目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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12話 エピソード:ダークライ

 ジム戦を終えて、その日はゆっくりと休むことになった。これからはハクガ山を西に降りて、海に向かい、デトワール地方最大の都市であるカイオウシティを目指すことになる。そして、そこで二戦目のジム戦だ。

 

「……ダークライ。あなたジム戦で活躍出来なかったのを気に病んでるんでしょ?」

 

 そして部屋でナナが僕の考えを見通したかのようにそう言った。事実その通りだった。僕は殆ど活躍出来ていない。今回もしも僕以外のポケモンだったら、すんなりと勝てていたはずだ。それこそエラニの森にいたスピアーを捕まえた方がよっぽど……

 

「……たしかに今回の貴方は殆ど活躍できていなかった。慰めても貴方は納得しないだろうか敢えてそう言うわ」

「……」

「でもね、それでいいのよ。私はポケモンに強さだけを求めてるわけじゃないから。強くなりたいだけなら、あのトロピウスみたいな個体を捕まえてるわ」

「……ナラ、ナナはナニを求メル?」

「そうね。上手く言えないのだけど『このポケモンと勝ちたい!』と思えるかどうかかしら。どうやって勝つかなんて心底どうでもいい。誰と勝つか。それが大事なのよ。だから綿は私が好きなダークライやムンナと一緒に勝ちたいの。たとえ弱かったとしてもね」

「デモ……」

「そんな甘い考えじゃチャンピオンなんて夢のまた夢なのは分かってる。でも、どんな弱いポケモンでも強いトレーナーが使ったら輝けると思ってるの。だから私はもっと強くなるわ。あなた達でポケモンリーグを勝てるくらいに。だから、もう少しだけ私は見切りをつけないで一緒に旅をしてくれる? ダークライ。絶対に貴方を活躍させられるポケモントレーナーになってみせるから」

 

 違う。そうじゃない。もっと責めてほしいんだ。『弱いダークライなんていらない!』って。そういう彼女の欠点らしいところを見ないと……あまりに完璧過ぎて憂鬱になってくる。ナナは完璧過ぎる。僕みたいなポケモンが見合うトレーナーじゃないんだ。

 その日、僕はナナの元から離れた。

 

 夜の街を歩く。到着したらいきなりジム線だった。考えてみたら観光する暇もなかった。雪の街を一人寂しく歩く。今の僕じゃナナに見合わない。きっとこれからもナナの足枷にいなってしまう。だって僕は弱いから……

 

「よ、久しぶりだな!」

 

 そんな時だった。僕の目の前に小さな白色のリスが現れた。黄色い頬袋をした可愛らしいリス。名前はたしかパチリスだ。

 

「どうしてここにいる?」

「なぜって俺も主人を見つけて、旅に出たからよ。今は自由時間。それで散歩をしてるのさ」

 

 僕がダークライになって間もない頃に出会ったパチリス。まさかトレーナーに捕まっていたとは……

 

「それでダークライはどうしてここにいる?」

「僕もトレーナーを見つけたからな」

「そうか。とりあえず、これでも食えよ」

 

 そう言うとパチリスは僕にモモンのみを渡してきた。僕はモモンのみを一口齧る。それはすごく甘かった。そういえばきのみってこんな味だったんだな……

 

「それでダークライのトレーナーはどこだ?」

「……」

「家出ってやつかぁ。もしかしてトレーナーに不満があるのか。それならうちに来るか?」

「違う!」

「そんな怒るなって。俺のトレーナーは良いぞ。この間だって見事な采配で、ここのジムに勝ったしな。あそこまで才能のあるトレーナーはそうそういねぇぜ」

 

 才能のあるトレーナーか。ナナだって才能はある。それこそ、そこのパチリスのトレーナーとは引けを取らないくらいあるだろう。

 

「パチリスは不安に思わないのか?」

「ん?」

「トレーナーが天才過ぎて、もしかしたら自分が足を引っ張っているんじゃないかって思うことはないのか? 自分なんかいない方が高見に行けると思うことは……」

「ああ、そういうことか。正直言うと俺もある」

 

 やっぱりそうなのか。しかしパチリスはどうして憂鬱にならないのだろうか。そんなトレーナーに付いていけるのだろうか。

 

「……でも、それはトレーナーも同じなんだよ。トレーナーだって『ポケモンが優秀過ぎて自分のせいで全力を出せていないんじゃないか』って不安を抱えてる。だから互いに同じだと思うようになったら少し楽になった!」

「そうか……」

「お前が不安に思うってことは同じことをトレーナーだって不安に思っているはずだ。だから俺は強くなって相手に勝って『それは違う』ってことをトレーナーに教えてやるしかないと思った」

「……それでも勝てなかったら?」

「さぁな。でも俺も全力、トレーナーも全力なら絶対に負けない。もしも負けたなら、お前自身が全力を出せていなかったんじゃないか?」

 

 全力か。あの時に勝てなかったのは俺がどこか本気になれずにいたから。トロピウスの時は命の危険があったから全力だった。しかしジム戦は負けても死ぬことはないと、心のどこかで気が抜けていたのかもしれない。

 

「……ダークライ!!」

 

 そんな時だった。ナナが寝巻きのままこちらに走ってきた。髪もボサボサで息も切らしている。きっと街中を走り回って探したのだろう、この寒い夜の街の中で……

 

「ここまで探しにくるなんて良いトレーナーじゃねぇか」

「なら俺も良いトレーナーか? パチリス」

「もちろん。ノエル」

 

 そして反対側から白いロングコートを羽織った少年が現れる。そして少年の後ろにはダイオウゾクムシと武者を合わせたようなポケモンがいた。明らかに強そうなポケモン。あの時に見たポケモンとはまるで違う。この短期間にここまで変わるもんなのか。そしてノエルの姿を確認するとパチリスは尻尾を振りながらノエルに駆け寄る。ノエルは駆け寄ってきたパチリスを優しく抱き抱えて撫でるとボールに戻した。

 

「久しぶり。ナナ」

「……あなたのコソクムシ。グソクムシャに進化したのね」

「ああ。なんていったって俺はチャンピオンになるからな」

「チャンピオンになるのは私よ」

 

 ノエル。ナナと同じエラニの村出身のトレーナー。そしてナナの同期。しかし貫禄が明らかに数日前に旅を始めたトレーナーのものではない。それこそベテラントレーナーが纏うようなものだ。

 

「……期待を裏切らないでくれよ。俺の最大のライバル」

 

 それだけいうとノエルは去っていった。グソクムシャとパチリスを連れて……

 ナナはそんなノエルを遠目に見ながら、そっと呟いた。

 

「さすがね……この短期間でグソクムシャまで進化させるなんて」

 

 それからナナは背後から僕に抱きついた。力強く抱きついた。そして泣きながら僕に言う。

 

「そしてダークライ……私を捨てないで……私にはあなたが必要なの!」

「ナナ……」

「私に悪いところがあったなら直すから! 私はまだまだ貴方と旅をしたいの! 弱くてもいいから貴方といたいの!」

 

 僕もそっとナナを抱き返した。ほんとうに僕がナナと一緒にいても良いのか。きっとそれは良いのだろう。ナナ自身が僕がいないと困るのだろう。

 

「……ダークライ」

「スマン……」

「私だってごめんなさい。貴方のこと分かった気になって、なにも分かってなかった」

「モット……強くナリタイ」

 

 その言葉にナナが虚を衝かれたような反応をする。

 それから、すぐに二つ返事で答えた。

 

「そうだね。私も強くなりたい。ダークライの力をもっと引き出せるくらい強くなりたい。だから一緒に強くなろう?」

 

 その日から僕は晴れてナナのパートナーになれた気がした。

 一人で強くなるんじゃない。一緒に強くなるんだ。ナナと二人で強くなるのだ。

 

 これは僕が好きな人の夢を叶える物語。

 

 そして、僕とナナの二人で強くなる物語だ。

 


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