目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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46話 ポケモンが好き

「それと言い忘れていたが今の話はオフレコで頼む。口外したら――分かるよな?」

 

 これは脅しじゃない。まじでやるつもりだ。ナナがごくりと生唾を飲む。

 

「そもそもゴゥー団に用はもうない。解散しても構わん。むしろ管理とか面倒だからしてくれ。潰したいなら潰せばいい。というより潰してくれ。俺は静かにダークライと暮らしたいだけなんだ」

「……ゴゥー団の狙いはなに?」

「それをお前に話すメリットは?」

 

 ナナは黙る。まったく全貌が掴めない。なにを考えている?

 

「まぁ説明しないと勘ぐられて面倒だな。それに話しても損はないし、暇だから話してもよいか。ゴゥー団の目的。それはダークライの復活だ」

「どういうこと?」

「お前。自分のポケモンは好きか? 俺は好きだ。心の底から愛している。それで自分のポケモンが植物状態になったらどう思う? また他のポケモンを犠牲に蘇る術があるとしたら?」

「まさか!」

「ダークポケモン。強さを求めるなんて建前でしかない。本当な目的は植物状態になった俺のダークライを甦らせること。俺はダークライのためならなんだってやるし、悪魔にでも魂を売ってやると決めた。とりあえず座れよ。細かく話してやるから。同じダークライ使いのよしみだ」

 

 それから彼は話した。彼のダークライは病気になり自ら『やみのエネルギー』を生成出来なくなった。その結果として十年前から植物状態だった。そんな時に彼はコスモッグという莫大なエネルギーで異世界に行くポケモンを見つけた。彼はそれを捕獲してコスモッグのエネルギーをやみのエネルギーに変換する研究を行った。そしてダークライが本来持つ、やみのエネルギーと比べて問題がないか検証するために普通のポケモンに注入した。それがダークポケモン。また研究を続けるためのカモフラージュとしてダークポケモンを配布してゴゥー団を作り出した。そして先日ダークライに人工的に作り出したやみのエネルギーを注入することによりダークライは普通に生活する分には問題ないくらいに復活した。つまり彼の目的は果たされたのだ

 

「…なぜ私のダークライを奪いにこなかったの? 普通ならあなたが直々に奪いに来てもおかしくない。むしろ私があなたの立場なら絶対にそうする……」

「簡単なことだ。お前の目撃情報があった時には完璧なやみのエネルギーの生成はあと一歩のところまで進んでいた。それにお前のダークライを全く使わなかったわけじゃない」

「え?」

「心当たりあるだろ。俺達がシノノタウンでダークライを奪っただろ。そこでやみのエネルギーが正常なものか最終確認をした。その結果として問題なしと判断したから俺は自分のダークライを蘇らせた。もっともそちらのダークライはそのせいでやみのエネルギーに目覚めたみたいだが。ちなみにお前のダークライに記憶はねぇぞ。強力な催眠術で消したからな」

 

 ナナは今にも殴りかかりそうだった。しかしグッと堪える。ここで手を挙げても碌なことにはならない。むしろ返り討ちにされるのがオチだ。

 

「俺は悪いことをしたとは思っていない。だけどお前に俺に怒る権利もあると思っている。もしも俺がお前の立場なら死ぬほどキレてる。だから一発だ。一発だけ殴らせてやる。それでチャラにしよう」

 

 バチンという平手打ちの音が響いた。ナナが全力で男の頬を叩いた。それに対して男は不気味に笑う。しかし怒ってはなさそうだ。

 

「それでチャラだな」

「ええ。とりあえずこれでダークライの件は水に流すわよ。でもダークポケモンのことは許さない。あなたのせいでスピアーは……それはやめましょう。でも再び私のダークライに手を出したら許さないから」

「それで構わん。だが勝手に暴れてるゴォー団の残党がいるのも事実で俺の管轄外だ。もしもそいつらが襲ってきたら俺に連絡しろ。全力で叩き潰してやる」

 男はナナに連絡先を渡す。ナナはそれを受け取る。そして机にあるコーヒーを一杯だけ飲んだ。

「しかし、あなたはどうしてこんな祭りに参加してるの?」

「……祭りに参加する理由? 楽しそうだからにあるのか?」

「それもそうね。それじゃあ本題に入りましょう。どうやってヒーローを潰すのかしら?」

「今から説明する。まず最初に……」

 

 そういえばエネルギーの抽出に使われたコスモッグは今どうしてるのだろうか。しかし誰もコスモッグには触れていないので黙っておいた。

 そして作戦会議は終わり、禍々しいテントを後にする。そしてメアとベアルンと合流して軽く観光を楽しんだ。その時にナナは一言もゴゥー団のボスのラルムの話を一切しなかった。

 

「そういえばヒーロー陣営はどんな感じだったのかしら?」

「うーんとね……元チャンピオンのエンペラー。それに国際警察も何人かいたよ。さすがにボルノはいなかったけどね。あそこまでの強者が揃うなんて凄い祭りだよね」

 

 ヒーロー陣営には元チャンピオン。ヴィラン陣営にはゴゥー団のボス。なんて豪華面子だろうか。どちらもトップクラスに強いトレーナーだ。下手したらデトワール地方の戦力が全て集まってる説もあるな。もっとも僕たちの身近な強者であるキンランさんやナナの兄にして、現チャンピオンのカナタはいないが。

 

「でもナナの相手にとって不足なし。今の実力の確認にもなるんじゃないかな?」

「ええ。それが狙いだもの」

 

 互いの主要戦力をまとめるとこんな感じだ。

 まずヒーロー陣営が国際警察のメデア&ローブシン、ジムリーダーのアーモンド&ハッサム、元チャンピオンのエンペラー&サザンドラ。そしてアメコミタウンにおいて最高のヒーローとして名高い俳優のウルトラ&エンテイといったところ。

それに対してヴィラン陣営はジムリーダーのニシン&マニューラを始めとして元ポケモンレンジャーのダロウ&ペルシアン、さらに前回ポケモンリーグの優勝者のポポ&ラグラージ、そしてゴォー団のボスのラルム&バタフリー。他にもナナやメアクラスの戦力が何人もいる。ちなみにラルムはダークライを使わない。それは単純に今のダークライは戦える状態じゃないからとのことだ。

 

 どれも真っ向から戦ったら絶対に勝てない。しかし今回は違う。奇襲もありだし集団で襲うのもあり。はたまた逃げながら時間稼ぎをするのも意味がある。もっともヒーローを全て全滅させなければ勝ちにはならないが、時間稼ぎしている間に他のヒーローを倒すことに繋がるからだ。そしてマネキンを破壊する勝ち筋もあるわけで……

 しばらくして僕たちは時間潰しも兼ねて場所の下見をする。それは地球のニューヨークを連想させるような街並み。いくつも並ぶビル。もちろん内部に入ることも可能。そして人目のつかない路地裏、そして薄汚い路地裏。しかし野生ポケモンは一切いない。これなら派手に暴れられそうだな。

 

「うーん。ナナがダークライにお姫様抱っこされながらビルから逃亡したら映えそう」

「……いくらなんでも心臓に悪いわ」

「たしかに。私もウルガモスで同じことをしてって言われたら断る自信がある」

 

 そんな話をしてるとメロエッタが透明化を解除して現れ、辺りをキョロキョロしながら飛び回る。

 

「メロ~(ここで戦うなんて映画みたい)」

「メロエッタ。あなたはお休みだよ?」

「メロ!(なんでよ!)」

「バトル嫌いでしょ?」

「メロー(ムー)」

「頬を膨らませて怒っても既に申請したのでダメです。でも次のお祭りがあったらメロエッタにお願いするね」

「メロ!(やった!)」

「ていうか、そんなに戦いならここでダークライと戦いましょう。ナナ。どう?」

「私は良いわよ」

 

 いや、マジかよ。たしかに係員から自由にバトルしてもいいとは言われてるが。

 メロエッタ。明らかに地球時代の知識持ちで強いのは確定してるんだよなぁ。

 

「あなたはどんな技を使えるの?」

「メロ!」

 

 メロエッタがメアの前で一通りの動作をする。そしてメアは全て把握したようだった。

 

「なるほど……インファイトにサイコキネシス、ハイパーボイス。さらに10まんボルト、シャドーボール、きあいだま、エナジボール、マジカルシャイン。他にもれいとうパンチ、かみなりパンチ、ほのおのパンチにその他諸々だね」

「メロ(うん!)」

 

 いや、待て! 技が十一以上って反則だろ! たしかに前世が人間で知能が違うというのもあるのだろうが、さすがに反則過ぎるぞ!

 

「メア……少しそのメロエッタ強すぎない?」

「ねーすごく頭の良い個体なんだね! メロエッタ凄い!」

「いや、まぁ……うん」

「それじゃあ始めようか?」

「メロ(うん)」

「ダークライ。技が多いと言っても実際のバトルで全てを使うわけじゃない。それを念頭に置いて戦いなさい」

「ナナ。ナイトメアシフトはあり? できれば無しの方がありがたいな」

「分かったわよ。ナイトメアシフトはしないわよ。でもナイトメアシフト禁止ならメアの歌も禁止ね」

「おっけー」

 

 そしてバトルが始まる。さてナイトメアシフトという必殺技も禁止されてしまった。それをやると並大抵のトレーナーが相手にならなくなるから仕方ない。もっともナナもジム戦では使うだろうが、そのレベルの相手じゃないと使わないだろう。

 

「それじゃあ、メロエッタ! 戦闘開始だよ! まずはいにしえのうた!」

「メロ(それ無理)」

「あー……ナナ。ちょっと待って。どっかで埋め合わせするからお願い。ね?」

「仕方ないわね……良いわよ」

 

 そしてナナはメロエッタに近づいて軽く歌を聞かせる。メロエッタもそれを真似る。それに対してメアが親指を立ててメロエッタを励ます。あれ? とんでもないパワーアップしてないか?

 

「それじゃあ仕切り直して戦闘開始だよ! メロエッタ! いにしえのうた!」

「ダークライ! 耳を塞いで!」

 

 ナナの指示は間に合わなかった。最高の気分だ。ここまで良い歌があっただろうか。

 

「メロエッタ。そのままインファイト」

 

 その瞬間。腹に激痛が走る。それから何度も連撃が飛んでくる。しまった!

 僕は一体なにをしていた!

 

「ダークライ。あくのはどうで吹き飛ばして距離を取りなさい!」

「メロエッタ。避けて」

「メロ!(これがポケモンバトル!)」

 

 あくのはどうを撃つ。メロエッタは避けようとすつが間に合わず掠る。しかしなんともないようにピンピンしている。しかもメロエッタの緑の髪は跡形もなく消えて、オレンジ色のカールがかかった髪。それに歌姫というより踊り子のようだ。いまのは一体……

 

「ダークライ! 路地裏に逃げるわよ!」

「アア」

「逃がさない! シャドーボールで追撃!」

 

 僕もシャドーボールで反撃して追撃を免れる。これはマズい。マジでヤバい。あのメロエッタというポケモンめちゃくちゃ強い。それに加えてメアの適切な指示が厄介過ぎる。しかしナイトメアシフトすれば簡単に勝てるのに!

 

「いにしえのうた。あれは聞いたポケモンの心に訴えかけて攻撃する技なの。それに眠ることもある。でも一番厄介なのはフォルムチェンジ。それでエスパータイプの遠距離主体から格闘タイプの近距離主体へと変わる」

「……ナルホド」

「詳しく知ってるのはメアに耳にタコが出来るほど聞かされたからよ。ここなら風通しも完璧ね。ここで待ち伏せるわよ」

 

 そして足を止めてメロエッタが現れるのを待つ。しかし現れない。不自然に思っていると再び腹に激痛が走った。そして再び連撃を叩きつけられる。あまりに一方的。しかしどこからの攻撃だ!

 

「完全に盲点だったわ……」

「メロエッタの透明化。忘れたとは言わせないよ?」

 

 メアが現れる。同時にメロエッタも姿を見せる。そういえば透明化があることを完全に忘れていた。幸いにもレベルが低いのか威力は高くない。しかし厄介極まりないな。

 

「メロ!(楽しいわ!)」

「でも作戦に支障なし。それじぁあダークライ。そろそろ反撃に行くわよ。あやしいかぜ!」

 

 手を振り、突風が巻き起こす。それにメロエッタが攫われて宙に浮く。その隙を逃さずにシャドークローで連続的に引っ搔く。ザザザザザザンッと何度も確実に仕留めるために!

 

「メロエッタ!」

「透明化しようが全体を巻き込む攻撃なら避けきれないでしょう? 特に風通しの良い路地裏で風を起こされたらね」

 

 そしてメロエッタが空からガクリと落ちる。戦闘不能だな。もしもインファイトの威力がもう少し高かったら負けていた。インファイトは致命傷になるから気を付けろと口酸っぱくナナに言われているのに。

 

「ダークライ。最後のシャドークローの連撃はナイス判断よ。でもビビりすぎ。あなたは強いんだからドンと構えてなさい」

「ウム……」

「メロエッタ。お疲れ様。初めてのバトルどうだった?」

「メロ……(痛い……)」

「動き判断。どれも完璧で凄く良かったよ! でもやっぱりレベル差がキツイね。もしもメロエッタとダークライが同レベルだったら絶対に勝てたよ!」

「メロ……(レベル差なら仕方ない……か)」

 

 メアはメロエッタの回復を終えたらポフィンを投げる。メロエッタはそれを食べる。そして目を輝かせた。メアはそんなメロエッタの頭を優しく撫でる。

 

「頑張った子にはご褒美がないとね。それとメロエッタ。このまま歩いて帰る? それともボールに入ってのんびりする?」

「メロ!(ボール!)」

 

 そしてメロエッタはボールへと戻っていく。

 

「そういえばメロエッタが素直にボールに入ってくれるようになったの。最初はボールは窮屈というイメージがあって嫌がったけど、入ってみたら意外と居心地が良かったから気に入ったみたいな感じなのかな?」

「私に言われても分からないわよ……」

「だよねーとりあえず戻ろうか」

 

 そしてメロエッタの初バトルを終えて、今日は解散となった。

 




The補足
仮想戦闘祭のルール
・各トレーナーはポケモンを一体までしか持ち込めない
・ポケモンが戦闘不能になったら退場とする
・民間人に見立てたマネキンの総数は300
・ヒーロー陣営は現在フィールドに存在するマネキンを回収したら勝ち
・ヒーローは指定された場所までマネキンを運ばなければ回収したことにならない
・ヴィラン陣営はヒーローを全滅もしくはマネキンを200破壊したら勝ち
・制限時間は約一日。一日経っても終わらない場合は残ってた人数の総数が多い方が勝ちとする。もしも人数が同じ場合は延長戦となり、先に一人でも倒した陣営の勝ちとなる

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