目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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3 バトル大会
25話 シノノタウン


 ガタンガタンと電車が揺れる。電車の中は静かだ。指定のボックス席にしたおかげで周りに迷惑になることはないのでムンナとスピアー、そして僕もボールから出ている。

 しかし電車と言うが日本とはかなり違う。ボックス席なんて言うが実際は壁で区切られて小さな部屋になっている。恐らくポケモン連れに向けた配慮だろ。

 そして近くにはメアとルンパッパ、それとあの生意気なニンフィアだ。

 

「あ! 野生のオノノクスと戦ってるトレーナーがいるよ!」

「野生でオノノクスなんて随分と珍しいわね」

 

 この電車はそこまで速くはない。具体的な速度は分からないが、外にいるポケモンを観察出来るくらい遅いと言えば分かるだろう。もっとも自転車よりも圧倒的に速いが。

 

「ダークライ。この電車は移動というより外を見て楽しむ目的で作られたものよ」

「ソウナノカ?」

「ええ。移動だけなら少しお金払ってケーシィみたいなテレポートを覚えたポケモン持ってるトレーナーにテレポートさせてもらうのが一般的よ。通称テレポート屋。生計を立てられるくらいは稼げないけど、お小遣い稼ぎとしては人気よ」

 

 なるほど。たしかにポケモンがいる世界ならそうなるのか。しかしテレポートで町だけを巡ってジムバッジを集めるのは少し味気ないなと思う。なんとなくナナが歩いて旅をする理由が分かった気がする。もっともこういう電車に乗るのもたまには悪くないが。

 

「……ていうか、ナナったら! 電車でも新聞ばっかり読んで!」

「旅をするなら現在デトワール地方で起こってる出来事は把握した方がいいわ。場合によってはルートの変更をする必要もでてくるから」

「それでなんか面白いことは書いてありましたか?」

 

「旅に影響しそうなことは少しゴゥー団の残党の動きが活発になっていることだけね。それと遺跡から謎のポケモン発見。圧倒的な力を持ち、調査員を倒したあと消息不明か」

「え! なんか大変なこと起きてない?」

「ゴゥー団のことは予測の範疇よ」

「そっちじゃなくて遺跡の方よ!」

「どうせ少し大きなドダイトスとか、そういうオチに決まって……ん? 古い文献を調べたところレジロックというポケモンと大きく似ていることが判明?」

「レジロック? なにそれ?」

「さぁ? 私も聞いたことないわ」

 

 なんか面白いことが起こってそうだな。しかしレジロック。どこかで聞いた気がするんだよな。たしか伝説のポケモンだった気がしなくもない。まぁ伝説のポケモンがホイホイいるわけないし気のせいだろう。恐らく新種だ。うん。

 

「まぁでも遺跡の場所はカイヨウシティ北西の封鎖地域。私達には関係ないわ」

「え! 探しに行かないの?」

「当たり前でしょ。そもそも封鎖地域は強い野生ポケモンが多いから安全のためにジムリーダーか四天王が認めた人しか入れないのよ?」

 

 ていうかジムリーダーや四天王が認めたトレーナーを倒す野生ポケモンとか少し強すぎではないか? さすがにこれはマズいだろ……

 

「他になんか面白い記事ないの?」

「あとは芸能人のスキャンダル、ポケモンの大量発生情報ばかりね」

「ふーん……」

「まぁ大体は目を通したからご自由にどうぞ」

 

 ナナがメアに新聞を渡すがメアは「そんなのいらない」と突き返す。ナナは新聞を自分の手元に戻して、ゴミ箱に捨てる。そして窓に近づいて外を見た。外はただの平原だ。でもそこには様々な野生のポケモンやトレーナーがいる。ナナは外を見て一瞬だけ笑った。

 そんなナナにカシャリとカメラのシャッターを切る音がした。音がする方を見るとカメラを持ったメアがいた。

 

「メア。いつの間にそんなものを……」

「旅の記録は残したいなって思って昨日買っちゃった! 記録を残すことで私達はここにいたという証明になる。絶対に消えない思い出になると思うんだ」

「今……の写真。撮る必要ある?」

「ナナが可愛かったからね。撮りたくなっちゃった」

「……まぁいいわ。折角だから二人で集合写真でも撮りましょ」

 

 ナナとメアが近づいて電車から見える景色を背景にツーショット写真を撮る。ナナは笑顔を作り、メアは笑いながらピースをしている。しかしナナの写真。僕も一枚欲しいな。

 

「ダークライ! ムンナ! スピアー!」

「……ン?」

 

 ナナがメアのカメラを拝借して僕達の写真を撮る。それに一体なんの意味が……

 

「私やメアの写真だけじゃなくてポケモンお写真も欲しくなっちゃた。だってポケモンも一緒に旅をしてる仲間なんだから。はら、ニンフィアとルンパッパも!」

 

 カシャリと再びシャッター音が鳴る。なんか先程の静かな雰囲気から一気に賑やかになってきたな……

 

「ねぇ! ナナ! 見て!」

「どうしたの?」

「ほら、あそこのウィンディに乗ってる少年! ボルノよ!」

「ホントだ! 方向的に私達と同じシノノタウンよ!」

 

 ボルノ。たしかナナの同級生だな。思っていたよりも早い再会にテンションを上げる。そして窓からボヤけてシノノタウンが見えてくる。カイヨウシティ程ではないが、そこそこ大きな街だな。もうそろそろ電車の旅も終わりか。名残惜しい気もする……

 

「それじゃあシノノタウンのジムも頑張ろうね! みんな!」

 

 シノノタウン。そこは変哲のない街である。しかし年中常に色々なイベントが開かれることから人は多い。そして新しい町というのはどんなものでもワクワクするもの。街についたら最初に『シノノカップ』という地元の大会にエントリーを済ませた。

 

「ふーん……この大会に出るんだ」

 

 そんな時だった。金髪の女性がナナの耳元で囁いた。それこそ息が当たるくらいの距離だ。ナナは思わず体をゾクッとさせる。

 

「来たね。チャンピオンの妹」

「私にはナナという名前があります……ジムリーダーのキンラン」

「ごめんね。私は弱い人の名前は覚えない主義なの。名前を覚えてほしいなら分かるよね? 折角だし、ここで手合わせしようか。マルマイン!」

「ダークライ!」

 

 ナナが僕を出す。改めてジムリーダーの姿を見るとピカチュウの尻尾がプリントされたマントに太ももを剝き出しにした白い縦セーターワンピースという可愛らしい格好をしている。もっともナナの方が可愛いが。しかし、ここは建物の中。だが周りもいつものことかと慌てる様子はない。これは本気でやってしまって良いんだな。

 

「マルマイン。リフレクターとひかりのかべで周りを囲いなさい」

「……なにを?」

「周りに被害が及ばないようにステージを作ったのよ」

 

 相手はマルマイン。あの時は手も足も出なかったが、今はナナもいる。勝てるとまでは言わないが、良い勝負にはなるだろう。

 

「あなた。まさか私に一泡吹かせられると思ってないかしら?」

「ええ。これでもジムバッジは二つ。それなりに実力はありますから」

「マルマイン。だいばくはつ」

「ダークライ! 離れて!」

 

 ナナの指示通りマルマインから離れようとする。しかし見えない壁に阻まれ距離を離せない。マルマインが光り始めて、ドカンと爆発を起こす。爆発に巻き込まれて凄まじい衝撃波と爆風に吹き飛ばされる。体がバキバキに折れそうなくらい痛い!

 そんな僕にナナは迷わず駆け寄り、げんきのかけらを食べさせる。そしてナナはキンランを睨んでいた。

 

「リフレクターとひかりのかべで逃げ道を奪うのはルール違反かしら?」

「あなた、ポケモンをなんだと!」

「もしかしてマルマインにだいばくはつをさせたことを怒ってるの? あれは私のポケモン。どう扱おうがあなたには関係のないはずよ? それにルールにもだいばくはつやじばくといった技を使うなという規約はない」

「……ルール違反でないなら、なにをしてもいいと?」

「バトルというのはそういうものよ。倫理の話をするのならポケモンを戦わせること自体がアウトよ。もしも私の戦い方に怒るなら――この上ない偽善ね」

 

 この人は違う。ナナとは戦闘スタイルが根本的に違う。しかし彼女も間違ったことを言っていない。そしてナナも言っていない。両者共に正しいのだ。

 

「ナナ。彼女を間違っているというなら方法はただ一つだよ」

「メア?」

「バトルで勝つ。少なくともポケモンバトルというものでは勝った方が正しい。それがバトルの世界だよ」

「そっちの女の子はよく分かってるじゃない。チャンピオンの妹。私のやり方が間違ってるというのなら、私を倒して証明しなさい」

 

 その時に僕は本能的に感じ取った。このジム戦。それは恐らくナナにとって一番キツイものになるだろうと。


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