目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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33話 チャンピオンを目指すということ

 シノノカップ三日目が終わった現在。僕たちはポケモンセンターの一室を借りて宴会をしていた。メグさんの提案で行われた宴会。メンバーはナナ、キンラン、メグ、ノエル。そこにメアとボルノが来ている。しかしナナとノエルだけは浮かない顔だった。あんなことがあったら無理もないか。

 

 キンランとメグのポケモンバトル。それはあまりに別次元。それこそ今までのポケモンバトルがお遊びにしてしまうくらいだ。内容は一対一で戦ったポケモンはエモンガとメレシーという普通のポケモン。結果は僅差でメグの勝ち。これがトップの戦いか……

 

「ノエル。チャンピオンの妹さん。分かったかしら? これがチャンピオンになるということなのよ。たしかにあなた達は強い。でも、チャンピオンには遠く及ばない」

「まぁーそのためにノエルには私がいるんだよ」

 

 キンランの厳しい言葉に対してメグが励ますように言う。しかしどう考えても彼女達と同じ次元になれる気がしない。常にフィールド全体を覆う全体攻撃。それを見切り避ける。ナナのやる未来予知なんて当たり前のようにやる。どう考える異常なポケモンバトルだ。そして、その異常なポケモンバトルを出来る様にならなければダメなのだ。

 

「……ナナ?」

「まったく分からなかった……なんの技を使ってるのか……ポケモンがどう動いているのかすら分からなかった」

「強いポケモントレーナーは知識や対応力だけじゃなくて動体視力……時には体力も必要になるのよ。ポケモンだけが強いわけじゃいけないのよ」

 

 キンランはナナにアドバイスするように言う。大会が終わった後のジム戦はキンランとやることになる。果たして今の僕たちで勝てるのか?

 

 ――どう足掻いても勝てるビジョンが見えない。

 

「しかしシノノカップで盛り上がりを見せる三人がまさか全員がエラニの村出身とはね。決勝を飾る二人はもちろんのこと、歌や踊りで会場を魅せて既に固定ファンまで出来てるメアちゃん。完全にエラニの村の身内大会な。まぁ私はなんでもいいけど。そういえばメグの弟子くんは、いつ私のジムに挑むの?」

「今はメグ先生から修行の一環としてジム戦禁止令が出てますから当分は先になります」

「そう。なら挑戦の日を楽しみに待ってるわ。そしてチャンピオンの妹さんは?」

「シノノカップが終わった翌日には挑むつもり……でした」

「でした?」

「でも正直に言うと勝てる気がしない……だから……」

「それなら来るといいわ。勝ちだけが全てじゃない。敗北から学ぶこともある。きっと私との勝負は良い経験になるはずよ」

「……ていうか伝説のポケモンが認めるトレーナーが弱いわけがないじゃん。そもそもジムリーダーなんて普通は何回も負けて、対策を必死に練って倒すもの。負けることが当たり前なんだよ」

 

 メアが気楽にそう言う。たしかにその通りだ。今まで一回で勝てていたのが異常。本来なら、そのくらい高い壁なのだ。

 

「二人とも気楽にいこ? たしかに強いけど二人とも二十歳を超えた大人。それに対して私達はまだ十二歳。あと八年もあるんだよ?」

「……八年しかないのよ」

 

 ナナがぼそりとそう言う。しかし場の雰囲気が悪くなってきたな。もし今より強くなるならどうすればいいのだろうか。ナナも僕も強くなった。しかしまだ上はいる。その上に行くために大切なものは……

 

「チャンピオンの妹さん……いいえ、ナナ。はっきり言うけど今のあなたにはチャンピオンはおろかジムバッジを8つ集めることすら無理よ」

「え?」

 

 キンランが怖いくらいストレートに言う。かなり厳しい言葉だな。

 

「……私のなにがダメなんですか?」

「あなたのスタイルよ。たしかにナナはトレーナーとしての才能もある」

「なら!」

「……ポケモンがダメ。あなたのポケモンはバトルに不向き過ぎる。優秀なスピアーに賢いムンナはまだいい。だけど問題はダークライ。ずっと戦いを見てきたけどダークライは自分の一番良い動き方、それに戦いの立ち回りをなにも知らない。それが結果としてナナの足を引っ張っている。催眠と高威力の特殊技の攻撃。たしかに強い。だけど。それは他のポケモン……例えばゲンガーでも出来るはず」

 

 ……僕が足手纏い? え? どういうこと?

 

「あなたのダークライ。自分がダークライという幻のポケモンであることにかまけて自分が特別だと思い込んでいる。それが成長を阻害している。個体としては最悪よ」

「……これ以上、私のダークライを愚弄しないでもらえます?」

「事実よ。あなたは自分のするあまり大事にするあまりポケモンの短所に気付けない。また弱い個体を見捨てることも出来ない。だから、あなたが強くても弱いポケモンで戦い続けるというハンデを背負って戦わなければならない。そして強いと言ってもハンデを帳消しに出来るくらい、あなたは強くない」

「ならもっと強くなる。どんなポケモンでも勝てるくらい……」

「どうやって? ポケモンバトルはトレーナーだけが強かったらいいわけじゃない。ポケモンとトレーナーの二人三脚で行うものよ。もしも、あなたのトレーナーだけが強くなって勝つというのはポケモンバトルだと私は思わない」

「……」

「『強いポケモン。弱いポケモン。本当に強いトレーナーなら好きなポケモンで勝てるように頑張るべき』。というあるトレーナーの名言が全地方に伝わっているわね。それはトレーナーだけが強くなれというわけじゃない。弱いポケモンを強く育てるのが強いトレーナーという意味だと思う。そしてナナにはバトルの才能はあってもポケモンを育てる才能はない」

「ならダークライと一緒にはチャンピオンになれないってことですか?」

「そうよ……というのも酷ね。一晩だけあなたのダークライ貸して。あなたに合ったダークライの使い方を考えてあげるから」

 

* * *

 

 そして夜の森。ナナはキンランにしぶしぶボールを預けた。そして今はキンランと二人。彼女は僕に様々な動きをさせて色々な技を撃たせた。この女……なにが狙いだ?

 

「まぁー大体が分かったわ。一つは撃つ技の威力が低い、二つは技を出すまでの判断が遅い、三つは技を出すことでしか戦えない」

 

 分かってる。そんなことは分かってる。ならどうすればいいんだ?

 

「……ポッ拳を教えるわ。フェルム地方という場所では不思議な石を使って『フェルムバトル』というポケモンと人間が完璧なコミュニケーションをして行うバトルがある。そしてフェルムバトルのポケモンの動きが人間の武術や拳法に近いことからポケモンの拳法。略してポッ拳として伝わった。今はマイナーな技術だけど」

 

 ポッ拳。それはどうやるのだろうか。そんなことを考えているとキンランがモンスターボールを投げた。そこからマルマインが現れる。

 

「ダークライ。このマルマインを技を使わずに倒しなさい」

「……エ?」

「技ではない攻撃。それがポッ拳。多くのポケモンやトレーナーは名称まで知らなくてもよくやってるわ。メアのニンフィアの後ろ足の蹴り、ナナのスピアーの麻痺毒、そして準決勝でネオンのドラピオンがやった爪で技を受け止める。その技ではないがバトルで使える技は全てポッ拳という名称で行われる。さぁマルマイン。10ボルト」

 

 マルマインから微弱な電気が飛んでくる。僕は慌てて、それを避ける。しかしポッ拳か。人間で言うならアッパーとか背負い投げを技と言い、普通のパンチや蹴りがポッ拳に該当するのだろうか。そういうことなら!

 

「……ヌッ!」

 

 マルマインに近づき、僕の細い手でマルマインを叩く。しかしビクともしない。ほんとにこんなのに意味があるのか!

 

「ポッ拳はダメージを与えるものじゃない。技を当てるための隙をつくる技術よ。そこを意識しなさい」

 

 なるほど。しかしあまりに威力が低い。隙を与えるのも不可。それならあくのはどう。しかし技を撃つのは禁止。なら技とも呼べない威力のものなら?どうだ?

 溜める時間をゼロにしてデコピン程度の威力しかないあくのはどう。それを撃つ!

 

「ヌンッ!」

 

 指先から紫色のビームを発射する。当たった場所から砂埃が舞う。しかしマルマインは無傷だ。今までは片手を使って少しいた。しかしこれは指だけ。威力もかなり落ちるが、感覚的に撃てる。これは使いやすくいいな! よし、ここからだ!

 

「マルマイン。お疲れ様」

「……エ?」

「私はあなたのトレーナーじゃない。教える義務もないのよ。ここまで出来るようになったら後は自分でトレーニング出来るはずよ」

 

 キンランはそれだけ言うと去っていった。

 そして茂みからナナが出てくる。まさかずっと見ていたのか……

 

「ポッ拳……私も初めて聞いた技術だわ」

「ナナ……」

「私もあれから考えたのよ。たしかにダークライは弱い。それは否定の出来ない事実だと思う。だけど私は信じてる。ダークライはまだ強くなるって」

「ソレデ……イイノカ?」

「私は弱いからという理由でポケモンを捨てるトレーナーにだけはなりたくない。でもキンランの言うことも事実……正直に言うとチャンピオンなんて夢は捨てるのが正解の気もする。だけど私はやっぱりチャンピオンという夢も諦めきれない」

「……」

「だから決めたよ。今は全力でやろう。全力で足掻いていけるところまでいこうよ。チャンピオンの夢を諦めるのは足掻いて負けて泣き叫んで心が折れた時。今はまだその時じゃないと思わない?」

 

 ああ。そうだな。ナナはチャンピオンを目指すが目指さない。矛盾だけどそう言うしかない。ナナはチャンピオンになろうとした経験は無駄にならないからチャンピオンを目指すということなのだろう。つまりチャンピオンを目標にするが、本気でチャンピオンになろうとはしない。それがナナの答えなのだ。

 

「ポケモンの厳選とかするのがチャンピオンを本気で目指すということなら私はチャンピオンを本気で目指さない。気楽に目指す。それが私の答えよ! それだけの話よ!」

「ナナ!」

「ダークライは弱い? よくも好き勝手言ってくれたわね! だったらダークライで倒して、それを間違ってたと言わせてやるだけよ! ああ! なんでこんな当たり前のことすら忘れてたのかしら! それに育てるのが苦手? だったら彼女の言ってたポッ拳を一晩でマスターしてあげるわよ! ダークライ! 今夜は特訓よ!」

 

 そうして夜通しの特訓が始まった。まだ完璧とは言えない。だけど僕は少しだけポッ拳を習得することが出来た。そしてなによりも僕は前よりもナナを好きになった。

 

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