目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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4 修行して、その後
40話 新:旅の始まり


あれから三ヶ月という相当な時間が経った。今の時期は冬で雪が積もる。

 ナナはキンランさんとの修行を先日終えた。そして次の街のアメコミタウンを目指してナナたちは林の中を歩いていた。

 

「メア。こんな律義に私の修行が終わるの待たなくても良かったのに」

「別に先を急ぐ旅じゃないし、いいんだよ。私も歌と踊りの腕を磨けたし」

 

 三ヶ月。驚くことにメアはナナの修行が終わるのを待っていたのだ。この三ヶ月は色々なことがあった。まずゴゥー団はあれから勢力を更に拡大した。今では全盛期並みの規模になっているとか。ちなみにチャンピオンはまだアローラ地方から帰ってきていない。

 この三ヶ月で僕たちは相当強くなった。しかし一度もキンランさんに勝てなかった。最後の出発前にジム戦もしたが、勝てずに終わった。つまり現在もジムバッジの数は二つだ。

 

「……そういえば今日の新聞読んだ?」

「ええ。レジ系のポケモンが封鎖地域から逃亡して現在もデトワール地方を目的不明のまま放浪してるって話でしょ。今では立派な観光名物。ゲットしようと挑んで返り討ちに遭うトレーナーは後知れず」

「ねー怖いよね」

「こっちの方は目撃情報がないから大丈夫よ」

「それよりも問題はポケモンリーグの開催が残り五ヶ月ということよ。つまり五ヶ月以内で残りのジムバッジを集める必要がある」

「分かってるよ~。しかもアメコミタウンはジムバッジのない街っていうのが痛いよね」

「ルート的に徒歩なら途中で嫌でもアメコミタウンに寄るのよ。そしてアメコミタウンに行ったら南西にある山を超えてデススシティを目指す。そこで四つ目ね」

 

 早く次のジム戦をやりたい。修行の成果を見せたい。

 そんな気持の高ぶりが止まらない。

 

「あーー待って! ストップ!」

 

 そんな時だった。ナナ達の近くをミネズミが走り抜ける。それを追う赤髪の男性とゴンべ。そしてナナ達を見かけると足を止めた。

 

「はぁ……はぁ……」

「あの、どうかしたんですか?」

 

 メアが男性に声をかける。その男性はダウンコートをしっかりと着込んだ防寒対策万全という格好をした男性だった。

 

「実はミネズミに僕のスパイスを取られてしまってね! 瓶に入れてるから食べられはしないと思うが困るんです! 可愛らしい旅のお方! お願いです! 助けてください!」

「これのことね。ここら辺のミネズミはすぐに人の物を盗るから注意が必要なのよね」

 

 ナナがスパイスを取り出す。男性は目を丸くする。ナナの傍にはムンナがドヤ顔をしてる。やったことは簡単だ。ミネズミが見えると同時にナナは素早くムンナを出してトリックを使って取り返したのだ。ちなみにトリックは修行で覚えたものだ。

 

「おお! ベリーグッド! 素晴らしい腕前です! 迅速な判断に適切な対応。なによりもそこに至るまでの速さ。あなた名前は?」

「ナナよ」

「ナナ! 良い名前! 私はベアルン。見習い料理人で一流の料理人を目指して旅をしています!」

「そう。まぁ無事に取り返せたみたいで良かったわ。私達はもう行くわ」

「待ってください! 僕に恩返しさせてください! そうだ! 折角だから僕の料理を召し上がりませんか?」

「……そうね。折角だからいただきましょうか」

 

 ナナとメアの目が変わった。実は我々の旅の食事、それは基本的にきのみ、もしくはカ〇リーメイトみたいなものなのだ。つまりまともな食事というのは街に着いた時にしかしないのだ。まともな食事を食べられる。それだけで彼女達の目を変えるには充分だった。

 

「それでは早速カレーにしましょう……使うのはこの鍋で……」

 

 その時だった。目の前を再びミネズミが走り去っていく。奴らの手には鍋。ナナ達が状況を理解するまでに約五秒。そして状況を理解した時のナナ達の行動。それは一択。ミネズミを追うだった。既にムンナのトリックの範囲外で取り返すのは難しい。つまりやるとしたら物理的に倒すしかない。

 

「ナナ! 私は右から責める!」

「分かったわ! それじゃあ私は左から! 挟み撃ちよ! お願い! ダークライ!」

 

 ナナはムンナを抱き抱えて僕をボールから出した。そしてナナは僕に身を投げる。ナナをお姫様抱っこして僕はミネズミを追う。キンランさんとの修行。それで大きく変わったのは速さだ。前とは比べ物にならないくらい速くなっている。具体的に言うならメガルカリオの動きに対応出来るようななったくらいだ。

 

「ミネ?(え?)」

 

 そしてミネズミに追いつく。逃げようとした先にはメアのウルガモスがいて完全な挟み撃ちで逃げ場はない。仕方なくミネズミは木を登り、上へと逃げていく。しかし遅い。迷わずダークホールを使ってミネズミを眠らせる。深い眠りに落ちたミネズミは木から落下してドシンと音が響く。そして悪夢にうなされはじめる。

 特に悪意はないのだが、こればかりは仕方ない。そういう体質なのだから。どうか恨まないでくれると幸いである。

 

「よしっ。無事に取り返したし、戻りましょうか」

「……ねぇナナ。そういえばどうやって戻るの?」

「そんなの来た道をそのまま……」

 

 そこで気付く。辺り一面が木々で来た道が分からないことに。これは困った。完全に迷子だ。そういえばこの森は迷子の名所として有名だったな。

 

「ま、まぁコンパスが……」

 

 コンパスを取り出すが磁気不良。そういえば木々が磁気を発していてコンパスが使い物にならないんだよな。ここは……

 

「完全にダメだね。これは」

「脱出だけならメアのウルガモスに乗って飛んで出たらいい。しかし先程の料理人と合流となると困難……完全に困ったわ」

 

 僕はミネズミを軽く叩く。ミネズミが目を覚ます。

 

「なんすっか?」

「済まぬ。先程の料理人のところに案内をしてくれぬか?」

「うーん。あっしらも森で迷子になって数年。旅人から食べ物を頂戴して、生き延びているのが現在っすからねぇ……早い話すると知らねぇってやつです」

「そうか……ありがとう」

「それではあっしらはこれで!」

 

 ミネズミとの対話を終える。ミネズミっは森の奥深くへと去っていく。収穫はなし。ナナに近づいて、そのことを身振り手振りで報告する。

 

「ダークライ。ありがとう」

「それでどうする?」

「ていうか私達が探すんじゃなくて、向こうに私達を探してもらえば?」

「それが得策か……それじゃあ、このメア! 歌います! 野外ゲリラライブだよ!」

 

 メアがルンパッパを出す。ルンパッパがギターを奏でる。そしてメアはマイクを持って歌い始める。歌は森中に響き渡り、気付いたら様々なポケモンが集まってきていた。色々な野生ポケモンがメアの歌に魅入られていく。

 

「……おお! 素晴らしい歌に釣られてくれば貴方達でしたか!」

「そうだよ。あとこれが鍋ね」

「おお! ありがとうございます! これで早速……」

 

 メアが歌をやめて鍋を手渡そうとした時だった。足元がグラッと揺れる。僕はなにかがあった時にすぐに対応出来るようにナナを抱き抱えて、その場から少し離れる。

 

「なんですか!」

「あー……」

「ナナ?」

「簡単な話よ……私達は恐らくドダイトスの背中でのんびりしてたのよ。そしてドダイトスもメアの歌に魅入られていて、その歌が止まったことで疑問に思って動き始めた」

 

 おお……まじかよ。今までドダイトスの背中にいたのかよ。そして気付くと地面がメアと料理人を攫って浮き始めていた。赤色の目がこちらをぎょろりと見る。少し大きなドダイトスだ。さて、どうするか……

 

「眠らせてもいいけど、悪夢でうなされてジタバタされると面倒よね」

「ソウダナ」

「メア。ここから料理人を連れて降りれる?」

「ちょっと確約はできないかなー。私としてはドダイトスを刺激しないでくれると助かるかな」

「分かったわ。ダークライ。お願いするわ」

 

 僕はナナを降ろして動く。そのままドダイトスに近づき背中から二人を抱えて、退避する。ドダイトスがギロリとこちらをみる。

 

「ドダアアアァァァァ(ポケモンバトルか! やろうせ)」

「モウ……オワッテル」

 

 ドダイトスは動こうとするが上手く身動きが出来ない。何故なら足元が凍っているから。馬鹿力で動かそうとするが、まだ動けない。それほどまでに氷はしっかりとドダイトスを固定している。

 

「ダークライ。ナイスれいとうビームよ」

「ウム……」

「さぁドダイトスとポケモンバトルといきましょうか!」

 

 抱えた二人を降ろすと同時に氷はバキンと砕かれる。これが戦闘開始の合図か! 面白い!

 

「下からハードプラントが来るわよ」

 

 足元からは木の根っこが生える。それは生き物のように意志をもって動く。こちらを叩き落とさんとばかりに。少し前なら避けるのが精一杯だっただろうな。

 

「思い出しました! このドダイトスはここの主です! とんでもなく強いのです! いますぐ逃げましょう! 危険です!」

 

 料理人のベアルンが叫ぶ。

 

「……だそうよ。ダークライ」

 

 相手にとって不測なし。少しは準備運動になると良いな。

 

「三十秒……いや、二十秒で片付けなさい」

 

 ちょっと厳しいかもな。迫りくるハードプラントを避けながらドダイトスに接近する。根はこちらを掴もうと動く。だから動きは分かりやすい。つまり簡単に見切れる。

 

「あのポケモンなんて速さなんですか!」

「私のダークライは最強なのよ」

 

 そして闇を放出して爪を作る。それでドダイトスの足を切り裂く。技名はシャドークロー。近接戦では重宝する。今までは遠距離攻撃のみだった。つまり近づかれると不利になる。その解決案として生み出された技。それにより戦闘で対処できる自体が大幅に増えた。

 

「あと六秒」

 

 ドダイトスは最後に一撃を浴びせようと前足をあげた。あの構えはマズい。地震をやるつもりだ。ここだとナナ達にも被害が出る。だけど大丈夫。あの距離なら間に合う。

 影から出るエネルギーを一点に凝縮。そして球体を作り、一気に放つ。技名はシャドーボール。あくのはどうは少し撃つまでに時間がかかる。それに対してシャドーボールは撃つまでに殆ど時間を必要としない。つまり今回はこっちの方が適している。黒い影の塊はドダイトスの腹を打ち抜き、軽く吹き飛ばした。それによりドダイトスは戦闘不能。

 

「な、なんて強さ……主を赤子を相手にするように倒すなんて……」

「ダークライ。二秒オーバーよ」

「ウッ……」

「でもよくやったわ。ドダイトスに必要以上なダメージも与えていない。なんの問題もなしよ」

 

 ナナは僕の頭を撫でる。そしてボールに戻した。久々の戦闘だが上手く動けた。だけどまだ遅い。特にシャドーボールを放つまでに時間がかかる。もっと反射的に撃てるようにしなければ。それにシャドークローの威力も甘い。ドダイトスを倒しきれなかった。そこが反省点だな。

 

「いやぁナナは随分と強くなったね。私はビックリだよ」

「まだよ。今のままじゃゴゥー団の幹部にも勝てないわ」

「そうだね。だってまだキンランさんに遠く及ばないもんね」

 

 メアは遠慮することなくナナにグサリと刺さる言葉を言う。しかしナナは表情には出さず、そのままベアルンに近づく。

 

「それじぁあ鍋も取り返したことだし約束通り料理をご馳走してくれるかしら? もうお腹もペコペコだわ」

「もちろんです!」

 

 そしてようやく食事にありつける。

 

 




The補足
少し遅れましたが本作品のジムリーダーに関しての補足です。
まずジムリーダーは基本的には『トレーナーのレベルを上げる』という目的の元で働いている国家公務員です。そして国が何故そんなことに力を入れるかというと、この世界では強いトレーナーが多ければ多いほど国力が増すからです。ポケモンというのは生活に身近なものであります。発電や力仕事にすら使われています。そのためポケモンの育成や指示をできるトレーナーの存在というのは重要になってくるのです。
また作中のキンランのようにジムリーダーは見込みのあるトレーナーを見つけたら弟子として稽古をするケースもよくあることです。
そしてジムリーダーの仕事はトレーナーの育成だけではなく、緊急事態への対応もあります。本作ならゴゥー団への対処なんか良い例ですね。
またポケモン本編には『ジムリーダーは挑戦者に四回連続で負けたら資格剥奪』という設定がありますが、このデトワール地方では採用していません。理由としては単純にジムリーダーが勝ちに固執して教育を疎かにされると困るからです。ただ年に数回のペースで監査官による視察はあり、そこで相応しくないとされたら資格剥奪の可能性はあります。

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