恋をしたありふれた職業は世界最強 作:見た目は子供、素顔は厨二
そんな訳で第三話です!
これで序章完結!
次回から一章に入ります!
それではどうぞ!
追伸
最近なろうで幼なじみカップリング貶すの何なの?
俺の「性欲が塾年夫婦並みに枯れてて、特に意識しあってるわけではないんだけれども、以心伝心が互いにだけ適用されて、絶対お互いがすぐ側にいるのが重力よりも自然であるかのような幼なじみカップリング』が好みである事を知ってのことかぁああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
ーーハジメside
決して、認められたくて動いたわけではない。誰かが傷つく様を見たくなかっただけだ。他人の死を見て後で後悔するよりは、自分を賭け皿に乗せた方が自分はマシだと思えた。
そんな自分本位な理由でハジメはあの死地を走り抜けた。
だが同時に貶められる物では無かったはずだ。あのまま自分が動かなければ誰かは後戻りできないほどに傷を負っただろう。
だからこそ思う。
『見て、裏切り者よ』
『よくこの城をあんな堂々と歩けるわね』
ーー裏切った覚えなんてないです。それに廊下だって端の方を歩いてます。堂々となんてできないですよ。
『何であんな奴がまだここにいるんだ』
『教皇様が言うんだ、仕方がないだろ。…卑しい奴め』
ーーこんなところに居たくなんてない。望んだ覚えもない。今すぐにでも家に帰りたい。
『何見てんだよ、【無能】!』
『お前の椅子? そんなもんここにはねーよ』
ーーたまたま視線に入っただけで罵られる。悪意に目眩がして、椅子を探すと嘲笑われた。
ーー聞いてはいた。昨日、メルドさんと八重樫さんから話は聞いていた。
ーーだけど…
『南雲、まずは謝罪からだろう? 何をぼうっとしてるんだ? 早く頭を下げるんだ』
ーーこれほどの理不尽が何で僕に与えられたんだろう。
『○○○○○○○!!』
『■■■■■、■■! ■■■■■■■!!』
『◆◆◆、◆◆◆◆◆◆ッッ!!』
『香織、雫、優花。三人とも優しいのは分かる。だけどこれは南雲の問題だろ? 有耶無耶にしていい問題じゃないんだ』
ーー誰かが僕の前に立った。きっと僕を庇おうとしてくれている。
ーーけれどそれが一層惨めで、情けなくて。…そして何よりも、悔しかった。無力感で、頭が一杯だった。
ーー恥ずかしいのかも、恨めしいのかも、失望したのかも分からないほど感情がごっちゃ混ぜになる。
『あっ! 待て南雲! 何処に行くんだ!?』
『戻って来い! 南雲ォ!!』
『反省も無しかよ…ロクでもねぇ』
『○○○○○!?』
『…■■■■、■■■■■■』
『◆◆◆◆◆◆…』
ーーいつの間にか僕はその場から逃げ出していた。断罪の声も、呆れの嘆息も、呼び止める声も。全部断ち切って、この辛い場所から逃げようとする。
ーー奥歯がギリギリと鳴って、目頭が熱くなる。小学生以来だ。こんなに感情的になるのは。
「ーーーぅぅ」
ーー喉が震えた。情けなくて脆弱な声だ。それが一層羞恥を駆り立てて、足に込める力が増した。
ーーすれ違う人がいた。嫌でも目に映る。焼きついてしまう。ドブネズミを見た様な隠しもしない嫌悪の色。情けない、情けない。酷く悔しい。
ーーそれでも走った。独りになりたかった。そうすればこんな世界から抜け出せるかもしれないと本気で思った。
「ぅうああああああああああああああ!」
ーー我慢していた衝動が止めきれず溢れる。まだ人はいる。さっきよりももっと奇怪なモノを見ている様だった。それでも知らないとばかりにこの声は止まろうとしてくれない。
ーーやがて人の数が少なくなって、人の服装が巡り巡り変わっていって。木々の数が中世的な建造物に反比例して増えていった。何時間と走っただろう。人がいない森の中、ようやく僕は止まった。
ーー固まり切っていない床で急にブレーキをかけた。きっと疲労で感覚の無くなった足を止めた為だろうか。不細工な転げ、地面に叩きつけられる。水っぽい土が跳ねて、白い病人服は清潔さのカケラもない。
「ァアアアア!!!!! …ハハハッ、アッハハハハハハ」
ーー獣同然だった叫びが止まる。入れ違いに出た声は笑い声だった。
ーーいっそ滑稽で、可笑しくて仕方がない。B級並の悲劇だ。自分にはこんな泥まみれがお似合いなのだろう。主人公どころか脇役にすら成れはしない。顔無しのエキストラが適役に違いない。敵キャラの噛ませにでもなればきっと上等だ。
ーー空は曇天だ。暗くて窮屈で息苦しくて…まるで鳥籠の様に見えた。
ーー城から遠く離れて、恐らく都からも抜け出した。こんなに笑い声を出していたら魔物が集まるかもしれない。今の武器は護身用のか細いナイフしか無くて、ステータスすら低い僕はすぐに死ぬだろう。
ーーそれでも良かった。
ーーこんな世界で止まるぐらいなら一回死んで、向こうにでも戻る夢を見たい。
『グルルルル…』
ーー聞こえてきた。終わりの声が。
ーーこのクソったれな悪夢を終わらせる刺客が。
ーー仰向けになっている僕の視界に白い狼が複数体映る。かつて見た迷宮の図鑑に載っていた魔物だ。十階層で群れを作っている魔物で、連携を用いて獲物を狩ることを得意としている。
ーーこんな魔物でさえ一人じゃない。それが一層、惨めさを際立たせる。
「…やるなら一発で、すぐに殺して欲しい」
ーーあんまり痛い思いはしたくない。一瞬の合間なら我慢もできる。
ーーきっとそんな思いが伝わったんだろう。目の前の魔物がゆっくりと喉笛に向けて牙を立てる。飢えた狼の口から涎が垂れて、僕の鼻腔に入り込んだ。不快だけれど、これが最後の苦痛だと思えば辛くはない。
ーー首を魔物に差し出す形で顎を上げて、僕は目蓋を閉じようとした。
ーーー閉じようとして…。
ーーーーーー終わらせたいはずなのに…。
『私の中で一番強い人は南雲くんなんだ』
ーーーーーーーふと彼女の笑顔が脳裏で輝いた。
ーーグジュッ
気づけばハジメは魔物の胸に、腰に差していたナイフを突き立てていた。ハジメは知っていた、その部位に魔石があることを。
案の定、目の前の魔物は生物としての形が保てなくなり、灰となって崩れ落ちる。ナイフを伝って魔物の血で手が濡れた。
ーー嗚呼、これで簡単には死ななくなった。
仲間を殺されたことで魔物の群れは分かりやすく憤っていた。再び組み伏せられれば、魔物たちはハジメを苦しませながら殺すだろう。体の末端から生きたまま喰らい、ハジメに地獄を見せるだろう。
だが、それでも良い。ハジメは己の心をナイフを構えながら再確認する。
ーー生きたいんだ。
ーー死にたくない。
「“錬成”!」
自分周辺の地面を隆起させ、高くにある木々に手をのばす。ハジメは真っ正面からの戦闘を避け、逃げを選択する。
ーー地べたで泥まみれになっても構わない。
しかし狼達の身体能力は高い。ハジメが作り出した足場を腕力に任せて破壊する。当然ハジメも重力に従い落下する。
ーー有象無象に馬鹿にされたってどうでもいい。
ステータスによる身体能力の向上がロクに見られないハジメは、受け身こそ取れど、体にダメージが入る。その一瞬を狼は逃しはしない。四方八方から狼の顎がハジメへと襲い掛かる。
ーーそれでも、僕は生きたい!
「“錬成”ぇっっ!!」
再びハジメの足元が隆起する。しかし先程と違うのはハジメがダメージを喰らいかねない程の速さで迫り上がったことだろう。正しくカタパルトのように吹き飛んで、ハジメは狼の群れの包囲網から脱する。
ーー家族の元に帰りたい!
代償は肋骨の骨折。ズキズキと鈍い痛みがして、走り出そうとしたハジメの目の前で火花が散る。よく見れば骨が一本は肌を食い破る形で見えていて、血が斑に地面を彩っていた。
ーー絶望しきったまま死にたくない!
狼の一体がすぐにハジメを追いかける。軽傷とは言い難いハジメは弱った獲物に見えることだろう。魔力による身体の強化が行われ、ハジメへと飛びかかる。
ーーそして何よりも
「“錬成”ッッッ!」
三度発動されるハジメ唯一の魔法。しかし今度は逃げの為では無い。ハジメの前方から飛び出した長方形の地面は狼の腹をかち上げた。ハジメだけに注目していた魔物は為されるがままにハジメの頭上へと吹き飛ぶ。
ハジメは狼が地面に投げ出される前にナイフを握りしめて、走った。未だに腹の重傷は健在だが、意識に鞭を打ってまで駆け出した。
狼は当然、あの程度では死なない。そもそも“錬成”は攻性魔法ではない。更に言えば魔物は物理耐性はハジメなぞよりもよっぽど高く、ダメージさえも喰らわない。故にすぐに狼は立ち上がり、こちらに向かってくるハジメを食い殺さんとする。
血に塗れたナイフと醜悪な魔物の牙が互いに鋭い光沢を放つ。
両者共に刹那でも敵の動きを見逃さないと目が見開かれる。
ハジメのナイフが閃くと同時にその腕へと飛び掛かる狼。ナイフごとハジメの腕を食い千切らんとする。
この護身用のナイフの刃渡りでは狼の延髄や脳を切り裂くには値しない。その前に腕が持っていかれる。
「“錬成”!!」
狼の牙がハジメの腕を断絶仕掛けていたその一瞬。
蒼の魔力が魔物の口の中で暴れ狂うように発光する。
“錬成”が与える力はただ一つ。鉱石の変形。その対象にはハジメが今も持つナイフも含まれている。
元々細身であったナイフが更に洗練されるように細く、長く、鋭く形をこの場における最適へと進化する。
全ては一瞬でも早く、敵の命を奪う為に。
既に腕に突き刺さっている牙。それを無視して、より深くへとレイピアのように化したナイフを進める。
感触がした。迷宮で初めて感じた感触が。命が潰える感覚が腕を駆け抜ける。
この瞬間だけは何度も経験してもきっと好きにはなれないだろう。たとえ人で無くても。相手が理性の遥か対極にあるような魔物であろうとも。
延髄を断たれたが故に肉塊となって、魔物はその場に崩れ落ちる。命が一つ散った瞬間だ。
だが殺した罪悪感に苛まれる時間も惜しいこの状況。すぐ様にハジメは魔物の口から腕を引き抜いた。
自分の血かも魔物の血かも分からないほどに塗れた腕が見える。ドクドクと命を繋ぐ赤い体液が脈から零れ落ちるのがよく分かった。神経回路をいくつか切ったのか、思うようには動かない。先程まで持っていたナイフも魔物の死骸の中に取り残してしまった。
脇腹の傷もあり、意識は朦朧とする。血を流し過ぎた。酸素が回り辛くなり、今も追いかけてきているであろう残りの魔物の姿も霞んで見えた。
絶体絶命、そんな言葉がふと浮かんでーーハジメはフッと笑った。
ーー確かに死に体だ。利き腕が使えず、武器も無くて、オマケに頼みの綱たる“錬成”も魔力の枯渇によりあと僅か。
ーーそれでも左手も両足も動く。何よりも生きたいと、体が、心が、何よりも僕自身が叫んでいる。
ーーなら、僕はまだ戦える。
ーー僕はまだ死んじゃあいない。
「“錬成”」
蒼い魔力が砕けた瓦礫を刃と成す。あまりにもお粗末な武器だ。だが、今はそれが頼もしく思えた。
赫い眼をギラギラと光らせて、魔物達はハジメを睨む。一体一体が間違いなく格上で、その上数も多い。圧倒的劣勢の中、ハジメは無理矢理笑みを作った。
「生き延びてやる…」
死に体に反して漲る活力。それを糧に、ハジメは前に進んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー龍太郎side
迷宮での一件依頼、龍太郎は南雲ハジメというクラスメイトを見くびっていたのだと気付いた。
あの迷宮での闘いは誰もが死を呑み込まざるを得なかった。きっとあの中にいた中で一番強いメルド団長であったとしても、文句無しの素質を持つ光輝であったとしてもだ。
そして恐らく龍太郎は真っ先に諦めた。そして
もう頭の隅では負けを認めていて、それでもそんな現実が受け止め切れなくて龍太郎はベヒモスに挑んだ。クラスメイト達が危ないという状況さえも忘れて、戦った。
思えば酔っていたのだろう。この世界で自分が特別な位置にいることに慢心していた。
だから勝敗すら戦う前から分かっていながら、無駄に命を散らす道を選んだ。圧倒的なスペックの差を認めることが出来なかった。
だがハジメは違った。
確かにハジメもベヒモスに勝つことは諦めた。仮にも【最弱】、錬成師では勝てるはずも無かった。ステータスも能力も凡人以下のハジメには闘いという選択肢はあまりにも無謀だった。
しかしハジメは『勝つ』ことは諦めても、『生きる』ことは諦めなかった。目先の勝敗よりもクラスメイト全員の生還を目指し、そしてやり遂げた。
坂上龍太郎は脳筋である。だからこそハジメと自分をここまで客観的に分析して、ハジメを評価しているわけではない。その辺りは『何となく』でしか考えれていない。
だが坂上龍太郎という男は同時に素直であった。
『ーー“錬成”!』
遠く離れた場所でその背中を坂上龍太郎は見た。龍太郎自身が感情無しと眼中にすらなかったはずの少年。
しかしそれがどうだ。最も簡易たる魔法で自分達が敵わないと思っていた魔物を捕らえて見せたその姿は。手を灼熱に焦されながらも、蒼い魔力光を放ち続けたその背中は。自分を馬鹿にしていた者達ごと救って見せようとしたその【最弱】は。
ーーかっけぇ…
いつの間にか、龍太郎は迷宮の死地で呟いていた。
だからイシュタルの宣言には憤ったし、赦せなかった。そんな筈は無いだろう、と。自分が憧れたあの光景が、まやかしである訳がない、と。
ただ信じ切れなかったのは事実だ。
『南雲は悪だったのか…。そうか…赦せないな。檜山が変な行動を取ったのも、あの時『邪魔』をしたのも、全部アイツのせいだったのか! ああ、信じていたかった! だけれども認めるしかない。南雲には反省してもらわないとな。大丈夫だ、きっと分かって自分の行動を省みてくれる筈だ。香織を誑かすことも無くなるだろうし、自己中心的な事をする事もなくなるだろう。ああ、大丈夫だ。龍太郎もそう思うだろ?』
信じたかった。親友の光輝の言葉が間違っていないと。酷く歪に見えたのは幻覚だと思いたかった。否定したくなかったのだ。信じ続けていた親友を。
だからハジメが非難されているのを見ても、「そんなわけねぇ!」とは叫べなかった。一度憤っても、それは光輝を否定することに繋がると思わず黙ってしまっていた。
布団に潜る度に憧憬たるハジメと信頼を預ける光輝の間で龍太郎は精神を擦り減らし続けた。ハジメのあの姿を思い返す度に張り裂けるような頭痛がして、まともに眠れない日が続いた。
昨日の夜もそうだった。だからいつもよりも食堂に向かうのに遅れて、すれ違うように走り去るハジメを見た。歯を食いしばり、何かに耐えるように。
少し龍太郎は考えると、すぐにハジメを追いかけた。見なければならないと思ったからだ。ハジメがこれから成す事を。
ただハジメを追いかけようとした頃にはハジメは視界にはおらず、周りから聞いたり、行き当たりばったりを繰り返したりとする。途中、魔物もいたが、【拳士】という物理チートたる龍太郎の敵にはならなかった。そうして森の中をさ迷い続け、何とか龍太郎は見つけ出した。
ーー血だらけで、弱々しくも立つハジメの姿を。
「ーーッッ!?」
欠損しているわけではないのだが、一つ一つの傷が深い。国最高峰の治癒を持つ香織でもすぐには五体満足には出来ないほどの重傷。
全身から赤が垂れ落ち、新緑を染め上げてしまっているほど。ハジメ周辺には少なくない魔物の屍が不細工にズタズタにされていて、赤黒い魔物の血とハジメ自身から出ている血とでは全く見境が付かない。
そしてたった今、ハジメは最後の魔物の首を刃が崩れ落ちたように刃ころびたナイフで掻っ切った。
ビクンッと魔物は痙攣した後、諾々と赤黒い血を吹き出す。動く様子は無く、息絶えたことがすぐ様にわかった。
そこからハジメは右足を前に出そうとして、その場に崩れ落ちた。
「ーー南雲!?」
目の前の惨状に放心していた龍太郎が倒れたハジメへとすぐに近づく。
「…坂、上くん?」
「南雲! 何でこんな事になってんだよ!?」
「あ…あはははは。…大丈夫? ここ魔物結構いるけど…」
「大丈夫って…他人の心配してる場合じゃねぇだろ! 血だらけじゃねぇか! ちょっと待ってろ! 香織のトコまで連れてってやる!」
ハジメと会ってからより強くなった頭痛。しかし龍太郎はそれを無視して、怒鳴り付ける。思わず激昂するほどハジメの容態は酷かった。
しかしハジメは龍太郎が大丈夫かと心配する始末。ハジメは血だらけで、視界を埋める血が龍太郎の姿を見ることを阻んでいるにも関わらずだ。そんなハジメの気遣いは今は腹立たしい。
そもそも龍太郎からすればこの森の魔物は雑魚だ。ハジメのような軽装であっても死に掛けることはない。だからこそ思う、そんな場合じゃ無いだろう、と。
すぐにハジメを背負って、龍太郎は来た道を戻り始める。背負ったハジメは信じられないぐらい軽くて、儚くも思えた。それが龍太郎を焦らせ、踏み込む脚を強くする。
同時にこんなに弱い人間が迷宮であそこまで根性を見せたのか、と思わざるを得ない。
「くたばんじゃねぇぞ! 南雲ォ! こんな所で死んだら…俺が許さねぇからな!」
「うん…坂上くん…」
「何だ!? 言いてぇことあんならとっとと言え!」
死に体のハジメに龍太郎は激励を掛ける。言葉の一つ一つが荒々しくも生き延びろと言う、龍太郎なりの発破をかける。
「やっぱり…死にたく無い」
「ーーッ!!」
それはきっとハジメの弱音だ。よく思えばハジメはクラスメイトの目の前で苦笑いをすることはあっても、弱音を吐くことは無かった。
弱々しいその声を聞き漏らさないように龍太郎は神経をハジメの一言一句に集中した。
「僕…ついさっきまで死んでも良いって思ってたんだ。こんな世界、嫌だって…」
「………」
きっと迷宮との戦いの後の理不尽な言われようだろう。直接言われた訳でもない龍太郎でさえもいい思いはしなかったのだ。張本人たるハジメがどれ程背負わされることになったのか、龍太郎には計り知れない。
ハジメの『死んでもいい』は重さがあって、冗談にも思えない。それこそ、こんな血だらけになっていれば疑いようもない。
「でも…やっぱり僕は生きたいんだ。どれだけ馬鹿にされても、辛い目にあっても、血反吐を吐いても、地獄を見ても僕は…生きて帰りたいんだって…やっと気づいた」
「…そうか」
龍太郎が感じていたハジメの強さ、それは生きることへの一途さ。ハジメ自身、無自覚だった果てしない生存欲こそが迷宮でのあの姿を現したのだ。
それがようやく龍太郎は理解できた。
「は、ははははは…」
「…? 坂上くん?」
「やっぱ、お前はかっけぇな。南雲…」
「…いきなり、どうしたの?」
やはりあの時憧れた姿は間違いでは無かったと龍太郎は思った。何故ならハジメをあそこで立たせたのは『与えられた』力などでは無かった。『持っていた』力だったのだから。
生物として当然である生存本能、それが人一倍あったからこそ成り立っているのだから。
鳴り止まなかった頭痛がいつの間にか嘘の様に消えている。思考がクリアで、先ず自分が為すべきケジメを理解した。
「南雲…すまねぇな。俺はお前の噂、ウソだって今まで言えなかった」
「……うん」
「ただ…今はお前はきっとそんな事はしねぇって思ってる。そう信じる」
「……違うかも、しれないよ?」
「やったのか?」
「……やって無いけど。…それでも、他の人達が坂上くんを非難するかもしれないよ?」
「こんな時まで他人の心配か…安心しろ。他人がどーだこーだ言った所で、もう意見を変える程落ちぶれちゃいねーよ」
後で後悔するかもしれない。光輝と相対するかもしれない。だが龍太郎はもう後戻りをするつもりはない。
ここで『正しい』と思ったものを犠牲にしてまで、仲良しこよしするのはゴメンだ。それならぶつかって、互いに全部吐き出して今まで見ていなかった互いを見つめ直す方がずっと良いだろう。
「坂上くん…」
「ああん? 寝て、安静にしてろ。起きりゃベッドの中だ!」
己の心中を吐露するのが思ったよりも恥ずかしかった龍太郎は八つ当たり気味だった。それ以前にハジメの重傷を気遣っている面もあるのだが、それでもいつもよりも怒鳴り気味になっている。
そんな中告げられた言葉は実にシンプルだった。
「…ありがとう」
「ーーーッ」
肩に寄り掛かる重さが僅かに増した。遂に気絶したのだろう。失血が原因か、それとも精神的な疲れが原因か分かりはしないが危ない状況という点には変わりないだろう。
そんな状況下で龍太郎は片手で顔を覆い隠す。僅かに顔が赤く、口の端が上がっている。
「ーーったく!」
ハジメの感謝の言葉に遂に耐えきれず、龍太郎は悪態をつくのだった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーハジメside
目が覚めると、白い天井が見えた。つい昨日も見たがやっぱり元の世界には戻りようが無いらしい。その事実にやはり悲しみは堪えきれず…それでもいつもとは若干違った。
『他人がどーだこーだ言った所で、もう意見を変える程落ちぶれちゃいねーよ』
気が落ち掛ける前、必死になって僕を背負ってくれた坂上くんがそう言っていた。
そうだった。答えは単純だったんだと今更気が付いた。他人に冤罪で責められたって自分を捻じ曲げるのは、違う。
そんなシンプルなことにやっと気が付いた。
それに坂上くんは『カッコいい』と言ってくれた。迷宮でのあの時の行動が決して無駄では無かったんだと気付かされた。
昨日は見る気も湧かなかった窓がふと視界の端の方に見えた。青くて澄んでいる蒼穹がひたすらに広がっている。昨日までは窮屈な鳥籠のように見えていたが、そう地球の空とは変わらない。
きっと昨日の曇天だってそれほど地球のものとは変わらないだろう。悲壮感が雲の灰色をより暗くしていただけかもしれない。
そうやって気づいていなかった一つ一つを咀嚼していると、ガララッと雑に開けられる扉の音が聞こえた。
「ハジメぐん!」
この声だ。死に掛けていたあの時、心を生き返らせてくれたのは。
この目だ。辛かったあの中で、もう一度心に火を灯してくれたのは。
「心配したんだよ! 雫ちゃんと優花ちゃんと探してても、ずっっっっっと、見つからないし! 戻ってきたら怪我だらけだし! また気絶してるし! 今度こそ死んじゃうかもしれないって、心配したんだよ! ハジメくん!」
彼女は泣きながらハジメの元まで近づいた。ハジメが死にかけだったのは重々承知なのか、以前の様に抱きしめることはなく、ぎゅうとハジメのシーツを握りしめて顔も埋めている。
彼女の顔を見ると綺麗な顔が台無しなぐらいにぐちゃぐちゃだ。それほど心配を掛けたのかと思うと申し訳ない気持ちになる。ただハジメが死んで悲しむ人もいるのだと、少し嬉しさも湧いてきた。
兎も角、目の前の彼女の泣き顔は見たくない。彼女にはこの空の様に屈託のない笑顔が似合っている。
ハジメの指が香織の涙を拭う。頰に触れる指がハジメのものだと分かったのか、香織もハジメを見上げた。二人の視線が絡み合う。
「ゴメンね、白崎さん。自暴自棄にはもうなったりしないよ…」
「そうだよ! ハジメくんが死んだら私…凄く嫌だよ! 絶対に、絶対に嫌だよ!」
「うん…ありがとう。そう言ってくれて。…出来れば泣き止んでくれないかな? 白崎さんには、泣いて欲しくなんてないから」
香織がハジメの一言を聞き、両手の甲で大量の涙を拭う。泣き顔を見られて恥ずかしいのか、少しだけ視線が逸れた。
ただそれも一瞬で、すぐ香織はハジメと目を合わせた。
「…本当に、死なないでね?」
「うん。約束する」
「絶対だよ! 約束だよ!?」
「うん。絶対に、白崎さんを悲しませない様に頑張るよ」
「ハジメくんが死んじゃったら、私これ以上ないぐらい泣くよ! だからーー」
「うん。絶対に死なないって、約束するよ」
未だに黒真珠のような瞳を濡らす香織だが、悲しげだった顔から普段の様な笑顔を作る。やはりハジメはこの笑顔が好きだ。
すると香織が右手の小指をハジメの前に差し出した。
「ええっと…これは?」
「ハジメくん、すぐに約束忘れて無理しちゃいそうだから! 指切りげんまんだよ!」
唐突な香織の反応に当然ながら呆気を取られるハジメだったが、指切りげんまんだったと分かるとすぐに自分の小指を香織の指に絡めた。
そして香織の鈴の音色のような声に合わせて、指切りが行なわれる。
この世界はハジメに残酷だ。しかしそんな異世界の事も忘れて、たった二人だけの世界を今、二人は作っている。
不相応かもしれない、ハジメの『強くなる』という夢を載せて、絡めあった指先が揺れる。
「指切りげんまん、嘘ついたら……どうしよう? ハジメくん!」
「ええ…」
まさかのノープランにハジメは困惑したが、何だかおかしくて香織も合わせて笑った。
ーーここからが、僕の始まりだ。
愛しい人の笑顔を見ながら、ハジメはそう決心した。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:9
天職:錬成師
筋力:19
体力:19
耐性:19
敏捷:19
魔力:19
魔耐:19
技能:錬成[+解析][+高速錬成]、集中、不屈、言語理解
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はい! そんなわけで一章完結!
思ったよりもハジメくん、虐められなかった…(しゅん…)
まあ、現段階でも中々ハードモードなので別にいいか!
ちなみにこの作品ではハジメの魔力の色が紅ではなく蒼です。
理由としては原作からの乖離のイメージと攻撃的な色ではなく優しい色にしたかったからです。
そんなわけでハジメくんの魔力光は某ウザすぎるリーダー様と類似しています。
…あれ? アイツ優しいか?(作者困惑)
そしてステータスも更新です!
やったね、ハジメくん! ベヒーモスと狼連中と死闘繰り広げたクセにレベルが8しか上がってないよ!
ちなみに勇者の現在のレベルは27です。
天職によってレベルアップボーナスの要求値が異なるのが原因ですね。
しかも原作を読むに【錬成士】って言っても武器整備しててもレベル上がる訳ではなさそうだからなぁ…。
とはいえ“錬成”も派生が増えましたし、新スキルが二つも増えましたね!
…え? “集中”ってどっかで見た事あんぞ、このクソ作者めが?
…………何のことやら?(クロスオーバーの奴からの流用です、発想力貧相で申し訳ない)
つーか、“集中”が便利過ぎるのが悪い!(逆ギレ)
ま、二つの新スキルの能力は次回辺りに説明しますかね?
ちなみに詳しく現在のクラスメイト達のハジメの評価を書いておきましょうか。
・普通「前から気に入らなかったけど、今回のは酷い。最低だ(洗脳済)」
・香織「私はハジメくんを信じてるよ! だってハジメくんは、いっちばん優しくて強い人だから!」
・雫「絶対に南雲くんはやってないわ。強い人だもの」
・優花「あの時、助けてくれた南雲を信じるわ」
・龍太郎「かっけぇと思う。やってねぇって信じるぞ、俺は」
・遠藤(ナニカサレテイルヨウダ)
・鈴「南雲くんは助けてくれたけど、恵里はああ証言してるし…(頭痛持ち)」
・園部の班「優花はああ言ってるけど…(頭痛持ち)」
・永山班「浩介がマジでいない! いやギャグじゃねぇって!?(頭痛持ち)」
・光輝「許せない! みんなに謝れ! 大体(ここから怪文書)(これで洗脳無し)」
・檜山「俺の方がぜってぇに上だ! 苦しめ! 死ね!」
・檜山の協力者「できれば早急に排除したい、要注意人物。今回は精神的に殺そうとした。反省も後悔もない」
・???「興味がない。そんなことより魔法の実験実験(洗脳無し)」
・愛子先生「生徒は絶対信じますよ!」
・メルド「芯のある奴だと思っている。出来るだけ協力したい」
・イシュタル「ちょうど良かった誹謗中傷の的」
再・ヒロイン投票
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香織オンリー
-
香織&優花
-
原作通りのキャラハーレム