目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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28話 二回戦

 第二回戦が始まる。相手は少し大人びた少女で最初のポケモンはペリッパーだ。ナナはそれに対しても僕を出す。僕が出ると同時に歓声が沸く。昨日の一件でナナのファンがある程度出来たようだ。それよりも気になるのは……

 

「それじゃあ! ミュージックスタート! 戦闘開始だよ!」

 

 そう。何故かフィールドの傍にいるメアの存在だ。彼女はマイクを持ってルンパッパを出して、歌っていた。なんでも彼女の歌声に惚れたキンランから盛り上げ役としてスカウトがかかったとか。ウルガモスの時に戦っていなかったから、キンランがいつメアの歌を聞いたのか気になるが、それは置いておくとしよう。

 

「ペリッパー! ハイドロポンプ!」

「ダークライ。あくのはどうで打ち返しなさい」

 

 僕は飛んでくるハイドロポンプをあくのはどうでそのまま打ち返すという力技でペリッパーを一撃で仕掛ける。もっともメアの歌で身体能力が上がることはない。あれは対象のポケモンの波長や好みを全て把握して、もっともポケモンが好む歌と踊りをやることで行う技。無差別に出来るものではないしな。

 

「嘘でしょ!」

 

『ダークライ! 相変わらずの力量差を見せつける! 強いぞ! あまりに強いぞ! このポケモンに適うトレーナーはいるのか!』

 

「ペリッパー。戦闘不能」

 

 ペリッパーがボールに戻っていく。メアの音楽が止まることはない。もう彼女の音楽はBGMとしてバトルに同化していた。

 

「お願い! ゴースト!」

「ダークライ。あくのはどうを少し上の角度に」

 

『ゴーストが上に避けようとした瞬間にあくのはどうが当たった! まるでそこに来るのが分かっていたようだ! 必中なのか! この技からは逃れられないのか!』

 

「……え?」

 

 相手のトレーナーが唖然とする。恐らく今の動きなら避けられる。ゴーストなら避けてくれるかと信用していたのだろう。しかし、そんなことはない。

 ナナは一切の慈悲を与えずに一撃で叩き落す。悪いがこれが現実だ。

 

「ゴースト。戦闘不能」

「……フカマル」

 

 脱力した少女は弱々しくフカマルを出す。フカマルはトレーナーとは対照的に元気いっぱいで勝つ気でいる。僕はあくのはどうを撃とうとするがナナに止められる。そしてナナは表情を一つ変えることなく言う。

 

「来ないならいくわよ?」

「こんな強いポケモンにどう勝てっていうのよ! 無理よ! やるならさっさとやりなさいよ! どうせ私は……」

「フカマルはやる気よ。それなのにトレーナーのあなたが諦めてどうするの?」

「……」

「バトルはまだ終わってない。ここまで頑張ってくれたあなたのポケモンのためにも全力でやりなさい」

「フカマル……ごめん。そして勝つわよ!」

 

 女の子の目が変わる。諦めていた目から闘う者の目に。しかし敵に塩を送るか。なんでもいいが、これで負けたらお笑いだぞ。

 

「フカマル! りゅうせいぐん!」

「フカッッ(やってやる!)」

 

『これはドラゴンタイプ最高の技のりゅうせいぐんだ! ダークライはどう対処する!』 

 天空から隕石が降ってくる。それは少しマズいな。さて、どうするか……

 

「ダークライ。その身で受けなさい」

 

 ナナも厳しい指示を出す。ここで受けるのは相手に対する敬意か。そして観客に格の違いを教えるアクションか。受けれないことはないがちょっと痛いよな。まぁいいか。

 

「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇ!」

 

 空から降ってくる隕石が体に直撃した。周りに砂埃が舞い、トレーナーから姿が見えなくなる。痛みとしてはムンナに体当たりされた時と同じくらい痛い。しかし裏を返せばその程度か。大した痛みじゃない。そしてフカマルは今の一撃で息切れを起こしている。

 

「……うそでしょ?」

 

 砂埃が晴れて、僕の姿が観客に晒される。何事もなく立っている姿を見て一気に歓声が巻き起こる。この大会の中で一番の盛り上がりだな。そしてナナの注目度ってマジで高いんだな。

 

『ダークライ! あの攻撃を受けてもビクともしないぞ! 速さと攻撃だけじゃなくて耐久も凄まじい! ここまで強いポケモンが今までいただろうか!』

 

「ダークライ。あくのはどう」

 

 無慈悲にフカマルにあくのはどうを撃つ。もちろん耐えることなくフカマルは一撃で吹き飛ばされて戦闘不能。二回戦は特に危ない事態も起きずに勝てたな。

 

「フカマル。戦闘不能! 勝者ナナ!」

 

 相手のトレーナーはフカマルをボールに戻すとナナの方へと近づく。そしてナナに手を出した。ナナはそれを握り返した。

 

「いい勝負でした」

「こちらこそ」

「私の名前はリリー。いつか絶対にあなたのダークライを倒します!」

 

 目に涙を溜めながらナナに宣戦布告した。ナナはそれに『待ってるわ』と一言だけ言ってステージを後にした。しかし今回のはポケモンバトルじゃなくて蹂躙だ。それなのに良いバトルと言える彼女。その強さに敬意を払いたいと思った。

 

「……ダークライ。あのりゅうせいぐんは未完成よ」

「え?」

「本来は隕石が何個も降ってきて、フィールドの地形すら変える大技。今回は相手が未完成の技に賭けるのが分かってたから受けたけど、本来なら絶対にしないわ」

 

 ボール越しにそう言う。あの隕石が何個も降るとかとんでもねぇ技だな。もしも本物のりゅうせいぐんを使うトレーナーと会ったらゾッとする。

 

「それにしてもりゅうせいぐんを受けて無傷なんて最初に比べて随分と強くなったわね」

 

 まぁたしかに……もしかしてナナは僕に自分の成長を実感させるために敢えて受けさせたのか! それだけじゃない。敵に塩を送って本気にさせたのも全て僕の実力を……

 

「ダークライ。あなたの相手はジムリーダーやぬしとか強敵ばかりだった。だから強くなった実感がないかもしれない。でも一般トレーナーと戦えば圧倒できるくらい強くなったことを実感してほしかったのよ」

 

 ナナ。まさかそんなことを考えていたとは。たしかに強くなった気はしていなかった。でも最初に比べたら間違いなく強くなっているんだよな。ナナと会った時の僕ならフカマルのりゅうせいぐんを耐えるなんて芸当は不可能だし、なによりもペリッパーでも苦戦をしていただろう。

 

「でも次の試合は我慢してね。次はムンナの番だから」

 

 そうだな。次はムンナの因縁の相手だ。僕の出る幕じゃない。それに僕だけじゃなくてムンナも強くなっている。あんなトレーナーにムンナは負けはしない。そして三回戦。実は今日行われるのだ。この大会では一日目に一回戦、二日目に二回戦と三回戦、三日目に四回戦と準々決勝と準決勝。そして最終日に決勝戦というスケジュール。

 

 ナナは会場から抜けて近くのお店でメアへの差し入れののど飴をいくつか買っていた。あの夜にムンナは復讐よりもナナと一緒にいることを選んだ。しかし実際に戦ってみてどう転ぶかまったく分からない。でも一つだけ分かるのは気持ちの良いポケモンバトルは出来ないだろうなということだ。三回戦は絶対に碌なことにならないだろうな……

 

 のど飴を買い終えて会場に戻ると戦いは未だ続いている。しかしポケモンバトルより疲れを一切見せずに歌い続けるメアの方が凄い気がする……

 メアもナナも凄すぎて時々忘れかけるが、まだ十二歳なんだよな。つまり小学六年生。小学六年生が歌と踊りで実力を認められて、スカウト。そしてこの規模の大会で歌って踊るって凄いことだよな。しかもぶっ続けで。大人でも相当キツイと思うんだよな……

 そういえばメアは父親がカントー地方にあるマサラタウン出身とか言っていたな。それが関係あるかどうかは知らないが……

 

 それから大会は続く。例のウルガモスも問題なく勝利を収める。つまり次にナナと戦うことが判明したわけだ。そしてボルノも問題なく勝つ。

 

『決まったぁ! ドラピオンの鮮やかな一撃がリザードを倒した! この男も強いぞぉ!』

 

 会場が盛り上がる。勝ったのは黒髪ロングコートの少し怖い男。これで二回戦が終了となる。一体のポケモンだけで二回戦を突破できたトレーナーはナナ含めて六人。

 今のドラピオン使い、そしてギャラドス使い、ゴルーグ使い。あとはボルノ、ナナ、そして例のムンナを捨てたトレーナー。この大会でもこの辺りが優勝候補になってきたな。

 

「やっほー。私の歌どうだった?」

「良かったわよ。メア」

 

 メアがナナの元にやってくる。二回戦も終わり、三十分の休憩時間だ。ナナがメアにのど飴を渡すとメアは目を輝かせて、のど飴を受け取る。まさかのど飴がそんなに嬉しかったのか……

 

「でも、こんなにも早く大舞台で歌うことになるなんて予想外だよ~」

「それで歌ってみてどう?」

「やっぱり緊張するね。でも凄く楽しいよ!」

「それなら良かったわ」

「しかし次の勝負気を付けてね。負けるなんてことは万に一つもない。一応、私もキンランさんも近くにいるけど、正直に言ってなにをしてくるか分からない。女の子に殴りかかるような奴がまともなわけがない」

「……そうね」

「調べたら相手の名前はアレスって言って、どっかの社長の馬鹿息子みたい。そしてウルガモスは彼が育てたポケモンじゃなくて貰ったポケモンということも分かったわ。もっと言うなら会社は既に彼のお姉さんのものになってて……旅をしているなんて聞こえは良いけど実態は島流しに近いものだね。もっとも彼がそれに気づいているかどうかは不明だけど」

 

 なんとなく実態が掴めてきた。しかしやることは変わらない。バトルで勝てばいいのだ。

 

「そういえばメアに殴りかかった後はどうなったの?」

「ジュンサーさんから厳重注意。それだけだよ」

「え……?」

「私が被害届を出さなかったからね。事件にすると裁判に呼び出しや事情聴取とかで旅どころじゃなくなるから」

「そうね。まぁそこが落としどころかしら」

 

 そんな感じでメアの休憩時間が終わり三回戦が始まる。ナナも控え室にいってウォーミングアップする。ムンナをボールから出して体調不良はないか。精神的に安定しているか簡単な対話で念入りに調べていた。

 

「ムンナ。大丈夫。あなたなら絶対に負けないから!」

「ンナ……(うん……)」

「でもやっぱり不安だよね。勝ち負けじゃない。会うことが怖いんだよね。本当にきつかったら言ってね。その時はボールに戻すから」

 

 そうしてムンナとウルガモスの戦いが始まろうとしていいた……

 


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