目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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23話 2つ目のジム戦

「へーい! お嬢ちゃん! ジムバッジはいくつかな?」

「……一つ」

「グッド! それじゃあ行くぜ! 俺は岩タイプの使い手のトケイソウ! 行くぜ!」

 

 ナナの悩みが吹っ切れた翌日。ナナはロリータ服を着こなして、予定通りジムに挑んだ。今回は観戦席でメアも見ている。相手は金髪のちゃらっぽい男。

 

「最初になにを出す?」

「お願い! ムンナ!」

「ンナッ(俺が来た!)」

「バッド! 岩に有利じゃないね」

「私は好きなポケモンで勝ちたい。ジム戦用のポケモンを捕まえるトレーナーではありませんか」

「エクセレント! それじゃあ俺はウソッキー!」

「ウソッ(よろしくお願いします)」

 

 コングが鳴った。開始合図があるバトルは久しぶりだな。

 

「ムンナ! いわなだれが来るからウソッキーに近づいて!」

「ウソッキー。いわなだ……え?」

 

 トケイソウは技名を言いかけてやめた。当たり前だ。実は今回は事前に下調べをしている。使うポケモンはウソッキーとオムスター。そして技もバトルスタイルも研究済み。そうすればナナの予測による未来予知の範囲内だ。

 

「ムンナ! その一瞬を見落とさないで! おんがえしで上に弾いて!」

「ンナッ!(最高の指示だぜ!)」

 

 ウソッキーが宙を舞う、ムンナのおんがえしも前よりもパワーアップを遂げている。相手がどんなに強くてもムンナなら負けないだろう。

 

「そしてウソッキーより上に飛んで追撃おんがえし」

「ウソだろ……これがジムバッジ一つの実力かよ……」

「ウソッ……(限界っす)」

 

 ウソッキーが戦闘不能になる。相手はあとオムスターだけだ。今回は楽に勝てそうだな。

 

「ちくしょう……油断したぜ」

「油断?」

「悪いね。だけど、ここからは俺もマジだぜ!」

 

 オムスターが現れる。全て下調べした通りだ。

 

「オムスター! 三連続でからをやぶる!」

「させない! ムンナ! あくのはどう!」

 

 ムンナのあくのはどうを叩き込む。それにビクともしないオムスター。ナナが下唇を噛む。完全に計算が狂った。三連続でからをやぶる? 聞いていた話だとからをやぶるは一度までしか使わないという話だったが……

 

「言っただろ? 本気で勝ちにいくって」

「ムンナ! のろい!」

「俺は基本的にジムバッジ三つ以下のやつにはからをやぶるは一度までというマイルールがある。そうしないと誰も勝てないからな。でもそれじゃあ嬢ちゃんにはヌルすぎるだろ?」

「……もう一度のろい!」

「ジムリーダーは超えるべき壁だ。ジムバッジの数でポケモンに制限はかかる。だけど戦い方に制限はないんだぜ?」

「ムンナ。のろい!」

「さて、そろろろか。オムスター! アクアジェット!」

「ムンナ! おんがえし迎え撃って!」

「ンナッ(あとは任せたぞ!)」

 

 ムンナのおんがえしとオムスターのアクアジェットが正面からぶつかり、砂埃が舞う。なんて激しいぶつかり合いだろうか。そして立っていたのはオムスター。ムンナは戦闘不能になっていた。

 

「お疲れ様。ムンナ」

「嬢ちゃんのムンナ! 良かったぜ!」

「オムッ(ああ!)」

「……なんで他のトレーナーには手加減するんですか?」

「ジムリーダーっていうのは負けることに価値がある。つまり本気で挑んでやっと勝てるくらいじゃないといかん。そして嬢ちゃんならこれでも勝てると判断したのさ」

「そうですか。お願い! スピアー!」

「ピアッ!(お任せを)」

 

 それからナナはスピアーに痛みはないか。ちゃんと戦えるか問いかける。スピアーはそれに頷いて応える。スピアーにはなんの問題もなさそうだな。しかし、既に若干のダメージがあるようだ。少し不安だがスピアーを信じよう。

 

「嬢ちゃんのスタイルは知っているから不利でなおかつダメージを受けているスピアーを出すことにはなにも言わんぜ。オムスター! ロックブラスト!」

「スピアー! 二秒後に右に避けたあとに上に飛んでシザークロス! そして動く際には忘れずにこうそくいどう!」

「ピアッ!(了解)」

 

 スピアーは動きながらこうそくいどうをする。同時にオムスターが連続で飛ばす岩も全て避けてオムスターにシザークロスを決めた。決めると同時に再び自己判断でこうそくいどうをして、動きを俊敏にしていく。

 

「なぁ……嬢ちゃん。もしかして数秒先の未来が見えてねぇか?」

「さぁ? スピアー! もう一度シザークロス!」

「オムスター! からにこもるでやり過ごせ!」

「だったらメガホーンで強引にぶち破ってやりなさい!」

 

 スピアーはシザークロスをした後にオムスターから離れることなくお尻の針を使い、メガホーンでオムスターを吹き飛ばす。しかしオムスターはすぐに立ち上がる。この一撃でも致命傷にならないか。そしてジムリーダーは不気味に笑う。

 

「スピアーのメガホーン。そしてムンナのあくのはどう。本来覚えない技を覚えるポケモン達……育成の腕も相当か? それともそういう個体を捕まえたのか……どっちだ?」

「後者よ。私がすごいんじゃなくてスピアーとムンナがすごいのよ!」

「……そうか。オムスター。三秒後に右十五度にストーンエッジ!」

「スピアー。追撃をかけてメガホーン!」

 

 スピアーが神速でオムスターに接近する。誰の眼にも追えない速さ。しかし数秒後にスピアーは地面から突き上げる岩に吹き飛ばされ、戦闘不能に追い込まれていた。

 

「スピアー!」

「言っとくが嬢ちゃんのやっている未来予知。俺も使えるんだぜ?」

「……」

「というよりも優れたトレーナーなら誰もが使える技だ。相手の癖や戦闘スタイルを見抜いて予知に等しい読みをする。そして優れたトレーナーというのは読まれたことすら読んで動く」

 

 あっさりとスピアーまでやられた。既に簡単に勝てるなんて思っていない。そもそもジムリーダー相手に簡単に勝てるわけがなかったのだ。さすがジムリーダー……

 

「ありがとう。スピアー」

 

 スピアーをボールに戻す。フィールドには余裕の姿を見せるオムスター。そのオムスターは今まで見たどんなポケモンよりも強そうに見えた。

 

「さて、残すは一体か」

「頼んだわよ。ダークライ」

「……ダークライ? 俺も始めて見るポケモンだな。だが、やることは変わらん!」

「行くよ! ダークライ!」

 

 最後は僕か。相手は弱くない。おそらく相当な腕だ。しかしナナも腕で言えばジムリーダーにすら負けていない。勝てない相手じゃないはずだ。

 

「ダークライ。あくのはどう!」

「オムスター! 上に飛んでがんぜきふうじ!」

 

 あくのはどうを撃つがオムスターは想像を絶する速さで動く。まるでエイリアンみたいだ。そして空から岩を降らせる。ナナは必死に指示を飛ばして、僕に避けさせる。

 

「……しまった!」

「オムスター。ハイドロポンプ!」

 

 避けようとするが岩に囲まれて逃げ場がないことに気付く。もっと速く動けるなら岩と水の隙間に行き、避けることが出来る。しかしそれは今の僕には無理だ。これは完全に先手を取られた。最初からがんせきふうじを当てるつもりなんかなかった。逃げ道を塞ぐためだけの技。

 

 でもまだ終わりじゃない! 僕は独断であくのはどうを使ってハイドロポンプを迎え撃つ。しかしハイドロポンプの威力は強く、惜し負けそうだ。ちくしょう!

 

 そんな時だった。ナナの声が響く。論理もない無茶な作戦。完全な根性論だ。

 

「ダークライ。ハイドロポンプをスピアーの時みたいに気合いで耐えて、カウンターのダークホール!」

 

 思わず耳を疑う。まさか、あの技に耐えろと? いや、さすがに無理だろ!

 

「嬢ちゃん! さすがにそれはナッシング!」

「ごめん。ダークライ。でも今の私にはそれしか思い浮かばない。今はあなたに頼るしかないの! あのスピアーのメガホーンを耐えた、あなたなら出来るはずよ!」

 

 いや、耐えるなんて無理だ。だけど勝てるぜ。思い浮かんだ。この技の突破方法を。

 そしてナナも同じことを考えている。あくのはどうをやめて、目にも止まらぬ速さで移動してオムスターの背後に回る。

 

『スピアー』

 

 それがキーワードだ。技ではない。動き方だ。人間でも同じこと。姿勢や構えを変えれば動きがグンと上がることがある。

 僕はスピアーと戦い、何度も間近で見てきた。だから出来た。スピアーという言葉でスピアーの動きを思い出す事が出来た。スピアーと同じ要領で動けば、速さは増して、反応できるようになる!

 

「おいおいマジかよ!」

「あなたの未来予知は予測。つまり知らない技には対応できない! つまりダークホールを避けることは出来ない!」

 

 大きな闇の玉を作り、オムスターへと叩きつける。オムスターは深い眠りについて、地面へと落とされる。追い打ちをかけるようにオムスターに近づき、オムスターに触れてゼロ距離であくのはどうを撃つ。砂埃が舞い、ズシンという大きな音と同時にオムスターは地面へと落とされた。これは恐らく相当なダメージのはず……

 

「工夫でも技術でも追いつけないなら私達はバトルの中で成長する!」

 

 いつか吐いたセリフ。あの時は出来なかったけど、今なら出来た。そしてオムスターは戦闘不能になっていない。しかしオムスターは強く悪夢にうなされる。悪い夢はオムスターへの肉体ダメージへと直結して、体力を蝕む。

 

「ダークライ! 決めるよ! あくのはどう!」

「オムスター。起きろ」

 

 その冷たい声にオムスターはピクリと判断して目覚める。そして素早く動き、僕のあくのはどうを避けた。なんだ今のは?

 

「悪いな。俺のオムスターはスパルタ教育を乗り越えた特別性で俺の声一つで状態異常の回避、そして技のデメリットを全て無しで撃てる訓練をされてる」

「な!」

「さてと、いいもんを見せてもらった。そしてジムリーダーとしての役目を忘れて本気でかちたくなったぜ!」

 

 カッコよく言うが、それは無駄だ。

 悪いな。もう勝負はとっくのとうに終わってるんだわ。僕達の勝ちで。

 

「オムスター!」

 

 オムスターはその瞬間にドカッと倒れる。ナナが用意した切り札。それが役に立ったな。しかしナナから聞いた時は驚いた。そしてスピアーもよくやった。

 

「なにが起こった!」

「オムスターの体を見てみなさい」

「……くっつきばり! いつの間に!」

 

 そうだ。くっつきばりだ。マイナーな道具。持っているだけで体力を削る。そして触れると触れた相手に稀にくっつくことがある。

 

「しかしダークライが持ってる様子は……」

「スピアーよ。あの子は速いから細かい部分まで見えないわよね。特に黄色と黒に塗装されたら、なおさら」

 

 僕達の作戦。まず最初にムンナが一匹目を倒す。そして二匹目をムンナが弱らせて、次に出てきたスピアーがくっつきばりをくっつける。そして普通に気合いで倒す。

 

「私も普通なら思い浮かばないわ。でも色々とあってね」

 

 この作戦を思い浮かんだのはダークポケモンのおかげだ。スピアーはダークポケモンの時に苦しかったことを思い出して、それを相手のポケモンに強要出来たなら強いのではないかと考えた。その結果が体に付いているだけでダメージを与えるくっつきばり。

 最初はナナもスピアーにダメージを強いるということでやろうとは思わなかった。そもそもナナは絶対に思いつかない。それでは誰が提案したのか。スピアーだ。スピアーがジム戦の直前にゴミ箱から拾ってきたのだ。

 

「あと昔から言われてるの。エラニの森のスピアーは狡猾だって」

 

 エラニの森のスピアーが狡猾だと言われる理由を改めて理解した。賢さも相当高い。ホントにあの時のナナがスピアーから逃げようとした理由がよく分かる。

 

「……くっつきばりだけじゃねぇな。オムスターがやられたのはムンナ、スピアー、ダークライの攻撃を蓄積した結果でもある。これは完全に完敗だ! エールバッジをやろう!」

「やった!」

 

 ナナが無邪気に喜ぶ。

 僕たちは無事にジムを攻略した。二つ目のジムバッジを手に入れたのだ!

 




The補足
ジムリーダーがくっつきばりに気付かなかった背景には『スパルタ教育』が関係してきます。オムスターはスパルタ教育の結果としてトレーナーの一喝で状態異常を回復します。そして『ステータスダウン』や『ひるみ』『はんどう』を受けることもないのです。しかし今回はそれが仇となり、くっつきばりの痛みにひるむことすらなくオムスターが動いていたのです。だからジムリーダーも気付くことがなく、やられました。

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