目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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60話 スピアーカップ

『始まりましたぁぁぁぁああああ! スピアーカップ!』

 

 実況がうるさいくらいに盛り上げる。そして簡潔に主要選手の紹介になる。

 

『そして一番の注目株! とても可愛い容姿をしているが戦いに一切の容赦はない! 戦った者曰く悪夢のようだと言う。そのギャップからトップクラスの人気を誇る悪夢姫ことナナだ!』

 

 まじか。ナナが一番の注目株なのかよ。そして一気に歓声が巻き起こる。いつの間にナナがここまで人気になっていたから。しかしナナは観客には目もくれない。その様を観客はクールで好きだと言う。

 

『ナナ! 彼女は先日まで死亡説が囁かれていたが完全に嘘だと証明された! 戦い方は基本的に瞬殺。そして知らぬ者はいない、この地方のチャンピオンの実の妹でもある! この強さに疑いの余地は一切なし!』

「……随分と有名になったものね」

 

 ナナがぼそりと呟く。もう完全に世間から注目の的だ。でもナナってまだジムバッジ三つなんだよな。しかも旅を始めて半年も経ってないだろうし……

 

『続いてはスピアー界の女王の……』

 

 そんな感じで選手紹介がされていく。今回の大会に顔見知りはいない。もっとも参加条件がスピアーを持っているというものだから少し敷居が高いから仕方ないのだが……

 

「行くわよ。スピアー! いつも通り全力で!」

「スピッ!(ああ!)」

 

 ナナはスピアーの背中にしがみつくように乗っている。周りのスタイルは様々だ。スピアーにソリを引かせる者もいれば、スピアーの隣を走るつもりの者もいる。そしてナナのようにスピアーに乗るスタイルは見たところナナを含めて三人しかいない。

 

 理由は簡単でスピアーがトレーナーの重さに耐えられないから。耐えたとしても減速は免れない。もっともそれは普通のスピアーの話だ。当然ながら育て上げたスピアーならトレーナーを物ともせずに乗せて走る。しかしそこまで鍛えるのは至難の業で……

 

『それでは総勢二十三名によるスピアーレース! 開幕だ!』

 

 ホイッスルが鳴る。ナナのスピアーが頭一つ飛びぬけて速く、いきなり先頭を取る。スピアーは当然ながら開幕と同時にこうそくいどう。それにより周りのスピアーよりも段違いで速い。

 

「う、うそっだろ!」

「そんなの反則よ!」

 

 様々な声が聞こえる。ていうか、ここまで離れて聞こえるってどれだけ大きな声で叫んでるんだよ。そしてナナはスピアーに軽く命じて適当なタイミングで止まるように合図する。これはレースだ。足を止める理由なんて……

 

「距離は300m。到達まで約5秒から7秒くらい。そして加速している個体もいる。なら私達がすることは一つ。スピアー。ミサイルばり!」

「スピッ!(へいっ!)」

 

 スピアーが動きを止めて、的確に針を飛ばしてインベーダーゲームをやるかのように相手のスピアーを一撃で戦闘不能に追い込んでいく。

 

『なんてことだ! ナナ選手! 容赦ない攻撃でスピアー達を脱落させていく! なにが起きている!』

『こちら解説役のスピアニストです。ナナ選手のスピアーは相当強いですね。この距離で的確に相手の動きを読んで当てる。それは至難の業です』

『な、なるほど……』

『しかもそれだけではない。威力の低いミサイルばり。その一撃だけでスピアーを戦闘不能に追い込むことから攻撃力の高さが見て分かる。彼女のスピアーは十年に一度の逸材と言ってもいい。いや、彼女がそこまで育てあげたのでしょう』

『というわけで解説が入った! 一つ分かるのは我らのナナは想像の遥か上をいくくらい優秀だということだ!』

『しかし今回は三冠を達成しているスピアークイーンのミロロ選手もいます。たしかにナナ選手はトレーナーとしてはとんでもなく優秀、しかしスピアー一筋の彼女にスピアーで勝てるかというと怪しい部分でもあると思います』

 

 残ったのは五体だった。そしてスピアーに乗って移動している選手は二人共残っている。やはりこんな小技では倒せないか……

 

「悪夢姫の名は伊達じゃないね! 戦い方がえげつない!」

「褒め言葉をどうも! スピアークイーン!」

 

 ナナが隣を走る金髪ロールの女に挨拶をする。彼女のスピアーは赤いリボンを巻いていて少しだけ可愛らしい。

 

「それじゃあスピちゃん! メガホーン!」

「こっちもメガホーンで対抗よ!」

 

 相手のスピアーのメガホーン。まさかナナ以外の個体もメガホーンを使ってくるとは思わなかった。そして威力は互角。そのままメガホーンを撃ち合いながらゴールを目指す。

 

「あなたのスピアー。相当強いわね。だけど、これで終わりよ! スピアー! いばるよ!」

「スピッ、スピ……!(まったく、こんなメスガキが……)」

 

 いばる。相手を混乱させる技だ。これで一気に主導権を……

 

「ピアッ!(かっこいい!)」

 

 その瞬間にナナのスピアーが一気に減速して足を止める。待て! なんでここで足を止めるんだよ! 今はレース中だろ!

 

「攻撃力。ごちそうさま」

「……メロメロ。完全にしてやられたわ」

 

 ナナが適当にスピアーを叩いて魅了から回復させる。その間に一気に他のスピアーにも抜かれて最下位まで落とされる。

 

「ス、スピッ!(な、なにが!)」

「魅了から覚めた? 早く逆転するわよ!」

 

 スピアークイーンとナナが呼んだ女は現在は3位だ。いばるが効いて混乱してふらついた結果として順位を落としている。そしてナナがスピアーにこうそくいどうを命じて一気に加速して一位に返り咲く。やはりナナのスピアーは飛びぬけて速いらしい。

 

「……させねぇよ」

「ウソでしょ!」

 

 その時だった。後ろからナナのスピアーが糸に絡めとられて転倒する。技は『いとをはく』か。完全にしてやられた。

 

「一位はヘイトを集めやすいから気を付けた方がいいよ」

「ヘイト……そういうこと!」

「お先に……」

「スピアー。メガホーン!」

 

 抜こうとした男性をメガホーンで吹き飛ばして戦闘不能に追い込む。これで残り四人。ナナの現在の順位は最下位の四位。しかしナナは気が付いたようで相手のスピアーと一定の距離を保って抜こうとはしない。

 

「これは駆け引きよ。もしも一位になったら注目の的になって他のスピアーの妨害が多く飛んでくる。それをスピアークイーンは分かってたから一位になっていない」

「スピッ……(そういうことか……)」

「普通にレースしても勝てない。それなら私達の土俵で戦うわよ!」

「スピッ?(ん?)」

「ポケモンバトルで全て戦闘不能に追い込んで一人勝ちを狙うのよ!」

 

 結局そうなるのか。でもそれが一番分かりやすい。つまり簡単な話だ。相手がゴールに到着するまでに倒せば勝ち。倒せなければ負け。それだけのことだ。

 

「スピアー! ミサイルばりを撃ちながら進むのよ!」

「スピッ(了解)」

 

 スピアーがミサイルばりを撃つ。しかし残っているのは猛者立達。簡単には当たらない。そんなタイミングでゴールまで残り半分の距離となる。ナナのスピアーは距離を一気に詰めていく。そして相手のスピアーの真後ろに行き……

 

「……メガホーン!」

「そんなの当たるかよ!」

「転回してシザークロス!」

「な、なに!」

 

 見事な一撃で戦闘不能に追い込み、一人脱落させる。その時だった。横からシザークロスが飛んでくる。ナナのスピアーは攻撃を受けるが大したダメージにはならない。

 

「そっちがその気なら俺が倒してやる」

「スピアー。メガホーン!」

「躱してエアカッター!」

 

 風の刃がスピアーに襲いかかる。それにスピアーは少しだけダメージを受けて顔をしかめる。だけど問題なく動けそうだ。

 

「これは切り札だけど……やるしかないわね。アクロバット!」

「ど、どこだ!」

 

 スピアーは軽やかに動き、背後から相手のスピアーを叩いた。それにより一撃で戦闘不能。アクロバットは飛行タイプの技でスピアーには相性が良い。そしてレベル差もあるので一撃で倒せるのだ。

 

「あとはスピアークイーンだけね」

「へぇー……さすが注目されてるだけのことはある」

「こうそくいどう!」

「おいかぜ!」

 

 相手のスピアーの動きが倍近く上がって一気にゴールに近づく。ナナのスピアーも全速力で駆け抜けるが相手のスピアーの方が速い。そしいシノノタウンが見えてくる。早く勝負を決めなければ!

 

「ミサイルばり!」

「避けて!」

 

 相手のスピアーはミサイルばりを簡単に躱してゴールへと距離を詰めていく。ナナが

悔しそうに下唇を噛む。完全に打つ手無し。なのか……

 

「……遠距離攻撃で避けられない技」

 

 そもそもスピアーは近距離の方が強いポケモンだ。しかし距離を離されると成す術がない。その解決策として覚えたのがミサイルばり。そんなサブウェポンが通用する相手ではない。しかし追い付くのは不可能……

 

「スピッ!(拙者に考えがある!)」

 

 スピアーが電気を纏った糸玉を飛ばす。しかし当たることなく落ちる。もっと言うなら届いてすらいない。スピアーはなにをしたい?

 

「エレキネット……あなたはそれをやりたいのね」

「スピッ!(ああ!)」

 

 ナナは相手のスピアーの位置からゴールまでの時間を計算する。そして『二分と十二秒』と呟いて相手のスピアーを真っ直ぐと見る。

 

「原型は出来てる……だけどネットの転回のイメージがスピアーの中で完成してない。あと二分で私が的確なイメージを考えてスピアーに伝えて、技として完成させる……出来る? ううん、やるしかない!」

 

 エレキネット。そういえばキンランさんとの修行中に彼女のピカチュウが何度か使っていた。恐らくスピアーもそれを思い出して再現しようとしたのだろう。

 

「エレキネット。電気の網で相手のポケモンを捕縛する技……そして攻撃にも守りにも応用が出来る技。そしてキンランさんのピカチュウは守りや捕縛として使っていた。だからスピアーの中で守りと捕縛のイメージで固まっている」

 

 ナナがニヤリと笑う。彼女は捉えたようだ。勝利への道を。スピアーにエレキネットを覚えさせる方法を。

 

「スピアー! エレキボール!」

「スピッ?(え?)

「いいからやりなさい!」

 

 スピアーが電気の玉を飛ばす。それは相手のスピアーまで届く。もちろん横に動いて避けようとする。しかし電気玉は爆発して網となり、スピアーを捕縛する。

 

「稀にエレキボールを使っていると突然エレキネットに変わったという話を聞く! つまり基本はエレキボールの要領と同じ! それならエレキボールのイメージで打てば成功する! もっともスピアーが生み出す微弱な電気じゃエレキボールは撃てないけど、イメージなら充分に使えるのよ!」

「スピッ!(なるほど!)」

「安心して私に任せて挑戦しなさい! あなたのしたいことを全てさせてあげる! そのためにトレーナーがいるのだから!」

 

 そして一気にスピアーが距離を詰める。もうそろそろ抜けると思った瞬間に相手のスピアーがエレキネットから脱出して、こちらにメガホーンを繰り出してくる。

 ナナはそれを完全に見切って、技が来るより早く避けるように指示を出してダメージを

逃れる。どうやら相手はやる気らしい……

 

「どうやら私のスピアーが悪夢姫のスピアーと戦いたいみたいなの」

「……私にバトルに勝つ可能性が万に一つもあるとは思わないことね」

「どうかな?」

 

 相手のスピアーが光りに包まれて変貌を始める。まさかメガシンカか! 考えたら相手はスピアークイーン。メガシンカを使えてもおかしくない。

 

「……正直に言うとスピアーカップの景品に興味はない。ただ誰かに私よりスピアーの扱いに優れてるって面をされるのが癪だから参加してるだけなの。メガシンカも使う気はなかった。だけど気が変わった。あなたのスピアーをもっと知りたいの!」

「スピアーカップなんて放り出して私のスピアーと戦いというわけね1 受けて立つわ! 勝つわよ! スピアー!」

「スピッッッッ(当たり前だ)」

 

 そしてメガスピアーとスピアーの戦いが始まろうとしていた。

 


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