目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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3話 初めてのポケモンバトル

 ここはデトワール地方のエラニの村という場所らしい。この村は地図に載らないくらい辺境にある場所で小さいが、多くの強豪ポケモントレーナーの出身地だったりして、知名度は高い。また、ここではアルナノ博士が先生を兼任して子供達にポケモンのことを教えている学校がある。そして、そこの生徒の一人が僕のトレーナーでもあるナナだ。

 

 ここの生徒はナナを含めて四人。白いロングコートを着ているノエル、Tシャツに短パンのボルノ、茶髪で明るいツンデレのメア。そして世間では十歳になるとポケモンを持つことが許可されるが、この村では十歳にポケモンを持たせるのは危険だということで十二歳から。 

   

 学生が全員十二歳になると、その二週間後にポケモンを捕まえて、余興として捕まえたポケモン同士をトーナメント形式で学生同士で戦わせた後に正式なトレーナーになる。

 そして現在、ポケモンバトルが始まってとしていた。

 

「コソクムシ。アクアジェット!」

 

 コソクムシと呼ばれたポケモンがコソコソとう素早く、動き水を纏う。それから目にも止まらぬ速さでフシギダネへと突っ込んでいった。

 

「フシギダネは攻撃をそのまま受けて、返しのつるのムチ!」

 

 しかしフシギダネはものともせず受け止めて、つるのむちを放つ。バチンと大きな音が鳴ってコソクムシが吹き飛ばされた。その一撃でコソクムシはひんしになり、ボルノの勝ちが決まる。

 

「やっぱりコソクムシは扱いが難しい。あの素早い動きに、低い攻撃力。それをどう生かすかトレーナーの腕がとても問われる。もっと勉強しないとな。とりあえずコソクムシはお疲れ様」

 

 ノエルがコソクムシを抱え上げて、元気の欠片と傷薬を与えて回復をしていく。

 

「いやぁ良い勝負だった」

「ああ。また頼むよ。ボルノ」

 

 それから二人は握手をした。そして遂に僕の番だ。バトルは怖い。どうにかして逃げたい。そもそも技ってどうやって出すんだよ。

 

「ダークライ! 頑張ろうね!」

 

 しかしナナの声を聞いて勝たなきゃと思う。ここで逃げるわけにはいかないんだ。なんとしてでも僕は勝たないといけないんだ!

 

「それではナナVSメルの試合を始める。両者はポケモンを!」

「お願い! ダークライ!」

「任せたわよ! ハスボー!」

 

 相手のポケモンはハスボーか。頭に乗った皿みたいなおおきな葉っぱが特徴的なポケモン。さて、どうするか。

 

「バトルスタート!」

「はっぱカッター!」

「避けてダークライ!」

 

 メルは開始の合図と同時に攻撃を仕掛けてくる。はっぱが宙を舞い、文字通りカッターのように体を切る。避けようにも間に合わない。血は出ないが、軽く鋭い痛みを感じる。しかし、そこまで傷口は深くなさそうだ。まだまだ余裕で戦えるな。

 

「……ダークライ。あやしいかぜ!」

「……?」

 

 あやしいかぜってどうやって出すんだよ! いや、いきなり言われても分かんねぇから!

 とりあえず風だよな。つまり風を起こせばいいんだよな。うん。それでどうやって風を起こせばいいんだよ!

 

「だから、あやしいかぜよ! あやしいかぜ!」

「こないならこっちからいくわ! ハスボー! はっぱカッター!」

 

 やばいな。とりあえずやってみるしかねぇか。

 そう思いながら風を起こすイメージで手を振り下ろした。すると紫色の突風が巻き起こった。突風は飛んでくる葉っぱを全て落として、ハスボーを吹き飛ばした。

 

「もしかして、このダークライって……」

 

 それからナナが少しだけ考え込む。一体なにを考えているのか。しかし、そんなナナにお構いなくバトルは進行していく。

 

「ハスッ!(マスター! 指示を!)」

 

 ハスボーが起き上がって鳴く。同じポケモンだからなのか喋っていることが分かる。

 

「そうね。近づいてゼロ距離でみずでっぽう!」

「ハスッッ!(了解!)」

「ダークライ。近づくまえにさっきと同じあやしいかぜでハスボーを倒して」

 

 ナナの方を見て頷き、再びあやしいかぜを起こす。技の使い方は分かった。手を振るうと再び紫色の風が起こり、ハスボーに襲い掛かる。しかしハスボーは迷うことなく、そのままこちらに突っ込んできた。

 

「ハスッ(マスターの命令はゼロ距離でみずでっぽう。吹き飛ばされるわけにはいかないんでね)」

 

 なんという信念だ。僕は再び手を振ってあやしいかぜを起こす。しかしハスボーは怯むっことなく、こちらへと向かってくる。

 

「ダークライ! 落ち着いて!」

「……」

「みずでっぽうを撃つときに一瞬だけ隙が生まれるはず。その時に手で払い飛ばしなさい」

 

 そんなことが出来るのか? いや、今はナナを信じてやってみるしかない。それに手で払うだけならワザじゃないし、僕にも出来るからな。

 

「ハスッッッッ(食らいやがれ)」

「今よ! ダークライ!」

 

 ゼロ距離になると同時に手でハスボーを払おうとする。しかし相手の方が一枚上手だった。結果から言うと払うのは失敗に終わった。

 

「ハスボー。なきごえ!」

「ハスッッッッ」

「しまった! ダークライ。すぐに後ろに下がって距離を取って!」

 

 ナナの指示に従おうとするが間に合わない。ハスボーの意味を持たない鳴き声。それが僕に襲い掛かる。あまりに甲高い声は頭が痛くなり、攻撃しようとする意志すら奪う。それでも役目を果たそうと手でハスボーを払うが、上手く力が入らず大した威力にならない。ハスボーは吹き飛ばされないように踏ん張って、僕との距離を保ってそのままみずでっぽうを撃つ。

 

「ダークライ!」

 

 ゼロ距離でのみずでっぽうは想像を絶する威力を誇った。水の勢いに吹き飛ばされて地面に叩きつけられる。意識が朦朧とする。最後の力を振り絞り、なんとか立ち上がる。ハスボーを倒す。それだけでいいんだ。

 

「ダークライ! あやしいかぜで勝負を決めて!」

「ハスボーはみずでっぽうで迎え撃って!」

 

 みずでっぽうが飛んでくる。死ぬ気で手を振り上げて、風を起こす。紫色の風はみずでっぽうを巻き込んで、ハスボーを吹き飛ばす。そしてハスボーは近くにあった木に叩きつけられた。幸いにも起き上がる素振りはない。

 

「ハスボー!」

 

 メルがハスボーに駆け寄って元気の欠片と傷薬で回復させる。ハスボーはすぐに目を覚まして、申し訳なさそうに鳴いた。

 

「ハスゥ……(申し訳ございません……)」

「いいのよ。ハスボー」

 

 そうしてハスボーはボールへと戻っていく。

 

「ハスボー。戦闘不能! 勝者ナナ!」

「やったね! ダークライ!」

 

 それからナナが僕に駆け寄って抱きついてくる。女の子特有の甘い匂いが鼻腔をくすぐるが、それどころではない。

 

「あ、ごめん! まずは回復だよね」

 

 ナナは僕の傷に気付くとすぐに傷薬を使う。傷薬の効きは強く、すぐに体が楽になってきた。傷薬の効き目は想像以上に強いようだ。

 しかし、これがポケモンバトルか。多少の痛みはあるが耐えられないものではない。ただ楽しいものではないな。でもナナの喜ぶ顔が見れるのは悪くないな。

 

「……先生。次のバトルは辞退してもいいですか?」

 

 そんな矢先にナナが僕に抱きつきながら先生に尋ねた。僕は勝った。トーナメント形式だから、ここから決勝のはずだ。それなのに辞退?

 

「うちのダークライ。今の勝負でかなり疲れているみたいですから」

「そうですか?」

「なるべくポケモンには無理をさせたくないんです。特に今のダークライの動きを見ていると技の出し方も知らないようでした。そのことから、このダークライは生まれて間もない赤子に近い状態と考えられます。もっと言うならバトルは初めてでかなりの緊張もあったと思うんです」

「良いでしょう。しかし相変わらず凄い観察眼ですね。もっとも成績最下位の事実は変わりませんが」

 

 そういえばナナは成績最下位と言っていたな。今の感じだと特に悪い感じでもなかったが、なぜ成績最下位なのだろうか?

 

「褒めてくださるなら成績を上げてくれても良いんですよ?」

「ええ。さすがにあれはトレーナーとしては最悪ですから」

 

 僕はナナに向かって頭を傾げる。ナナのどこが問題なのかと問いかけるように。それにナナは察して答える。

 

「実は運動音痴なの。それこそポケモンにボールを当てられないくらいに」

 

 ああ……そういえば初めて会った時にパチリスに遊ばれていたな。簡単に尻尾でボールが弾かれていたな。でも、それだけで最下位までなるものなのか?

 

「ダークライ。ナナさんは成績最下位ですが悪いトレーナーではありませんよ。むしろ同年齢に限定したら、相当な実力になるでしょう。ただ、この村のトレーナーって優等生揃いなんですよ。もっとも私の教育が良いというのもありますけど」

「とりあえず先生の言う通り私を信じて。絶対にダークライに後悔はさせないから」

 

 そうしてエラニ村の余興でナナは準優勝を収めた。もっともナナの辞退という形で幕を閉じたので、少し盛り上がりには欠けたが。他の三人はあれから、すぐに旅に出た。しかしナナだけは僕の容態を見て旅立ちを明日にした。初めてのポケモンバトルということもあり、かなり疲れていたから旅立ちが明日になるのは個人的にもありがたい。

 

 そして、その夜。僕はナナの部屋にいた。ナナは僕をボールから出して畏まりまった雰囲気で僕の方を見る。

 

「……ダークライ」

「ナンダ?」

「どうして私を選んだの?」

 

 彼女からの真剣な問いかけ。適当にぼやかすことは出来る。しかし、こればかりは真面目に答えなければならない気がした。

 

「……オレの……タイセツな人に……ニテイタカラ」

「そっか。どんな人だったの?」

「君とオナジ……綺麗な銀髪に……美シイ深紅の目……」

「なるほど……赤子のダークライ。それなのに何故か大切な人が出来るくらい生きている。不思議な存在。幻のポケモンってそういうものなのかな?」

 

 その時に初めて気付いた。話しながら自分が泣いていたことに。今思えば彼女が死んでから涙を流したのは初めてだったかもしれない。泣いたことで強く彼女が死んだということを実感する。ナナは彼女と同じ容姿で同じ名前だ。しかし彼女とは違う。あくまで別人なのだ。ナナはナナであり、彼女ではないのだ。

 

「ダークライ。分かってると思うけど私は貴方の大切な人とは違う。私はエラニの村で生まれたナナ」

 

 分かってる。そんなことは分かってる。それでも僕は君に彼女を重ねてしまう。あまりに彼女に似ているから……

 

「そして今の貴方は私のダークライ。私の大切なポケモンで私にとって必要な存在なのよ。でも、私も貴方の大切な人と同じくらい貴方のことを大切に思っているし大事にする。それだけは絶対に約束する。私と貴方の二人で……どんな壁だって乗り越えていこう? だからこれからも私に力を貸して。ダークライ」

 

 ああ、そうだ。

 彼女はナナとは違う。それでもナナは同じくらい僕を大切にしてくれて、寄り添ってくれるんだ。彼女が僕の心の隙間を埋めてくれる存在。これから僕と一緒に生きてくれる存在なんだ。

 ずっとトレーナーとポケモンは主従関係にあると思っていた。しかしそれは違うんだ。ポケモンとトレーナーは対等な関係なんだ。ポケモンがトレーナーを必要として、トレーナーがポケモンを必要とする。だから一緒にいるんだ。そこには上も下も存在しない、

 

「ナナ……僕のトレーナーになってくれてありがとう」

「こちらこそ。私のポケモンになってくれてありがとね。そして絶対にポケモンリーグを優勝してチャンピオンになろうね!」

 

 彼女とナナは別人だ。それでも彼女の無念とナナの夢は同じだった。そして僕は彼女の夢を僕の力で叶えさせてあげたいと強く思った。




The補足
本来なら十歳で旅に出ますが、エラニの村のトレーナーは十二歳で旅に出ます。そのためエラニの村のトレーナーは他のトレーナーより二年多くポケモンについて学ぶことになり、知識が豊富になっているため頭一つ飛び抜けた実力です。しかも先生の本業は博士のため、ポケモンの知識も豊富であり、勉強するにはこの上なく良い環境にいます。


またポケモンも言葉は主人公がポケモンなのに相手の言葉の意味が分からないのはおかしいのではないかということで『鳴き声+()で意味表記』とさせていただきます。そして近くに人がおらず、ポケモンだけの会話の時はダークライの言葉をカタコトではなくなるためカタカナ表記から普通の表記になります。

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