目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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36話 エピソード:ナナ

 私は目を覚ます。手足は束縛されて動かない。口には布で喋ることすらままならない。そして腰にボールもない。なにが起こったか三秒くらい考えた。恐らく私は拉致られたのだろう……誰に? なんのために?

 ていうかダークライ! ムンナ! スピアー! みんなは!

 

「暴れても無駄よ」

「……ん……んん!」

「ごめんなさい。これじゃあ喋れないわね」

 

 女が近づいてきて、私の口から布を外す。やっと喋れるようになった。ハッキリと分かる。私のポケモンが奪われたということは。

 

「私のポケモンを返して!」

「……ダークライ以外なら条件付きで良いわよ」

「ふざけないで!」

「私はあなたに可能性を感じたのよ。悪の素質」

 

 悪の素質。なにを言っている? この女の狙いはなんだ。そもそも誰が私を拉致したのだろうか。まずはこの拘束から逃れなければ……

 

「ナナ。きっとあなたは素晴らしい悪になるわ。この世界には私の弟のように『ポケモンは人間の道具』だと思ってる人は多くいる。でもナナは『人間はポケモンの道具』だと思ってる。歪んでるわ。普通の人とは違う歪み。そして悪とは周りと違うということ、その歪みは悪として最高なものだわ。だから私はナナに仲間になってほしいの……」

 

 そんな時だった。警報器が鳴り響く。女は軽く微笑むと私に一言だけ言う。

 

「少し邪魔者が来たみたい。あとでたくさん遊びましょう……そして私達の仲間にならないようならどんな辱めを受けてもらおうかしら?」

 

 女は部屋から出ていく。私はしばらくは震えて動けなかった。最後の脅迫に近い言葉が怖いんじゃない。誰にも言ったことのない本性を始めて当てられた。それがなによりも怖かった……

 

* * *

 

 私は幼少期から普遍的な教育を受けていた。しかし、それが問題だった。

 

ポケモンを虐めてはいけない。ポケモンは人間の道具じゃない。そんな当たり前の教育だ。しかし私は壊れていた。その当たり前の教育を受けるうちにポケモンを神様に等しいなにか。自分より上の存在だから大切にしなければならないと思ってしまったのだ。

 

 それが私の最初の歪み。そして少しだけポケモンと触れ合うようになる。ポケモンは炎を吐いたり、空を飛んだりと人間とは明らかに違う。その時に強く私は感じた。『人間はポケモンにおいて種族的に劣っている』と。それは自分より上の存在という考えの裏付けとなった。私の考えは正しかったと思った。そして始めて見たポケモンバトル。

 

 それを見て思ったのは『どうして人間如きがポケモンに命令してるんだろう?』だ。そして幼い私は幼稚な答えを出してしまうのだ。『ポケモンが人間を使ってる。人間がポケモンの道具なんだ』と。

 

 それから私はエラニの村に行き、ポケモンの力を最大限に発揮出来る道具になるために必死に勉強した。そんな中で私はチャンピオンとなったお兄ちゃんの戦いを見る。それに私は魅入られた。『私はお兄ちゃんみたいな立派な道具になりたい』と強く思った。

 チャンピオン。それは優れたポケモンの道具であることの証明だ。だから私はチャンピオンになって一番良い道具だと証明しなければならない。

 

 エラニの村で勉強中に私はウツロイドというポケモンについて知った。それは寄生して神経毒で対象を自らの欲望のままに動く化け物にするポケモン。しかし毒にはウツロイドを守るように心理誘導する作用もある。素敵だ。人を完全に道具として扱うポケモン。私はそれに惹かれないわけがなかったのだ。

 

 そして遂に旅立ちの日。何故か私を求めるダークライに会った。私は言われた通りに捕まえた。だってダークライがそれを望んだから。そしてダークライは私を大切な人に似てたから選んだと言った。その時に私は気付いた。

 

 違う!

 

 これは違う! ダークライが求めてるのは私じゃない!

 私みたいに歪んでる人間じゃない!

 そんな考えが脳裏に過った。その時に私は気付いた。私の考え方って異常だったんだ。ダークライの愛しい人を見る目に気付かされた。だってそれは道具を見る目じゃない。明らかに大切な人を見る目だったから。だから私は答えた。

 

――私は貴方の大切な人とは違う……と。

 

 それから強くダークライを愛しく思った。私のポケモンなんだ。対等なパートナーなのだと実感した。だから私はダークライに言う。私に必要だと。

 私がまともな人間になるためにダークライは必要だ。そしてダークライと一緒ならどんな壁だって乗り越えていける。私の歪みという壁さえも……もしも私が真人間になれたらダークライの大切な人になれるかな?

 

 それからムンナに出会う、トレーナーに捨てられたムンナ。私はムンナの話を聞いた時に怒りが沸いた。これは恐らく人間如きがポケモンを雑に扱ったことへの怒り。でも、それは悪い考えだと思ったからすぐにやめる。しかし同時に私は思った。ムンナにもダークライと同じ『大切な人を見る目』が出来るようになってほしいと。だから私はムンナを捕まえた。人間を少しでも好きになってほしい。何故か、そう思った。

 

 ある時にお金がなくなる。だから私は他のトレーナーを狩ることにした。どうせポケモンの力を満足に発揮することの出来ない道具だ。いくらお金を搾り取ろうが問題ない。やがて正義感で私に挑むトレーナーが現れる。まるで私が悪いと言いたげに。それは想像通りだがムカつく。私はたしかに歪んでるかもしれえない。しかし負ける方が悪いのだ。ポケモンの道具になれない奴らが悪いのだ。それなのにどうして私が悪人扱いだ?

 

 くだらない。ほんとにくだらない。もうなにが正義なのか分からなくなってきた。とりあえずお金は欲しいので倒す。しかしダークライの表情はどこか不満そうだ。弱い者虐めって悪いことなんだ。私は初めて気付いた。これからはこういうことはやめようと思った。私は真人間になるんだ!

 

 そしてジム戦を突破して私の元からダークライが離れる。私は焦った。もしかしたらダークライは私の本性を知って離れたのではないかと不安になる。ダークライを見つけて私はホッとする。それから気付く。私はダークライに捨てられたくない。ダークライと一緒にいたいということに……

 

 私は色々な人に会う。そして学ぶ。真人間とはなんなのか。正しいポケモンとの関係性とはなんなのか……だけど、まだ答えは出ない。

 ねぇ……旅が終わる頃には真人間になってダークライの大切な人になれるかな?

 

* * *

 

「……ダークライ。どこなの?」

 

 あらから何時間経っただろうか。私は力なく呟く。ダークライと一緒にいたい。私にはダークライが必要だ。まだ旅は途中なんだよ。私にはダークライが必要なんだよ……ダークライがいないと……

 無音の部屋、なにもない部屋。無力な私。ねぇどうして私がこんな目に遭わないとおいけないの? やっぱり私が歪んでたから?

 でも歪んでることのなにが悪いの? そもそも正しいってどういうことなの?

 なんで私は悪なの? ていうかもうどうでもいい! 私はダークライといたい! まだダークライと旅をしたい! ねぇ……だれか…………助けて!

 

 その時だった。目の前の扉が壊された。白いロングコートの男性がグソクムシャを連れてコツンコツンとこちらに歩いてくる。どうして彼が……

 

「悪い。少し遅れた」

「ノエル! どうしてここに!」

「決まってるだろ。ナナを助けにきた」

 




The補足
少し前にコメントで述べた『ナナの悪役適正は意図して書いてる』をやっと回収することが出来ました。最初のうちに見せたナナの異様なまでのダークライへの依存や倫理観の欠けた行動、ポケモンファーストな考え方など人によっては引っかかりを覚えた方もいたでしょう。しかしそれは全て『ナナが歪んでいた』からであり、ナナの問題点でもあります。またナナの歪みの伏線として意図して書いたものでもあります。少しでも引っかかってモヤっとした方がいたら作者としても嬉しく思います。そしてナナが自分の歪みとどう向き合っていくのかというのも一つのテーマになると思います。
ちょっと長くなりましたが本編で語ると冗長になってしまいますのでこの場を借りて『ナナ』についての補足をさせていただきました。
また、あとがきの補足は本編で語ると冗長になる設定や本編で語るつもりのない設定を書いていくつもりであり、基本的に読み飛ばしていただいて問題ありません。

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