目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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9話 チャンピオン

「お預かりしたムンナはすっかり元気になりましたよ」

「ありがとうございます。ジョーイさん」

 

 ナナはムンナを引き取ると防寒着を着込んでハクガ山に登り始めた。僕にお姫様抱っこをされた状態で。なぜ、お姫様抱っこなのか。簡単な話である。ダークライの背中は安定しないのである。ダークライは人と違って構造的に背中に手を回しにくい。そのため背中が安定しないから、おんぶだと居心地が悪い。よってお姫様抱っこに追いついたのである。

 幸いにもナナは重くなかったため、特に負担になるということはない。それに胸にしがみつくナナは少しだけ可愛いから悪くもない。

 

「ダークライ。そこの分かれ道は右ね」

「リョウカイ」

 

 分かれ道を曲がると不運にもイワークに出くわす。僕はナナをそっと降ろして戦闘態勢をとる。そして、ナナの指示であやしいかぜを撃ち、イワークを倒すと再びナナをお姫様抱っこして登山を再開させる。

 

「そういえばダークライは飛べるよね?」

「アア」

「どこまで飛べるの? 今後のポケモンバトルの戦略を練る上で把握しておきたいな」

「ドコマデモ飛ベル……ダガ、長時間ノ飛行は厳シイ」

 

 ダークライの体は飛べる。宙にプカプカ浮く延長線上のような感じで飛べるのだ。試したことはないが、恐らく雲に手が届くくらいまでは飛べるだろう。しかし空中に長時間いるのは厳しい。滞在出来るのは三分といったところだろう。そして人やポケモンを載せると重さに耐えられなくなり、飛べなくなる。だから移動は出来ない。

 

「でも、ダークライってずっと浮いてるよね?」

「重力に反発スルヨウナ感じダ……逆にコレ以上は下リレヌ」

「なるほど。浮力のイメージかしら?」

 ああ。それだ! ダークライの体になってから常に水面にいるような感じなんだ!

「ソウダ」

「ただ飛ぶというイメージは難しいわね……飛行タイプの飛び方とは明らかに違うわけだし、なにかを噴射する様子もないし」

 

 ナナはブツブツと言いながら考える。正直、僕だってなんで飛べるか分かっていないのだ。恐らく答えは出ないだろう。そして途中にある洞窟に入る。ここの洞窟を抜けると次は雪山になる。これからは山の内側を通るが。これからは外側になるのだ。そして雪山を歩いていくと街が見える。そこがハクガシティ。ハクガシティはハクガ山の頂上付近に作られた山なのだ。

 

「……ダークライ。降ろして」

 

 洞窟を進んでいると少しだけ大きな広間に出た。そこには赤いマントに軍服みたいな服を着た銀髪でナナと同じ赤い目をした男がいた。ナナはその銀髪の男を無言で見ていた。

 まるで知り合いのようだ。少しだけ空気が重くなると男はポケモンを出した。出てきてきたポケモンはウナギのようなポケモンだった。しかし、そのウナギは不思議なことに宙を浮いている。彼女はそのポケモンを見て、僕に指示を出す。『お願い。ダークライ』といつものように。そして、すぐに指示が飛んできた。

 

「ダークライ! あやしいかぜ!」

 

 言われた通りにあやしいかぜを撃つ。しかし男は眉一つ動かさない。そして一言だけ言う。

 

「受けろ。シビルドン」

 

 シビルドンと言われたポケモンはあやしいかぜを見事に受け切った。傷一つ付いていない。それを見てナナが舌打ちをする。そして再び僕に指示を出す。

 

「やきつくす!」

 

 青い炎がシビルドンを言われたポケモンを囲う。しかしシビルドンは軽く身震いして炎を払った。ただの身震いだけで僕の炎が払われたのだ。完全に格が違う。明らかに勝てる相手じゃない。今のシビルドンの動きで、それがハッキリと分かった。完全に次元が違うのだ。

 

「……ダークライ。もういいわ」

 

 ナナも察したのか僕に指示を出すのを辞めた。完全に降参した様子だった。初めてだ。ここまで手も足も出ない相手というのは……

 

「もう終わりかい?」

「うん……やっぱり桁違いだよ……お兄ちゃん」

 

 その言葉に僕は驚愕した。まさか、この人がナナの兄だと言うのか!

 

「久しぶり。ナナ。旅に出たというから様子を見に来たよ」

「お兄ちゃんは強すぎます!」

「それが経験の差というものだ。ナナも知っての通りポケモンにはレベルが存在する。レベルが違えばダメージすら与えられなくなる」

 

 ああ、やっぱりこの世界にもあるのか。ゲームと同じくレベルというものだ。恐らく相当レベルの高いシビルドンだろう。あまりに圧倒的で覇気が違い過ぎる。

 

「しかしレベルを上げればどんなポケモンだって強くなれる。それを忘れないように」

「はい」

「そして俺を超えるって言うのは、この次元まで到達するということだよ。ナナ」

「ええ。私は絶対になりますから。お兄ちゃんと同じチャンピオンに!」

「ふっ……それならナナが来る時まで負けるわけにはいかないな」

 

 いまとんでもないことを言わなかったか?

 聞き間違いじゃなかったらナナはチャンピオンと言った。つまり、それはナナがチャンピオンの妹だということになる。まさか血統からして優秀な子だったとは……

 

「しかしダークライか。随分と珍しいポケモンを捕まえたな。俺も実物を見るのは初めてだ」

「お兄ちゃんもダークライを知ってるの?」

「ああ。名前だけならな。ダークライは広い技範囲に素早い動き、そして高い攻撃力を誇るポケモンだが、打たれ弱いところがあるから今のシビルドンのような攻撃を受けるという戦い方は不向き。しかしダークライの本当の強さはそこじゃないけどな」

「ダークライの本当の強さ……」

「答えは聞かないのか?」

「聞いても教えてくれないでしょ……それにダークライの戦い方は私が旅の中で見つけていくものだから」

「よくいった! まぁー答えを自分で探そうともせず、すぐに聞くやつは強くなれない」

 

 ダークライの本当の戦い方。今とは違う戦い方があるというのか?

 それは一体なんなのか……もしかして俺はダークライの本当の強さを引き出せていないんじゃないのか?

 

「それで話を戻すがナナはどこまで学校でレベルについて習った?」

「レベルを上げる方法はポケモンバトルをすること。そしてポケモンの現在のレベルを確認する術はない。同一種のポケモンでも、身体能力に大きな差があり、その差をレベルと表現したというところまでかな」

「そうそう。まさか、ここまで満点回答の答えが来るとは。普通のトレーナーなんてレベルはポケモンの強さを表すものとしか答えられないんだぜ」

「それで、その様子だとお兄ちゃんはレベルについて私に伝えたいことがあるのんだよね」

「ああ。最近、ポケモンと旅して気付いたんだが、ポケモンのレベルってバトルで勝っただけじゃ上がらないみたいなんだ。これから検証を重ねて、論文を書いて博士に報告するつもりだ」

「え? それってすごい大発見じゃん!」

「ああ。だからナナには俺が気付いたポケモンのレベルを上げる方法の仮定の話をしようと思う。今日はそれを伝えに来たんだ。そして実際に試してみてデータを集めてほしいんだ」

 

 ゲームでは少なくとも野生ポケモンを倒していたらレベルは上がった。しかし、それはおかしな話だ。それだと自分より格下をひたすら倒してもレベルが上がるのだ。そんなことが本当にありえるのだろうか。もしもそうだとしたら弱いポケモンを集めてレベル上げのために狩る施設があってもおかしくない。しかし、そんな施設がある雰囲気はない。

 

「それってなに?」

「ポケモンのレベルが上がる条件。それは恐らく『困難を乗り越えること』だ。つまり強いポケモンと戦って、勝てばそれだけレベルが上がる。逆に弱いポケモンをいくら倒してもレベルには一切影響しない。それが俺の仮説だ」

「そういえば……」

「心当たりがあるのか?」

「うん。とんでもなく強いトロピウスを倒してからダークライの動きが前より明らかに速くなった。それに攻撃力も随分と上がった。そこら辺にいるトレーナーのポケモンなら一撃で倒せるくらいには……」

「間違いなくレベルが上がったと見ていいな」

「だよね」

「しかし、論文として書くにはもっと実例が欲しいところだな……」

「お兄ちゃん。長話になるなら外で話さない?」

「そうだな」

 

 そうしてナナとチャンピオンは洞窟の外へと歩き始めた。心なしかナナの声がワントーン高くなっていた気がした。それに先程から明らかに口調も違い過ぎる。兄の近くだとこうも性格は変わるものなのだろうか……

 

「……ナナ。気付いてるか」

「うん。あと数秒後に野生ポケモンが飛び出してくる。この音的にドーミラーかな?」

「正解」

 

 ナナの言った通りにドーミラーが飛び出してきた。そういえばナナは毎回、野生ポケモンが飛び出す少し前には反応していた。考えてみたらそれは誰にでも出来ることではない。もしかしてナナはバトル面以外でもトレーナーとして優秀なのではないか?

 

「私が倒すね! ダークライ! あやしいかぜ!」

 

 いつものようにあやしいかぜを撃つ。紫色の突風がドーミラーを襲い、一瞬で撃退する。

 

「まぁそうなるか。ハクガ山よりエラニの森のポケモンの方が強い。エラニの森を抜けてきたナナのお相手にもならないのは当然か」

「お兄ちゃん。改めて言っておくけど、私はこのダークライとお兄ちゃんを超えるからね」

「……その日が来るのを期待してるよ」

 

 そうして洞窟から出て、チャンピオンは飛び立っていった。ナナはそれを手を振って見送った。あれが現チャンピオン。そして超えるべき壁か。

 

「あーやっぱりお兄ちゃんは規格外だわ! あそこまで頑張ったのにダメージすら与えられなかった。強くなったと思ったんだけどなぁ」

 

 正直に言うと僕もあれは完全に予想外だった。チャンピオンに勝てるとは思っていなかったが、少しくらいはダメージを与えられると思っていた。でも現実は違う。明らかに格が違う。

 

「まぁ旅を始めて数日の私達がチャンピオンと対等に戦えるっていうのもおかしな話か」

 たしかに。それもそうか。こんな簡単にチャンピオンにダメージを与えられたら、威厳の欠片もない。誰だってチャンピオンになれてしまう。

「でも、お兄ちゃんの腕が衰えてなくて満足!」

「……?」

「だって超える壁は高い方が楽しいでしょ?」

 

 圧倒的な力の差。それを見せられても彼女は兄を超えるつもりでいる。それなら僕もそれに答えよう。彼女の想いに全力で答えよう。彼女が折れる、その時まで僕も諦めない。

 

「さぁダークライ。街が見えたよ。私達が始めて訪れる街。ハクガシティよ!」

 

 そして僕たちは初めてのジム戦をする。

 




The補足
作中でも述べた通り、この世界ではゲームと違い、自分のポケモンの現在のレベルを確認する術がありません。そして少し踏み込んだことまで補足しますとゲームではポケモンのレベルは100までしか上がらなかったのに対して、この世界ではレベルには上限というものがありません。そのためどんなポケモンでもレベルさえ上げれば勝つことが出来ます。
その結果として『強いポケモン。弱いポケモン。そんなの人の勝手。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てる』という考えに拍車がかかっています。

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