目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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32話 準決勝。そして白騎士降臨

『遂に準決勝! 最初のカードは最強少女ナナと謎多きドラピオン使いだ! とりあえず両者にインタビューを言ってみよう。まずはナナ! 一言どうぞ!』

 

 ナナにマイクが渡される。ナナはそれを受け取ると数秒だけ言うことを考えて喋り始めた。

 

「私は誰が相手だろうが全力で勝ちにいく。絶対に負けない!」

 

 その一言はナナの覚悟が垣間見えた。会場にいる人に言い聞かせているのではない。自分に言い聞かせてるんだ。負けるわけにはいかないと。

 

『負けないと言い切った! それじゃあ次はドラピオン一体で駒を進め、冷酷無慈悲な戦いで勝ち進めていったネオンにインタビュー行ってみよう!』

 

『私は私のやり方で勝つ。そして世界を変える。この大会は言うならば改革の第一歩である! 私も負ける気はない!』

 

 それを言い終わるとメアが実況からマイクを掠め取る。そして可愛い声で仕切る。

 

『それじゃあインタビューも終わったところでシノノカップ準決勝! 第一試合ナナVSネオンいってみよう! 両者! 戦闘開始だよ!』

 

 一気に会場が沸き立つ。ネオンは迷うことなくドラピオンを出してくる。ドシンと重々しい着地。ナナもそれに負けまいとボールを投げてスピアーを出す。

 

「ほう……ダークライじゃないのか」

「全力で勝ちにいきますから」

 

『さぁ開幕だ!』

 

 マイクはいつの間にか実況の元に戻っていて、戦いの火蓋が切られる。メアが歌い始めると同時にナナは動き始めた。

 

「スピアー! 先手必勝よ! メガホーンで吹き飛ばしなさい!」

「メガホーンだと! ドラピオン! 頼んだぞ!」

 

 スピアーは神速でドラピオンに接近して、メガホーンを叩き込む。しかしドラピオンを爪で見事にメガホーンを受け止める。その状況でドラピオンはトレーナーの指示を受けることなくかえんほうしゃを放つ。しかしナナがギリギリで見切り、スピアーに引くように指示してダメージを免れた。

 

『なんという攻防だ! さすが準決勝! 今までの勝負とは明らかにレベルが違う!』

 

「……かえんほうしゃ。普通のドラピオンは覚えない技ね」

「それを言うなら君のスピアーのメガホーンも同じじゃないか」

「そうね……でも、あなたはもう私のスピアーについてこられない。いくよ。こうそくいどう」

 

 その時だった。ドラピオンが鬼の形相でスピアーを見ていた。スピアーはそれに怯えている。しかし、すぐに動くが明らかに動きは早くなっていない。こうそくいどうをしただろ!

 

「……こわいかお。対象のポケモンの素早さを落とす技」

「ご名答」

「でも私の方が早い。スピアー。動きながらこうそくいどう! もっとこうそくいどうよ!」

「なにっ!」

 

 スピアーはドラピオンを上回る速度でこうそくいどうを重ねていく。素早さを下げるなら、下げられるより先に上げればいい。それがナナの回答。

 

「……スピアー。そのままメガホーン!」

「ドラピオン!」

 

 ドラピオンがスピアーに吹き飛ばされる。しかし途中で態勢を整え直し、すぐに地面に降りる。そしてドラピオンはそのまま穴を掘り始めた。

 

「あなをほる。厄介な技ね。スピアー! 穴に潜ってそのままドラピオンを追尾!」

「……ドラピオン。穴から出たら、その穴に向かってかえんほうしゃ!」

「ダメ。転回しても間に合わない。それなら……スピアー。そのまま真っ直ぐよ!

 ドラピオンは地上に出ると地面に向かってかえんほうしゃを撃った。穴の中という避け場のない空間。スピアーは炎を避けられない。ナナもそれを理解している。だからスピアーに敢えて直進させた。スピアーは炎を纏いながら穴から出てくる。そして自分がなにをすべきなのか分かっているかのようにシザークロスをドラピオンに叩き込んだ。ドラピオンは膝をつく。しかし倒れない。だけどスピアーは信念で背後からもう一撃を喰らわせる。

 

「ドラァ!(グハァッ)」

 

 そしてドラピオンが倒れる。スピアーは炎を払い、なんとか立っているが虫の息。おそらく一撃でも喰らえば戦闘不能は免れないだろう。その状態のドラピオンにスピアーは一撃を決めたのだ。

 

「ドラピオン!」

 

『ドラピオン! 戦闘不能! 凄まじい攻防だった! しかしスピアーが意地を見せて、あのドラピオンを打ち破った! さすがナナだ!』

 

「スピアー。まだやれる?」

「ピアッ!(ああ)」

「その言葉を信じるわよ」

 

『ナナはそのままスピアーで戦闘を続けるようだ! そしてネオンはなにを出すのか!』

 

「……さすがに一筋縄ではいかないか。ヘルガー! いけっ!」

「ヘルッ(さぁ狩りの時間だぜ)」

「スピアー! そのままシザークロス!」

「ヘルッッ(遅い!)」

 

 ヘルガーはスピアーの一撃を躱すとスピアーに嚙みつく。スピアーは呻くが体を無理矢理動かして、軽くヘルガーに針を刺す。そしてスピアーは倒れる。

 

『スピアー! 戦闘不能! 両者一歩も譲らない激闘! そしてスピアーの動きを完全に見切ったヘルガー! これは強いぞ!』

 

「スピアー。よく頑張ったわね。そして出番よ。ダークライ!」

 

 スピアーをボールに戻して、僕の出番がやってくる。このヘルガーをどうやって攻略するのか……

 

「ダークライ。もう出し惜しみはしないわ! ダークホール!」

 

 このヘルガーは速い。いつものダークホールは当たらない。それならルンパッパ戦でやったあれをするんだ。一点に凝縮して弾丸を撃つイメージ。それでヘルガーを貫け!

 

「ヘルガー! 飛んで避けろ!」

「ヘルッ(うっ)」

「どうした! ヘルガー!」

 

 ヘルガーは痺れたかのように動かない。これはスピアーの麻痺毒だ。それで微妙に痺れているんだ。だから一瞬だけ動けない。スピアー! よくやった!

 

「スピアーの麻痺毒よ! 状態異常とまではいかないけど一瞬だけ動きを止めるなら十分すぎる! そして、そのまま眠りなさい!」

「ヘルガー!」

 

 ヘルガーはダークホールに当たり、眠り始める。しかしヘルガーが見てるのは悪夢だ。ヘルガーは悪夢にうなされて呻いている。

 

『おっと! ヘルガー! 寝ているだけなのに呻いている! 一体どういうことだ!』

「……私のヘルガーになにをした!」

「ズルはしてないわよ。ダークライの特性はナイトメア。それは近くで寝ている生き物全てに悪夢を見せる。そして悪夢は精神を蝕み、体力を削る」

「……まさか!」

「そう。敢えてダークホールは今まで使わずに隠していた。言ったでしょ? 全力で勝ちにいくって」

「くそっ! 戻……」

「ダークライ。その隙を逃さないで! あくのはどう!」

 

 ボールになんか戻させない。逃がすなんてことはしない。ナナに言われた通りにヘルガーにあくのはどうを撃つ。しかし一撃じゃ倒れない。ヘルガーは悪タイプで悪の技は効きにくい。だから連射だ!

 

「ヘルガー!」

 

『ヘルガー! 戦闘不能だ! まさかダークライにそんな一面があったとは! あまりに恐ろしいぞ! ダークライ! 思わぬ隠し球! ネオンはどう対応する!』

 

「……ヘルガー。お疲れ様。そしてラプラス! 勝ってこい!」

「ダークライ! 飛んで上からあくのはどうを撃ちまくりなさい!」

 

 ラプラスはボールから出ると同時にれいとうビームで僕を狙うが、ナナの指示で難なく避ける。そして上からあくのはどうでラプラスを一方的に攻撃する。

 

「くっ……ラプラス! こおりのつぶて!」

 

 氷の塊がこちらに飛んでくる。それを僕はギリギリで避けていく。そして避けながらあくのはどうでラプラスを削っていく。

 

「無駄よ。ラプラスほどの巨体は飛べない。上空に攻撃する手段はこおりのつぶてくらい。そしてこおりのつぶては見切った」

「……ちょっと頭が覚めてきた。ラプラスはたしかに飛べない。だけど泳げるんだよ。ラプラス! なみのり! それからのしかかりでダークライを地面に落とせ!」

 

 大きな波が会場に巻き起こる。ラプラスはそれに乗ってこちらに迫ってくる。しかしナナはそれを見越していた。僕に一言だけ命じる。

 

「ダークホール」

 手に小さな球を作る。それをラプラスに飛ばす。しかラプラスはそれを弾いたのだ。間違いなく当たった。しかしダークホールでも眠りにならない。

 

「ダークライは動揺しない。その場で少し後ろに移動。それだけでいいわ」

「な!」

 

 ラプラスが飛びかかってくる。しかし届かない。そのまま地面に落ちていく。もしもナナの指示通りに移動しなければ危なかったな……

 

「しんぴのまもりね。だからダークホールでも眠らなかった」

「……」

「あなたのポケモンはトレーナーの指示を受けなくても自分で判断して動く。それにより指示が伝わるまでの差を無くし、素早い動きを可能にしている。だからこそ不測の事態への反応が遅れる。例えばヘルガーの時のダークホールが良い例ね」

「そこまで分かってたのか……」

「ええ。戦う前に下調べは終わっていたわ。あなたの弱い部分。そして強い部分も知っている。だから最初に素早いスピアーを出してエースのドラピオンを倒した。おそらくドラピオンならダークホールを回避、そして指示がなくても臨機応変に対応されると踏んだから。想定外だったのはドラピオンのかえんほうしゃとヘルガーの素早さ。でも、そこはスピアーが頑張ってくれて助かったわ」

「……まだ勝負は終わってねぇぞ! 私は世界を変える! 私はポケモンが自分で考えて戦うスタイルが主流になるように世界を変えるんだ! そうだろ! ラプラス!」

「ラプゥゥウ!(ええ!)」

「最期の一撃だ! ラプラス! ぜっ……」

「ダークライ。あくのはどう」

 

 ラプラスの動きより僕の方が早い。ラプラスにあくのはどうは直撃して戦闘不能に追い込む。いや、さすが準決勝。なかなか強かったな……

 

「最期のラプラスのぜったいれいど。ラプラス自身が指示を受けずに打てれば間に合ったわね。ポケモンが考えて動く。その戦い方はとっても参考になったわ。でも、それは野生のポケモンとなにが違うのかしら?」

 

『ラプラス! 戦闘不能! 相変わらずの強さでナナは試合を制した! そして次は決勝戦だ!』

 

「……悪いと言ってるわけじゃないわ。簡単な話よ。この戦略の場合、トレーナーの役割はなんなのか。どうしたら野生のポケモンと差別化出来るか。それをするにはどうしたらいいのか。そこを考えたらもっと強くなるはずよ」

「野生のポケモンとの差別化か。たしかにポケモンの判断だけで戦うなら野生のポケモンと同じだな。そしてナナ。良いポケモンバトルだった。もしもまた会う機会があったら……」

「その時はまたバトルしましょう。ネオン」

 

 ナナとネオンが握手をして。互いに健闘を称えあう。その光景に観客は大いに盛り上がっている。しかしポケモンが自分で考えて動くことで速さを上げるか。それはナナがいないとなにもできなくなる僕の課題かもしれないな……

 

「ムンナ。そんなに怒んないで。絶対に決勝戦では出番があるから」

 

 ナナはムンナのボール越しにそう言っていた。どうやらムンナは自分の出番がなかったことに怒ってるみたいだ。考えてみたらこの大会でムンナの出番は殆どないもんな。

 

「……分かったわよ。あとでポフィン買うから機嫌を直しなさい」

 ナナは少し早歩きで売店に行き、ポフィンを買うと観客席に戻る。席に戻ったと絹は既にボルノの試合が始まっていた。

 

「ウィンディは炎タイプ! それなら私のギャラドスが有利よ!」

 

 試合は互いに一体目。ウィンディとギャラドスの試合。ギャラドスは攻撃を仕掛けているが、ウィンディには当たっていない。しかしタイプ的にはウィンディが有利だが……

 

「……ウィンディ。しんそくでギャラドスの背後をとってかみなりのきば!」

 

 ウィンディが言葉通り神速で動く、ギャラドスはそれに反応出来ていない。その隙を突き、ウィンディがギャラドスの喉に電気を帯びた歯で噛みつく。ギャラドスはそれに耐え切れず倒れた。

 

『ギャラドス! 戦闘不能! 途中までギャラドスが有利に見えていたが、なにが起こった!』

 

「……トレーナーの動揺を誘ったな。今まで互角だと思っていたのに急に一撃で倒されることでトレーナーは動揺する。それをするために敢えて互角のようにボルノはウィンディに手を抜かせていた」

 

 横で捕捉をするかのようにナナの隣で白いフードの男が補足する。ナナはその顔を見て驚く。まるで騎士のような男だ。黒髪に白い服が似合う。言うならば白騎士か?

 それならナナは黒姫だ。いや、でもこいつが騎士でナナが姫というのも癪だから、その考えはやめよう。

 

「……ノエル!」

「メアから連絡がきたから見てきたからテレポート屋に頼んで今日の昼頃にシノノシティに来てみたが、面白い大会もやってるんだな」

「ノエルも参加すればよかったのに」

「遊ぶ暇があるなら俺は修行する。それに俺の手持ちは今は三匹だが、ヒトモシは調整中で実際は二体だから出られん」

「あなたはそういう人だったわね」

「……ただボルノもナナも参加するなら少し出れば良かったかなとは思うけどね」

 

 笑いながらノエルはそう言う。しかしノエルが大会に参加していたらどうなっていたことか……

 

「ノエル。あれからどう?」

「テレポート屋に頼んでジム巡りしてバッジは五つだけど……」

「だけど?」

「どう足掻いても勝てない人に出会ってな。その人の弟子として現在は修行中」

「……ノエルが手も足も出ない人って誰よ!」

「デトワール地方の四天王の一人『メグ』先生だよ。いま俺の右にいるだろ?」

「やっほー。フェアリータイプの使い手のメグだよ~」

 

 少し小柄だが胸だけは大きい桃色の髪の女性がこちらに挨拶する。彼女もノエルと同じ白いフードを被っている。そして、彼女が四天王……

 デトワール地方の四天王は四人。そこにいるフェアリータイプの使い手の『メグ』とゴーストタイプの使い手『アリス』にひこうタイプの使い手『ドルマ』。そしてドラゴンタイプの使い手で元チャンピオンの『エンペラー』と。少なくともナナからそう聞いている。

 

「なるほど。君がノエル君の同期で現チャンピオン『カナタ』の妹さんか」

「……こんにちは」

「そんなに畏まらないでいいんだよ」

「しかし、どうして四天王ともあろうものが弟子を?」

「簡単だよ。私はノエルに可能性を感じた。やっぱりエラニの村出身のトレーナーは才能が桁違いだと改めて思ったよ。それに才能溢れる若者を育成するのも強者の仕事だからね」

「なるほど」

「そしてノエルはきっとカナタを超えるよ。彼の才能はピカイチだしね」

「それは無理ね」

 

 ナナの左から声がする。そこにいたのはキンランだった。ほんとにいつの間に……

 

「カナタは誰にも負けない。彼はポケモンマスターになる人よ」

「ふーん。やっぱりキンランはカナタのこと好きなの? まぁカナタと一緒に旅をしてた仲だもんね。二年も男女が一緒にいて、関係が進展しないわけないか」

「……は?」

 

 ナナが唖然とする。ていうか何気にとんでもない発言してねぇか! キンランがナナのお兄さんと一緒に旅? ちょっと情報の処理が追い付かないんだが!

 ていうかナナの反応からしてキンランが兄と一緒に旅をしていたのも知らないっぽいな。

 

『おっっっっと! フシギソウの見事な一撃! それにより準決勝が決着!』

 

 そんな話をしていると準決勝が終わっていた。完全にこっちに気を取られて試合を見逃した……

 

「キンランさん。どういうことですか?」

「どうもこうもないわよ。私はカナタ……あなたのお兄さんとカイヨウシティで会って一緒に旅をした。それだけよ」

「初耳……」

「聞かれなかったし、言う必要もなかったからね」

「ふーん。ていうか久々にポケモンバトルしようよ。キンラン」

「いいわよ。あとでやりましょう」

 




The補足
初めて名前を公開したナナの兄であり、チャンピオンの『カナタ』
名前の公表が遅かったのは単純に作者が機会を逃したからです。
そしてカナタの年齢は25です。ちなみにキンランが23となっています。
またカナタはチャンピオンになるまでの間はキンランと旅をしていました。
ちなみにカナタがチャンピオンになったのは19歳(今から6年前)、キンランがジムリーダーになったのは20歳の時(今から3年前)です。
ちなみにカナタは旅の話を殆どナナにはしていません。

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