみたいな嫉妬から来る物で片付けるには過剰だし…」

「ええ。何かはあるでしょうけど…、今は何とも言えないわね」

「怪しいのは…檜山と中村さんかな?」

「教会の方も情報操作に関わってるのがどうも腑に落ちないわ」

「いったい何があるのかしら…」

 

 確かに二人は南雲を信じている仲間に会えたことで安堵こそは覚えた。

 

 しかしそれも束の間で…少女達は不可解な何かに戸惑いを隠さずにいた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー???side

 

 その男が、この会話を聴いていたのは本当に偶然だった。

 

「ね? 上手くいったでしょ?」

 

 その声が聞こえたのは城の空き部屋の内の一つだった。ある違和感と同時に発生してきた酷い頭痛。そのためトイレから部屋に戻るのも精一杯で、熱に浮かされながら、いつのまにか彼はここまで来ていた。だるさから肩を壁に引き摺りながら、移動していたのも聞こえた理由だろう。

 

 その声には聞き覚えがあった(・・・・・・・・)。しかし声に含まれる雰囲気が異なった。その違和感から申し訳ない気持ちを抱きながらも、耳を壁に密着させた。

 

「初めて見た時も思ったが…テメェ、二重人格じゃねぇんだよな?」

 

 もう一人の声は檜山のものだった。いつも南雲を虐めたりと、声こそは出せないものの良い思いは抱いていないからこそすぐに分かった。

 

 同時に「何故彼女(・・)が檜山と…」と胸中で溢す。関わりなど無いはずだと混乱する。

 

「前も言ったけれど、これが僕だよ? いつもは可愛い子ぶってるだけ。人は自分を偽らなきゃ生きていけない。偽らなきゃ欲しいものには届かない。それは君も同じでしょ? 犯人様(・・・)?」

「…そうだな。その通りだ」

 

『犯人』、その言葉にゾクッと背筋に氷柱が突き刺されたような幻覚を感じた。僅かに体を支配していたダルさが軽くなる。思考がクリアになり、先ほどまで考えていた内容、ハジメの犯人疑惑について考え直す。あまりにもおかしいだろう、と。

 

 では何故自分がこんな荒唐無稽な事を本当かもしれないと思っていたのか。その理由は壁の奥から示された。

 

「それにしてもこのアーティファクト凄いよね〜。僕も一か八かで教会の方に『南雲くんに責任を擦りつける』提案をした訳だけど流石はファンタジー。一国規模で洗脳可能ときた。…色々制約はあるらしいけど、それでも便利なのには変わりないよね〜。…僕も使ってみたいな〜」

 

 それこそが雫、そして今男が抱いた違和感そのもの。一見は拡声器のようなアーティファクト。しかしその正体は伝音式対民衆洗脳型アーティファクト:ヴィーゲン・リート。これは発動者が発する言葉を受容者の思考に『正しい』と判断させやすくするという単純かつ凶悪なアーティファクトである。イシュタル教皇がバルコニーで神言を発した際に使ったものでもある。

 

 クラスメイト達が『ハジメが犯人だ』と信じたのは、ハジメへのほんのわずかな疑念をこのアーティファクトが増幅させたことで、一気にハジメを犯人とするようになった、というのが事の真実だ。

 

 そうする事で檜山は己の罪の大まかをハジメへとなすり付けられたわけだ。ハジメを疑いはせずとも信じきれなかった彼もまたその策中に嵌った。

 

「…それでも白崎はまだアイツを構ってやがる。なら意味がねぇ」

「ん〜? あー、そーだね。このアーティファクトも万能じゃないって事だね」

 

 アーティファクト:ヴィーゲン・リートにはその凶悪な性能と引き換えに制約が多々存在する。エヒト神の加護の下でしか使えないことや聞いた音の大きさによって洗脳の度合いが変化すること、改竄する事柄への興味の有無、話した内容に対する疑念の大小、このアーティファクトの存在の認識の有無…それらによって洗脳の具合はまるで違う。しかしその凶悪さは確かめるまでもない。

 

「白崎さんにメルドさん。八重樫さんに園部さん、坂上くん、愛子先生…後は幾らかいるけど僕らの作戦の妨害には警戒しなくてもいいと思うよ。他のメンバーは南雲くんへの信頼じゃなくて、話題への関心の有無とかそっちの制約だろうしね。あと半端に疑惑持ってる人もいるけど、そっちの方はエゲツない頭痛とかがあるだろうから使い物にならないと思うよ」

 

 男はたった今アーティファクトの存在を知ったからこそ軽く掛かっていた洗脳が解けた事実と先ほどまでの頭痛の正体を理解した。もはや頭痛は消えた。かわりに今すぐこの場から去りたい恐怖こそは湧き出ているが。

 

「ところで白崎のことだっけ? でも仕方がないんじゃないかなぁ。だって明らかに白崎さんって南雲くんのことーー」

「うるせぇ!」

 

 何かが砕ける音がなる。恐らくは檜山がステータスに任せて机に拳を叩きつけ、木っ端微塵としたのだろう。フー、フーと興奮気味の吐息が壁越しでもわかった。

 

「あはは、やっぱり自覚してるよね? まともじゃ南雲くんには勝てないって!」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れェエエエエエエエエエ!!!!」

「アハハハハッ! 壊れたオーディオ機みた〜い」

 

 それでもなお彼女は揶揄うように嗤う。神経を逆撫でされた檜山が吠え、なお一層女は声を高らかに上げる。

 

 その時、男は思った。この喧騒の中ならば気づかれる事なく逃げられるのでは無いだろうか、と。混沌とエゴに塗れたこの場から去りたい要求。そしてハジメの無罪をクラスメイトに伝えるべきだという責務。それらが男を突き動かす。

 

 ダルさはもう無い。まともに脳は回る。技能も十全に扱える。

 

【暗殺者】たる己ならば隠密行動は容易だ、そう男は確信してーー

 

 

 

「そう思うよね、遠藤くん(・・・・)?」

 

 

 

 ーー辺り一面の空気が凍った、そんな幻覚を覚えた。

 

 がちゃりと扉の取手が捻られる音が背後からした。

 

 バクバクとした心臓の音さえも遠ざかる。訳が分からない。そもそも音さえ立てていなかったはずだ。

 

 

 

「アハハ。気づかれてないと思ってた? 残念だけど遠藤くんと僕の力ってさ、相性すっごく悪いんだよね〜。流石の君も魂は隠し通せないでしょ? 【暗殺者】の力って一定以上行かないと魂魄は隠蔽出来ないらしいからね〜」

 

 

 

 笑う、微笑う、嗤う。

 

 逃げ出せばこの悪魔を振り払えるのか。この悪夢を見ずに済むのか。

 

 しかし成功のビジョンが見えない。彼女の手から零れ落ちることさえも出来そうにない。

 

 故に遠藤の足は竦む。もはや鬼ごっこが成り立つ前から決まっていた。

 

 

 

「ごめんだけど…ちょっとオハナシ聞いて貰って、良いかなぁ?」

 

 

 

 この鬼ごっこは『(彼女)』の勝ちだと。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 そしてその日から、遠藤浩介は城の誰とも会うことはなくなった。




はい! そんなわけでアビスゲート卿好きな方ごめんなさい!な閑話でした!
ハジメのピンチとチャンスを同時に煮詰めた感じです。
味方もある程度いるけど…が現状です!

あとクラスメイトおかしいだろ…の正体はこちらの超便利なアーティファクトですね!
ヴィーゲン・リートくんはクソ便利でイシュタル愛用のアーティファクトです!
ちなみに洗脳に必要な制約をある程度書き出してみましょう。
・使用者の天職が神関連(【勇者】【聖女】【神子】【教皇】など)であること。
・使用者のレベルが三十以上あり、かつ一定以上の魔力を保有すること。
・使用者が純粋な人族であること。
・使用範囲が人族の領地(人の神たるエヒトの領域)であること。
・効果は声の聞こえた度合いに比例する。
・対象者が洗脳内容への疑惑を持たないこと。
・対象者が洗脳内容に関心を一定以上持つこと。
・対象者の天職が神関連でないこと。
・対象者が神代魔法を持たないこと。
・対象者が人族であること。
・対象者がヴィーゲン・リートの存在を知らないこと。
・対象者が眼鏡を掛けていないこと。

…と言ったところでしょうか。
これを見るとある人物がおかしいことがわかるでしょう。
…人間って恐ろしいですなぁ。

ちなみに遠藤くんはハジメくんを疑ってたわけじゃないんだけど、「南雲! お前を信じてるぜ!」レベルじゃないと洗脳は振り払えないので中途半端にかかりました。
で、中途半端だと最遊記でいう孫悟空の輪っか効果が常に働くので、謎の女の子は「気にしなくてもいい」といったわけです。
歩けてただけマシな方です。

次の投稿、なるべく早くやりたいと思います。
頑張れ、俺!

追記
そういや、アンケート通りハーレムで行きます!
他言ってた人、ゴメンね!

再・ヒロイン投票

  • 香織オンリー
  • 香織&優花
  • 原作通りのキャラハーレム
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