目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
善三話の予定です。幕間感覚でお楽しみください。
「こりゃ酷いな」
白いロングコートを羽織った少年と白いフードを深く被ったピンク髪の女が凍り付いた森を見てそう言う。彼の名前はノエル。パートナーはグソクムシャ。そしてナナの同級生でもあり、最大のライバルだ。これはナナが三つ目のジムバッジを手に入れる少し前の話だ。
「さすが伝説のポケモン……ノエルはジムバッジいくつだっけ?」
「メグ先生も知ってるでしょ……七つですよ」
「言葉にすることが大事。ノエルの今の手持ちはグソクムシャ、パチリス、シャンデラの三体。だから最後のジム戦を挑めない」
ジムバッジを八つ集める時に壁は三回ある。一回目の壁は一つ目。それは初めてのジム戦であり、才能のないトレーナーは落とされる。少なくともデトワール地方のトレーナーでジムバッジを一つ以上持っているトレーナーは全体の二割もいないだろう。
二つ目の壁は三つ目。それは本気のジムリーダーのポケモン一体を攻略しろというもの。こちらは難しく、通過出来るものは一割もいない。それほどまでにジムリーダーの力というのは絶対的なものなのだ。
そして三つ目の壁にして最大の難関。それは八つ目だ。八つ目は本気のジムリーダーを6VS6のフルバトルを行い、勝たなければならない。つまりジムリーダーよりも強いということを証明しなければならないのだ。もっとも難易度はジムの回る順番によっても大きく変わる。最初にキンラン等の強いジムリーダーを倒し、最後の方に比較的弱いジムリーダーに挑むのがセオリーとなっている。ちなみにジムリーダーの中でも伝説のポケモンを普通に使ってくるキンランだけは明らかに別格であり、三つ目以降に挑んではいけないジムリーダーとして有名だ。もっと言うなら八つ目にキンランを回したトレーナーで勝てた人は着任以来一人もいない。
「フルバトル……ね」
「そしてノエルの八つ目の相手はジムリーダー最強格のキンラン。三匹で突破出来るほど甘くないと思うよ。少し裏話をするとキンランは四天王にいてもおかしくない実力者。彼女がスカウトを蹴ったからなかったことになってるけど」
「メグ先生とどっちが強いのでしょうか?」
「私……と言いたいけど五分五分かな。ていうか下手したらキンランの方が強いかも。特に彼女のピカチュウが化け物みたいに強くて手も足も出ない感じ?」
「カプ・コケコじゃないんですか?」
「あれも相当強いけどまだ常識の範囲内。ただピカチュウだけはヤバいよ。下手したらカナタのニャースにすら匹敵するんじゃないかな?」
カナタのニャース。デトワール地方の誰もが知っている最強のポケモン。ミュウツーと互角以上に渡り合った。絶対に傷をつかない。どんなポケモンでも一撃で倒せるなど嘘か本当か分からない噂話が尽きないポケモン。ただ一つ言えることはどんなポケモンでも敵わないということだろう。そしてチャンピオンになろうとするということは、そんなニャースを倒さなければならない。ノエルもそれを理解している。だから一番チャンピオンに近いキンランと本気で戦うために最期に回した。何故ならキンランに勝てるようじゃないとチャンピオンには勝てないと分かっているから。
「そしてキンランさんに勝つためには圧倒的に強いポケモンが必要になる。個体値厳選はもちろん必要。それに種族値も考えないとならない」
「ええ。分かっています。だから俺はここに来た」
「そうだね。そして私からの卒業試験。内容は『レジアイスの捕獲』だよ」
「レジアイス……それがあれば俺もナナに!」
「うんうん」
この世界では三値は絶対的な悪として扱われている。しかし名高いトレーナーは誰もが信仰している。そうしなければ勝てないから。三値説の信仰は規制されている。しかし、その背景には『個体値の低いポケモンを捨てるトレーナーが増加した』というものがある。つまり問題になっているのはポケモンを捨てる行為であり、三値説を信仰することではない。しかし三値説の存在が表に出るとポケモンを捨てるトレーナーが増えるから仕方なく規制されている。そのため表立って口外しないという前提の上で暗黙の了解として強者の間では三値説の存在は常識となっていた。もっとも性格によって変わる部分に関しては怪しむ人も多いが。
また一部のトレーナーは個体値の厳選をしないで強者になることもある。しかし、それの大体は個体値を上回るレベル差によるゴリ押し、偶然良い個体値のポケモンを手に入れていたという場合が多い。そしてトレーナーとしての腕で勝つというのはありえない。
何故なら上に行けば行くほどトレーナーとしても優れた者が多く、腕で差をつけるのが困難になるのだ。トレーナーの腕が同じ者同士なら強いポケモンを使う方が勝つ。当たり前の話だ。強くなるためには個体値の存在は切っても切れない存在。もっとも個体値が良いだけでは強くなれないし、良い個体値のポケモンに認められるというのはそれだけ難しく、トレーナーのレベルも問われる。しかし強者はトレーナーの腕が確かなのは当たり前という前提で話を進める。
「先生……俺は旅を始めた頃はチャンピオンになるために強いポケモンが欲しいと思った」
「急にどうしたの?」
「でも今は違う。ゴォー団のラティオスと戦って思ったんだ。俺はポケモンに敗北という想い二度とさせたくない」
「だから?」
「強いポケモンを使う。俺のグソクムシャやパチリス……そしてシャンデラが負けないように。そいつらが勝つためにも弱いポケモンじゃダメなんだ!」
「それがノエルの答えなんだね。トレーナーの考え方は色々あるし、正解なんてない。だから私は多くは語らない。でも一つだけ言うとノエルの考え方と私の考え方。まったく同じだよ。私は強いポケモンを使うのも優しさだと思う人だから」
そしてレジアイスを探すために周辺の散策をする。今のノエルにレジアイスを倒すのは困難だろう。しかし困難だからこそ乗り越えた時に成長するのだ。ノエルは確信している。自分一人でレジアイスに勝つと。ノエルには信頼出来るポケモンがいる。だからこそ勝てると信じられる。
「……氷は殆ど溶けていない。レジアイスは近くにいるはずなんだけどな」
「そうですね……絶対に近くにいます」
「ノエル。私はレジアイスに手を出さない。あなた一人で勝つんだよ」
「分かってます」
その時だった。草木がガサガサと揺れる。ノエルは迷わずパチリスを出した。それと同時に氷の光線が飛んでくる。パチリスが体を空中で捻り、見事に回避。
「レ・ジジジジジジジ」
そして巨大な氷の塊が現れる。しかも顔には点字のような眼や鼻がある。間違いなくレジアイスだ。レジアイスが現れたのだ。メグは自分が巻き込まれないように距離を置く。ノエルも一気に真剣な表情を見せる。相手は伝説のポケモン。風の噂だとジムリーダーでも倒せなかったと聞く。そんなレジアイスとの戦い。一切の油断は許されない。
「なぁパチリス。今からあいつを捕まえると思ったらワクワクしないか?」
「パチ……」
「行く……パチリス!」
ノエルは目を疑った。なんとパチリスが氷漬けになっていたのだ。そしてパチリスをボールに戻そうとするが、凍って自分の手が動きにくいことに気付く。しかし気にも留めず無理矢理パチリスをボールに戻して走り出す。ノエルは思い出したのだ。レジアイスはマイナス二百度の冷気を操るポケモン。恐らくパチリスはマイナス二百度の冷気によって瞬時に凍らされた。しかしポケモンである以上は限度があるはずだ。だからレジアイスの射程から逃れるべく、距離を取ったのだ。あのままでは自分も氷漬けとなってしまうから。
「伝説のポケモン……いくらなんでも無茶苦茶だろ!」
ノエルは茂みに隠れて考える。レジアイスに近づくためには冷気をなんとかしなければならない。あれほど厄介なものはない。やるとしたらシャンデラだが、一体どのように火を広げてレジアイスと戦うのか。下手に草木を燃やせば山火事になりかねない。それは後々面倒なことになるから出来れば避けたいところだ。しかしそれ以外に方法は思い浮かばなかった。ノエルはメグにメールをして森を焼く許可を貰う。相手はレジアイス。これ以上の放置は危険だという判断からだ。しかし代わりに絶対レジアイスを捕まえろとも釘を刺される。ノエルは二つ返事で迷いなく返事して。グソクムシャを出して軽く命じる。そしてグソクムシャは完璧にノエルの指示を理解して遠くに行った。そしてノエルはシャンデラを出して、再びレジアイスの目の前に現れる。
「勝負だ! レジアイス!」