目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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67話 完全敗北

配はない。重々しい空気の中に最初に口を開いたのはボルノだった。

 

「マリア。お前のしたことは許されることじゃない」

「……証拠はあるのかしら?」

「それは……」

「証拠が無ければ無実。法は犯していないことになる。つまり潔白の善良なる市民」

「法で裁けないから正義にはならないだろ!」

「なるわ。悪と善を分けるのは法律。法律で裁けないなら悪ではない。だってそうしないと善悪は人の主観によるものになるでしょう?」

 

 マリアが冷静に受け答えする。その言動からは確かなカリスマ性を感じることが出来る。これは間違いなく強敵。というより本気で自分を悪だと思っていない。

 

「国際警察の方。あなたにとって正義とはなにかしら?」

「それは……」

「あなたの感性で善悪が分けられるなら独裁主義。そうならないために善悪は法律で区別される。だから法を犯さなければ、なにをしようが悪ではない」

「正義か悪か。そんなことはどうでもいい。私が問いたいのは何故呼び出したのか。それだけです」

 

 ナナはボルノ達の会話に微塵も興味を示さない。彼女は口を開くと真っ先に要件を聞いた。しかし彼女はナナを真っ直ぐと見て誤魔化す。

 

「ナナ。あなたの正義は?」

「そんなことは考えたこともない。だけど一つだけ言えることがある。あなたは悪よ」

「証拠は?」

「私の記憶。もちろん物的証拠はないから法では裁けない。それでも私の中に確かに貴方の存在は悪として刻まれてる。だから私は貴方を嫌悪する。それだけで充分」

「あなたの正義。それは『ポケモンが幸福になること』でしょ? つまりナナの目にはポケモンに不利益となることは悪として映る」

「あなたがそう思うなら、そうかもしれない。だけど私はあなたが嫌い。それ以外のものが必要かしら?」

「いらないわね。ちょっと見ないうちに強くなってつまらないわ」

「私は貴方を楽しませるために生きていない」

 

 そこでナナとマリアの会話が終わる。ナナはマリアの言葉を否定もしなければ肯定もしない。ただの事実として冷静に受け止めていく。そして受け止めた上で自分の感情だけを口にしていた。『理屈とは関係なく嫌いだから関わりたくない』と。

 

「それじゃあ最強のジムリーダーのキンランさん。あなたの正義は?」

「勝利。勝てば勝利。負けたら悪。あなたは裁判で勝ったから正義。それ以外の理屈はいるかしら?」

「キッパリとしてるわね」

「こんなくだらない話は切り上げて、ナナを呼び出した理由をさっさと話しなさい」

「まず一つ。私のラティオスを助けてくれたお礼」

 

 お礼ね。ラティオスを助けたことに一応感謝はしてくれていたのか。その感謝はありがたく受け取っておくべきなのだろうか……そして目の前に数億の大金が積まれる。それにボルノとキンランさんは少し目の色を変える。しかしナナは無表情だ。

 

「興味ない。私はお礼を言われたくて助けたんじゃない」

「それならどうして?」

「さぁ? 気がついたら体が動いていたと言っておくわ」

 

 ナナは嘘を吐いて誤魔化す。ナナが助けたのはポケモンと離れ離れになるのが可哀想だと思ったから。間違っても気がついたら動いていたなんてことはない。

 

「なら、このお金はいらない?」

「ええ。納得いかないなら適当な場所に寄付でもしなさい」

「貸しを作ったみたいで癪だわ。ならこれでも受け取っときなさい」

 

 そしてナナに渡されるのはブラックカード。ナナはそれを迷わず懐にしまった。ナナと長い間、旅をして分かったことがある。それは思ってる以上にナナという存在は自分の欲に忠実だということ。

 

「……してやられた」

「おい。ちょっとどういうことだ!」

「なるほど。ナナは大金を受け取らなかったらもっと金が出てくると読んで敢えて受け取らなかった。すごく性格は悪いと思うけど賢いわね」

 

 最初にマリアがナナの思惑に気付いて頭を抱える。そして理解の追い付かないボルノに横からキンランさんが補足する。これが倫理的にどうなのかは置いておくがナナの利益になるのは間違いない。

 

「ナナ……それってどうなんだ?」

「法で裁けないならなにをしてもいいと言ったのは彼女よ」

「そうだが……」

「まぁいいわ。それじゃあ二つ目の話にいくわ」

 

 それから少しだけ真面目な話になる。これはナナにも大きく関係する話だ。その話の内容をナナは真剣に聞く。

 

「メガシンカ。ナナにその手解きをしてあげる」

「え?」

「あなたがメガシンカを使わないのはポケモンの負担とか色々と考えてるからでしょ? だからメガシンカについて軽く教えてあげるって言ってるの」

「キンランさん……」

「まぁ悪くはないわね。バトルした私だから分かるけど彼女は相当強いトレーナーでメガシンカも使いこなしてる。それに私はメガシンカに関しては専門外よ。もっとも彼女を信用しても大丈夫なのかというのは別問題だけど……」

「まぁ判断はナナに任せるわ。ただ教えてほしいとうのならメガシンカについて本気で叩きこんであげる」

 

 マリアからの提案。

 それに対してナナの出した答え。それは受け入れるというものだった。

 

* * *

 

「とりあえず実戦形式で改めてメガシンカの強さを実感してもらう。お願い。ラティアス」

 

 案内されたのはバトルフィールド。そこでポケモンバトルが始まろうとしていた。ルールはナナは全ての手持ちを使って良し。それに対してマリアはメガラティアスの一体だけというもの。そして審判はキンランさんが勤める。

 

「お願い! ダークライ!」

「いくわよ。ラティアス」

 

 そしてラティアスが光り、メガシンカして姿を変貌させる。それと同時にバトルが始まった。僕は迷わずあくのはどうを放つ。

 

「遅い」

 

 しかしメガラティアスは既にいない。しばらくして後ろから激しく叩かれる。振り向くとメガラティアスがいた。あまりに速い。まったく反応すら出来ない。それからメガラティアスは再び消える。いったいどこに……

 

「ダークライ! 相手は透明化してるのよ!」

 

 透明化か! だから消えたのか。そう思ってるうちに再び背後から殴られる。そして次は電撃が降り、体が痺れる。これは10まんボルトか……

 

「見えないだけじゃない……音速に近い速度で常に動いてる……」

「ラティアス。りゅうせいぐん」

 

 そんな時だった。空から数多の隕石が降ってきた。それがフィールドに降り注ぐ。僕は必死に避けようとするが量があまりに多く、避けきれない、そして気付いた時には体がボコボコとタコ殴りにしていた。そして体から力が抜けてドサッと倒れこむ。

 

「ダークライ! 戦闘不能!」

「ありがとう。ダークライ」

 

 僕はボールに戻される。あまりに強すぎる。透明化だけでも厄介だというのに数早く、技の威力も高い。あまりに滅茶苦茶な力だ……

 

「お願い! ツタージャ!」

「タジャ!(任せて!)」

「一気にいくわよ! つるのムチでフィールド全体をしばきなさい!」

 

 ツタージャがフィールドに出てくると同時に無造作に駆け回るメガラティアスをつるのムチで捉える。それに僕は驚いた。あんなに速くて透明化してるのにどうやって。

 

「なるほど。無造作につるのムチを使うことでラティアスの位置を探索。そして当たったら一気に捉えるってことね」

「ええ!」

「ラティアス。回りながらりゅうのはどう」

「ツタージャ!」

 

 回転しながら放つりゅうのはどう。それはツタージャのつるのムチと同じようにフィールドを覆っていく。りゅうのはどうは高威力で当たったツタージャが一撃で倒される。

 

「ツタージャ。戦闘不能」

 

 あの威力のりゅうのはどうがあるから迂闊にラティアスに近づくことも出来ない。攻防一体の隙のない技の使い方……

 

「これはカウンターシールドという技術。回転しながら撃つことで自身の周囲を包んで守ることで攻撃が防御へと変わる」

 

 マリアから伝えられる技術。技にこんな使い方があったとは。ナナは悔しそうに下唇を噛みながらツタージャをボールに戻していく。ここからは散々なものだった。次に出したドラミドロもりゅうのはどうで一撃。ムシャーナも成す術やられ、スピアーですら手も足も出なかった。あまり散々な結果。ナナが手も足も出ていなかった。あまりに彼女は強すぎた。

 

「これがメガシンカ。メガシンカはポケモンを大きく強化する。攻撃は重くなり。並大抵のポケモンでは耐えられない。もしも一撃でやられなければ少しは善戦出来たと思うわ」

 

 完全に別次元の強さだった。彼女はメガシンカの力だというが、それだけじゃない。彼女の指示に素のポケモンの強さ。全てにおいて負けていた。そんな光景にナナは膝をつく。

 

「……私達……強くなっ……たよね?」

 

 今回の敗北。それはあまりにナナには重いものだった。

 ここでナナは初めて自分の力について疑いを持つことになった。




土日の更新は少しポケモンの剣盾をプレイしたかったり、日曜日に日帰り旅行の用事が入ったりして執筆の時間が確保できないため休みという形になると思います。最近は休みが多くてすみません。
(そして今回の休みは仕事とかではなく、完全な私用なので申し訳なさが……)

PS
私の推しのメロエッタは剣盾に出るのだろうか。

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