目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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34話 決勝戦

『遂に決勝戦! もはや説明もいらないだろう! 戦うのはナナとボルノ! どんな熱戦をするのか期待が高まるところだ』

 

「初めてね。あなたと自分のポケモンで戦うのは」

「そうだな。でもオラは負けないぞ」

「私も。早く戦いましょう」

 

 ナナは結局一睡もしてない。クマをメアに頼んでメイクで隠して戦いに臨んだ現状だ。コンディションは最悪と言っても過言ではない。

 

「行くわよ! ムンナ!」

「頼んだぞ! ウィンディ!」

『それじゃあバトル開始だ!』

 

『みんなーいくよ! 戦闘開始だよ!」

 

 メアがマイクを取り出し、歌い始める。それが開始の合図だ。

 

「ムンナ! 右に飛んで!」

「ウィンディ! しんそく!」

 

 ナナは明らかにウィンディの指示より先にムンナに指示を出して避けていた。そしてムンナは避けると同時にころがるでウィンディにキツイ一撃を喰らわせる。あの晩はポッ拳の練習だけではない。ナナの新たな戦闘スタイルの練習もしていた。ナナだけの勝負にならないための戦い方。

 

「ムンナ。ゼロハチ秒後に背後からしんそくからのほのおのきば。それを避けられたらかえんほうしゃ」

「ウィンディ! もう一度だ!」

 

 ナナの指示を受けてムンナが避ける。これが新たなナナのバトルスタイル。ナナは相手の攻撃のタイミングだけをポケモンに伝え、ポケモンがナナから受けた情報を自分で整理して考えて動く。野生のポケモンと同意義になる。これは準決勝でネオンの戦い方を見て、それをナナ流に仕上げたもの。そうすることで伝達の時間を抑えて素早く動ける。名づけるなら『ワイルドスタイル』だ。

 

「ナナ。これが新しい戦い方なんだね?」

「ええ。もう少しポケモンにも頑張ってもらうことにしたわ。ムンナ。またしんそくがくる。今度は少しだけ右にくるから注意ね」

「ンナッ(了解)」

「ウィンディ! しんそく!」

 

 ムンナは再び避ける。ウィンディは速い。見てから指示じゃ間に合わない。しかしナナは見るより先に予知で指示をする。だが予測から指示。ムンナが聞いて判断。それでも間に合わない。だからこその最小限の情報に抑えたワイルドスタイル。

 

『すごいぞ! あのウィンディの攻撃を意図も容易く避けている! さすがナナだ!』

 

「ガルルルルッ(どんなカラクリだ)」

「予測だ。オラとウィンディの癖を完全に分析して必中の予測を立てて指示。だから当たらない。ウィンディ。ここは引こう」

「ガルッ」

 

 ウィンディがボールに戻される。そして次のポケモンが現れる。それは青い人型のポケモン。僕でも知ってるポケモンだった。

 

「ゆけっ! ルカリオ!」

「カリオッ!(私の出番か!)」

「いつの間にそんなポケモンを……」

「ナナ。悪いがもうオラとは勝負にならない。何故って? ルカリオは最強だから」

 

 その時だった。ルカリオとボルノの腕が光り始める。一体何なんなんだ!

 

「……うそでしょ!」

「ナナも知ってるだろ。メガシンカは」

 

『おっっっっと! なんとルカリオがメガシンカだ! まさかここまで隠しているとは! ボルノ! 底が見えない! ナナはどう対抗するのか!』

 

 ルカリオの姿が大きく変貌する。少しだけ体も大きくなり、一部が赤黒くなっている。それに目付きもかなり悪い。これがメガシンカなのか?

 

「ムン……」

 

 その時にいたのは吹き飛ばされて壁に練り込むムンナだった。なにが起きた! まったく目で追えていない!

 

『なにが起こった! とりあえず分かるのはムンナが戦闘不能だということだ! ナナが手も足も出ていない! あまりに強すぎる!』

 

「ムンナ。お疲れ様……頼んだわよ! スピアー!」

「遅い」

 

 次の瞬間。スピアーは倒れていた。目の前にはメガルカリオが無言で佇む。そんな嘘だろ。こんなのどうやって戦うんだよ……

 

『……スピアー、戦闘不能なのか? 一体なにが起こった?』

 

 あまりに突拍子のない出来事に司会も困惑している。会場も事態を飲み込めず唖然としている。そんな中でナナは笑っていた。ニヤリと少しだけ。

 

「だから言っただろ。勝負にならないと」

「……ねぇダークライ。このメガルカリオを倒したら私達はもっと強くなれるわよ」

 

 ああ。ナナは諦めていない。まだ勝つ気でいるんだ。策もなし。相手の動きも見えない。一撃でも受ければ即敗北。さらに相性は不利。最悪のクソゲーで無理ゲー。だからこそ勝てた時はもっと強くなれる。

 

「行くわよ! ダークライ!」

「このくらいじゃナナはへこたれないよな!」

 

『でたあぁぁぁぁぁぁ! 津にダークライだ! ダークライはどう戦う!』

 

 相手の動きは見えない。どう戦う。思い出せ。今までの全てをここで出し切れ。そうすれば勝てる。相手はポケモン。それなら無敵なんてことはない!

 

『ダークライ! 上に逃げたぁぁぁあ!』

 

 メガルカリオは空を飛べない。それなら空に行けばこちらが有利だ!

 

「油断しないで! メガルカリオの脚力なら普通にジャンプで追ってくる!」

 

 ナナの声が届く。それと同時に足を伸ばす。普段は収納していて見えることのない足。それでメガルカリオが来るであろう位置に蹴りを入れる。完全に出鱈目な蹴りだ。しかし見事に当たる。そして僕の蹴りは少し重いぞ。これがポッ拳だ!

 

「ルカリオ!」

 

『なんとダークライ! メガルカリオに見事に一撃を入れた!』

 

 その隙を逃すな! ここでメガルカリオを眠らせる! そのままダークホールだ! もちろん素早く、的確に。一撃集中……いや、ダメだ。恐らく避けられる。それなら避けられないものを考えろ。避けられないもの……雨だ! 雨のイメージだ。

 今度は弾丸ではない雨粒のイメージ! 雨を起こすのは雲! それなら闇で空を覆えばいい! そう思い、空に手を伸ばす。薄い闇に膜ができるが、雲には遠く及ばない!

 

「ダークライ! くるわよ!」

 

 いや、いい! この膜からマシンガンのように小粒の闇を発射する。しかしそれなら膜である必要はない。球体だ。大きな球体から小さな闇の玉を放てば全方位に攻撃が出来る。

 

「これがあなたの進化ね! ダークライ! そのままダークホールを決めなさい!」

「イケェェェェエェェェェエェェェェエェェェェ!」

 

 闇の玉はフィールド全域に放たれる。しかしルカリオは青い骨のようなものを出して全て払っていく。これでもまだルカリオの頂には届かないか!

 

「ルカリオ。はどうだん!」

「あくのはどうで打ち消して!」

 

 青い球がこちらに飛んでくる。一瞬だけ、どう対処するか悩むがナナの指示が飛んできて反射的に従い、難を逃れる。しかしルカリオは既に動いている。地を蹴り、宙を飛んでいる。僕もすぐにダークホールで対抗するがルカリオは再び青い骨のようなもので払う。

 

「ルカリオ! そのままボーンラッシュで地面に叩き落せ! そしてインファイトで追い打ち!」

 

 頭がカチ割られるかのような痛みに襲われる。それから地面に落とされ、衝撃が走る。しかし休む暇なんかない。ルカリオの殴る蹴るの連続攻撃。連撃の全てが重く、吐きそうになる。意識を手放しそうになる。だけど僕は勝つと決めた! まだやれる! 薄れゆく意識。その中でルカリオの胸を目掛けてダークホールだ!

 

「ルカリオ!」

 

 ばたりとルカリオが倒れる。ダークホールが当たった。すぐに追い打ちをかえよう。そう思う。しかし地面にのめり込んだ体が動かない。クソッ! あと一歩なのに! 頼むから今だけは言うことを聞いてくれ! 僕はナナを勝たせてあげたいんだ!

 

「ダークライ!」

 

 勝たなきゃ。ナナのために勝たなきゃ……こんなところで止まってられないんだ!

 

『立っっっったぁぁぁぁぁぁ! ダークライが立った! あの状況から起き上がったぞ!』

 

 意識が飛びそうだ。立ってるのがやっと……手に力を込める。あくのはどうを一撃だけでもルカリオに……そうしないと……

 

『しかしダークライ! その場で倒れる! 戦闘不能! 勝者はボルノだ!』

 

 体から力が抜ける。まだだ! まだ勝負は終わって……

 

「ダークライ。お疲れ様」

 

 ナナ……僕はまだ戦える……何度でも起き上がって……

 

「私達は負けたのよ。完膚なきまでに」

 

 負けた。その言葉で一気に体から力が抜けた。これでも敵わない。ここまでやっても眠らせた止まりなのかよ! こんなに全力でやって! 戦いの中で成長しても届かないのかよ!

 

「ミト……メ……ナイ」

「ダークライ。今は休みなさい」

 

 ナナは僕にげんきのかけらを食べさせて傷薬を使ってボールに戻す。完全に活動限界だ。それでも体が痺れて動かない……悔しい。すごく悔しい。

 

「……ボルノ。いい勝負だったわ」

「ああ。久々に戦えて良かった」

 

 それからナナとボルノが握手して、この場は幕引きとなった。

 あまりに圧倒的な力の差。ボルノのポケモンを一匹も倒せなかった。メガルカリオに痛手の一つも負わせられなかった。そんな中で表彰式。ボルノにつきのふえが渡される。そしてキンランが少し長い話をして幕引きとなった。ナナはそれから誰とも会話することなく部屋に戻った。ベッドで一人泣いていた。自分の無力さに打ちひしがれていた。その日の空気はこの上なく重かった。

 


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