目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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2 動き出す組織
13話 悪の組織


 ハクガシティを無事に出られる。そう思っていたのは幻想だった。現在、僕はソリから振り下ろされないように必死にしがみついていた。

 これはハクガシティ名物のオドシシの引っ張るソリに乗って山を下るものである。乗っている理由としては簡単だ。ナナが山下りは疲れるから嫌だと言ったからだ。

 

「ダークライ。ボールに今だけ戻れば?」

「ア、アア……」

 

 今までボールから出て旅をしていた。理由としては簡単でナナと一緒にいたかったから。しかしさすがにこれは限界だ。僕はナナに言われた通り。大人しくボールに戻る。

 そしてナナは何事もないかのように高速で山を下るソリの中で本を読んでいた。

 

 山を下り終えて、雪林に着く。そして周りの安全を確認してからナナが僕をボールから出した。外の空気が体に染み渡る。やっぱり外の方が良いな。うん。

 

「……さて行きましょうか」

 

 雪道を西に向かって歩く。歩いていくたびに雪は減っていく。もう雪ともお別れか。そういえば次の街は海のほうだと言っていた。次の街は暖かいのだろうか?

 

「ここからカイヨウシティまで結構、距離があるのよね。雪道が終わったら次は林。そこを抜けたら大きな平原に出て、まっすぐ歩くとカイヨウシティよ」

「ウム……」

「まぁどこかで野宿でもしましょう」

 

 そんな時だった。ナナの目の前に二人のスーツ姿の男が立ち塞がった。しかも明らかに敵意を向けている。

 

「フフッ。ダークライなんて随分と珍しいポケモンを連れてますね」

「なんか私に用があるんですか?」

「はい。あなたのダークライを頂ければと思いまして」

「お断りよ」

「それなら力ずくで」

 

 スーツの男二人が同時にボールを投げる。それは物凄い目付きが悪いポケモンだった。目の色が充血したように赤くなっており、邪悪な禍々しいオーラを放つヒトカゲが二体。

 あれ? おかしい。初めてのはずなのに、これに似たようなポケモンをどこかで見た気がする。

 

「……なに、そのポケモンは!」

「これは科学の力ですよ。我々『ゴゥー団』の科学によって無理矢理、力を引き出したポケモン。名付けて『ダークポケモン』」

 

 まずい。これは明らかに関わってはいけない団体だ。あまりこういう表現はしたくないのだが、恐らく『悪の組織』だろう。

 

「あなた達! そんなことが許されると思ってるの?」

「強さだけが正義です」

「ダークライ。あやしいかぜ!」

 

 僕は言われた通りにあやしいかぜでヒトカゲを吹き飛ばした。ヒトカゲが少しだけ痛がる素振りを見せる。しかし、なんともなかったかのように起き上がり、再び襲いかかってくる。仕方ない。ならもう一度だ。そう思った時だった。僕はナナに無理矢理ボールに戻された。ナナはボールに戻すなり、すぐに林の中を走る。それに対してゴゥー団と名乗った輩も追ってくる。

 

「あれは間違いなくヤバいわ! 勝てる勝てないの問題じゃない。ダークライ。絶対に正面から戦ったらダメ! 私もダークライも怪我なんかじゃ済まない!」

 

 ナナがボール越しにそう言って林の中を走り回る。しかしヒトカゲも追ってくる。炎を吐き、林を焼きながら追ってくる。なんだ、あのヒトカゲは……

 

「一応言っておくけど私もあのヒトカゲについてはなにも知らないわ。それにダークポケモンなんて言葉に心当たりもない! 完全に非合法ななにかよ!」

 

 そしてナナは茂みに飛び込んで、息を潜める。

 

「……あの小娘。どこに行きましたかね?」

「俺は知らねぇぞ。しかしダークライを連れたトレーナーが本当にいるとは」

「まぁいいです。今は戻りますよ」

 

 そういうと男達は禍々しいオーラを放つユンゲラーを出して、テレポートをして、この場から去っていった。しかしナナもその場から動かない。いや、正しくは腰が抜けて動けないと言った方が正しいのかもしれない……

 僕はナナを安心させるべく無理矢理ボールから出て、声をかける。

 

「ナナ……」

「ダークライ。もう大丈夫よ、起き上がるのに少し手を貸してくれる?」

 

 僕はナナに手を貸す。ナナはそれを掴み、立ち上がった。今の連中は明らかにヤバそうな雰囲気だった。もしも、あの連中に捕まったら……

 

「……はぁ怖かった」

 

 明るそうに言うがナナの声は震えていた。しかしダークポケモン。生前にどこかで見た気がするんだよなぁ。しかし間違いなくゲームには無かった要素。それじゃあどこで見たのだろうか?

 

 しばらく考える。そして思い出した。ダークポケモンはポケモンGOの要素だ。ポケモンGOは本家の方ではないポケモンのゲーム。位置情報を使ったスマホで出来るゲームで一時期社会現象になっていた。そしてなんで知っているかと言うと偶然ネットニュースで取り上げらいるのを見たからだ。しかしGOの方ではシャドウポケモンと呼ばれていたはずだ。それにGOロケット団という輩が使う技術で……

 

「とりあえずジュンサーさんに報告しなきゃ……」

 

 ナナは携帯電話を使ってジュンサーさんに話す。しかし、シャドウポケモン。そのことをなんとかして人間に伝えられれば良いのだが……

 僕は人間の言葉を喋れるとは言え、カタコトだ。それに長時間の会話は難しい。一度に話せて数種類の単語くらいだ。それに実は喋るのは疲れる。相槌くらいなら問題なく出来るのだが……それ以上になるとキツイ。つまり喋って伝えるのは難しい。もしも間違って受け取られたら大変だ。

 

 そして、ここにきて現れたポケモンGOの要素。今までは基本的にはポケモン本編の要素だけだと考えていたが、それは違う可能性が出てきた。この世界はもしかしたら僕の知っているポケモンとは大きく異なるのかもしれない。クソ。どこかで僕と同じ転生者に会えれば色々とこの世界について照らし合わせることが出来るというのに!

 

「しかし許せない……すごくヒトカゲが苦しそうだった」

「……ナラ。ドウスル?」

「なにも出来ないわよ。漫画の主人公なら立ち向かうのだろうけど、私は出来ない。だから悔しいのよ」

 

 しかし狙いは完全に僕だった。それに僕はダークライ。あいつらのポケモンはダークポケモン。つまり『ダーク』が被っているのだ。いや、さすがにそれは考え過ぎか。

 それから数分が経つとジュンサーさんが来た。ジュンサーさんは、ポケモンの世界で警察に位置する存在だ。そして、それとは別に色々な地方に飛び回り、世界的な犯罪の対処をする国際警察なんていうものもいるらしいが……

 

「なるほど……ダークポケモンにスーツの人間。そしてゴゥー団ですか」

「はい」

「ゴゥー団は人からポケモンを取って、そのポケモンを改造して戦わせたりする組織。そして三値説の信仰者の集まりです。そして目的は強くなること。ただそれだけの集団という話。最近は各地で被害報告が増えています……」

「強くなりたいなら普通にポケモンを育てなさいよ」

 

 ナナが呆れたように言う。しかしジュンサーさんは違った。

 

「それが奴らにとって普通なのです。三値を信じて、良い個体が生まれるまで厳選して、そのポケモンをダークポケモンにしてさらに強くする。しかもそれだけに留まらず、人のポケモンを奪うこともある。でも、それが奴らにとって当たり前なのです」

「狂ってるわ」

「そうですね。しかし強いのは事実です」

 

 そうして被害届を出して、近くのポケモンセンターまで送ってもらい、ジュンサーさんと別れた。ポケモンセンターは活気があった。バトルをするトレーナーに、コーヒーを飲みながらポケモンと新聞を読むトレーナー。そんな様々なトレーナーがいた。

 

 またナナは僕をボールから出しているので、物珍しさに勝負を挑むトレーナーもいた。もちろんナナは苦戦の一つもすることなく勝った。

 しかし、あの事件を受けて僕をボールから出しているのは危険だと思うのだが、ナナいわく既に私の顔写真が組織内で出回っているだろうから隠す意味は無いとのことだった。

 

「現在二十八連勝。それなりに小遣いもあり」

 

 ナナは財布をジャラジャラと鳴らしながら、そう言った。今回は初心者狩りではない。勝負を仕掛けてきた相手を返り討ちにしただけだ。恐らくなんの問題もないだろう。

 

「しかし外に出ればゴゥー団に襲われる可能性もあり。旅を再開するのは危険。さて、どうしたものか」

 

 旅はここにきて、壁にぶち当たっていた。ゲームなら悪の組織は返り討ちとなにも考えずに冒険していたが、現実はそうもいかない。ナナの言う通り勝てる勝てないの問題じゃないのだ。単純に危険すぎる。それが一番の大きな問題なのだ。

 

 旅に危険は付き物なのは分かりきっていたこと。事実としてトロピウスとの戦いの時はこの上なく危険だった。しかし、あの時は悪意はなかった。だが今回は悪意がある。

 

「やぁーやぁーお困りのようだね」

「……またバトル? ほんとに懲りないわねぇ」

 

 そんな手詰まりの中で黒い猫耳パーカーを着た女の子が声をかける。

 声をかけてきた人に呆れたようにナナは返事する。しかし声の主は首を横に振った。猫耳パーカーで隠れていて顔は良く見えない。それじゃあ一体なんの用だというのか……

 

「あなたは!」

 

 その時だった。ナナが声を挙げた。少しだけ喜びが混ざった声。彼女がフードを捲る。その顔は見覚えのあるものだった。忘れもしない。僕の初めてのバトルの相手。

 

「久しぶり! ナナ!」

「メア!」

「困ってるようだから親友の私が来たよ! 嬉しい?」

 




The補足
ゴゥー団。
本編のポケモンで言うところの『ロケット団』や『プラズマ団』に該当する悪の組織である。目的は『強いポケモンの確保』であり、近年デトワール地方に出没している。
そしてダークポケモンと呼ばれる凶悪なポケモンを使う。
ダークポケモンは本編では『ポケモンコロシアム』で登場した要素である。そしてポケモンGOで登場した「シャドウポケモン」と酷似していることや他に様々な類似点があることから、ポケモンGOのシャドウポケモンもコロシアムのダークポケモンも同じものだろうと考える人が多い。そして本作品では両者同じものとして扱うことにする。

PS
ダークポケモンに関しましてはタグを付けると「主人公側が悪役でダークポケモンを使う作品なのではないか」と勘違いして読みに来たくださった方の期待を裏切ってしまう恐れがあったためタグ付けはしていません。ご理解頂けると幸いです。

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