目が覚めたらダークライ。そしてトレーナーは可愛い女の子。   作:ただのポケモン好き

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7話 VSトロピウス

 トロピウスが光を集める。太陽と錯覚しそうになりそうなくらい眩い光。これは明らかにヤバい。普通のワザとは明らかに違う。喰らったら瀕死なんかでは間違いなく済まない。しかも、あの規模だとナナも巻き込まれる。

 

「……ダークライ。ごめん、ちょっと万事休す」

 

 あきらめるな。考えろ。あのトロピウスを止めなければ、ナナもが危ない。逃げようにも間に合わない。なら倒すか? 無理だ。トロピウスの方が動くのは早い。なら僕が盾となり、ナナを庇う。もうそれしかない。そう思った矢先だった。体が浮かされて、ナナと一緒に後ろへと投げられる、それから想像を絶する熱量を持った光が僕たちのいた場所を焼き尽くした。

 

「ンナッァ…… (諦めてるんじゃねぇよ……)」

 

 焼け野原となったその場所にはボロボロになったムンナがいた。どうやらムンナがボールから飛び出して念力で僕たちを飛ばして、助けたらしい。

 どうして人間嫌いのこいつがそんなことを……

 そんなムンナを見てナナが声を張り上げて、叫ぶ。

 

「ムンナ!」

「ンナッ……(勘違いするなよ。あんたに死なれたら寝覚め悪いから助けただけだからな)」

 

 そうしてムンナが倒れた。ナナの目に涙が溜まる。元気の欠片を片手にすぐにムンナに駆け寄ろうとするが、僕がそれを必死に抑える。いまムンナを助けにいけばトロピウスの餌食になる。つまりナナが傷つく。

 

「……ナナ。先にアイツを倒ス」

「そうね……私の大切なポケモンを傷付けたあいつだけは痛い目に遭ってもらうわ!」

 

 恐らく先程のやきつくすでトロピウスも相当のダメージを受けている。あともう一撃叩き込めば間違いなく倒せるはず。しかしトロピウスもそれを警戒してくる。簡単に叩き込むのは至難の業だ……

 

「ダークライ。私にあやしいかぜを撃って!」

「……ハ?」

 

 いや、待て。ナナはなにを言っている。極限状態に追い込まれ過ぎて気でも狂ったのか?

 それにナナはポケモンじゃない。そこまで攻撃力のないあやしいかぜとは言え、人間相手に撃つにはあまりに危険すぎる。

 

「いいから早く!」

 

 ナナを信じよう。恐らくなんかの策があるはずだ。僕は心の中で謝りながら、あやしいかぜをナナに撃った。紫色の突風がナナに襲い掛かる。ナナの軽い体は上空へと吹き飛ばされて地面へと叩きつけられる。ドシンと鈍い音がする。ナナの頭から血が出る。それでもナナはフラフラと立ち上がりながら叫んだ。あまりに痛々しくて、見るに堪えない。それでもナナは叫ぶ。「もう一度」と。

 

「無理ダ!」

「私に従って! 絶対に勝たせてあげるから!」

 

 泣きながらもう一度、あやしいかぜをナナに撃つ。ナナが木に叩きつけられる。またゴシンッと鈍い音がした。それと同時に僕の体に力がみなぎってきた。それを確認したナナは口から血を吐き捨てて、悪魔のような笑みで微笑み、それからトロピウスを睨む。

 

「随分と痛いわね……でも、あなたを倒す準備は整った。ダークライ! 反撃するわよ!」

「アア!」

 

 あとから聞いた話だが、あやしいかぜには稀にポケモンの身体能力を強化することがあるらしい。ナナはそれを把握していて、僕の身体能力を高めるために自分の体にあやしいかぜを撃たせていた。決して気が狂ったわけではなかったのだ。彼女は自分も駒にして、勝利への方程式を完成させていっていたのだ。

 

「ダークライ。トロピウスに出来るだけ近づいて!」

 

 言われた通り、空を飛んでトロピウスと距離を詰める。それにトロピウスが感付いたのか、はっぱカッターで迎撃をしてくる。しかしナナはそれもお見通しだ。

 

「もうその技は見切ったわよ! 右に避けたら、そのまま前進。それから四秒後辺りに再びくるから、それは左に避けてあやしいかぜ!」

 

 ナナの指示通りに動いて全て見切る。彼女の指示は完璧だった。トロピウスの技の出すタイミングも完全に一致。はっぱカッターに掠ることもない。そして言われた通りにあやしいかぜを撃つ。それをトロピウスは羽ばたいて払う。しかしナナはそれすらも計算していた。

 

「……かかったわね。ダークライ。やきつくす!」

 

 僕の放ったやきつくすは怖いくらいにあっさり決まった。不思議なことにトロピウスは避ける素振りすら見せなかった。トロピウスに青い炎が纏わりつく。それを払おうと必死に暴れるが、纏わりついた炎は取れない。そして炎に焼かれ、意識を失って空から落ちてズシンという音ともに砂埃が舞った。

 

「トロピウス。あなた余裕そうに見せていたけど実際はあやしいかぜを払うのに相当苦労してたのでしょう?」

「……」

「特に最後のあやしいかぜ。ダークライの身体能力が上がったことで威力も上がり、あなたの想像を上回った。だから払うのに手一杯になり、やきつくすへの警戒が怠った」

 

 ナナはトロピウスに話しながらムンナに近づいて、抱きかかえて元気の欠片を食べさせる。そして同時に日が昇り始める。朝日がナナを照らす。ナナはふらふらした足取りで近づいてトロピウスにも元気の欠片を食べさせて回復させる。

 

「ダークライ。ムンナ。そして私。誰か一人でも欠けたら勝てなかったわ。それとトロピウス。今回はありがとね。あなたのおかげで私達はまた一つ強くなれたわ」

 

 そうしてトロピウスとのバトルは終わった。僕とナナとムンナ。一人のトレーナーと二体のポケモンの勝ちで終わったのだ。

 

「あなたの受けたダメージ。これが私のムンナをZワザで必要以上に傷付けた罪よ」

 

 それだけ言うとナナも限界を迎えたの、その場に倒れ込んだ。そんな時に再びトロピウスが立ち上がる。充分にダメージは与えた。それでも立てるのはナナがトロピウスに元気の欠片を食べさせたからだろう。最悪だ。今はナナが指示を出せる状況ではない。それに僕も万全の状態ではない。また、あのトロピウスの相手をするのは不可能だ。

 

「……構えるな。もうやる気はない」

「そうかよ」

「この娘には天晴じゃ……まさか、ここまでのトレーナーがいるとはな」

「ナナはチャンピオンになるトレーナーだぞ?」

「随分と大きく出たものだな。そこのトレーナーの知恵と優しさに免じて、グラエナの件は不問にしといてやる」

 

 それだけ言うとトロピウスはどこかに羽ばたいていった。そしてナナが目覚めたのは明日の昼であった。

 


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