目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
「……ナナさん。こちら国際警察のミカエルです。あなたに少しポケモン管理法違反の容疑がかけられましたので少しお話を疑ってもよろしいですか?」
「……は?」
翌朝。ナナの元に国際警察の者がやってきた。柔らかい物腰だが明らかにこちらを疑っている。一体どうして……
「簡単な話ですよ。ダークライだけならまだしも色違いのツタージャ、メガホーンという珍しい技を覚えたスピアーに異常なまでに賢いムンナも持っている。つまり我々はあなたが非合法な手段でポケモンを手に入れている……具体的に言うならポケモンハンターからポケモンを買っているのではないかという疑いがあるんですよ」
「そんなこと!」
「もちろん証拠は一つもない。だから今回は事情聴取ですよ」
そしてナナとミカエルの二人の会話となる。ミカエルはナナに詳細にどのようにポケモンを手に入れたのか答えていく。幸いにもスピアーはジュンサーさん、ツタージャはキンランさんという確かな立場の者が身元を出所を証明してくれたため問題はなかった。しかし僕とムンナ。それだけは身元の証明が出来なかった。
「……まぁ今までの実績から見てムンナは自分で育てて賢くしたと考えましょう。しかしダークライは気になりますよね。エラニの森に初めてのポケモンを手に入れようと思ったら偶然やってきて自分からボールに入った。さすがに出来過ぎた話だと思いません?」
「それでも事実よ」
「そうですね……しばらくダークライをこちらに預けさせてもらえますか? ダークライ側にも事情を聞きたい」
「私じゃなくてダークライに聞いて。ダークライが同行すると言ったなら私からはなにも言わないわ」
困ったな。ここで行けばナナの嫌疑は晴れるだろう。しかし僕はナナと離れたくはない。そもそもナナはなにもやましいことをしていない。だったら……
「そうですか……それと別件ですがハクガ山で初心者狩りをしたという話もありますね。それって買ったダークライの力が本物かどうか試したかったとは考えられませんか?」
「その時の私はジムバッジがゼロ。しかも旅を始めて三日くらい。客観的に見ても初心者のはずよ。もしかして初心者が初心者を倒したとしても問題になるのかしら? それにお金が欲しいからポケモンバトルをするというのは大人の世界でも普通にあるはずよ」
「動機とか善悪は問いていません。ただ私は辻褄が合うという話をしているだけですよ?」
ナナは冷静になって座る。そして無言で考える。なにを考えているか分からない。静寂がその場を包む。沈黙を破ったのはミカエルだった。
「……どうしました?」
「あなた達の狙いを言いなさい。今のところダークライと私の関係は問題になっていない。それにポケモンハンターにダークライを取られたという被害届もないはずよ。そのことから被害者がいないのは明白。だから正義感からというわけじゃないでしょ?」
「そうですね……まさか隠し事も通用しないとは。でも事実として私が正式に訴えを起こせば受理されて調査をすることを出来るだけの材料にはなります」
「はやく本題に入りなさい」
「匿名でゴォー団のアジトの情報が入りました。裏取りをした結果としてガセネタではないことが判明。そしてゴォー団のアジトに乗り込むので私にダークライを貸していただけませんか?」
「そうですか……断ります」
ナナが一瞬の迷いもなくきっぱりと断った。そりゃそうだな。
「第一に私のポケモンを危険に晒したくない。第二にゴォー団とか関わりたくない。そして第三に貴方の事が信用できない。そんな相手に私のポケモンを任せることは出来ない」
「騙そうとしたのは申し訳ない。しかしダークポケモンとの戦いを想定するなら眠らせるポケモンというものは欲しいのですよ。それに正直に言ってナナはダークライを私に預けますか?」
「ありえないわね」
「なるほど。なら少しだけ話のレベルをあげましょう。今のナナは悪夢姫として名が知れ渡っている。中にはナナの活躍を快く思わない者もいる。そして僕以外の国際警察の中にもダークライが正式なゲットで手に入れたのか疑う者がいる」
「……そうね」
「今回ダークライを貸していただければ揉めた時には私が間に入りましょう。ナナのダークライについて国際警察内部で議論になった際には『非合法な手段はない』と証言しましょう。それでそうでどうでしょう?」
「……魅力的ね。でもダークライを危険に晒すほどのものでもないわ」
「ここだけの話。ゴォー団がウルトラホールを開いたという話があります。ナナはウツロイドが欲しいのでしょう?」
ナナがビクリと反応する。完全にウツロイドという言葉に釣られたな。しかしナナは私欲でポケモンを危険に晒すようなトレーナーではない。
「どうです?」
「……やっぱりありえないわね。せめてダークライにメリットのある話をしなさい。命を賭けるのはダークライよ」
「うん……トレーナーのメリットはポケモンのメリットだと思うんですけどね。それじゃあ最後の話。僕はあなたのお父さんのことを知っている。なんでしたって……たしか名前は……」
「その話はやめて!」
「なら僕にダークライを貸してもらえますか?」
「……私が作戦に加わる。それで手を打ちましょう」
ナナが珍しく動揺していた。そういえばナナの兄がチャンピオンなのは有名な話だ。しかしお父さんやお母さんについては一切聞いたことがない。
「まぁいいでしょう。それでは明日伺いますね」
そしてミカエルは消えていった。胸糞悪いな。まるで脅迫。しかし従うしかないことも事実。そんな時にナナは静かに口を開いた。
「……ダークライ。悪いけどメアを呼んできてくれる?」
「ン?」
「メアには話しておきたいの。誰にも言っていない私の父親のこと」
*
メアを呼んでくる。ナナは静かに座っている。一体なんの話をするつもりなのだろうか。まったく想像もつかない……しかし空気は重かった。
「むかしロケット団が『ミュウツー』というポケモンを作った。そのポケモンは恐ろしく強かった」
ナナは静かに語る。メアも静かに聞く。
「しかしミュウツーは若いトレーナーに倒されて保護された。そしてミュウツーは国際警察が今も所持している。ミュウツーは抑止力となり、世界平和を築いている。それが学校の歴史で習う話」
「うん。そうだね」
「だけど、もしもミュウツーに更に次の力があるとしたら? そしてミュウツーを国際警察が既に持っていないとしたら?」
「ナナ。結論から言ってくれるかな?」
「……ミュウツーは既に国際警察の元にいない」
ナナが爆弾発言をする。それにメアも驚きを隠せずにいる。つまり国際警察っはミュウツーを持っていないのに平和維持のために持っているかのように振る舞っているのか!
いや、それならミュウツーはいまどこにいる? そもそもナナがどうしてそんなことを知っている?
「何故なら私のお父さんが持ち出したから。お父さんはミュウツーの新たなる力を見つけてしまったの……ミュウツーのメガシンカを」
「待って! それって!」
「ええ。もちろんミュウツーの件は表沙汰にはならないけど私のお父さんは国際警察に追われる立場。それに下手したら私達はお父さんを呼び出すための人質にされてもおかしくなかった」
「……でもナナは普通に旅をしてるよね?」
「ええ。それはお兄ちゃんがチャンピオンだから。私のお兄ちゃんはチャンピオンになって絶対的な強さと立場を手に入れることで国際警察が手を出せないようにしたの。私が普通に生きていけるのはお兄ちゃんのおかげなのよ」
「ナナのお兄さんってすごく妹想いだったんだね。それでお父さんはどうしてるの?」
「私は知らない。赤子の時に捨てられたもの。でも一つ言えることはミュウツーを使って世界最大級のポケモンマフィアのボスをしているってことね。ただ間違いなく言えるのはデトワール地方にはいないということ。メガミュウツーというポケモンは恐ろしく強くて誰も手を出せない。だから誰も捕まえられない故に世界最大の犯罪者。そして、その娘が私よ」
それがナナのルーツ。想像以上に重いな。まさか自分の父親が犯罪者なんて。
「……まぁ二度と私と関わることはないでしょうね。もっともお兄ちゃんはチャンピオンの仕事をしながらお父さんを追いかけているみたいだけど」
「ナナ。それは絶対に誰かに言っちゃダメだよ」
「当たり前よ。死んでも言わないわ……ただ、あのミカエルという国際警察が……」
「まぁそんな爆弾を出されたら従うしかないよね。それでゴォー団のアジトに乗り込むから私に待っててほしいと」
「うん」
「ありえない。ナナを一人で危険な場所には行かせない。私も一緒に行く。そして隙があっったらミカエルってやつを一発ぶん殴る」
「……メア!」
「ナナに止める権利はないよ。私が決めたことだから」
ナナがメアに呆れる。しかしどこか嬉しそうだった。それにしても父親は世界最悪の犯罪者。これからの度に影響がないと良いが、そこら辺はナナのお兄さんがどうにかしてくれるだろう。少なくとも今までは影響はなかった。それはナナのお兄さんが既にある程度のケリはつけてきたというところだろう。
そして本格的にナナはゴォー団と関わっていくことになる。
これで4章は終わりです。
少し幕間を3話くらいやってから5章に行きたいと思います。