目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。 作:ただのポケモン好き
66話 お招き
カイヨウシティの大きな都市の喫茶店。カランカランと音が鳴った。そこにピカチュウをモチーフにした黄色いパーカーを着た金髪の女性が入ってくる。
「キンランさん。忙しいところすみません」
「ナナ。私にお願いしたいことってなにかしら?」
「こちらを……」
ナナはキンランさんに手紙を見せる。キンランさんはそれを真剣な表情で見つめる。そして一通り読み終えると口を開いた。
「それで私に来てほしいと」
「はい」
「そういうことならいいわよ。あとこれはプレゼント」
キンランさんが黄色い宝石を投げる。もう見慣れた光景だ。渡したものはZクリスタル。これは恐らくデンキZだろうな。
「これは……」
「デンキZ。私は五つ持ってるから一つくらいあげるわよ」
まずZクリスタルをお土産感覚で簡単に渡すことにも驚きだが、普通に複数個も持ってるも驚きだ。そもそもZクリスタルってどこで入手するのだろうか?
「あり……」
「さて、これでナナはアクZ、ホノオZ、デンキZの三つがあるわけね。それでデンキZはスピアーのエレキネットをZワザにする時に使うかしら」
キンランさんはナナのお礼を遮って自分の話を進める。ナナも彼女の話だけは真剣に耳を傾ける。それほど彼女の話はタメになるからだ。
「ご存知の通り電気タイプの技は水と飛行に有効になる。しかし水と飛行ならナナの場合はダークライで充分でしょうね」
「はい」
「ただナナも今回のヒードランで強く実感したんじゃないかしら。ダークライがやられると鋼タイプに滅法弱くなる。ツタージャ、スピアー、ムシャーナ。三体ものポケモンが鋼相手に不利な状況になりかねない。それにドラミドロだって本領のドラゴン技とはがね技が通用しなくなる」
エスパー、むし、くさ、どく、ドラゴン。これが僕を除いたナナの手持ちのタイプだ。たしかにはがねタイプが来ると一気に勝負は厳しくなるな。それがナナの今の弱点……
「でもドラミドロの……」
「あれは水生ポケモンと言ってもドラゴンと毒の複合タイプ。それに水生ポケモンということは長時間の戦闘は難しいわ」
「……」
「だから自分のタイプと違う技でも一時的に大きな攻撃力で放つ必要がある。それがデンキZよ。これはダークライ無しではがね相手に戦う切り札だと思いなさい」
「ていうかキンランさん。どうしてそこまで知ってるんですか?」
「ナナ。あなたって想像以上にネット掲示板で話題になってるのよ……今回のジム戦の動画も既に動画サイトで反響を……」
「ウソでしょ! いつの間に……」
「ホントにあなたって新聞しか読まないのね。特にヒードランとの戦いは話題騒然よ。もうナナが次世代のチャンピオンだという人もいるくらいで……」
「ネットはやらないって決めてるんですよ……お兄ちゃんが一時期寝込んだことがあって、その原因がインターネットでのアンチコメントでしたから……」
「カナタ……アンチくらいでへこたれるなんてホントに情けないわね」
そんな話をしているとカランカランと音が鳴って赤毛のスーツの男が入ってくる。ベアルンと同じ赤毛だが、彼のショートの髪とは違って赤毛は癖が強くアホ毛になっている。しかもそれだけに留まらず、伸びきった赤髪は片目を完全に隠している。彼は一体……
「ボルノ。待ってたわ! それにしても随分と変わったわね。まずはボサボサの髪をどうにかしたら?」
いや、待て! ボルノかよ! いくらなんでも変わりすぎだろ!
「これはオラのファッション。先輩が普段だらしない男子がシャキッとやる様はカッコイイと言いだして……」
「そ、そう……せめて前髪は?」
「片目が見えるから問題ないぞ」
「ボルノ……ああ。シノノカップ優秀者の国際警察の人ね」
キンランさんは一瞬で彼のことに気付いたようだ。国際警察として扱われている様にボルノは少しだけ照れる。
「でも、いくらなんでもドレスコードがなってないわ。バチュルお願い」
それだけ言うとキンランさんのパーカーの中からバチュルが現れて、ボルノの体をよじ登って髪を弄り始める。それから数秒すると彼の頭は一言でいうならチョココロネのような髪型になった。なんていうか奇抜な格好になったな。しかしよく見て見るとカッコいいような……
「これで良しね。それじゃあ三人になったし行きましょうか」
「なるほど。マリアのところに行くのか」
「……よく分かったわね」
「この机に置かれている手紙の紙が明らかに高級品。そこからある程度の大富豪だと考察。しかし普通の大富豪ならナナが一人で行けばいい。それなのにオラ達を呼んだ理由は? そんな感じで考えていったら簡単さ」
「さすが国際警察……」
「ナナ。彼は十二歳という前代未聞の若さで国際警察よ。それ相応の能力があっても不思議ではないわ」
「そうですけど……」
「とりあえず行きましょうか。ボルノ。テレポートを使えるポケモンはいる?」
「はい。頼むよ。ドーブル……」
ボルノがボールを投げる。ナナは少しだけ驚きの表情を見せる。ボルノのポケモンが増えている。あれから時間も経つし、増えていてもおかしくないが、知人が新しいポケモンを持ってると驚くよな。
「ボルノ。今の手持ちは?」
「ウィンディ、ルカリオ、ドーブル、ゲッコウガ、ハガネール、トロピウスだ」
「あれ? フシギソウは?」
「…………少しワケあって逃がした」
「そう……」
「とりあえずいこうぜ」
そしてボルノはドーブルに命じてテレポートをする。テレポートした先は大きな屋敷。ここは間違いなくナナが呼び出された場所だ。しかし辺りには誰もいない。そう思ってた矢先だった。音速に等しい速さでナナの方に飛んでくるポケモンがいた。
「随分と手厚い歓迎ね」
「ピカッ(そうだね!)」
しかしナナにぶつかることはなかった。何故ならキンランさんが瞬時にピカチュウを出して、ナナに衝突する前にアイアンテールで防いだから。それによりナナの元に飛んできたポケモンの全貌が明らかになる。あれはラティオス!
「なんて速さ……」
「ナナ?」
「あのピカチュウ……めちゃくちゃ強い。ボールに出てから一秒もかからずにここまで移動。しかも自分の倍以上の体格差のあるラティオスを簡単に弾いた」
いや、それだけじゃない。ピカチュウはキンランさんから一切の指示を受けていない。完全に自分でやることを理解して動いている。
「ナナ。違う」
それからラティオスがドサッと倒れる。なにが起こった? これは一体……
「あのアイアンテールと同時に『でんじは』を使ってラティオスを痺れさせたんだわ。なんて器用な……」
キンランさんのピカチュウ。その強さは誰が見ても次元が違うものだとハッキリと分かった。それこそ下手したら伝説よりも強いくらいの……
「私がいる限りはナナに傷一つつけられないと思いなさい!」
彼女が高らかに叫ぶ。ボール越しでも分かる。あのピカチュウは恐らくカプ・コケコよりも強いだろう。どのピカチュウでもここまで強いわけじゃない。キンランさんのピカチュウだけが明らかに別格なのだ。そしてラティオスは痺れながらもナナに近寄ってくる。
「……敵意はなさそうね」
ラティオスはナナに頬ずりをする。そしてしばらくすると距離を取ってくる。まるで戦おうと言わんばかりに。これは一体……
「ナナ。あのラティオス。なぜかあなたに相当なついてるわよ」
「そうみたいですね。それにバトルを望んでるみたいでもありますね」
「ナナがバトルしたいなら私は手を出さないから勝手にしたらいいわ。それにダークライがどのくらい強くなったかこの目でみてあげるわよ」
「それならお願い! ダークライ!」
ナナが僕のボールを投げて外に出す。ラティオスと真剣なポケモンバトル。しかも相手から殺気はない。いつものように命の駆け引きはなくて普通のポケモンバトルが出来ることか! 面白い!
「キュュュウウウン!」
ラティオスが叫んで気合いで麻痺を治す。そして僕の方に突進を仕掛ける。高速で動くラティオスの体はまるで弾丸。当たれば相応のダメージを受けるだろう。そんな攻撃を体を捻って避ける。そしてシャドーボールを撃ってラティオスを狙う。しかしラティオスは簡単にシャドーボールを避けていく。そんな様を見ているキンランさんから野次が飛ぶ。
「ダークライ! シャドーボールを撃って放置しない! しっかり集中してシャドーボールに追尾性をもたせなさい!」
シャドーボールに追尾性か。出来なくはないが全神経を集中するため無防備になってしまう。恐らく彼女は無意識でも出来るようにしろと言いたいのだろうが、それは難しい。
「ナナ……」
「シャドーボールの追尾性ね。二つのことを同時に行う。それは慣れるしかないから気合いで頑張りなさい」
ナナに助けを乞うが望んだ答えは出ない、そうこうしているうちにラティオスが再びこちらに突っ込んでくる。僕はドラミドロの戦いを見て気が付いたことがある。それはフィールドを制するということだ。僕のシャドークローは影を結晶化させて生成した爪で引っ掻くという少し周りとは違う使い方をしてる。それを応用すれば……!
「……やるじゃない!」
僕は影を結晶化させる容量でラティオスの目の前に壁を作り、守っていく。そしてラティオスの下に結晶で槍を作り、貫こうとする。しかしラティオスは意図も容易く回避して上空へと飛んでいく。
「シャドークローの実体化の応用で紫色の結晶を作り。それで壁や槍を作り遠距離的な物理攻撃を可能にしたわけね。すごい応用力」
それでも成功した! 地形の変化。問題なく実践でも使うことは出来そうだ。
「ダークライ! 一気に……」
バトルはこれからだ。そんなタイミングで奥から手が叩く音がする。それと同時に当z9位に大地震が襲う。地面がグラッと揺れる。それにより僕が生成した結晶も全て破壊されてしまう……間違いなくポケモンの技。おそらく『じしん』だろう……
近くにいたピカチュウが最大限の警戒を見せる。奥からは女の人がこちらにドサイドンを連れて歩いてきていた。
「そこまでよ。ラティオス」
ラティオスは女の人の言葉で大人しくなり、ボールに戻される、そして女は物凄い覇気を放っていた。嫌でも強者だと分かる。それと同時に曖昧だった記憶が蘇っていく。
「改めて私はマリア。元ゴォー団の幹部で二ロロノクス社の社長よ。この度は私の招待を受けてくれてありがとう。ナナ」
彼女がラティオスを使って僕達を追い詰めたトレーナーだ。あまりにゴォー団で会った時とは雰囲気が違って気付くのが送れた。彼女の自己紹介にナナ達も最大限の警戒を見せる。
「私はポケモントレーナー。ちゃんとポケモンは六体いるわよ。手持ちがラティオスとラティアスだけなんてことはない」
そんな中で彼女が的外れな受け答えをする。しかし適当なタイミングで切り上げて、ナナ達に奥の方へと来るように促す。
「とりあえずお茶でも飲んで話しましょう。ナナさん」