目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
「行っておいで。ムンナ」
『ナナ選手! 出したのはダークライではない! なんとムンナだ! 一体どのような意図があるのだろうか!』
三回戦が始まった。幸いにもムンナはやる気だ。そしてこちらを相手は睨んでいた。二回戦と同じようにメアも会場にいる。恐らくまた歌うのだろうな。
「舐めやがって! ムンナなんかクソ雑魚を出して! 俺にはダークライを出す価値もねぇと言いたいのか!」
「……勝手に言ってなさい。あなたは私のムンナに勝てない」
「ウルガモス! 焼き焦がせ!」
「ムンナ。右に軽くステップ。それからあくのはどうで吹き飛ばして」
ウルガモスがボールから出ると同時に炎を吐き、ムンナを焼き焦がそうとする。しかしナナはそれを見越してムンナに的確な指示を出して、あくのはどうを撃つ。しかしウルガモスはビクともしない。さてナナはどう攻略するのか……
「俺のウルガモスにこんなしょぼい攻撃が効くわけないだろ!」
「知らないの? 塵も積もれば山となるのよ」
ウルガモスが炎を巻き散らかす。しかしムンナには掠りもしない。その度にあくのはどうを当てて、じりじりとウルガモスを削っていく。一撃一撃のダメージは小さくとも、確実にダメージは蓄積される。
「なにやってんだよ! ウルガモス! ムンナなんて雑魚はさっさと倒せよ」
「……ムンナ。絶対にウルガモスに近づいたらダメよ」
「……ンナ? (どうして?)」
「あのウルガモス。想像以上にバトル慣れしてる。近づいたら恐らく予想外で手痛い一撃を受ける」
「ンナ(分かった)」
会場の全員がナナの方が有利に見えている。しかしナナだけは違った。ナナだけは自分が不利になっていると思っていた。そして、それは正しい。ナナとずっと一緒にいるから分かる。ナナは炎を避けるのが困難になっている。恐らくウルガモスはムンナの動きを見極め始めている。
「このウルガモス。想像以上に化け物……ムンナ! 次は上よ!」
「ンナ(分かった)」
ウルガモスが炎を吐く。ムンナはそれを避けるが、ウルガモスはムンナに近づき、ムンナの体を掴んだ。しかしナナはそれを予測していた。特に焦る様子を見せることはない。
「ムンナ! 慌てないで! ころがるを使ったカウンター攻撃でウルガモスを叩き落としなさい!」
「ンンンンンンンナナナナ!(やってやるるるうううう!)」
ドスンと激しくウルガモスの巨体がフィールドに叩きつけられた。ムンナはころがることを止めずにウルガモスにじわじわとダメージを与えていく。その時だった。ギイイィィィィヤァャャァという嫌な音が会場全体に響いた。ムンナがそれにもがき苦しみ、その隙を突いてムンナを吹き飛ばす。
「……むしのさざめき! そんな技を撃つ余裕があったなんて」
シノノカップが始まって初めてナナが動揺を見せた。ムンナはボロボロになりながらも立ち上がる。気合いで耐えたという感じだ。恐らく普通なら致命傷……
「ムンナ。まだ戦える?」
「ンナ!(ああ!)」
『今の一撃にムンナが耐えた! ダークライだけではない! ムンナも相当強いぞ! この試合! どっちが勝つか分からない接戦だ!』
しかしウルガモスもムンナのころがるで相当なダメージを負ったようだな。あと一撃でも当たれば負ける。互いにそんな状況だ。
「ウルガモス。ムンナ相手になにをやってんだよ! さっさと……」
その時だった。誰も予想だにしていないことが起こった。ウルガモスが上に羽ばたき、自分のトレーナーに襲いかかったのだ。体当たりで体を吹き飛ばし、自分のボールを破壊。そしてバッグを漁り、木の実をついばんで回復させていく。一体なにが……
「ガモスッ……(この時を待っていた……)」
ナナは瞬時にヤバい状況だと判断。試合中にも関わらずムンナに近づき、傷薬を使って回復させる。メアも歌をやめる。そして会場が騒めく。
「……ガモス……ガモス(待っていた。私に相応しいトレーナーを)」
「見限ったのね。ウルガモスがトレーナーを見限った。だから自分でボールを破壊して野生に戻ることを選んだ……つまりここにいるのは野生のウルガモス。そして野生のポケモンというのはどう動くかまったく分からない……」
ムンナを抱き抱えながら、冷静に分析するナナ。ナナはすぐに対応出来るように僕のボールを握る。しかしウルガモスはこちらを一切見ていなかった。見ていたのはメアの方だった。まさか……
「ガモスッ!(我が主人!)」
ウルガモスはメアに頭を下げて、跪いた。その様子をポカンとした表情でメアは見た。そしてメアはマイクを持ったまま口を開いた。
「えー……なにが起こったのかな?」
マイクはメアの声を拾い、会場に伝わる。
当然ながら大会は一時中断となった。困ったメアはとりあえずウルガモス保護のために腰にある新品のモンスターボールを軽く当てる。ウルガモスもそれに抵抗することなくあっさりウルガモスがゲットされる。
「と、とりあえずウルガモスゲット……だぜ……で、いいのかな?」
そしてメアがウルガモスを捕まえたことで、その場は落ち着いた。ナナ達は現状の整理のために責任者のキンランに連れられて会場を後にした。ちなみにウルガモスのトレーナーは喚いていた。やがてキンランが冷静に分析する。そしてウルガモスの話をまとめるとこうらしい。
『今の主人は弱すぎる。だからメアに従うことにしたと』
もっと細かく言うのならウルガモスは主人を見限る計画は前々から考えていたらしいが、野生のポケモンになるつもりはなかった。だから自分が従うに相応しいトレーナーを探していたが、しかし中々見つからないい。そんな時に先日メアと戦い、負けた。ウルガモスはメアにフルボッコにされ、メアの戦いに感化されてメアのポケモンになりたくなったとか。しかし、その場でアクションを起こさなかったのはメアの仲間である、ナナがどのようなトレーナーなのか手合わせをしてみたかったから。そしてムンナと戦い、ある程度満足したウルガモスは計画を実行に移すことにしたのだ。少なくとも僕がボール越しで聞いた限りだとウルガモスはそう供述している。
「……まぁポケモンがトレーナーを見限るのはよくある話。でもさすがに他のトレーナーの方が良いから抜けるなんて初めて聞いたわ」
「えっと……キンランさん。このウルガモス。どうしたらいいんですか?」
「メアちゃんが捕まえたんだからメアちゃんのポケモンにするしかないわよ」
「ですよねーまぁ仕方ないか」
「いや、待て! これは俺のウルガモスだ! 人のポケモンを取ったら泥棒だろ!」
「あなたにウルガモスのトレーナーになる権利はウルガモスに捨てられた時点でないわ。トレーナーがポケモンを選ぶように、ポケモンにもトレーナーを選ぶ権利はあるのよ」
ナナが冷たくそう言う。しかし難しい問題だよな。どっちが良いか悪いかなんて言えない。あまりこういう表現はしたくないが、言うならば寝取りのようなもの。トレーナーとしてはやりきれないだろうな。しかしムンナにはきちんとバトルで勝って決着をつけてほしかった。なんかバトルが滅茶苦茶にされてすごく気分が悪い。この上ない消化不良だ。
「……それにポケモンを捨てたあなたがポケモンに捨てられて文句を言う資格なんてない」
「は?」
「私のムンナ。あなたが捨てたムンナよ」
ナナはムンナをボールから出す。そしてムンナを数秒見て悩む。こいつムンナを捨てたことすら忘れていたのか。なんて野郎だ。それで思い出しのか話を進めていく。
「……それで? 弱い個体だから捨てた。そのなにが悪いんだよ」
その時だった。バチンと頬を叩く音が響いた。ナナが力強く頬を叩いたのだ。
「捨てられたムンナの気持ちはどうなるのよ! あなたが捨ててムンナがどれだけ悲しい想いをしたと思ってるのよ! あなたはムンナを卵から産んだのでしょう! だったら責任を持ちなさいよ! ポケモンは生き物なの! 捨ててもポケモンの人生はずっと続いていくのよ!」
「ポケモンが生き物? 違うね。ただの戦わせる道具だろ。それに捨てたポケモンがどうなろうが心底どうでもいい。ていうかムンナ強くなったな。俺のところに帰ってこいよ」
彼の高圧的な態度にムンナは震えて、ナナの影に隠れる。そしてナナは一歩も引くことなく叫ぶ。
「……あなたにだけは絶対にムンナは返さない。ムンナはもう私の大事なポケモンよ!」
「はぁーうっざ。このムンナを卵から孵化させたのは俺。つまり俺のポケモンなの? 理解出来た? 俺なんか間違ったこと言ってる?」
今すぐにでもボールから出てぶん殴りたい。こいつはドクズだ。あまりに身勝手。まるでポケモンの育成をゲームだと思ってるみたいな感じ……
いや……この世界に長くいたから忘れていたが考えてみたらポケモンは元々ゲームの世界だな。それなら彼の考えもある意味正しいのか? しかし少なくとも、この世界のポケモンには心がある。ゲームとは大きく違う。やはりポケモンをゲームだと思うのはご法度だな。
ここをゲームだというのは、ナナも含めて全ての存在を否定することになる。
「……分かったわ。それならバトルで決めましょう。どんなに話したところで話し合いは平行線。つまり時間の無駄。だったらバトルで決めるのが一番手っ取り早いでしょ?」
「そうだな。いけ、ムシャーナ!」
「シャァア~(二か月ぶりの外~)」
出てきたムシャーナはやせ細っていた。まるで今にも倒れそうだ。そしてムシャーナの言動からして、ボールの中でずっと放置されていたのだろうな。
「ムンナ。いける?」
「ンナッ(まかせろ)」
「よし、ムンナ! それじゃあ頼んだわよ!」
「けっ! 俺のムシャーナは図太い性格で6Vなんだぜ? 進化前で個体値クソのこいつが勝てるわけねぇだろ!」
「ムンナ。おんがえし!」
勝負は一瞬だった。ムンナがムシャーナを吹き飛ばして一撃で戦闘不能にする。明らかに育てられていないムシャーナ。なんか可哀想だな。ムシャーナが。
「いや、おかしいだろ! 俺のムシャーナは6Vなんだぞ! それなのにゴミ個体で進化前のムンナにどうして負けるんだよ!」
「レベルよ。どんなに個体値が良くてもレベルに差があったら勝てないのよ。あなた個体値が良いことに甘えてポケモンを育てなかった。だから負けたのよ」
ナナはムンナをボールに戻す。ナナが言ったのはポケモンとの絆とかそういう根性論ではない。たしかな理論と根拠だった。そして敗因を真っ先にレベルと言う姿はナナの兄であるチャンピオンに重なって見えた。ナナは彼に背中を向けて歩いていく。
「二度と私の前に現れないで。不愉快で吐き気がするから」
たったそれだけ言い残して……
ちなみに三回戦の結果だが、ウルガモスの暴走により、彼の強制負け。そしてナナの勝ちという処理がなされていた。問題なく大会は進められそうだ。
ナナは部屋に戻り、ナナがシャワーでムンナの体を洗う。まるで労わるように。
「ムンナ。今日はお疲れ」
「ンナッ(ほんとだぜ!)」
ムンナは既に震えることなく、堂々とナナに体を洗ってもらいながらくつろいでいた。まるでどこか吹っ切れたかのようだった。
「ンナー(ありがとな)」
「なにが?」
「ムンナァ(俺を大事なポケモンと言ってくれて)」
「当たり前よ。事実なんだから」
ナナはシャワーを止めて、ムンナをドライヤーで乾かしながら外を見る。そこにはウルガモスと特訓をしているメアの姿があった。どうやら正式にメアのポケモンという扱いになるようだな。しかし特訓というよりは身体能力テストだな。ウルガモスに色々な動作をさせて、その結果を紙にまとめている。
「メアの三匹目はウルガモス。変なゲットだったわね」
「ンンナ(これからアイツとも一緒に旅をするのか?)
「そうなるわね。あの時は決着がつかなかったけど、また戦えるわね」
「ンナ……(勘弁してくれ)」
「同感。ただでさえ強いウルガモス。それをメアが扱うなんてゾッとするわ。もしも戦うことになったらムンナでどう勝とうかしら」
「ンナ(いや、俺で勝つのかよ!)」
「当たり前でしょ。炎と虫のウルガモスには全員が不利なんだし、それなら岩技を覚えているムンナじゃないと勝てないわ」
「ンナァ(しょうがねぇな)」
ちなみにこのあと彼がどうなったのか知らない。ただ一つ言えるのは起きたら一切の痕跡を残すことなく、この街から消えていた。
The補足
今回みたいなケースの場合、ウルガモスの所有権はメアのものになるのか? その答えは基本的になりますです。
デトワール地方では、今回のような揉め事が起きたらポケモンの感情を優先させるようになっています。つまり一言で言うなら、どんなケースであろうが『ポケモンが〇〇の方がいい!』と言ってしまえば所有権はそのトレーナーになるのです。