目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
ダークライ。
あんこくポケモンと言われていて、人々を眠らせる力を持っている。また悪夢を見せて自分の身を守る幻のポケモン。一説によると悪夢を見せるときダークライに悪気はないらしい。
頭を全力回転させて『ダークライ』というポケモンについて思い出すが、それしか思い出せない。そしてもっと真面目にポケモンをやっておけばよかったと後悔する。たしかポケモンには種族値とか個体値というものが存在していたはずだ。しかし僕には分からない。
僕もポケモンをやってはいたが、ガチではない。だが、殿堂入りをして終わらせるくらいにはやっていた人間だ。正直に言うとポケモンは小学生くらいの頃にプラチナをやっていただけ。タイプ相性も分かるが、それだけ。イッシュ地方以降の彼女のやってるウルトラサンを横目に見ていただけだから、分かるのと分からないのがいるし、シンオウ地方以前のポケモンだって記憶は曖昧だ。しかし、ダークライというポケモンがとんでもないレアポケモンだということも分かる。基本的に幻のポケモンと伝説のポケモンは希少価値が高いというのも知っている。
もっともこれが夢の可能性もある。だけど、これは夢ではないと本能が訴えかけている。もっというなら異世界転生に近いナニカだと。だから僕も目が覚めるまではここが現実だと思って過ごすつもりだ。しかし過ごすと言っても人目につかないようにひっそりと暮らすだろうが。
正直言ってポケモンバトルとか御免だし、ダークライみたいな幻のポケモンがいると分かったら大騒ぎになる。だから身を隠しながらひっそりと暮らすのだ。そう思いながら慣れない体を動かしながら森を彷徨う。そうすると背後から何者かに話しかけられた。
「おい、お前! 見ない顔だな!」
誰だ?
そう思いながら声をする方を向く。すると、そこには白い体に黄色い頬をしたリスがいた。たしか名前はパチリスだ。そして考えてみたら僕はポケモンだ。つまりポケモンの言葉が分かるのか。
「なんてポケモンだ?」
「……ダークライ」
「聞いたことないな。しかし、どうしてここにいる?」
「気付いたらここにいた」
「ここはフシギバナ様の縄張りだ! 用事がないなら出ていけ!」
なるほど。野生の世界だから縄張りというものがあるのか。もっとも関わるのも面倒だし大人しく従うが。
「分かった。しかし僕はどこに行けばいい?」
「ここから右に真っ直ぐ行くと川がある。その川を渡った先少し前までオーロットの縄張りだったが、そのオーロットもトレーナーに捕まり、今は誰の物でもない。だから、そこに行け」
「トレーナー?」
もちろん意味は分かる。おそらくポケモントレーナーのことだろう。しかしここでポケモントレーナーというのはどういうものなの確認しておきたい。
「トレーナーを知らないでよく生きてこられたな……トレーナーというのはポケモンを捕まえて戦わせてくれる人間のことだ。しかし悪い奴らではない。多くのポケモンは戦いが好きだし、戦う場所を求めている」
「ならパチリスはどうしてトレーナーに捕まらないんだ?」
「たしかにトレーナーに仕えるのはポケモンにとって最大の幸せと言える。しかしトレーナーに仕えるということは、そいつと死ぬ時まで一緒に過ごすことになる。だから俺は俺が仕えるに相応しいトレーナーが来るのを待っているんだ」
「なるほど……」
考えてみたら、それもそうか。トレーナーなら誰でも良いというわけじゃない。ポケモンにだってトレーナーを選ぶ権利くらいあるよな。
「基本的に俺たちは人間が好きだ。だから相当な荒くれものじゃないポケモンでもない限りポケモンを持っていない人間は襲わない。人間とポケモンは心地良い共存関係を築いているからな。お前も間違っても人に襲い掛かるんじゃねぇぞ。そして困っている人間がいたら手を貸してやれよ」
そうして僕はパチリスと別れた。ポケモンと人間の関係。もっと殺伐としているものだと思っていたけど、違うものみたいだな。まだ分からないことだらけだ。でも、やっぱりバトルはしたくない。痛そうだし……。というより技を僕は出せるのだろうか。どうやって技を出すのかまったく分からない。試しに技を出してみたいが、僕はダークライ。ダークライは比較的強いポケモンだと記憶している。下手したら技の威力が高すぎて大惨事になるかもしれない。だからやめておいた方が無難だろう。
「……お願い!」
歩いて川に出るとモンスターボールをパチリスに投げる少女がいた。先程のパチリスとは別個体だろう。そのパチリスは簡単にボールを尻尾で弾いて、森の奥深くへと逃げていった。そして少女は泣き崩れる。そんな少女に近くにいたコラッタが心配そうに寄り添う。
「やっぱり、私にはトレーナーの素質なんてないわ……お兄ちゃんみたいになれないわ」
僕は少女を見て驚愕した。そして涙が流れた。なぜなら少女の姿が……
「ナナはダメな子なんです……学校でも成績最下位……」
さらに少女が一人称で自分の名前を言う。ナナという僕の彼女と同じ名前。死んだ僕の彼女の名前。そして、なによりも彼女と瓜二つの容姿。彼女が誇りに思っていた雪のように白い髪。それになにより赤色の目。年齢は少し若いけど……間違いなく彼女だ。僕の好きだったあの人だ。僕はのんびりと彼女に近づく。
「な、なに!」
僕の姿を見て彼女が怯える。近くにいたコラッタが唸る。少しうるさいな。でも傷付けるのか可哀想だ。不思議なことにどうすればいいか分かる。僕は真っ黒な手をかざしてコラッタを眠らせる。僕はダークライ。眠らせるのは得意だ……
「……ナナ」
「ポケモンが喋った?」
言葉が通じたことに少し驚く。いや、考えてみたら幻のポケモンだし、そのくらいの不思議能力はあるのか。特にダークライはアニメの映画でも喋っていた気がする。しかし言葉がなんか変な気がする。少しカタコトな気がする。まぁいい。
「オマエの……ユメを……イエ」
「お、お兄ちゃんみたいな立派なポケモントレーナーになること! ポケモンリーグを優勝してチャンピオンになってお兄ちゃんを超えたい!」
彼女と同じ夢。ポケモンリーグを優勝してチャンピオンになる。彼女の手助けをしたい。彼女をチャンピオンにしたい。心の底からそう思った。あの時に果たせなかった夢。今度こそ果たしたい。彼女の夢は僕の夢だ。
「ソコの……ボール……」
「え?」
「ワレをツカマエロ……オマエの……ポケモンに……なってやる!」
「う、うん!」
優しく彼女がモンスターボールで僕に触れる。そしてボールに吸い込まれる。ちょっとでも抵抗すれば簡単に出られそうだ。でも抵抗はしない。僕は彼女のポケモンになって、彼女の夢を叶えたい。彼女が果たせなかった夢を次こそは果たしたい。強くそう思ったのだ。
僕はその日、彼女のポケモンになり彼女をチャンピオンにすると決めたのだった。
The補足
パチリスの言った通り、野生のポケモンは人間には基本的に寛大でポケモンを持っていないトレーナーを襲うことは殆どない世界観ですが、『ナワバリに侵入した』や『エサをよこどりした』などの事情があればポケモンは普通に人間に襲いかかってきます。そのためゲームと同じくポケモンを持たないでポケモンの生息域に行くことは普通に危険を伴う行為です。