目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
アメコミタウン。カイヨウシティと同レベルの大規模都市。しかし殆どの建物に人が住んでいない。それは簡単だ。全てが映画撮影用に建てられたものだ。
怪獣映画を撮ろうと言うならば容赦なく建物を壊す。それがその街である。そして再建されて再び派手な映画撮影が行われる。
「おお! ここがアメコミタウン! こんな大都市は始めてです!」
ベアルンが興奮気味に言う。そしてこの街はトレーナー人気も高い。何故なら申請さえ出せば都市で戦えるのだから。もちろん建物の破壊も問題なし。やはり街を駆けまわりながら戦うのは一度はやってみたいことだよな。ちなみに倒れたビルの下敷きになっても自己責任だが……
「メア。そういえばメロエッタは?」
「近くを飛んでるよ。人目に付くと面倒だから透明になってもらってるけど」
「みなさん! 見てください!」
そしてベアルンが近くの看板を指差す。そこには一言だけ書かれていた『ヴィラン募集中』と。なんだこの勧誘ポスター……
「ヴィラン……悪役か」
「ナナ。こっちにはヒーロー募集だって」
「あー……思い出した。今の時期って仮想戦闘祭の時期じゃない」
「そっか! もうその時期か! 私達も自分のポケモン持ってるから出られるんだよね!」
「これは出るわよ! ねぇメア!」
「もちろん! 私はヒーロー陣営! ナナは?」
「ヴィラン陣営! 悪役になれる機会になれるなんて滅多にないもの!」
仮想戦闘祭。あとで聞いた話だがデトワール地方を代表する一体だけ自分のポケモンを持って参加するお祭りらしい。ルールは簡単でヴィランとヒーローに分かれて都市を一つ借りて行う団体戦。しかしポケモンバトルではない。会場には一般人に見立てたマネキンがあり、ヒーローはそれを救出という名目で自分の拠点まで運ぶ。そしてマネキンを全て運び終えたらヒーローの勝ち。それに対してヴィランはヒーローを全滅もしくはマネキンを2/3破壊したら勝ちとなっている。
また当然ながらヒーローがヴィランを襲うのはあり。自分のポケモンが戦闘不能になれば失格となり脱落。そしてマナーとしてヴィランは悪役らしい言動、ヒーローは正義の味方らしい言動を心掛けなければならない。
「二人とも出るんですか?」
「もちろん。ベアルンは?」
「僕はバトルが嫌いなのでパスです。ただ観戦はしますよ!」
「そう。しかしどのポケモンで出ようかしら……ていうかヴィランネームも決めないと」
「ナナ。それなら良いのがあるよ。『悪夢姫』なんてどうかな?」
「素敵! それにするわ! メアはヒーロー名どうするの?」
「うーん……『キュートガール』とか?」
「悪くないわね」
自分で自分のことを可愛いと言うのか。いや、アイドルを目指す以上は自分を可愛いと言い切る自信がないとやっていけないか。
「あとポケモンも悩むわよね。メアはどうするの?」
「ニンフィアかな」
「なるほど。私はダークライでいこうかしら。やっぱりヴィランをやるなら悪タイプじゃないとね」
これはムンナ達からブーイングされそうだな。済まぬ。しかし問題はどう立ち回るか。今回は団体戦。団体戦ではどう戦えば良いのやら……
「とりあえず参加手続きをしましょう」
そして会場に向かい、参加手続きをする。会場に行くと様々な人が溢れていた。それにどこかで見たことや聞いたことのある強者も多い。これは相当レベルが高いな。
「こちら仮想戦闘祭の受付です。どちらの陣営に所属しますか?」
「ヴィランでお願いします」
「はい。どのポケモンを使いますか?」
「ダークライです」
「ダークライ? まぁいいでしょう。祭り中は他のポケモンが使えないので気をつけてください。それと仮想戦闘祭ではビルの倒壊等による怪我が発生する場合がありますので、こちらの誓約書をよく読んでサインをお願いします」
適正検査とか行われないのか。てっきり簡単な思考テストとか行うと思っていた。そして同意書の内容。それは人に危害を加えてはならない。人のポケモンを奪ってはならないということも書かれていた。いくらヴィランと言え、そういう行いは禁止なのか。
「今回のヴィランはヒーローを正面からポケモンバトルで倒して悪の時代が来たと知らしめることが目的となっています。そのためポケモンを奪うようなことはしません」
そんな設定まであるのか……なんかすごいな。
「ヒーロー側の設定を聞いてもいかしら?」
「はい。今回はヴィランがヒーローをおびき寄せるために民間人を襲ったのが発端となっています。そのためヒーローは民間人を保護しながらヴィランと戦わなければなりません。また民間人が周囲にいるため全力を出すことが出来ません。裏を返せば民間人も避難が終わればヒーローは全力を出せます。そして全力を出されたらヴィランは絶対に勝てないという設定です。だから民間人に見立てたマネキンの保護が勝ちに繋がります」
「……ヴィラン。少し矛盾してないかしら?」
「矛盾してるからヴィランなんですよ!」
「納得だわ」
そしてナナは誓約書を読み終えてエントリーを済ませた。開催は明日。危ない。もしも一日でも到達が遅れていたら、こんな面白い祭りへの参加を逃すところだった。
「それと最後に一つ。ヴィランと活動する際の名前をお答えしてもらってもよろしいでしょうか? もちろん本名でもよろしいですが、悪役らしい名前があった方が盛り上がりますよ」
「……『悪夢姫』よ」
「分かりました」
そしてナナは部屋を後にする。ナナは受付を済ますと近くにいる人に声をかけられる。その人は上半身裸でかなりがっしりした体系の人だった。しかし……どこかで見た気が……
「おお。いつかのダークライ使い。お前さんも祭りに参加か?」
「はい。それとお久しぶりです。ニリンさん」
あー思い出した。最初に挑んだジムリーダーだ。たしか氷タイプの使い手。しかしジムリーダークラスも祭りに参加するのか……下手したら瞬殺されるかもな。
「おうよ。それでヴィランか? ヒーローか? ヴィランだったら少し用がある」
「ヴィランですが……」
「よし! ついてこい!」
そしてナナは肩を叩かれて外の禍々しいテントに連れてこられた。そこには一人の男がいた。その男はフードを被っていて顔は見えない。しかし机に足を乗っけて、タバコを吸うとかなり行儀の悪かった。
「ボス。新入りを連れてきました!」
「……ああ。シノノカップで話題になったダークライ使いの女の子か。カイヨウシティぶりか?」
そして男はフードを上げる。白髪に不健康そうな顔をした男だ。目は隈だらけで髪はぼさサボサ。髭も剃っていない。もっと身なりに気を使ってほしいものだ。
「その声……!」
「カイヨウシティで俺のあげた本は役に立ったか?」
その言葉で初めて気がつく。この男はカイヨウシティでナナに不自然にぶつかり、、本を渡した男だ。まさかそんな人物までいるととは!
「……なにをしたいんですか?」
「先輩からのアドバイスだよ」
そういうと男はボールを投げた。そこで驚くべきポケモンが出てきた。そのポケモンに目を疑う。なんでこのポケモンがここにいる! ダークライがもう一体いる!
しかも色が違う。微妙にマゼンタ色になっている。このダークライは一体……
「ニシンさん……この人は?」
「俺も詳しく知らん。だがヴィランの中で一番強い。三日前にやってきて俺を含む他のヴィランを全て倒して、リーダーとして認められた。それ以来は彼が全てを指揮している」
「そういうことだ。それとニシン。お前は出ていけ。俺は二人で話がしたい」
「おう……」
そうしてナナは男と二人だけになる。空気は少し重い。ナナは完全に警戒している。素性も分からない。得体も知れない男。そして彼のダークライは喋らない。緊迫した空気の中で男が軽く口を開いた。
「三つだ。三つだけどんな質問にも答えてやる」
「……ダークライはどこで手に入れたんですか?」
「ここではない遠くの地方で二十年くらい前だ」
「カイヨウシティで私に本を渡した目的は?」
「自分でも分からん。だから答えられん。ただ本能的にお前はダークライについて知るべきだと思った」
「最期に……あなたは何者なのですか?」
男は軽く頭をかいた。そして足を下して一口だけコーヒーを口に含む。そして驚きの言葉を口にした。ここにいて良い存在ではないのは明らかだった。本来なら今すぐに倒さなければならない存在。正真正銘のヴィランだった。
「――ゴゥー団のボス『ラルム』それで伝わるか?」
「ダークライ! あくのはどう!」
そこからナナの動きは速かった。僕に迷わず全力であくのはどうを使うことを命じた。僕も迷わずラルムにあくのはどうを叩きこむ。ナナはなにひとつ疑っていない。彼がゴゥー団のボスだということを。それを事実だと思わせるオーラがある。そして彼のダークライが腕を払い、あくのはどうの軌道を逸らす。ナナはその隙に僕をボールに戻し、走って逃げようとする。だが目の前にマゼンタ色のダークライが現れて道を塞ぐ。万事休すか……
「そう慌てるなよ……俺の目的は完全に成し遂げられた。もうお前のダークライも必要ないし、襲う気もない。それにお前は逃げられないし、勝てない。俺の話を座って聞いた方が賢明だろ」
「……なんの話をするの?」
「決まってるだろ。ヒーローの潰し方だ。俺にはヒーローをぶっ潰す策があるんだ。たしかにゴゥー団は悪だ。しかし今は同じヴィランで仲間だ。違うか? 俺の駒になれよ。ナナ」
The補足
ラルムのダークライが色違いの理由。
それは単純に同じ場面に同じ色のダークライが二体もいたら見分けがつかないからです。
最初はなにか着せようて分けようかなとも思ったのですが、良い衣装が思い浮かばなかったので、色違いというような形にしました。
特に深い意味もなく作中でも触れることはありません。
また本当の色のダークライを知ってる人が殆どおらず、さらにダークライの色違いは派手じゃないため『色違いということに気づかない』という人が殆どです。