目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
夜が明けた。そしてナナが家族や先生に挨拶を済ませて旅に出る。
ナナの衣装は黒い水玉のワンピースに黒一色のショルダーバッグという軽装。バッグの中にはモンスターボールに傷薬などの道具。それに寝袋や地図といった最低限の荷物だけ。今はまだ少ない荷物だけど旅をしていくうちにパンパンになっていくのだろう。ちなみに僕はボールから出て、彼女と一緒に隣を歩いている。
「ダークライ。私達はこれからエラニの森を抜けて、ハクガ山を登ってハクガシティに行ってそこでジム戦をするの」
「……ウム」
「でもエラニの森の野生のポケモンは弱くはない。だから最大限の注意をしてね」
そんな話をしながら歩く。整っていない獣道を搔き分けながら進む。エラニの村は地図にすら乗っていないド田舎。道が整っていないのは当然と言えるだろう。
「あとポケモンもあと一体くらい欲しいところね」
「ドンナ……ポケモンを……ツカマエル?」
「そうね……出来れば癖が強くない扱いやすいポケモンがいいわね」
癖が強くないポケモンか。恐らくビードルとかは覚える技が少なくて扱いにくい部類になるのだろう。そうするとフシギダネみたいな最初に選ぶポケモンになるのだろうか?
「まぁ急ぎでもないし、ポケモンは見つけたら捕まえるって感じでいいかな」
そんな時だった。背後から物音がした。ナナもそれに気付いて、すぐに構える。
後ろから出てきたのはスピアーだった。スピアーを見てナナは顔色を青くした。それから僕に叫んで一気に走る。
「スピッ!(いざ尋常に勝負!)」
「ダークライ! 逃げるよ!」
「タタカワナイノカ?」
「無理よ! スピアーには勝てない!」
「ヤッテミナイト分カラナイダロ!」
スピアーは序盤のポケモン。そして僕は幻のポケモン。負ける道理はないはずだ。
「……分かったわよ。ダークライ! あやしいかぜ!」
そういうとナナは足を止めて振り返り、指示をだす。どうやらナナも戦う気らしい。
僕も言われた通りに手を振ってあやしいかぜを起こす。しかしスピアーにはビクともしない。スピアーは加速して、そのまま突進してくる。
「ダークライ! 横に動いて、後ろからあやしいかぜを撃って!」
指示通り横に体を動かすが、スピアーはすぐに反応して再びこちらに向かってくる。
「正面からのあやしいかぜは通用しない。恐らくそれは来ると分かっててスピアーが風を受け流す態勢を保ってるから。だから背後からあやしいかぜを撃てば、受け流せずにダメージが入るはず!」
なるほど。そういうことか。しかし問題はどうやって後ろに回るか。このスピアーはあまりに早くて隙がない。それどころか早くなってないか? 再びギリギリでスピアーの一撃を避ける。そしてスピアーの方を見ようとした時だった。スピアーは既に僕の目の前にいた。
「スピッ!(勝負あり!)」
「グッ!」
腹に今まで体験したことのない痛みが走る。痛みのあまり絶叫しそうになるが、なんとか堪える。それから吹き飛ばされて木に叩きつけられて背中に強い衝撃が襲う。起き上がろうとするが体は言うことを聞かずに痙攣する。まずい……ここで死ぬのか?
「あのスピアー。動きながらこうそくいどうをしたんだわ。それに最期の一撃は恐らくシザークロス……もっと私が早く気付いていれば!」
ナナは僕に駆け寄って、金色の欠片を食べさせる。その欠片を食べると体から力が湧いてきて、再び体が言うことを効くようになった。
「ダークライ。逃げるよ!」
「アア……」
ナナは僕をボールに戻して走る。スピアーは勝ち誇ったように空を舞って踊る。完全にスピアーを舐めていた。まさか、あそこまで強いとは……
「この森のスピアーは狡猾なことで有名。それにあなたは悪タイプ。虫タイプの攻撃は致命傷になる……そんなことは分かっていた。ほんとにごめんなさい!」
ナナはボール越しに走りながら必死に謝っていた。違う。これは完全に僕のせいだ。ナナは最初は逃げようと言っていた。きちんと相手との力量を見切っていたんだ。それなのに僕が無茶を言って……
それにナナの指示は完璧だった。ただ僕がナナの指示通りに動けなかった。指示通りに後ろからあやしいかぜを撃てれば、勝てていた可能性もあった。無理な戦いと分かっていながら最後まで勝ちを諦めていなかった。それなのに……
「ダークライ。あなたは悪くないわ。最終的に戦おうと判断したのも私。あなたのせいじゃないわ」
違う! 違う! 違う!
ナナは悪くない。悪いのは全て僕だ! 僕が完璧にナナの指示通りに動けていたら勝てていた! 悪いのは僕なんだ!
そう言おうとボールの中で暴れる。それにナナが気付いたのか、足を止めて僕をボールから出す。
「……ダークライ? 傷は大丈夫なの?」
「ナナは……ワルクナイ! 全テ……僕の……」
「……分かったわ。でも私の指示が的確じゃなかったのも事実。これは二人の敗北。どっちかが悪いんじゃない。それでどう?」
「ソンナ……」
「……ダークライ。次こそはあのスピアーに勝つわよ。それまでエラニの森を出ない。それで今回の件はなかったことにする。どう?」
「……勝テル……ノカ?」
「私と貴方の二人なら絶対にね」
そういうとナナはペンと地図を出して、ルートを書き換える。エラニの森を真っ直ぐ抜けるルートから、少しズレた場所に丸を付ける。
「ここは『ヤメノ砦』という廃墟。今じゃ誰もいなくてポケモンの溜まり場よ」
「ウム……」
「ここで少し修行しましょう。そうしないとスピアーには勝てないわ」
修行か。恐らくレベル上げというやつだろう。つまりひたすらポケモンを倒すのか。話しながらナナはスピアーについて考察したことを話す。
「恐らくスピアーのシザークロスはちょっとやそっとの修行じゃ、どうやっても耐えることはできないわ」
「……」
「だから一撃も食らってはいけない。こうそくいどうをされたら反応するのは至難の業になる。だからこうそくいどうをされる前に倒す。簡単に言うなら短期決戦ね」
「ドウスレバイイ?」
「あやしいかぜは広範囲で牽制には良い技。でも威力が足りないわ。だから高威力の技を覚えて、それをスピアーより先に叩き込むの」
高威力の技か。どうやってそれを覚えるか……
「基本的にポケモンは四通りの技の覚え方があるの」
「ウム」
「一つ目は自然と覚える技。二つ目は修行することで覚える技、三つ目は人から教わる技」
「四ツ目ハ?」
「なんらかの事情で本来なら覚えるはずのない技を覚えるパターンよ。少し前にホウエン地方でれいとうパンチを覚えたバシャーモが話題になったことがあるわ」
そういうこともあるのか。それで僕は一体どんな技を……
「本来なら図鑑で覚えられる技を調べてから、その技の修行をするのが一般的なんだけど、幻のポケモンと伝説のポケモンはデータが無いのよね……貴方なにか分からない?」
「……分カラナイ」
「そう。とりあえず相手はスピアー。そして次のジムは氷タイプ。だから『やきつくす』を覚えてみようか」
「かえんほうしゃデハナイノカ?」
「貴方の見た目的に出来ないと思うの……」
「やきつくすも大シテ変ワラナイ気ガ……」
「それが結構違うのよ。かえんほうしゃは炎を出す器官を持つポケモンに限定されているのに対して、やきつくすは炎を出す器官を持たないポケモン。例えばヤミラミやドンカラスが覚える事例が確認されているの。だから貴方でも覚えられる可能性はあるわよ」
ナナが真面目に説明する。明らかに高度な内容なのが分かる。間違いなく十二歳で身に付ける知識ではないだろう。しかも、それだけの知識があっても彼女の学校でも成績は最下位。もしかしたらあの学校は普通の学校じゃなくて、有数のエリートを集めた学校なのではないかと勘ぐってしまう。
「恐らくやきつくすの炎は鬼火に近い感じ。つまり怨念に近いなにかでも代用出来るんじゃないかと私は思うの」
「……ヤッテミル」
なにはともあれ、今はやきつくすを覚えることに集中しよう。ナナが言うのだから間違いなく覚えることができるだろう。
それから色々と話を聞きながら歩いてヤメノ砦を目指す。幸いにも野生のポケモンに出会うことはなく、夕方には無事に辿り着くことが出来た。
ヤメノ砦は砦がいくつか密集している場所だった。しかしどれも相当な年月が経っていて、そこら中に苔が生えている。そして周りには様々なポケモンがいた。コロモリにプリンといった森とは一風変わったポケモンが生息していた。そしてナナは近くの砦に入り、寝袋に入ると僕に『おやすみ』と一言だけ言って眠りについた。
そして、その夜に夢を見た。
『コロシテヤル』
その一言だけが聞こえる夢を。
The補足
自然と覚える技→レベルアップで覚える技
修行で覚える技→わざマシンで覚える技
人から教わる技→教え技
本来覚えるはずのない技を覚える→ゲームで覚えないはずの技を覚えるイレギュラー
そして作中でも説明があった通りナナは最下位の成績ですが、それは周りの水準が高すぎるからです。もしもナナが普通の町のスクールに通っていたら簡単に学年トップの成績を収めるでしょう。