目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
この世界には色々なトレーナーがいる。ナナみたいにポケモンに寄り添うトレーナー、メアみたいにポケモンと一緒に戦うトレーナー。そしてキンランみたいな勝つためなら、どんな手段でも使うトレーナー……
「……なんなの! あのジムリーダー!」
ナナはさっきから怒り心頭だ。しかし腑に落ちない。強くなりたいだけなら、ゴゥー団に入ってダークポケモンの研究をすればいいはずだ。戦略は誹謗されるかもしれないが、キンランはポケモンを真面目に育てていた。どうしてそんなことをするのだろうか?
「でもルール違反にならないならなにをしてもいいというのは私も共感できる部分かな」
「メア?」
「例えばナナがジムでやったスピアーのくっつきばり戦法。もしかしたら人によっては怒りを覚えるんじゃないかな?」
「それは……」
「それにダークライだって、『そんなポケモン知らないからルール違反だ!』という人も少なからずいると思うよ。結局のところルールに書いてないけど違反なんて言い始めたらキリがない。だって善悪の基準は人によって違うんだから。つまりルールを守ればなにをしてもいいというのは、ある意味では正しいと思うよ」
「そうだけど……」
「文句があるなら勝って言う。勝って『ポケモンを思いやらない戦い方なんかに負けない』と言うしかないよ。文句があるならバトルで語るの」
「メア。随分とあのジムリーダーの肩を持つわね……」
「なんか共感出来たんだよね。でも少しだけイラッとくる部分はあったからナナに勝ってぎゃふんと言わせてほしいけどね」
「……そうね」
ナナは少しだけ小さな声で言った。ナナも分かっているんだな。色々と思うところはあるがキンランの実力は本物。勝つのは困難を極めるだろう。
「それだけじゃない。キンランのだいばくはつは完璧だった」
「わ! ボルノ! いつの間に!」
「いや、見かけたから普通に声をかけただけだ」
背後からいきなり声をかけるボルノ。ほんとにいつの間に現れたな。こいつ。
「おっす。遠くからバトル見てたぜ。しかし、ジムリーダーっていうのは強いな」
「ボルノ。どういうこと?」
ナナがボルノに説明を求める。だいばくはつが完璧だったという意味を……
「ダークライだからやったんだ。恐らくキンランはダークライをもっとも厄介だと判断した。あと二体ならどうにかなると思ったんだ。そしてキンランはまだエースを出してもいない……」
「……どこまでも舐めてくれるわね」
「もっとも予測だけどな。しかし裏を返せばキンランはナナの手持ちでダークライ以外は警戒していないとも言える。攻略の隙はそこだな」
なるほど。少し弱いポケモンで相手の一番強いポケモン道連れにして倒し、残ったポケモンを自分の一番強いポケモンで倒す。考えてみれば理に適った作戦だな。さすがジムリーダーといったところだ。
「ナナはこれからジム戦か?」
「しないわよ。色々と思うところがあるけど今の私達じゃ逆立ちしても勝てない。そのくらいの実力差がある。だから当分は修行かな……」
「なるほど」
しかし修行か。これ以上強くなる具体案が思い浮かばない。技もある程度は覚えた。そうなると身体能力を上げるためにレベル上げだが、それは困難を乗り越えるしかない。そうなると……
向かった先は広場だった。そこで僕達は物理的な特訓をさせられていた。ムンナにスピアー、そして僕は総体重の半分の重りをつけて走らされていた……
「ポケモンの強さはレベルだけじゃない。筋トレ等で基礎力を上げることが出来る。世間でいう『努力値』というやつね」
隣でメアのルンパッパ、ニンフィアも走らされている。ボルノのポケモンは常日頃からトレーニングをしていて今は休息日で筋肉を休ませる日だからスルーとか……
ていうか三値説が絡むとかアウトだろ。いや、でもやってることは筋トレだ。それがアウトだとなにがアウトなのか分からないな。禁止されているのは三知説の信仰。表現がアバウトなのだ……
「三値説で問題になったのはポケモンを数値で判断すること。つまりアウトなのは『数値が全てだと思うこと』なのよ。よって筋トレで強くなると思うことはセーフよ」
「ナナ。誰に言ってるんだ?」
「ダークライよ。表現からして前に話した三値説に抵触しないか気にしてるようだったから。まぁ大体考えてることは分かるのよ」
「それはすげーな」
「もっとも三値は『種族値』と『個体値』と『性格補正値』の三つを表す言葉なんだけど……ダークライはどうして努力値が三値だと思ったのかしら」
え、マジかよ! 三値に努力値って含まれないのかよ!
なんか、それっぽいから含まれると思ってた。もっとも努力値というもの自体が聞いたことがあるだけで詳しくは知らないのだが……
「ていうか、ナナ。そもそも三値説は口にすること事態がタブーだ。先生も授業で教えたことがバレたら捕まるから絶対に口外するなとも言ってたし」
「そうね。ダークライ。今の話は忘れなさい」
いや、三値説こわっ! なんで普通に教えてるんだよ! 明らかに詳しく知ることが罪になってるじゃねぇか! 扱い的に邪教というより国家機密だろ……
「まぁーうちの先生は聞いたらなんでも教えてくれたからな。ほんとに恵まれた環境にいたとオラも思う」
「はぁー……ていうか。ダークライ。ペースが落ちてるわ」
ナナに指摘されて、再びペースを上げる。いやキツイ。脇腹がいたくなってきたぞ。ポケモンになって一番キツイかもしれない。いい加減にぶっ倒れて休みたい……
「フィア~(情けないわね)」
「ナニヲ!」
「フィア、フィア~(まぁダークライだし、仕方ないか)」
ニンフィアに煽られる。そこまで言うなら見せてやるよ。まだまだいけるってことを!
「パッパッ!(みんなも頑張るんだぜ)」
ルンパッパがギターで音楽を奏でながら励ます。それで少しだけ力が湧いてくる。ていうかギターを演奏しながら走るってすごい体力と技術だな。ぶっちゃけダークライというポケモンよりルンパッパの方が強い気がしてきた。
「はい。ここまでだよ~みんなお疲れ~」
体がフラフラとしてきたタイミングでメアから終わりの合図がかかる。久々に疲れた。これを毎回行うのはキツイな……。周りも一体を除いて全員がぶっ倒れる。あのニンフィアも息を切らして横になっている。唯一余裕そうな表情を見せているのはルンパッパだけだ。しかし走るだけなら良いが、重りがキツイ。
「……今の鍛え方だと体力と筋力の増加が見込める。筋力は速さにつながるだけでなく、打撃系の攻撃の威力も上げる。しかし、やりすぎると実践的な動きを忘れかねない。適度にバトルも必要ね」
「そうだね。これからは私とナナで定期的に戦うようにしようか」
「ええ。でも今回の方法はポケモンへの負担が大きいわ……」
「分類的には筋トレなんだから負担がないとダメじゃない?」
「そうなのだけど……もっと効率的に出来ないかしら?」
「ちょっとあとで一緒に考えてみようか」
そうして一日を終えた。大会は明後日。どの規模なのか知らないが、やれることをやるんだ。今回の大会は一人三体までで相手のポケモンを全て戦闘不能にしたら勝ち。メアは二体しか持っていないから、今回は不参加だ。ナナとメアは二人で話に花を咲かせている。僕達はボールから出て、部屋で勝手にリラックスしている。
「ダークライ。このモモンのみのジュース! まじで美味いぞ!」
「ムンナ。なにを言う……オレンのみのジュースこそ至福」
「どれ? お! そっちもいけるな!」
「さて、ここで一曲行くぜ!」
「おう! 歌え! ルンパッパ!」
「それじゃあムンナさん。オーダーは……」
ほんとに大騒ぎだな。そんな時にメアがやってきて、ルンパッパからマイクを奪う。そしてルンパッパは代わりにギターを出す。そしてニンフィアもメアの足元に来る。
「そういうことなら私が歌うよ! ミュージック! スタート!」
「ルンパ~(おーけー! メア!)」
メアが華麗なステップを踏みながら可愛らしい歌声で歌い始める。その姿はまるでアイドル。ニンフィアがメアを引き立てるように踊る。そのせいもあり、メアから視線が離せない。
「歌と踊りは宴会を盛り上げる! 私のミニライブだよ!」
「メア。あの歌をお願いできるかしら?」
「あーあの歌ね。良いよ」
いきなり現れたナナが横でリクエストを飛ばす。それは聞き覚えのない歌だった。でもナナは『その歌が聞きたかった』というような表情を見せていた。きっとナナにとって大事な歌なのだろう。
歌が歌い終わり、メアが微笑む。
「これで満足?」
「ええ。やっぱり良い曲ね」
「しかし恥ずかしいな。十歳の時のプレゼントとして歌った曲をまだ覚えてるなんて」
「当たり前よ。一番好きな曲なんだから」
……なんでここはイチャイチャしてるのだろうか。いや女性同士の距離というのはこのくらい近いものなのだろうか。
「ナナ! 私は絶対に世界一のアイドルになってチャンピオンとなったナナのために歌うよ! それでナナの戦いを盛り上げるんだ!」
「まさか、そのためにアイドル目指したの?」
「言ってなかったっけ?」
「驚いた……そんなこと言われたらチャンピオンになるしかないじゃない」
やっぱりナナとメアの関係が分からない。というより、どうしてメアはナナにここまで尽くせるのだろうか。メアにとってナナはなんなのだろうか……
「ダークライ。女の子には誰にも言わない秘密があるのよ」
メアについて考えているとナナから軽いお叱りを受けた。恐らく永遠に真実は分からないだろう。メアがナナを思っているのか。それは想像に任せるというやつだろう。
少なくもメアがナナをどう思っているのか。それを僕が知ることはなかった。