目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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1 旅の始まり
プロローグ


 木漏れ日が差し込む病室。そこは怖いくらい静かで、時が止まっているかのような感じがした。ベッドには魚のように無表情な彼女。体はやせ細っていて、肌は怖いくらい白く、手で触れると氷のように冷たくて生きてないというが嫌でも分かる。彼女は既に死んでいるのだ。不治の病だった。長くない命だというのは分かっていた。しかし二十二という若さで死ぬのはあんまりだ。

 

 彼女とは八歳になる頃から一緒に過ごしていた自分でも、長い付き合いだったと思う。僕は彼女が好きだった。彼女も僕が好きだった。病気が治ったら結婚しようという約束もしていた。だけど、病気が治ることはなかった。彼女はあまりに呆気なく死んだ。そして僕はまだ彼女が死んだという現実を受け止められずにいた。

 不思議なことに悲しいとかは一切思わない。あるのは虚無。感情は彼女が死ぬわけがないと現実を否定する。しかし理性は現実を受け止めろという。その二つの感情がぶつかって心は虚無に包まれる。

 

 改めて彼女の亡骸を見る。飾り気のない病院服。それはあまりに彼女に似合わない。彼女の生前はロリータ服を着るのが好きだった。少し特殊な趣味とは思うが、事実である。もっともここ半年は病状が悪化して、外に出ることも出来ず、一日中病院服を着ることを強制させられていた。そのため入院してからはずっとゲームをしていた記憶しかない。

 彼女との思い出を振り返りながら髪を指の腹で触る。死んだ彼女の髪が砂時計の砂のようにサラサラと落ちる。彼女の髪は世にも珍しい銀髪。しかし、それがとても美しくて僕も好きだった。彼女も自分の髪を誇りだと言っていた。そういえば目の色も美しかった。赤薔薇のような赤い目だ。もっとも彼女は自分の目の色は気に入っていなかったが。

 

 これから彼女の家族来て、あまり言いたくはないが彼女の死後の処理をするだろう。ここにいても僕は邪魔だから、そろそろ帰るべきだろう。そう思い、席を立とうとした時だった。机の上に置かれた物に少しだけ目を奪われた。彼女が死ぬ直前まで遊んでいた携帯型ゲーム機。たしかプレイしていたゲームはポケットモンスターウルトラサン。通称ポケモンUSだ。僕もポケモンは小学生の頃に少しだけやっていたからゲームについては分かる。そういえば彼女は結局どこまでポケモンを進めたのだろうか。彼女の生きた証を知りたい。そんな想いでゲーム機に触れて、ポケモンを開いてみる。

 

 彼女のデータはポケモンリーグの目の前でセーブされていた。ポケモンはどれも六十レベル前後。そういえば彼女はチャンピオンに勝って殿堂入りしたいって言っていたな。もっともその夢も叶わない。でも彼女の代わりに僕がクリアしたい。そしたら彼女の夢は叶ったことになるだろうか。そんなことを思いながらポケモンを始める。そうすれば彼女も心残りがなしで逝けるだろうか。しかし、やってる途中に何故か物凄い睡魔に襲われて……寝てはいけないと必死に抗ってプレイしていたが気づいたら僕は寝落ちをしていた。

 

「……あれ?」

 

 目を覚ますと不思議なことに森の中にいた。妙に体が軽い。ここはどこだろうか。辺りを見回すと小さな水溜りがあるのに気付いた。そして水溜りに写る自分の姿を見て驚愕した。

 

「え?」

 

 そこには『人間』の姿はなかった。

 

 あるのはポケモンの姿。

 

 たしか名前は――ダークライ。

 


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