目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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42話 ポケモン会談

 林を歩く。耳を澄ませながら歩くが自分達の足音もしない。

 

[……メロエッタどこかなぁ]

[簡単には出てこないわよ。伝説だもの]

[みなさん。慌てず気長に行きましょう]

 

 しかしお喋りはこの上なく賑やかなくらいしている。手話で。まさかみんな手話を使えたなんて……頭の良いナナとメアはともかく料理人のベアルンですら素っ気なくこなしている。どこで覚えたんだよ……

 

[……右後ろで物音がした]

 

 ナナの手話でえ足を止めて、そっちを見る。十秒ほど見るがなにも起こらない。聞き間違いかと思ったその時だった。茂みからリングマが飛び出す。それに対してナナは僕のボールを投げて外に出す。しかしリングマって怖いな。大きさも成人男性と同じくらいあるし、個体によってははかいこうせんというビームを出したりする。それだけなら良い。しかしリングマは熊だ。日本でも熊だけはヤバい。登山とかでも熊にだけは気を付けろというくらいだ。その熊が場合によってはビームを撃つ。考えただけで異常なんだよな。まず僕が地球でリングマに会ったら絶望して真っ先に逃げるね。戦おうだなんて思わない。

 

「ダークライ。ダークホール」

 

 しかし今はポケモン。戦ったら勝つのは僕だ。小さな闇の玉を作り、リングマの眉間をそれでぶち抜く。見事なヘッドショット。リングマは倒れていびきをかいて眠り始める。しかしすぐに悪夢にうなされて呻く。可哀想だが僕の特性なんだ。諦めてくれ。

 

[さぁ行きましょう]

 

 ナナは手話で指示をする。全員が頷いて歩き始める。そして僕はボールへと戻された。僕がボールに戻ろうと同時に悪夢が終わったのか、リングマが少しだけ落ち着いた表情をみせる。改めて思うがポケモンの世界って怖いよな。ポケモンを持ってたとしてもリングマに勝てる保証はないし、負けたらどうなるか分からない。そんな世界だ。ほんとにとんでもないなと思う。そもそも旅の初日に僕はスピアーにコテンパンにやられてるから笑えない。あの時はスピアーが追ってこなかったから良かったが、追ってきたら大変だった。

 

「……吾輩はバトルを嗜むのみ。トレーナーは襲わぬ」

「いや、そもそも人間サイズの蜂とか怖すぎなんだよ」

「そういうものか?」

「うん」

 

 スピアーがボール越しに話しかけてくる。実はボールの中にいる時は近くのボールに入っているポケモンと会話出来るのだ。しかし近くと言っても相当近くないと無理。例えばメアがナナに抱きついてもメアのニンフィアやルンパッパとは会話出来ない。何故なら遠いから。意外と反応はシビアなのだ。

 

「ていうか俺の出番まだかよ」

「ムンナ。しばし待たれよ」

「俺もそろそろバトルしてぇな」

「吾輩も同じである。というよりダークライが戦いすぎるのだ」

「……ナナに言ってくれ」

「俺は思うんだよな。ダークライの出番が多いのはダークホールという便利技があるからだ。基本的にダークホールを打てば勝負は終わる。つまり俺達もダークホールに匹敵する必殺技があればいいんじゃねぇか?」

「一理ある。だがダークライの出番が多いのは遠距離攻撃が出来るからだと思うぞ。吾輩達は接近戦がメインなため、近づくまでに時間がかかるのだ。その結果として時短のためにダークライが選ばれる」

「俺もあくのはどう使えるぞ」

「……そういえばそうだったな」

 

 そしてスピアーが黙る。まぁたしかに最近は僕の出番が多い。そもそもナナが基本的に僕を使い、搦め手が有効な相手やタイプ相性的に不利な相手にはムンナ。素早くて接近戦を主流としてくる相手にはスピアーと使い分けているのだ。

 

「しかしムンナの言う通り吾輩達の出番の無い問題は想像以上に深刻であるぞ」

「ジム線で嫌でも出番はある。それに僕が戦う相手は基本的に弱い奴だ。それこそ危うい状況になることすらない。そんな相手と戦って楽しいか?」

「たしかにダークライのいうことも一理あると思うぜ。でも、そろそろ体を動かしてぇんだよなぁ。その気持ち分かるか?」

「まぁアメコミタウン着いたらポケセンでメアとの練習試合があるだろ」

「まじか……俺ウルガモス苦手なんだよな」

「僕もだ。むしのさざめきがキツイ」

「分かる。マジで分かる。しかも音の振動派で全体を攻撃するから避けるのがキツイ。だから距離を置くとぼうふうでフィールドを荒らしてくるんだよなぁ……」

「吾輩も同じだ。あやつのほのおのまいがキツイ。避けれるが当たれば致命傷だ」

 

 あれ? やばくね?

 僕は悪タイプでウルガモスの虫技に弱い。ムンナもエスパーだから同じ。そしてスピアーは虫で飛行技と炎技に弱い。全員がウルガモス苦手じゃねぇか。

 

「でもムンナは良いだろう。ころがるで弱点を突けるんだから」

「ん? あれ忘れたぞ。避けられること多いし、必要ないかなぁと……」

 

 待て! お前の岩技がなくなったらガチでウルガモスに勝てなくなる! 次のメアとの練習試合でどうやって戦うんだよ! 下手したら三人まとめてウルガモスにやられてぼろ負けですとかもありえるぞ!

 

「そんな心配するなって。代わりにがんせきふうじを覚えたからよ」

「両方じゃダメなのか……」

「そろそろ頭が痛くなってきたからなぁ……恐らく俺の技限界が八つなんだろうな。無理して九個目を覚えてもいいが……これ以上は試合中にど忘れしそうで怖いわ」

「なるほど……」

 

 ちなみに僕は現在は十つの技を覚えている。まだ頭の痛くなる気配はない、やはり前世が人間のことが関係してたりするのだろうか……

 

「なんでみんなそんな多い?」

「そういうスピアーはどうなんだ?」

「恥ずかしながら六つ……」

「まぁポケモンの覚えられる技は平均四つと言うし、気にするな」

 

 平均四つか。それは全部のポケモンの平均だ。レベルの高い大会に行けば賢いポケモンが多く、そこだけで平均を取ったら八くらいになりましたというケースもある。

 それに技を覚えるのも至難の業だ。技を覚えるには明確なイメージが必要になる。自分のどのような器官やエネルギーを使って生み出すのか。そして自分なら出来ると思うことが重要だ。幸いにもナナも知識があるため理屈の説明をしてくれるからイメージが明確なり、さらにキンランさんというプロもいたから実際に技を見たりすることも出来たが……裏を返せばそういう環境でもない限り技の習得というのは難しいのだ。

 そうなると多くの技を覚えることが出来るが技を覚える機会がないから覚えないという自分のスペックを持て余してる個体も少なくないのかもしれない。

 

「優秀なトレーナーになればなるほど技を教えるのが上手いからポケモンも覚える技が多くなる……」

「たしかにダークライの言う通りかもな。キンランさんのマルマインとか普通に十くらい使ってきたしな」

 

 もっとも技を覚えていると言ってもバトルで使うのは多くて六つだろう。それは単純にナナが判断に迷うから。一瞬が勝負を分けるバトルでは考えてる時間が惜しい。そのため直感的に動きたい。だからナナの場合は事前に試合で使う技を四つくらいに絞っている。

 例えば僕の場合はメインとなるダークホールとあくのはどうの二つは確定。そこから相手のポケモンに合わせて有利な技を二つという感じだ。そしてシャドークローの指示は基本的にない。ナナ曰くシャドークローに関してはポッ拳の要領で自己判断で使えと言われている。

 

「まぁー……」

 

 そんな時だった。ナナの足が止まる。彼女の手には僕のボールが握られている。

 

「おいおい俺達とやる気か?」

「あなたポケモンハンターでしょ……ここになんの用?」

 

 近くにはポケモンハンターがいるらしい。ムンナ達との会話に気を取られていてまったく気付かなかった。ポケモンハンターは罠や非合法な道具などを使用してポケモンを捕まえて売りさばく非合法な連中だ。基本的にこの世界ではポケモン以外でポケモンを弱らせるのは禁止とされている。もっとも襲われた時などの例外は存在するが……

 よく言われているのは一般トレーナーはポケモンを捕まえてるのにポケモンハンターはどうしてダメなのかという問いかけがある。それは単純にモンスターボールを使わないからだ。そして悪質なハンターは人のポケモンも奪う。

 

「珍しいポケモンがいるようだから捕まえにきたのさ。だけど気が変わった。お前はナナだろ。シノノカップでダークライを使ったトレーナー。お前のダークライを貰い受ける!」

「お願い! ダークライ!」

 

 ナナが僕のボールを投げる。それと同時に相手もボールを投げる。ポケモンに適うのはポケモンだけ。だから悪の組織だろうが重火器を使わずポケモンを使う。単純にポケモンの方が強いからだ。相手のポケモンはニドキングか……

 

「ナナ? ドウスル?」

「あれは使うまでもないわよ。ダークホール!」

「ストーンエッジで壁を作れ!」

 

 目の前に岩の壁を作られ、ダークホールが阻まれる。そして僕は地中に潜り、ニドキングの背後を奪い、シャドークローで切り裂く。背中に一撃食らわして怯んだところに更に数回の連撃を浴びせる。

 

「なんだと!」

「説明するほど優しくないわよ?」

 

 ああ、お腹が空いたな。

 修行中に知ったのだがダークライは実は体がすり抜けさせることが出来るのだ。もっとも問題は多くある。これをやると物凄く腹が減る。そしてナナはそれを応用して地面に僕を潜らせて背後に現れて奇襲させる技を身に付けさせた。

 

「ニドキング! 距離を……」

「遅い……」

 

 ニドキングがドサッと倒れる。別にダークホールをしたわけじゃない。単純にシャドークローでダメージを受けすぎて戦闘不能になった。それだけのことだ。まだ主のドダイトスの方が強かったな。

 

「クソッ! ニドク……あれ? ボールはどこだ!」

「ごめんね? 奪っちゃった」

 

 ハンターはナナの方を睨む。そしてナナが見覚えのないボールを床に転がす。近くではムンナがどや顔している。簡単なことだな。ムンナがトリックで相手のボールを物理的に奪ったのだ。反則も良いところの最悪の外道戦術。

 

「そんなこと許されると思うのか!」

「あなたがそれ言う? 地面には地雷や落とし穴とか様々な罠。悪いけど埋め直した後とかで丸わかり。雪なのになんで分かるのかって? それは雑だからよ。あと明らかに私のダークライを狙ったものだよね。そんなルール無用の戦い。それならこっちも相応の戦い方をする。それだけよ」

「くっ……」

「別に戦いを続けてもいいわよ? あなたなんて怖くないもの」

 

 ナナがムンナにトリックさせてボールを返す。ハンターは下唇を噛んでこちらを睨む。

 

「……ニドクイン。頼むぞ!」

 

 結局戦うのか。現れたポケモンはニドクイン。ドシンと土煙を撒き散らしながらかっこよく降臨する。それじぁあどうやって倒しますか。

 

「ダークライ。れいとうビーム」

 

 手から氷の光線を放つ。それにニドクインは避けきれず、お腹に直撃をくらう。そして体が凍り始め、やがて氷の中に閉じ込められて身動きが出来なくなる。俗に言うこおり状態というやつだな。そんなニドクインを無視して、僕は無言でポケモンハンターに近づく。

 

「く、くるな!」

「ここら辺に張り巡らされた罠。そして罠が用意された場所で偶然あなたと私が会うとは思えない。つまりあなたは最初から私を待ち伏せしていて私のダークライが狙いだった」

「そうだよ! 最初からお前のダークライが狙いだよ!」

「……私の嫌いなことは三つある。一つ目は手も足も出ずに敗北すること。二つ目は自分のポケモンが馬鹿にされること。そして三つ目はポケモンと引き離されることよ!」

 

 ナナが目配せで合図する。それと同時にポケモンハンターの額に触れる。それと同時にガタンと眠りに落ちる。そして悪夢にうなされて呻く。

 

「とりあえず終わったわよ」

「凄い! あのポケモンハンターをこんなにも容易く倒すなんて! それに壁抜け? あんなの始めて見ました!」

「やってることはゲンガーとかのゴーストタイプのポケモンと同じよ。たまたまダークライがゴーストタイプに近い体質を持ってるのが分かったからやってみたの」

 

 壁通過。便利な能力で戦略も大きく広がった。しかしもっと応用は出来る。今の壁通過は通過を始めるのに一秒間くらいかかる。そのため移動にしか使えない。だが極めれば相手の攻撃を全て透かすことも出来るはずだ。それが出来るようになればもっと強くなれる。

 

「でも無敵じゃないんだよ。使い続ければお腹が空いて、やがて空腹で動けなくなる。地面の中で動けなくなったら誰も助けにいけないから最悪。あんまりこういう言い方はしたくないんだけど、ポケモンが死ぬことだってある」

「そうなのよね……まぁそこら辺はダークライに調整してもらうしかないわね」

「あの……使わないという選択肢は……」

「ないわよ。むしろ危ないから使うなというのはダークライに失礼よ。もちろん積極的に使おうとも思わないし、使う前提の作戦も組まない」

「それも……そうですね」

 

 そしてブーバーにお願いしてテレポートでシノノタウンに行き、ポケモンハンターを警察に突き出す。アメコミタウンに行かなかったのは始めて訪れた感動を損ねたくないからだ。そして元の場所に戻り、旅を再開しようとした。

 

 

 ――だけど戻ると全員が驚くことが起こった。そこには緑色の髪のポケモンがいたのだ。誰も声を発しない。そしてポケモンが鳴く。それで始めて現実に戻された。

 

「メロ?」

 

 あまりに神秘的なメロエッタの鳴き声に。

 


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