目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
カイヨウシティ。それは大きな街だった。まるで日本の新宿のような場所だ。高層ビルに囲まれて色々なお店もある。お菓子屋に服屋とか女の子向けのお店も多い。しかし僕は悲しきかな。ボールの中だ。理由は簡単。さすがにここでボールから出していると目立つから。
そしてナナは代わりにムンナをボールから出してジム戦よりも先に服屋に行っていた。
ちなみにメアとは一時的に別れ、数時間後にポケモンセンターで落ち合う予定となっている。
「見て! ムンナ! めちゃくちゃ可愛くない?」
「ンナァァァァァァァァ!(心底どうでもいいぃぃぃぃぃ!)」
なんだこのムンナ! どうでもいいならガチでそこ変われよ! おい! この野郎が!
「だよね! 可愛いよね!」
いや、ナナは気付け! こいつまったく絶賛してないぞ!
ていうかナナは僕のボールを更衣室に置いて着替えるなよ! ボールの中からって普通に外が見えるんだよ! つまり目の前でナナが生着替えしていて非常に目のやり場に困る。たしかに今までの旅でも寝巻きに着替えたりはしていた。でも、それはあくまで日常の動作。しかしここは違う。この試着室という密閉された空間で着替えられると普段だとありえないシチュエーションで戸惑うのだ! まぁ下着姿のナナも可愛いんだが……
「赤いワンピース。でもやっぱり私は黒の方が好きかな……ちょっと高いけどやっぱりこれかな」
僕はナナの着ようとした服に驚いた。この服。ナナが生前大好きだった服と同じだ。可愛らしいフリルに膨らんだスカート。そして赤いリボン。そして白色のタイツ。その姿には明らかに少女らしさがあった。それになによりも僕はこの服をよく知っている。ロリータ服だ。僕の彼女が大好きだった服……
ナナはロリータ服を着て、クルリと回る。
「うん! 可愛い! 少し動きにくいけど、これにしよ!」
桜月奈菜……
その名前が僕の口から漏れた。生前の僕の彼女の名前だ。そして今も忘れられない人。
気付いたらボールから出ていた。出たら怒られるということは分かっている。
「ち、ちょっと! ダークライ!」
そのままナナを強く抱きしめる。ずっと会いたかった。こうして奈菜を抱きしめたかった。
「泣いて抱きついてどうしたの? 怖い夢でも見た?」
「奈菜……」
「よしよし。ナナここにいるからね。ずっとダークライの傍にいるからね」
それからナナは僕をボールに戻して、会計を済ます。お値段はなんと二十万。しかし躊躇うことなく出した。最近ポケモンバトルで勝ちが続いていたし、金銭に余裕はあるのだろう。
そしてナナはロリータ服だけ買うと、その場で着替えて服屋を後にした。それからはポケモンセンターに戻り、メアと再会する。そのはずだった。しかし大都市のポケモンセンター。なにも起きないはずがなかった。
「おい、ポケモンバトルしよーぜ!」
「……ジムバッジは?」
「一つだ!」
「いいわよ。やりましょう」
キャップ帽を被った短パンの少年にバトルを仕掛けられる。ナナはボール越しに僕を見て様子を確認すると、頷いてバトルを受けた。
「ダークライ。頼んだわよ!」
「ゆけっ! ヒノヤコマ」
「ヤマッ!(今回も勝つぞ!)」
「ああ! ヒノヤコマ。ニトロチャージ!」
炎を纏ってヒノヤコマが突進してくる。ナナはそれに対して「躱せ」とだけ指示を飛ばす。言われ通りに躱す。しかしヒノヤコマを怯むことなくニトロチャージをこちらに使ってくる。しかしナナから攻撃の指示が来ない。まるでなにかを警戒しているかのようだ。
「……ダークライ。もう一度避けて!」
「避けろという指示をするのはお見通しだ! ニトロチャージを撃つと見せかけてかげぶんしん!」
それによってヒノヤコマが五体くらいに増えた。増えるとかズルいだろ!
しかしナナはそれに対してニヤリと笑った。まるでこの瞬間を待っていたかのようだ。
「よし、ヒノヤコマ! そのままニトロチャージ!」
五体のヒノヤコマ。それらがまとめてニトロチャージを撃ってくる。回避が楽とは言え、さすがに五体同時の攻撃を避けるのは厳しいか。そう思っていた時だった。
「ダークライ! あやしいかぜで全てのヒノヤコマを蹴散らして」
「な!」
ナナが初めて攻撃の指示をした。それに迷わず従い、全てのヒノヤコマを消す。
あれ、待て。全てのヒノヤコマ? それなら本体はどこにいる?
「しまった!」
「ヒノヤコマ! つるぎのまい! そしてでんこうせっか!」
真上からヒノヤコマが降ってきて、僕を吹き飛ばした。中々に思い一撃。しかし耐えられないわけがない。簡単に立ち上がり、ヒノヤコマの方を見る。
「さっきの五体。全てが残像……本体は遥か上空にいた……」
「ご名答! そしてつるぎのまいをしたヒノヤコマは止まらないぜ! もういちどでんこうせっか!」
「……ダークライ。二歩下がって足元にあくのはどう」
言われた通りにあくのはどうを撃つ。どこにはなにもいない。少なくとも撃った時には。しかし数秒後にでんこうせっかでとまれなくなったヒノヤコマが自分であくのはどうに突っ込んできて戦闘不能になった。さすがにでんこうせっかで殴られた時はヒヤリとしたが、問題なく勝てたな。
「クソッ!」
「勝負ありよ。お金頂戴」
少年はナナに二万近くの大金を支払うとヒノヤコマを抱き抱えてジョーイさんの方へと駆けて行った。ナナはラッキーと言いながら財布に二万円を入れていく。
「しかしトレーナーの質も随分と上がってきた。ちょっとでも油断してたら負けるわね」
「アア……」
たしかにそれは感じた。今までのトレーナーは先手で技を仕掛けてこちらの勝ちにもっていけるパターンが多かった。しかし今回はそういうわけにもいかなかった。格上とは言わないが、間違いなく強いトレーナー。もっともジムバッジ一つ持ってる時点でジムリーダーを一人倒したということ。強くて当たり前か。
「ナナ。終わった?」
「ええ。待たせてごめんなさい」
「ていうか、この服! すごく可愛い!」
「メアは服は買わないの?」
「うん。今の猫耳パーカーに気に入ってるから」
「そっか。ていうかジム戦どうするの?」
ああ。そういえばこの街にもジムがあるのか。恐らく今回のジムも一筋縄ではいかないのだろうな。それこそ入念に作戦を立てないと勝てないくらいに……
「そうね……ジムに挑む前にムンナもダークライも私も強くなっておきたいのよね。それにスピアー。なんかスピアーを放置したままジム戦をするのも違う気がするの」
「スピアー……ナナはどうするの?」
「分からない。ただ……スピアーと仲良くなりたいとは思う」
スピアーと仲良くなりたいか。しかし、それは難しいんじゃないかと僕でも思う。スピアーの傷はそれほどまでに深い。
「そっか……でも焦っちゃダメだよ。スピアーにはスピアーのペースがあるんだからね」
「分かってるわ……」
「それじゃあ行こっ! ビーチに!」
そうしてメアに導かれるまま夜のビーチに行くことになった。ここカイヨウシティは大都市であり、海に面している。そのためビーチも普通に存在している。
そして夜のコテージに行き、海を眺めながらピラフを優雅に食べていた。近くにはグラスに注がれたブドウジュース。まるで貴族にでもなったかのようだ。
「しかしメア。よくこんな高いお店を予約出来たわね」
「ここは予約じゃないんだよ。バトルで勝った者だけが食事を出来るの」
「それじゃあメアは……!」
「うん! 勝ったよ! さすがにギリギリだったけどね……」
「フィィィア!(可愛さでは余裕の私の勝ちだけどね!)」
ニンフィアはブレないな。しかしポケモンセンターで軽く手合わせした相手ですら相当な強さだった。恐らくこの街のトレーナーは全体的にレベルが高いと考えていいだろう。それでもメアは勝ったのだ。やはり相当な実力……
「明日はなにしよっか~」
「やっぱりポケモンバトルじゃないかしら。お金が足りないし」
「そうなるのかなー。でも勝ち続けると強いポケモントレーナーに目を付けられて痛い目に遭うよ」
「その時も返り討ちにするわよ」
「……そっか。うん! そうだね。 でも、その自信はいつか弱点になるかもね」
「……どういうこと?」
「たしかにナナは強いよ。でも世界にはナナに匹敵するトレーナーなんて山ほどいる。ハッキリと言うけど、最近少し自惚れてないかしら?」
「そんなこと……!」
「あるよ。ナナは私とノエルとボルノ……そしてチャンピオン以外には絶対に負けないと思っている。そして負けたとしても負けを認めない」
そうして何事もなかったかのようにメアはピラフを頬張り、笑顔になる。
「美味しいね! ナナ!」
「メアはさっきの話……」
「なんのこと? 冷めないうちに食べよ!」
「そ、そうね」
あの時のメアの一言。まるで人格が変わったかのようだった。明らかに話を逸らした。まるでナナとの関係を拗れることを回避するかのようだ。そしてナナもメアとの関係が拗れることを嫌い。深くは言及しない。
「フィア~(メアはナナちゃんに教えてあげたかったんだよ~)」
「ナニヲ?」
「フィア(関係が拗れることを覚悟して告げたメアの勇気も汲んでほしいな)」
「……」
結局、メアは言っている意味が僕にはよく分からなかった。
ナナは強い。それこそ、そこら辺のトレーナーに負けるなんてことはありえない。それに僕だってあくのはどうを覚えてパワーアップしている。確実に成長していっててるのだ。そんな僕たちが負けるなんて……
「フィア。フィア(大事なのは勝ち負けじゃない。勝負からなにを学ぶかよ)」
このニンフィアは偉そうに言うが、こいつ自身はどうなのだろうか。こいつだってメアのポケモンになってそんなに日は経っていない。つまり先輩面される道理もないはずだ。それにメアだってそうだ。ナナより成績が良い。ただそれだけなのにどうして、そんなに偉そうなことが言える? あの時に僕とのバトルに勝ったからか? 舐めやがって!
「ダークライ。喧嘩するならボールに戻りなさい」
「ナナ!」
「戻りなさい。今は食事中よ」
ナナは強引に僕をボールに戻す。出ようと足掻くがナナに強く握られていて、ビクともしない。ボールは外から力を加えられると内側から開かないのか!
「ごめんなさい。私のダークライが」
「ううん。私もニンフィアも挑発するようなこと言ったみたいだからごめんね。ニンフィアもボールに戻りなさい」
「フィア!(なんでよ!)
ニンフィアも目の前で問答無用でボールに戻される。ざまあみろだ。
「……しかし、あれね。あとでニンフィアとバトル頼めるかしら?」
「そうだね。そうしないとダークライもニンフィアも納得しないよね。それでこういうのはどう? 『私達はポケモンに一切指示を出さないで戦わせる』」
食事を終えると異質なポケモンバトルがビーチで始まった。両者どちらも指示はなにも出さない。その方が互いに納得するだろうというメアの考えだ。正直に言ってありがたい。あそこまで言ったのだからトレーナーなしでやってほしいと思っていたところだ。虎の威を借りる狐ではないことを証明してもらおうか。
「ダークライ。ニンフィア。準備はいい?」
「アア……」
「フィン!(もちろん!)」
「それじゃあバトル開始!」
ナナの合図でバトルが始まった。まず最初に僕はあやしいかぜを撃つ。しかしニンフィアは上に飛んで回避。そしてハイパーボイスを使ってくる。これを回避……あれ、音技の回避はどうすればいい?
そう思っているうちにものすごい衝撃波に襲われて、吹き飛ばされる。それからニンフィアは迷うことなく体当たりを溝に決めてくる。これがドストレートに入って再び吹き飛ばされる。そしてニンフィアは挑発するかのように煽ってくる。
「ああ。弱い。相手にもなんない」
「なんだと!」
「結局あなたってナナちゃんがいないとなにも出来ないのね」
「そんなことはない!」
怒り任せで放つあくのはどう。それはニンフィアには当たらない。くそ! なんで当たらない! いつもなら間違いなく当たるというのに!
「少し遊んであげる」
「舐めやがって!」
「ほんと品のないポケモン。もっと頭を使いなよ」
あくのはどうをニンフィアに向かってうつがまったく当たらない。全て簡単に躱される。なぜだ! なぜ当たらない! こいつだってトレーナーはいないはずだ!
「普通にやって技が当たるわけがない。あなたの技が今まで当たっていたのはナナちゃんが相手のポケモンの隙を的確に見破っていたから」
「……そんなこと!」
「ならどうして当たらないの?」
「すぐに当ててやる!」
再び撃つあくのはどう。しかしニンフィアは簡単に避ける。ちょこまかと動きやがって! 当たれば勝てるというのに!
「私とあなたでは私の方が強い。あなたは勝負からなにも学ばない。だから弱い」
「黙れ! 僕も成長している!」
「レベルが上がった。技を覚えた。そんな上っ面だけの成長は成長なんかじゃない。高い身体能力と強い技を覚えているポケモンが強いの? 違うでしょ」
「じゃあ、強さとはなんだ!」
「そのくらい自分で考えなさい!」
ニンフィアが大きな声で吠えた。その吠声は衝撃波となる。まずい! ハイパーボイスだ! 反応しようとするが間に合わない。そのままぶっ飛ばされて戦闘不能に追い込まれた。薄れゆく意識の中でニンフィアの声が聞こえる。
「今回もあなたの負けよ」
すぐにナナは元気の欠片と傷薬を僕に使い。回復させる。勝てなかった。手も足も出なかった。自分が情けなくて仕方ない。まさかここまで返り討ちにされるなんて……
「ダークライ。大丈夫。いつか勝てるようになるわよ」
ナナはいつものように優しく言う。しかし本当にこれでいいのだろうか?
このままナナにおんぶだっこで良いのだろうか。
「それに貴方が弱くても私が勝てるようにしてあげるわよ。二人で強くなろうって言ったじゃん」
ナナが僕の頭をわしゃわしゃと撫でる。違う。それじゃあダメなんだ。僕とナナの二人で強くならないとダメなんだ。それだと強くなるのはナナだけじゃないか……
そんな時だった。バチンと叩く音がした。ナナの頬がメアによって平手打ちされる。それに対してナナは唖然としていた。
「ナナ。それは間違ってるよ」
「……メア?」
「今の言葉。ダークライを追い込むだけなんじゃないかな。トレーナーならポケモンに優しくするだけじゃダメなんだよ。時には厳しくすることも必要なんじゃない? それが分からないならナナはトレーナー失格だよ」
「……私は私のやり方で勝つ」
「それでもいいよ。ナナがどうするか。それは私が言うことじゃない。それじゃあ私は部屋に戻るね。ナナ。また明日」
ニンフィアがボールに戻される。そしてメアはこの場を後にする。夜のビーチにナナと僕だけが残される。静かに追い打ちをかけるかのように波の音が静寂に響く。
ナナは静かにボソリと言った。
「……ポケモンに優しくすることのなにがダメなのよ」
「ナナ……」
「だって――」
ナナがなにかを言った。だけど、その一言は波の音に掻き消されて聞こえなかった。
そして部屋に戻り、この日を終える。
その翌朝。ナナのモンスターボールが一つ消えた。
The補足
今回の作品を書くにあたって筆者が一番書きたかったのは『ゴスロリ少女とダークライ』なのです。ゴスロリ服を着る少女が優雅にダークライに指示を出すシーンを見てみたくて書き始めました。そのため今回のナナの衣装はある意味では一番書きたかったシーンでもあります。しかし本作でナナが着てるのはゴスロリではありません。それはなぜかと言うとゴスロリは退廃的なゴシックとの融合であるため、ナナのキャラと合わなくなったのです。そのためゴスロリから黒ロリへと衣装を変えています。
また現実のロリィタ服は暑くて動きにくい服装であり、旅には適しません。そのため本作では、そういう細かい部分には目を瞑って書こうと思います。
また表記が『ロリィタ服』ではなく『ロリータ服』なのはダークライだからです。今作はダークライの一人称で書いており、ダークライがロリィタ服とロリータ服の違いが分かるくらい知識があるのは不自然な気がしたからです。