目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
「ダークライ……すまねぇ……」
ムンナは動けそうにない。そして女はやる気満々。おそらくスピアーを捕まえる気だ。つまりナナがいない状況で戦わなければならない。自分で考えて動かなければならないのだ。
「マルマイン! エレキフィールドと同時に10万ボルト!」
地面全体に電撃が走り、目がチカチカする場所になり、それと同時にマルマインが電撃を飛ばす。それを右に避けて、あくのはどうを撃とうとする。しかし手が止まる。ニンフィアとの戦いを思い出したのだ。この攻撃は当たるのか。ナナの指示なしで当てられるのか。
「続けてかみなりよ!」
あまりにも速い電撃が空から降ってきて、僕の体を貫いた。そういえばメアが旅の途中で言っていた。雨の中での雷は速度が倍増するため避けるのは困難を極めると……
頭がクラクラする。僕にモンスターボールが飛んでくる。しかし吸い込まれることはなく弾かれる。女は驚きの表情を見せる。
「まさか人のポケモンなの! それじゃあトレーナーはどこ? ポケモンだけで行動させるなんて碌なトレーナーじゃないわね」
「ナナを馬鹿にスルナ!」
「……前言撤回。ポケモンに愛されている良いトレーナーなのね。でも未熟なのは確実」
体が動かない、まるで痺れたかのようだ。そして女の人はマルマインをボールに戻した。そして地面の電気も消える。なんだったんだ今の技は……
「このスピアー。わけありなのね」
「……」
動け! 動けよ! 僕の体!
そう思っていると女は溜息を漏らして僕達に背を向ける。
「スピアーはあなた達に譲るわ。私の名前はキンラン。シノノタウンのジムリーダーよ。あなたとトレーナーの挑戦を楽しみに待ってるわね」
女の人は歩いて去っていく。後ろ姿を見て初めて気付く。あのカッパはピカチュウをモチーフにしていたことに。だってカッパの後ろには明らかにピカチュウの尻尾が描かれていたのだから。
そんな時にナナとニンフィアが走って寄ってくる。ナナはカッパも傘もささず、ずぶ濡れとなっていた。女の人はナナの姿を見て足を止める。
「……あなたがダークライのトレーナー?」
「まさか、あなたが私のポケモンを!」
ナナは僕とムンナがダメージを受けていることに先程より明らかに早く走る。そして抱き抱えて、麻痺治しと傷薬を使いながら女を睨む。
「ええ。しかし驚いた。ダークライの親がチャンピオンの妹さんだったなんてね」
「お兄ちゃんを!」
「ええ。知ってるわよ。それじゃあね」
ナナが色々と尋ねようと叫ぶ。しかしキンランと名乗った女は足を止めずに去っていった。まるで話すことなんてなにもないと言いたげに。
「アノ女……」
「ダークライ?」
「シノノタウンの……ジムリーダー……と」
「シノノタウン。カイヨウシティの次に行く予定だった街……そこであの女に会えるのね」
そしてナナもやる気だ。遠くない未来にあの女にリベンジマッチか。それも悪くない。
「……スピアーも見つけたのね。本当に良かったわ」
ナナはスピアーを見て安堵する。そしてスピアーは震えている。まだ人間が怖いみたいだ。そんなスピアーにナナが言う。
「もうあなたは捕獲しないわ。スピアーはエラニの森に帰りたいんでしょ? 私が連れていってあげるから一時的にボールに入ってくれるかしら」
ナナがスピアーの目の前にボールを置く。
「……スピッ!(嫌だ!)」
「怖いのは分かってるわ。それでも……」
「ピアッ!(違う!)」
スピアーはボールを弾く。それから戦えと言わんばかりに飛び回る。
「ピイイイイイイイア!(吾輩はナナのポケモンになりたい!)」
「スピアー……分かったわ。ダークライ。まだ戦える?」
「アア……」
「よし、いくよ! スピアーにあくのはどう!」
ナナもスピアーの考えていることが分かったみたいだ。言われた通りにスピアーにあくのはどうを撃つ。しかしスピアーは簡単に避ける。そしてこうそくいどうをして更に動きを速くする。
「ちゃんと正式にバトルしてゲットしてあげるわよ! ダークライ! やきつくすで目の前に壁を作ってスピアーの攻撃を防いで!」
スピアーはバトルを望んでいる。ちゃんとしたバトルでゲットされて、ナナのポケモンになることを望んでいるのだ。これは儀式のようなもの。そしてスピアーの迷いを晴らすためのバトル。戦わなければ分からないことだってあるのだ。
「スピィ!(そのくらい!)」
「あなたはそうくるわよね! ダークライ! スピアーのシザークロスを正面から受け止めて、あくのはどう!」
攻撃を受ける。ナナが今まですることのなかった指示。スピアーのシザークロスは重いが、いつもよりは軽い。受け止められないほどではない。そしてスピアーの手をそのまま掴み、ゼロ距離であくのはどうを撃って吹き飛ばす。
「やきつくすで作った炎の壁でスピアーは火傷した。それで攻撃力は下がった!」
ナナがチャンスだと言わんばかりにモンスターボールを投げる。しかしモンスターボールは大きく飛んでいく。忘れていた。ナナはとんでもない運動音痴だ。特にボールを投げるのが苦手。でも、この局面で普通外すかよ!
「ピアァァ!(吾輩は勝つ!)」
「嘘でしょ! いや、そのくらいやってくるか!」
スピアーは火傷を気合いで治したのだ。そしてナナは笑っていた。まるで本気でバトルを楽しんでるようだった。あそこまで楽しそうなナナは初めてみた。
「スピアーは楽しい?」
「ピアッ!(ああ!)」
「私も楽しい! そして絶対にゲットしたくなったわ! ダークライ! いつも通り全力で行くわよ! あやしいかぜ!」
スピアーに放つあやしいかぜ。しかし、それをスピアーは正面からあやしいかぜを受けて受け流す。そんな光景をナナはニヤリと笑う。
「ダークライ。しゃがんで避けて、後ろからあやしいかぜ!」
「ピアッ!(なに!)」
スピアーはがあやしいかぜを受けられるのは受け流す態勢を保っているから当たらない。そして背後からなら当てられるのだ。ナナはそれを狙っていた。あやしいかぜを当てると同時に身体能力が上がる。
「……ピアッ!(効かん!)」
「気合いで耐えたわね! ダークライ! あくのはどうを決めちゃいなさい!」
「本気で……イクゾ!」
「ピアッ!(いざ尋常に勝負!)」
スピアーが物凄い勢いでこちらに突っ込んでくる。おそらくスピアーの大技。誰にも見せたことのない必殺技。スピアーも本気で勝ちにきてるのだ。
「あれはメガホーン! 虫ポケモン最強の技! そしてスピアーが覚えることにない技! ワクワクするわね! ダークライ!」
「アア!」
「避けるなんてつまらない真似はしないわ。 スピアーの想いにも全力で答えましょ。ダークライ! 今までにないくらい強力なあくのはどう!」
「アタリマエダ!」
避けろと命じられても今回ばかりは避けない。ここで避けるのはスピアーに失礼だ。正面から受け止める。僕はそう決めていた。ナナもそう決めている。
悪意を高める。周りに黒い波動が広がる。それをさらに集めていく。もっとだ。もっと大きく。周りの黒い波動の勢いが更に増す。そして大きな闇が生まれた。闇は球体となって僕の真上を浮遊する。なんだこれは! 明らかにあくのはどうではない!
でも時間がない。無我夢中でそれをスピアーに向かって落とす。闇の球体はスピアーを包み込んだ。しかしスピアーは闇の球体から飛び出して。僕の腹に今までのどんな一撃よりも重い一撃を喰らわせる。意識が一瞬で吹き飛びそうになる。そんな時にナナの叫び声が聞こえる。
「まだ終わってない! 気合いで立ちなさい!」
それが僕を震え上がらせた。気合いで倒れないように持ちこたえる。本来なら倒れるはずの一撃を負けられないという想いだけが駆り立てた。僕はスピアーの方を見る。
スピアーはぶっ倒れて寝ていた。まさか疲労が限界に……
「違う。恐らくダークライの一撃。あれはあくのはどうなんかじゃない。恐らく、あれがダークホール……」
しかしスピアーはすぐに目覚めて起き上がってくる。ナナはそれを驚きの表情で見ていた。まるで予想外と言いたげに。そしてスピアーの方を見て気付く。
「理屈は分からないけど、メガホーンの一部を自分に撃って、睡魔を払って目覚めた」
「ピアッ……(続きをやろうぜ)」
「もう終わりよ。スピアー」
ナナがボールを投げる。今度は真っ直ぐだ。スピアーは避けようとするが、ダメージが響いて動けない。スピアーはボールに吸い込まれていく。モンスターボールは何度も烈しく揺れる。ナナは祈るように必死に見ていた。そして音が鳴り、モンスターボールの揺れは止まった。
「…………スピアーはゲットよ!」
その時だった。この付近だけ日差しが当たる。まるで天気も祝福してくれてるかのようだ。
「ナナ。おめでとう」
メアが祝福する。この様子だとずっと前からいたようだ。バトルに夢中になりすぎてナナも僕も一切気づかなかった。
「メア。もしかして晴れたのって……」
「野暮なことは効かないの。でもポケモンゲットなんて大イベントが雨なんて最悪なんだから晴れて良かったじゃん」
「そうね」
そういうことか。この晴れはそこのニンフィアがにほんばれをしたからだ。余計な気遣いをして……もっともナナは満足しているようなので強くは言わないが。
「これからどうするの?」
「みんなを回復させてジム戦に行くよ!」
そうして僕達はスピアーという仲間を加えて、二つ目のジムに挑む。
The補足
スピアーのメガホーン。
メガホーンは本来は角がないと出来ないので、角があるポケモンしか出来ません。それではスピアーはどうやってメガホーンをやったのか。それは簡単でお尻の針を角に見立ててやっています。
しかしお尻の針は角ほど硬くないので普通は出来ません。
それではこのスピアーはどうして出来たのか。
答えは簡単で気合いです。