目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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22話 トレーナー

 ジムに行くが、不幸にも不在で今日はジム戦は出来なかった。仕方ないのでジムの予約をする。幸いにも明日予約することが出来たので、すぐにでもジム戦になりそうだ。そしてナナは腕試しも兼ねて空いた時間でエリートトレーナーの筆記試験の問題集を解いていた。別にエリートトレーナーになるつもりはない。しかし周りのトレーナーがどんな勉強をしているのか知りたいのともう少し知識を深めたいという理由で解いているのだ。僕も横で問題集を見る。この世界ではどんな勉強をしてるか気になるしな。

 

『……炎に効果抜群の技を述べよ』

 

 簡単だな。僕でも解ける。みず、じめん、いわだ。ナナもすらすら書く。それから問題に軽く目を通す。今の問題は絶対に抑えておきたい基本と書いてあった。そして基本は問題なく解けることを確認するとナナは応用にページを飛ばした。

 そして問題の内容を見て僕は驚愕する。

 

「れいとうビームを撃つ炎タイプのポケモンはどのように撃つのか体の仕組みについて触れて説明せよ」

 

 いや、分かるか! こんな鬼難易度みたいな問題を誰が答えられんだよ!

 そんな時にナナが横で答える。まるで僕が悩んでるのことを察したようだった。

 

「……引っ掛け問題よ。炎タイプで撃てるのはアローラ地方のガラガラだけ。また普通のガラガラも撃てる。つまりこれはガラガラがれいとうビームを撃てる理由を答える問題。そしてガラガラがれいとうビームを撃てるのはガラガラには喉の辺りに冷却器官が備わっているからよ。アローラガラガラもガラガラもタイプが違うだけで体の仕組みは変わらないの」

 

 なんでナナは簡単に答えてるんだよ! 絶対に普通は博士クラスじゃないとこんな問題は答えられないだろ!

 

「ちなみに冷却器官を持たないポケモンでもれいとうビームを撃つことはあるわ。例えばヨノワール。それは黄泉の冷気を集めて、発射しているという説が濃厚ね」

「ナルホド……」

 

 そしてナナは次の問題を見る。そして悩むことなくスラスラと答えを書いていく。どれも似たような感じの問題。ポケモンの体について理解していないと答えられない問題……

 

「エリートトレーナーは知識を問われる筆記試験。その場でレンタルしたポケモンで試験監督と戦う実技試験。その両方で合わせて百点を取れば一次試験を合格。続いて二次試験は自分の育てたポケモンを持っていき、一次試験の通過者同士でポケモンバトルを行い、勝てばエリートトレーナーに認められる」

「大変ダナ……」

「ええ。でも国際警察やレンジャーなどエリートトレーナーの資格を必須にしている職業は多いわ。もっとも合格は困難を極めるわ。しかし試験を全てスルーしてエリートトレーナーだと認めてもらう方法もある」

「……?」

「ジムバッジを八つ集める。たまに馬鹿がエリートトレーナーを目指すためだけにジム巡りをして、挫折するという話を聞くわ。もっともジムバッジを集める実力があれば試験なんて余裕なんだけどね」

 

 だろうな。ジムバッジ一つの入手する難しさ。それは身に染みて知っている。

 

「……そして実を言うと最近少し悩むんだ。筆記試験の問題を解いていたのも悩みがあるから」

 

 ナナが僕に言う。恐らくムンナもスピアーもボール越しに聞いているだろう。

 

「私、ポケモントレーナーに向いているのかなって。筆記試験の問題が解ければ自信になるかと思ったんだけど、そんなことはないわね」

「……え?」

「優しさだけじゃダメ。理屈は分かる。それでも私はポケモンに厳しくしたくないの。だって上下関係が無くて、みんな仲良くの方が良いじゃん」

「ナナ……」

「だけど、それじゃあ強くなれない。優しいだけでやっていける世界じゃない」

 

 ナナはメアに言われた言葉に本気で悩んでいた。メアの言葉を想像以上に真剣に受け止めていた。

 

「私には夢がない。お兄ちゃんみたいなポケモントレーナーになりたいという曖昧な目的だけで、ポケモントレーナーになってチャンピオンを目指している。だから甘い。ポケモンに対しても自分に対しても……ダークライ。私はどうしたらいいかな? もうトレーナーなんて辞めた方がいいのかな?」

「何故……僕に聞ク?」

 

 僕はナナよりポケモンの知識もない。トレーナーでもない。ただのポケモンだ。そのポケモンが分かるわけがない。そんな僕のアドバイスは恐らく役に立たない。僕が辞めない方がいいと言ったとしても、それは僕の願望であり、ナナのためにはならない。

 

「モット……適任がイルダロ」

 

 ナナが気付いたのか。部屋から出た。これはメアに聞くべきだ。メアならトレーナーとしての知識もある。それにナナに長年寄り添ってきた。そしてナナのことを本気で考えて、誰よりも見てくれる。ナナのためを思って嫌われる覚悟をしてまで本気で意見を言ったのがなによりもの証拠だ。恐らくナナの悩み相談として彼女以上の適任はいないだろう。

 

 メアの部屋に行くとメアはバスローブ姿で出迎えてくれた。それからナナにモモンのみのジュースを出して、もてなす。それからナナはメアに全てを言った。メアは静かにそれを聞いていた。そして最後まで聞いてメアはゆっくりと口を開いた。

 

「ナナのそれは本当に優しさなの?」

「え?」

「ポケモンを育てるのに厳しさが必要な理由。それは強くするためじゃないと私は思う」

「……どういうこと?」

「例えばポケモンがナナの元から離れたいと言うよ。その時にナナがいなくて生きていけるのかな? ポケモンがなんらかの事情で自分から離れても生きていけるように育てるには厳しさも必要だよね。だって優しいだけじゃトレーナーがいないと生きていけないポケモンになっちゃうもん」

 

 その時にメアの本当の真意が語られた。メアは強くなるためには厳しくしないといけないとは一言も言っていないのだ。メアはナナのことを否定していなかったのだ。それに対してナナも虚をつかれたような表情を見せる。

 

「あ……」

「強さだけじゃない。ポケモンがトレーナー無しでも生きていける能力を育てるのがトレーナーだと思う。だってトレーナーはいつまでもポケモンと一緒にいるわけじゃないんだよ? それが分からないならポケモントレーナー失格だよ」

「そうね……」

「出会いがあれば別れもある。そして別れがあるから出会いもあるんだと私は思う」

 

 ナナが何度か小声でメアの言葉をリピートする。ナナにもその言葉は響いたのだろう。

 

「旅は始まったばかりだよ。まだトレーナーをやめるには早い。やれるところまでやりきって、もう無理だ。そう思った時に判断しても遅くないじゃないかと思うよ」

「メア……」

「最初から完璧なポケモンもトレーナーもいない。ナナはもっと強くなるよ。私が保証してあげる! だから全力でジム戦を頑張ってきな! 今のナナなら絶対に勝てるから!」

 

 その一言でナナが安心した表情を見せる。恐らくナナはその一言で救われたのだろう。やっぱりメアの元に来てよかった。

 

「それにあんなこと言ったけど私はナナのどこまでも甘いスタイル好きだよ。私にもっとナナの活躍見せて? だってナナが勝ったり成長したりすると自分のことのように嬉しいんだもん! 実は私ってナナのファン一号なんだよ?」

「メア……特等席で見せてあげる。私がチャンピオンになる瞬間を! だから楽しみにしてて!」

「そうこなくっちゃ!」

 

 そうしてナナの悩みは晴れた。自分の目指す道。自分のやり方というものがナナの中でも改めて見つかった気がした。そんな万全の状態でナナはジムへと挑む。


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